戦いが終わった。
長い戦いだった。
多くを失いながらも真実が知りたくて戦い続けた。その結果、仲間達と共に平和を勝ち取ることが出来た。
仲間達のおかげで勝ち取れた平和。
その生活を心の底から味わっていた。
戦いの傷を癒しながら。
ジェナス・ディラは公園のベンチで空を見上げていた。
「あれから…数年が経っているんだな」
遠い目をしながら呟く。
快晴の空を見ていたジェナスの耳へある声が届いた。
「ねぇ、あれって?ジェナス・ディラじゃない?」
「え、嘘!?ないない、英雄がこんなところにいるわけないよぉ」
「でも、このあたりに住んでいるって話だよね?もしかしたら」
「だから、ありえないって、いるんだったらもっと大騒ぎになっているよ。だって、世界を救った英雄だよ?」
「そうだよねぇ」
ちらりと声の方を見ると自分より少し下の学生らしき少女達が話をしていた。
英雄かぁ、とジェナスは心の中で呟く。
「俺はそんなものじゃないんだけどなぁ」
ジェナス・ディラは少し前、アムドライバーとしてバグシーンと、戦ってきた。
全ては真実を知る為。
何が正しくて、何が違うのか。
それを知りたくて駆け抜けたジェナスを支えてくれたのは仲間だった。
彼らがいてくれたからこそ、真実、全てに決着をつけられたのだと思う。
そして、平和を勝ち取ることが出来た。
「みんな、どうしてんのかなぁ?」
あれから皆と連絡が取れていない。
それぞれの道を進んでいるのだろう。
ぼーっとジェナスが青空を見ていると小さな靴音が聞こえた。
「ねぇ」
呼ばれたのが自分だと気づいてジェナスは視線を向ける。
そこにいたのは小さな少女。
白いワンピースに猫耳?をつけた子供だった。
「えっと、どうしたの?」
「お兄さんは…」
「うん?」
「お兄さんはジェナス・ディラ?」
あぁ、またかと思いながらジェナスは尋ねる。
「どうして?」
「強い瞳だから」
少女の答えにジェナスは困惑する。
「強い瞳?」
「お兄さんの心はとても強い…そんなお兄さんだから平和を勝ち取れたんだね」
「…俺だけの力じゃないさ」
「え?」
「俺だけじゃ、何もできなかった…仲間がいてくれたから、みんなが支えてくれたから、助けてくれたから、背中を押してくれたから俺は戦えたんだ」
最初は憧れだった。
その後に現実を知った。
企みに翻弄されながらも何が真実なのか知る為に動き回った。
多くの犠牲をだしながらも前へ踏み出せたのはみんながいてくれたからだ。
「貴方なら」
思い返していたジェナスの耳に少女の声が響く。
「え?」
「貴方なら、あの世界を救えるはず」
「それは」
「お願い、あの世界を救って」
ジェナスの意識は深い闇の中へ消える。
乗っている列車の振動でジェナスは目を覚ます。
「……随分、古い列車だな」
ジェナスの記憶にある限り、近代的な電車とはいえない内装。
なにより窓から見える景色が問題だった。
「なんだ、ここ?」
困惑していたジェナスは手元に鞄がある事に気付いた。
鞄の側面に掛れているのは『ジェナス・ディラ』、つまり自分の名前である。
周りに誰もいないことを確認して鞄の中を開けた。
着替えと身だしなみを整える道具。
それと分厚い封筒。
ジェナスはおそるおそる封筒を開けた。
「なっ!?」
驚いてジェナスは声を漏らす。
何故なら、その手紙はジェナス・ディラに宛てられたもので内容は彼を驚かせるものだった。
『ジェナス・ディラ』を『鎮守府』へ『新人少尉』として配属させるという内容の手紙。
目的地の駅をとりあえず降りたがジェナスの頭は混乱している。
鎮守府、新人少尉。
その言葉の意味がわからない。
軍隊ならわかる。
しかし、ジェナスは軍人ではない。入隊した覚えもない。
突然の事に困惑するしかなかった。
――キュィィィィィン。
「ぐっ!?」
突如、ジェナスの頭に激痛が走る。
頭の中に流れる大量の記憶。
しばらくして、ジェナスの頭の中で整理された。
自分はこれから鎮守府で研修として提督の下で指導を受ける。
そのために鎮守府へ向かっている途中。
「ちょっと!」
駅のホームでぼんやりしていたジェナスは振り返る。
流れるような銀髪と朱色の瞳。着ている服は白いワンピースタイプのセーラー服をきていた。
「アンタがジェナス・ディラ新人少尉かしら?」
「あ、あぁ……えっと、キミは」
「私は叢雲よ。そんなことも知らないの!?」
「えっと、ごめん」
「フン!とにかく、鎮守府へ行くわよ」
「あ、あぁ」
困惑しつつ、ジェナスは叢雲の後をついていく。