「訓練参加ですか?」
「あぁ」
神通の問いにジェナスは頷いた。
その言葉に戸惑いながら神通は尋ねる。
「これから俺も戦闘に参加していこうと思うんだ。それでみんなの動きとかみておきたいから」
「……そうですね。私からも提案しようと思っていましたから」
「よっしゃ」
この鎮守府の演習それらを担当している教官神通から許可をとれたことでジェナスはガッツポーズをとる。
ちなみに、その様子をうかがっていた睦月は嬉しそうにしていたという姿を朧は目撃していた。
「ジェナス隊長はあむじゃけっとを纏うんですか?」
「あぁ、あれがないと俺は海上じゃ戦えないし」
「でしたら…私から提案があります」
神通の提案が今回、騒動を引き起こすことになろうとは誰も、予想していなかった。
慣れない書類仕事を雷に手伝ってもらい、終えたジェナスは演習場へ向かっていた。
彼の傍にいるのは書類を手伝ってもらった雷だ。
「ジェナス隊長、書類不慣れなのね」
「あぁ…あまり得意じゃないかな」
勉強はできた。
しかし、書類作業というはじめてのことにジェナスは少し戸惑った。
そこで雷が手伝いを申し出てきたのだ。
少し戸惑いながらもジェナスは許可した。
「もーっと、私に頼っていいのよ?」
はにかんだ笑みを浮かべて雷はジェナスの腕にぶらぶらと抱き付く。
自分よりもかなり年下の子だから苦笑するだけで済む。
もう少し年の近い子にこうされていたらジェナスは戸惑って動けなかっただろう。
少し、異性の事で成長していた。
雷に案内されたジェナスは演習場へ来ている。
勿論、アムジャケットを纏いライドボードを持っていた。
「お待ちしていました。隊長」
「神通。遅くなってごめん」
「いえ、今から訓練を始めます」
「よし!…って、俺は何をすれば?」
「その前に聞きたいことがあります」
神通が気にしていた事。
それは睦月の事だった。
「睦月さんの成績があがっているんです。睦月さんに話を聞いたらアムドライバーのジェナスさんと一緒に行動したら急に体が軽くなったって」
「…えっと?」
戸惑うジェナスに神通が提案する。
「ジェナスさんとタッグを組んで、模擬戦をしてもらいます」
神通の発言。それに全員の動きが止まる。
睦月の成績があがったことは知っていた。
しかし、それをするために必要なことというので彼女達の脳裏をよぎったのは。
――アムドライバーにお姫様抱っこされること。
睦月の時は王子様抱っこなのだが、そこは綺麗に消し去られていた。
誰がやるかという事で「はいはーい!」と元気よく手を上げたものが一人。
「私がやるわ!」
睦月が宣言するよりも早く参加表明をしたのは傍にいた雷だった。
「雷ちゃん…いいですか?」
「俺は問題ないぜ」
ジェナスが同意したことで今回の演習はジェナスと雷コンビに決定した。
「そんにゃあああ」
海面で崩れ落ちる睦月へ誰も声をかけなかった。
「あれ?隊長、武器変えた?」
今回、ジェナスは150ソードではなく、コンテナ、ギアボックスの中に入っていたリインフォースソードと小ぶりのアムソードを携帯していた。
「まぁな…それより、隊長っていうのやめてくれないか」
「隊長は隊長でしょ?」
「何かこそばゆいんだよ。共に戦うんだから名前で呼ぼうぜ」
「いいわよ!ジェナス、さん!」
少し詰まりながらも雷は頷いた。
「さ、行くぜ!」
ライドボードの後ろに乗る形で雷と共に向かう。
雷の主砲が的へ直撃する。
訓練用のペイント弾が飛来してくる。
それをジェナスはリインフォースソードで切り伏せた。
150ソードと比べると威力重視になっているリインフォースソードは小回りに向かない。
飛来するペイント弾を撃ち落として雷が撃つ。
そのやり取りは不思議とアイツを思い出せた。
『行くぜ、ジェナ!』
「…ラグ」
「じ、ジェナスさん!前!」
「へ?」
雷の言葉に顔を上げると目の前に柱のようなものがあって。
「やべっ!」
躱そうとボードの向きを変えようとするが遅かった。
「がふぅ!?」
柱に激突するジェナス。
アムドライバーにしては恥ずかしいミスだった。
「あぁ、いってぇ」
「もう、雷に任せて」
ヘルメットを外して赤くなっている部分へ雷が湿布を張る。
普通の人間なら鼻が折れているだろう。
アムジャケットを纏っていたお蔭でこの程度で済んだ。
艦娘達も同様だ。
雷は微笑みながらジェナスの手当てをする。
他の艦娘達は羨ましそうに見ていた。
睦月はハンカチがあればぎりぎりと千切ろうとするほど、歯ぎしりしている。
雷は微笑みながらも頭の中では別の事を考えていた。
「(ラグ…って、誰の事なんだろう?)」
零した声に疑問を残しながらも雷は甲斐甲斐しくジェナスの手当てをした。
翌日、雷の成績は睦月同様にあがっていたらしい。
「やっぱり、みんなで戦うなら連携だよなぁ」
アムドライバーとしてバグシーンと戦っていた時もジェナスはラグナと組んで活動していた。
途中から多くの仲間達と別れたりして戦っていた。
ジェナス独りで戦うには限界がある。
しかし、仲間と戦う事で独りではダメなことでも可能となっていく。
そのことを理解しているからこそ、ジェナスは艦娘達と共に戦うことを決めた。
「戦うからって、なんで思い出しちまったんだろうなぁ」
雷と組んでいた時、思い出したのは相棒であり親友。
フラッシュバックしたように思い出した。
「寂しいとか…そういうわけ、じゃないよな?」
多分といいながらジェナスは書類にハンコを押す。
今、ジェナスの作業部屋には誰もいない。
夕食時なのだが、書類の多さでジェナスは食事を後回しにしていた。
「はぁ……書類作業を手伝える人いてほしいなぁ」
漏らした所で状況は変わらない。
ジェナスはもくもくとハンコを押す。
それが終わった時、既に夕食の時間は過ぎていた。
「はぁ…何か残っているかなぁ?」
外へ出ようとした時におにぎりの皿が目に入る。
「……これ」
おにぎりの傍に書置きが残されていた。
無理せずに食べる時に食べなさい!と綺麗な字で記されている。
「誰かわかんないけど、ありがとう…な」
ジェナスは感謝して目の前のおにぎりを食べる。
「……ショッパッ!」
おにぎりはとんでもないくらい塩がまぶされていて、ジェナスは涙を少し零した。
深夜、とある海域。
そこで二人の人間が一人の艦娘を抱えるようにして逃げていた。
「くそっ、まだ追いかけてくるぜ、っと」
「あそこに無人島がある…隠れましょう」
「だぁぁ、一体、どうなってんだぁ?」
意識を失っているのか二人に担がれているオレンジ色の服に髪をお団子にしている少女は全く反応しない。
対して、少女を抱えている二人はジェナスと同じアムジャケットを纏っていた。
その後ろを深海棲艦が追跡していた。