人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
今回のエピソードは……ちょっと月火ちゃんが頭悪いです。いえ、これは語弊がありますね?
何か色々悪化させてます(^^

ちょっと過激な行動を取るようなので、苦手な方は御注意を。


[006] ”小妹語”

 

 

 

場所は再び阿良々木家のリビング。

ソファーに座る長男暦の更に膝の上に次女、ちっちゃいほうの妹こと月火が跨るという構図で幕開ける。

 

「お、お兄ちゃん、彼女作るの……?」

 

「すぐに作るというわけではないけど」

 

「もしかして水35リットル、炭素20kg、アンモニア4リットル、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、細胞66%、細胞外液24%、細胞外固形物10%で? ”情報”ならわたしのとかお勧めだよ♪」

 

「いや、そっちの()()じゃないから。それにその構成だと、確か『筋肉質で骨ばったごつい人』ができちゃうじゃなかったっけ? お兄ちゃんとしてはそんな月火ちゃんは見たくないなぁ~と」

 

「うっ……確かにそれはわたしも見たくないかも。それ以上に認めたくないかも」

 

「月火ちゃんはもしかして、人体練成でもしないと僕に彼女が作れないと思ってる?」

 

「いや、そんなことは思って無いけど……でも満足に友達もいないお兄ちゃんがっ!?」

 

「失敬な! 僕にだって友達くらいいるぞ! ……千石とか」

 

「未だ千ちゃんと友達付き合いできてるお兄ちゃんには、心底敬服するよ。そりゃもう色々な意味で」

 

月火は思わず「千ちゃん報われないなぁ」と呟いてしまう。

もっとも同情はしていない。

そもそもアプローチの仕方に問題がありすぎるのだ。

一体どこをどう間違ったら恋心をこじらせて、あんな武人気質のアプローチになってしまったのか……?

月火的には、最近千ちゃん……”千石撫子(せんごく・なでこ)”が兄に告白したいのか打倒したいのかわからなくなってしまっていた。

 

まあ別にそれが理由というわけではないが、月火は別に撫子の恋を応援する気は無いようだ。

傍から見ている分には面白いので、暴走を止める気も修正する気抑制する気もないようだが。

 

 

 

「まあ、ともかく作れるかどうかは別にして、気になる娘はいるんだよな」

 

「ふ~ん……その人って表面積は大きいほう?」

 

「こらこら。いきなり(マト)にしようとするんじゃない」

 

何を隠そう阿良々木月火は【炎刀”銃”】、正確にはその偽物(レプリカ)の所有者で、少なくとも変体刀と称される代物に選ばれ、見限られないだけの腕は持ってるようだ。

その内に秘めた体質を考えれば、その戦闘力は決して低くは無い。

 

「それにしてもお兄ちゃんに想い人ねぇ~」

 

「そんなに驚くことか?」

 

「驚くよ! というかむしろ轟くよ! ”銃”だけに」

 

「ハッピーなトリガーはあまり感心しないぞ?」

 

「大丈夫。自制はしてるから。自重はしないけど」

 

「それはそれでどうなんだ?」

 

 

 

***

 

 

 

「たださ月火ちゃん」

 

「ん?」

 

「気になるには気になるんだけどさ、正直、僕には恋愛感情という物がよくわからない」

 

「そうなんだ……まあ、でも納得できるかな? お兄ちゃん、朴念仁だもんね」

 

「妹に一言で端的に言い表されてしまうこと自体、兄としてまずい気がする」

 

「別にいいんじゃない? わたし的にはその鈍いところも朴念仁なところも大好きなんだけどね♪ お兄ちゃんの生き方をずっと誰よりも傍で見てきてるわけだし。おはようからおやすみまで」

 

いや、その言い方は少々危険な臭いがする。今更だが。

 

「ここは素直にお礼を言うところ?」

 

「もっちろん!」

 

”Chu”

 

妹の不意打ちキスをあっさり喰らう暦。

もっとも今まで避けたことはないのだが。

 

「ところでお兄ちゃん、その気になるが恋なのかどうか……不肖このわたしめが診断してあげましょう」

 

「おいおい。診断って病気じゃないんだから」

 

「お兄ちゃん、恋愛っていうのは古来より病気なんだよ? ”恋煩い”っていう言葉もあるくらいだからね。人類にかけられた呪いに似た幸せにも不幸にもなる熱病ってとこかな?」

 

「月火ちゃんは博識だな」

 

「えっへん! まかせてよ! 『お医者様でも草津の湯でも恋の病は治せない』ってね」

 

「じゃあ、早速ドクター月火に診断してもらうかな?」

 

「どぉーんと任せてよ♪」

 

「まずはそうだな……仮にHさんとしておこう。そのHさんと今年、初めて同じクラスになったんだけど、どうやらその時から僕はおかしいんだ。我ながら挙動不審な気がする」

 

「Hさん? ああっ、羽川さんのことか」

 

「ええっ!?」

 

一瞬、硬直する暦。

というか最初からモロバレだった。

 

 

 

「つ、つ、つ、月火ちゃん、どうしてそんないきなり核心と言うか根幹の部分をダイレクトアタック!?」

 

「だって、家族認定の育ちゃんや火憐ちゃんやわたしを除いてお兄ちゃんの周りにいる女の子って限られてるでしょ? Hなんてイニシャル、羽川さんくらいしか思いつかないし、それに……」

 

そしてニッコリ微笑んで、

 

「お兄ちゃん自身、羽川さんと同じクラスになったって喜んでたじゃない? 育ちゃんから『あれが暦とは俄に信じられないくらい顔が緩んでた』って聞いてるし」

 

「どんだけ羽川と一緒のクラスになって嬉しかったんだよ、僕!?」

 

それ以前に自分の交友関係が妹に筒抜けだったことに驚くべきではないのだろうか?

いや、これも今更か。

 

「ちなみに羽川さんのことは一通りチェックしたし、お兄ちゃんより羽川さんのこと知ってるんじゃないかな?」

 

「チェック? どうして?」

 

「あのね~。わたしが”完成形変体刀”の情報やその使い手の情報を収集してないと思う?」

 

姐の火憐とコンビを組む”ファイヤーシスターズ”の活動の一つが、直江津市に数多くある変体刀とその使い手の情報収集だ。

某専門家に言わせれば、

 

『阿良々木君、刀は斬る()()を選びはしないけど、主は選ぶんだよ。そして何を斬るかは主が決めることさ』

 

とでもなるのだろうか?

変体刀はそれが本物であっても偽物であっても、結局は相応しい使い手の元に辿り着く。

不思議な縁と言えばそれまでだが、腕だけではなく”その人物の手元にある()()”も大きな理由になるようだ。

 

「それもそっか。羽川って【絶刀”鉋”】の使い手だし」

 

「それにお兄ちゃんが考えてるより羽川さんは有名人だよ? 中学時代から、そりゃもういくつもの黄金伝説残してるからね」

 

「なんかこう……僕、相談する前から色々自信が揺らいできた気がするよ」

 

「まあまあ。取り合えず言うだけ言ってみよ? 言うだけなら無料(ただ)だし」

 

 

 

***

 

 

 

「まずはHさん……もう羽川でいいや。ともかく気が付いたら目で羽川を追ってるんだよ。ホワイトボードより羽川の後姿に吸い寄せられるっていうかさ」

 

「うんうん」

 

「あと、例えば本を読んでたりするだろ? そうすると『この表現、羽川が好きそう』とか思ったり」

 

「ふむふむ」

 

「街中でふと見かけたら、なんとなく幸せな気分に浸れるってのもあるかな? それで向こうから声をかけてもらって一緒に歩けたら、もうその日はそれだけで一日ラッキーっていうかさ」

 

「ほうほう」

 

「あと……時折、無性に羽川の胸を揉みたくなる」

 

「ふむ」

 

すると月火は浴衣の合わせをはだけさせてから、徐に暦の両手を取り……

 

「うりゃ♪」

 

自分のお世辞にも膨らんでるとは言えない胸に()()押し付ける。

 

「???」

 

”むにゅむにゅ……きゅ”

 

「ひゃう!」

 

優しく揉まれ、唐突に先端の小さな突起をややサディスティック気味に摘み捻られた感触に、月火は思わず愛らしい嬌声をあげた。

 

「お兄ちゃん、妹のおっぱいを触る手つきがえっちすぎ! ほら見て」

 

はだけを大きくして胸を、正確にはピンと小さいながらも生意気にそそり立った先端を見せつけ、さらに兄の膝に跨る姿勢のまま帯を解いて、

 

「先っちょはとがっちゃうし、パンツだって濡れて透けちゃったよ。これじゃあ履き替えないと駄目だね?」

 

「うっ、ごめん……」

 

「お兄ちゃんがお風呂入れ替えてくれて、一緒に入って、洗ってくれるなら不問にしまーす」

 

「喜んで」

 

思わず苦笑する暦である。

この時点で何かがおかしい、何かが狂ってると思った貴方は、多分正しい。

ただし、これはあくまで阿良々木月火プロデュースによる”阿良々木家の日常、その一コマ”なのである。

老倉育が家を出てから、月火は少しずつ兄とのコミュニケーション密度を上げていた、言い方を変えれば兄との接触を段階的にエスカレートさせていった。

無論、暦自身に気取られぬように、「それがわたしとの触れ合いでは当たり前なんだよ」と徐々に刷り込んで、あるいは兄妹愛やら道徳心やらを腐食させていった。

特に春休み明けからより顕著に、あるいはより過激化の一途を辿ってるような気がするのは気のせいか……?

 

ともかく、ブラコン妹の悪意の無い可愛らしい悪戯(陰謀)と言ったところだろう。もちろん、無理があるのはわかっている。

 

「でも、お兄ちゃんは今日も正常、と」

 

「月火ちゃん、一体何がしたかったんだ?」

 

「んー……羽川さんって胸大きいじゃない? 凄く着やせするタイプだし」

 

「ああ、うん。確かに」

 

「でもお兄ちゃんって基本的にわたしみたいな、タッチパネルみたいに平たい胸にタッチするのが好きでしょ?」

 

「月火ちゃんの胸はさすがにタッチパネルと呼ぶほど平面じゃ……」

 

「いいの。わたしは『ひんにゅーはステータスだ! 希少価値だ!』を金科玉条としてるから。きょぬーの担当は火憐ちゃんだし」

 

気が付かない間に姉は新たなる担当が追加されていた。

 

「それでね、もしかしたら平たい胸を揉むの飽きちゃって、豊満な羽川さんに走ったのかとも思ったけど……」

 

「をいをい。この僕が月火ちゃんのおっぱいに飽きるなんてことあるわけないじゃないか?」

 

すると月火、心から嬉しそうな笑顔で、

 

「うん。それは確認できた♪ わたしはまだまだお兄ちゃんにとって魅力的な存在なんだって」

 

月火は心の中で、「う・ふ・ふ♪ これもお兄ちゃんが寝てる間にやってる日ごろの努力の賜物だよね?」と付け加えた。

どんな努力かは記さないが。

 

「それは当たり前だろ? 家族なんだし」

 

「そうそう。家族で()だもんね♪」

 

「ああ」

 

「でも、そうすると……お兄ちゃんの趣味がきょぬー派に変わったのじゃないのだとすれば、」

 

月火はしばし逡巡し、

 

「お兄ちゃん、それはきっと……ううん。間違いなく”恋”だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、御愛読ありがとうございました。
何か原作どおりのようでいて、全く展開の違う気もするエピソードはいかがだったでしょうか?

それにしても阿良々木君が、月火ちゃんに色々洗脳されてるなぁ~と(^^
そして月火ちゃん自体も何やら後戻りできない感がマジぱない件について。
もしかして、レプリカとはいえ変体刀の毒と不死鳥属性が変に相互作用しあって、ブラ魂を加速あるいは増幅させてるとか?

そして地味に出てきた撫子情報……一体、”この世界”における彼女のあり方とは?


ともあれ、月火ちゃんは平行世界(げんさく)と違う結論に達したようですよ?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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