朝、まどろみの中にいたジェナスはゆっさゆっさと揺らされて目を覚ます。
「隊長~朝よ。目を覚まして」
今日の目覚まし当番は雷だった。
ジェナス・ディラが臨時隊長として鎮守府へ就任してから五日が経過した。
普通に目を覚ませるのだが、提督世話係を自称する雷をはじめとしてジェナスの世話を焼こうとする艦娘が少なからずいたことから、今回は雷だった。
ちなみに当番として活動している頻度で一番多いのは雷だ。
ニコニコと笑顔で雷がジェナスを起こす。
その後、ジェナスはアムジャケット用のスーツの上から軍服を纏う。
両方ともぴったりしているから少し熱いと感じるがそこは耐えるしかない。
「おはよう、隊長」
雷と共に食堂へ入ると先客の朧がいた。
「おはよう、朧」
「隣、あいているよ。座る?」
「うん、そうだな」
彼女に言われて朧の隣へ腰かける。
その反対側に雷が。
遅れて、電と睦月がやってきた。
「おはようなのです。隊長」
「おはようですにゃ~、ふにゃー」
ジェナスは睦月の寝癖に気付いて立ち上がる。
「ほら、寝癖くらいは直せよ」
ジェナスは手を伸ばして跳ねている睦月の髪を直す。
その途端、睦月の顔は真っ赤になる。
「にゃ~~~」
「うぅぅぅぅぅぅ」
「羨ましいのです」
「朝から元気だね…あっちは違うけど」
朧も羨ましそうにしていたが反対側の方を見て苦笑する。
「姉さん、ほら、ちゃんとしてください。顔にご飯粒が沢山ついていますよ」
「うぅ~~、もう少し寝させてよ」
朝に弱い、別の言い方をすれば夜戦大好きな川内は眠たそうにしていた。
神通が甲斐甲斐しく世話をしているが夢の世界へ旅立とうとしている。
ジェナスは真っ赤になっている睦月の頭を一回、撫でてから席へ腰かけた。
「ジェナス隊長ってもしかして自覚なし?」
「え、何が?」
「ふん!」
朧にジェナスが問いかけようとするが隣で叢雲が機嫌悪そうに鼻音を鳴らす。
乱暴に茶碗を机へ置く辺り機嫌はかなり悪そうだ。
そんな叢雲を見てジェナスは首を傾げて、楽しそうに朧はお茶を一口含んだ。
これが鎮守府の朝、食堂の一部分のやり取りだった。
昼頃、書類作業を終えたジェナスはうーんと手を空へ伸ばす。
本来なら昼が過ぎても終わらない筈のものなのだが、今回の秘書艦、朧が優秀だった。
彼女は的確にどこをどうすればいいのかを指示して、ジェナスはそれに救われる。
「失礼するわ!」
扉が開いて叢雲がやってくる。
「どうした?」
「鎮守府から少し離れた海域で深海棲艦の群れが確認されたわ」
「なんだって!?」
「鎮守府へ接近する恐れはないけれど、どうする?」
「出撃する」
ジェナスはそういうと立ち上がる。
「え、ジェナス隊長も出撃するの?」
「当たり前だ。深海棲艦を野放しにできない。俺はアムドライバーだからな」
「……言うと思ったわ。アンタも含めて、編成は軽巡2、駆逐3でいくわ」
「よし、出動だ!」
ジェナスはそういうと駆け出す。
工廠に設置されている機械、そこへ体を預ける。
ボックスからアムジャケットのパーツが現れてジェナスへ装着されていく。
しばらくしてアムエネルギーを纏ったアムドライバージェナスとなる。
ジェナスは出撃用のスィッチへ飛び乗る。
海面からライドボードが出現した。
「GetRide!!」
叫びと共に150ソードを手に、ジェナスは飛び出す。
続いて、川内、神通、叢雲、朧、睦月の五人が続く。
「ふわぁわ、眠い。夜戦したい」
「姉さん!戦闘なんですから気を引き締めてください」
「大丈夫かしら」
「何とかなると思うよ?ジェナス隊長がいるし」
「睦月はがんばるにゃしー!」
何やらやる気を滾らせている睦月を朧と叢雲は暖かい目でみていた。
ジェナス達は海面を進んでいくと小さな島が見えてくる。
「島か」
「無人島よ。この海域は少し前に解放されたけれど、深海棲艦が出現するから立ち入り禁止になっているの」
「ふーん」
小さく頷く。
知識としてジェナスの中に艦娘と深海棲艦の戦いについて記憶されている。
海域の殆どは深海棲艦が牛耳っており、侵入するだけでも一苦労するという。
艦娘達はその海域で深海棲艦の数を減らし、牛耳っているボスといえる艦隊達を倒すことで海域を解放する。
「海域の解放を浄化という人もいるけれどね」
「浄化?」
「私達がボスの艦隊を倒すと海が綺麗になって深海棲艦達がよりつかなくなるの。その状態を見た提督の一人が浄化といったことがはじまりかな」
「へー、朧は博識だな」
「まぁね」
「アンタがモグリすぎるのよ!」
感心するジェナスへ叢雲の叱咤が飛ぶ。
肩をすくめているとジェナスの耳に小さな爆発音が聞こえた。
「爆発音?」
「あそこ」
みえてきた無人島、そこに深海棲艦の艦隊がいた。
彼らは島に向かって砲撃していた。
「島に砲撃?」
「なんで?」
首を傾げる川内達、
ジェナスはヘルメットでズームしてみる。
「え?」
小さく、驚きの声を漏らす。
信じられないとジェナスは何度も調べなおす。
しかし、結果は変わらない。
アムジャケットはジェナスへ正確に目の前の真実をみせる。
深海棲艦と陸地で戦う二人のアムドライバーの姿。
「くっ」
ボードのスィッチを入れて加速する。
「あぶっ!?」
海水を頭からかぶった川内が変な声を上げるが気づかない。
「ちょ、こらぁ!」
叢雲達が慌ててジェナスを追いかける。
余談ながら海水を大量に浴びたことで川内の意識は覚醒した。
「くそっ、キリがねぇよぉ~」
「泣き言を言わない」
「わーってるって!」
聴こえてくる声にジェナスは幻覚などではないのかと思いたかった。
しかし、間違えるわけがない。
大切な仲間の声を聴き間違えることなど。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!」
ジェナスは叫ぶとともに150ソードを振るう。
蒼い刃が深海棲艦を一刀に切り伏せた。
深海棲艦達はくるりとジェナスへ標的を変える。
そこへ遅れてやってきた叢雲達の砲撃が降りそそぐ。
「このバカ隊長!少しは私達を待ちなさい!」
「どーどー、あとで事情の説明よろしくね」
「睦月、いきます!」
「夜戦じゃないけれど、本気出すよぉ…ふぁっくし!」
「二水戦の力、みせます!」
叫びと共に神通達の砲撃が深海棲艦を食いちぎる。
瞬く間に敵は滅びた。
残されたのは深海棲艦の残骸と艦娘、アムドライバーのジェナス。
そして。
ジェナスはライドボードを島の海岸へ向ける。
元々は綺麗な砂浜だったのだろう。しかし、深海棲艦の砲撃などで所々が抉れて黒く汚れていた。
そこに“彼ら”はいた。
白いアムジャケット。
ジェナスのパーソナルカラーがブルーに対して、目の前の二人はレッドとオレンジ。
驚きながらもジェナスはヘルメットをとる。
同じように相手も取って、素顔がみえた。
「やっぱり…ラグ、セラ」
「Oh!ジェナ!」
「ジェナス」
二人は驚いていたがやがて笑顔を浮かべる。
三人は互いを抱きしめた。
ラグナ・ラウレリア、セラ・メイ。
この二人はジェナスにとって仲間であり親友でもある。
「この野郎!いきなり現れるからびっくりしたじゃねぇか!」
「俺のセリフだって!…でも、どうして二人が?」
「わからないの…」
セラの話によると気づいたら二人はアムジャケットを纏って海上にいたそうだ。
そして、わけのわからぬまま深海棲艦と戦闘、ここまで逃げてきたらしい。
「それよりさ!あの子達なに?背中に変なもん背負っているけれど?」
ラグナは艤装を纏っている艦娘達を見る。
艦娘達もジェナスと同じ姿の二人に興味津々という様子だ。
「隊長」
叢雲が近づいてくる。
「積もる話があるみたいだけど、鎮守府へ戻りましょう。深海棲艦がいなくなったとはいえ、安全というわけじゃないから」
「そうだな、よし、二人も」
「待って、連れていきたい子がいるの…ラグナ」
「お、おう!少し待ってくれ!」
ラグナとセラが少し島の中へ入っていく。
しばらくして、女の子を抱えたラグナが戻ってくる。
その子をみて、神通と川内がいきなり駆け寄ってきた。
「ン?ノォワァ!?」
ラグナは衝撃で吹き飛びそうになりながらも辛うじて堪える。
「那珂!?那珂だよね!」
「どうして、那珂姉さんが!」
「ワッツ!?何事!?てか、力強っ!?」
圧されそうになっているラグナを助けるためにジェナスは二人へ待ったをかける。
「二人の知り合いか?」
「妹だよ!」
「妹です!」
慌てた様子の二人へわかった!といいながらジェナスは言う。
「鎮守府へ連れて帰って手当をする。とにかく、ここから離れるぞ」
「わかった」
「すいません、冷静さを失っていました」
ジェナスの言葉で引き下がる二人。
嘗ての仲間と少女を連れて鎮守府へ彼らは戻る。