しばらくぶりのこうしんになってしまいすみません。
気が付けば、2週間以上の放置になってしまいました(汗
久しぶりのエピソードは……月火ちゃんから貰った”ガハラさんの
さて、月火ちゃんから受け取った戦場ヶ原の資料は、「なるほど流石は”栂の木二中のファイヤーシスターズ”の参謀担当」と呻らせるだけの質と量があった。
無論、戦場ヶ原の語っていた”五人の詐欺師”を初め、戦場ヶ原の抱える
(洒落にならないな……)
月火ちゃんのまとめてくれた資料を読み終えた後、僕の漏らした最初の感想がそれだった。
そう戦場ヶ原の抱える病巣は深い。
忍野から”おもし蟹”の特性を聞いたとき、僕達は『戦場ヶ原が蟹に障られたのではなく、自ら望んで”
(どうやら裏付けがとれちゃったみたいだ)
「そりゃ、これだけの”重さ”なら、誰かに投げ出したくもなるだろうさ……」
***
もしも戦場ヶ原夫妻がいて、娘のひたぎがいてこその”
羽川家と比べるのもどうかと思うが、羽川家の「終わってる」は、「最初から家族の体裁を成していなかった」という意味での……強いて言うなら「始まる事さえもできない」形だった。
しかし、戦場ヶ原家はかつてあったのだ。
裕福で両親の仲睦まじい「フィクションの中にしか存在しないような”
では、どうして”
「戦場ヶ原……別にお前のせいって訳じゃないんだぜ?」
おそらく……いや、状況証拠だけ重ねてみても、戦場ヶ原は内に溜め込むタイプに見える。
戦場ヶ原家の
かつての面影は最早ない。いや正確には父親の方は問題ない。
外資系企業の重役で、労働者の平均年収を考えれば遥かに高収入であるのは今でも変わらない。
ただ、それを遥かに上回る借金を背負ってるだけだ。
(なぜか?)
母親だ。
全ては母親が悪い。
(だが、戦場ヶ原はそう思ってないんだろうな……きっと)
戦場ヶ原夫妻の協議離婚が成立したのは去年の話だ。
なら、まだ記憶も生々しいことだろう。
***
「はぁ~」
少し視点を近視的なそれに切り替えよう。
情報学的な視野狭窄になれば、見えるべきもの見るべきものも見落としてしまうことになる。
(戦場ヶ原を騙した詐欺師は五人……)
そのうち四人は問題ない。
どう足掻いても『
流石に粉微塵にされて土の中に居るのに、普通は悪さはできないだろうから。怪異にでもなれば話は別だが。
(そう、怪異だ……)
だが、残る一人が問題だった。
確かに詐欺師は詐欺師だが、
「忍野と同じ”
曰く『専門家としては一人前以下、詐欺師としては一流以上』。
なんとも厄介な評価で、得体の知れない人物像だった。
「”
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さて翌日、朝から僕は民倉荘……戦場ヶ原ひたぎの”
「あら? 阿良々木君……だったかしら? 朝からストーキングとは熱心ね?」
「悪いが学校サボってまでストーキングするほど暇じゃないし、どうせストーキングするなら羽川にするさ」
「お熱い事ね」
「そうかな? 自覚はないけど……まあ、いつも傍にいたいって思えるくらいには好きだけどさ」
「朝から余計なラブ臭を撒き散らさないで欲しいわね。一種の公害よ? それ」
ほう。
戦場ヶ原さんは僕の羽川への想いが大気汚染と抜かしやがりますか?
いっそ、このアパートの周辺を羽川と手を繋いで歩き回って。「ピンク色の空気の汚染地帯」にしてやろうか?
(案外、いい嫌がらせかもな)
もっとも羽川は賛成しないだろうけど。
「それで? その羽川さんのストーカーな阿良々木君が、私に朝から何の用かしら?」
「まだそこには至ってないけど……用件は、宣言どおり戦場ヶ原を忍野のところへ連れていくことだ」
「……本気なの?」
「必要なら力尽くでも」
”シュン”
戦場ヶ原の手に、『
「悪いが今回ばかりは非常手段も辞さない。状況は戦場ヶ原が考えてるより逼迫していて、状態は戦場ヶ原が考えてるより悪い」
僕の腰には羽川から借りた【贋作変体刀”
だけど抜く必然があるなら躊躇う気もなかった。
***
肌がひりひりするようなピンと張り詰めた緊張感……
「わかったわ。貴方の顔を立ててあげましょう。どうせ騙され消えるのは、私のお金じゃないんだし」
幸い、先に刃を収めてくれたのは戦場ヶ原のほうだった。
恩着せがましい言い方だけど、別に腹は立たない。
僕は僕の都合で動いてるのだから、腹を立てるのは筋違いだ。
「ところで阿良々木君……移動手段はどうするの? 私、徒歩は嫌よ」
「だからわざわざ
今の戦場ヶ原の体重は、融合してる怪変刀”鎚”の重さ五十貫(約187.5kg)+”おもし蟹”にそのほとんどが持っていかれた残りの体重5kgの計192.5kgだ。
いくら僕でも自転車に荷台つけて運ぶのも骨が折れる。
というか戦場ヶ原を運ぶのに疲れるのは、なんか負けた気がして嫌だった。
「つまり、阿良々木君はバイクに女の子を乗せて逃げられないような状態にしておいて、後ろから抱きつかれて背中に押し付けられた胸の感触を楽しむ性癖を持ってるのね?」
「別に抱きつかなくてもいいよ。振り落とされてもいいなら御自由に。戦場ヶ原の頑丈さなら、バイクの後部座席から落ちたくらいじゃ大したダメージにならないだろうし」
あの某サイバーダイン社製戦闘用アンドロイドばりの頑強さを目の当たりにした僕としては正直、考慮すらする必要のない話だった。
「……妥協してあげるわ。待ってなさい。着替えてくるわ」
賢明な判断だった。
普通、平日の昼間から
「戦場ヶ原、一つ聞いていいか?」
「なによ?」
「どうして妥協した?」
「阿良々木君が、つまらない同情心や好奇心で待ち伏せしていたわけじゃないって判断できたからよ」
頭の切れと洞察力は、さすが学年トップクラスと言っていい。
確かに僕には、戦場ヶ原に好奇心や同情心を持つ理由はなかったのだから。
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(サスペンションをガチガチに固めててよかった……)
それが僕、阿良々木暦が戦場ヶ原ひたぎをバイクのリアシートに乗せて学習塾跡まで乗せてきた最初の感想だった。
事前にサスペンションの設定を並みの路面からの突き上げじゃ、まともに上下動しないしないレベルまで締めてたけど、そうじゃなければエンジンボトムを何度地面に擦ってたことやら。
「このどう考えても婦女暴行現場にぴったりというか、強姦殺人の死体遺棄現場向きの廃ビルがそうなの?」
着くなり最初の言葉がそれだった。
「阿良々木君……私の体、法を犯してまで手に入れる価値、ないかもしれないわよ?」
僕はいちいち相手にするのも疲れてきたけど、
「生憎、法を犯す気もなければ戦場ヶ原を手に入れるつもりもない。そういう劣情を抱く対象は、羽川で間に合ってる」
僕は身持ちの固さに呆れながら、
「戦場ヶ原……ずっと気になってたんだが、お前少し自意識過剰すぎないか?」
「なによ。そんな本当のことを言って、もし私が傷ついたらどうするのよ?」
なんだ。
自覚はあったのか。
***
僕は別に戦場ヶ原の手を引くこともなく、
「暗いし足元に何が転がってるかわからないから気をつけろよ」
とだけ伝えて、先導を兼ねてビルの中を歩き出す。
別に手を引いてエスコート位してもいいのだろうけど、生憎僕の手は忍野への差し入れであるいつもの牛丼弁当と、元キスショット改め”忍野忍”への手土産であるドーナッツボックスで塞がってしまっていた。
何が言いたいかと言えば、僕にとって「エスコートして少しは上がるかもしれない戦場ヶ原の好感度」より、忍野や忍への土産の方が遥かに優先度が高い……言ってしまえば、その程度の関係だということだった。
そして、
「やあ、阿良々木君。待ちかねたよ」
いつもの場所に忍野は居て、
「♪」
ドーナッツの匂いを嗅ぎつけたのか、嬉しそうに僕に飛びついてくる忍の金色の髪を僕は優しく撫でるのだった。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
久しぶりの更新はいかがだったでしょうか?
前と作品の雰囲気が変わってなければいいのですが……(滝汗
さて、今回は本来ならこの時点で暦の知るはずのない貝木さんの名が出てきましたね~。
今回の”ひたぎハンマー”には御本人は登場しないのですが、何かのキーになるかもしれません。
少なくとも、
それにしても、
あの辛辣な敵意と悪意(?)がどこまで再現できるかホント不安です。
しかも、暦の「異性と認識できる女の子枠(妹枠は別。育は友人枠)」は羽川で埋まってしまってるので、本気でガハラさんを相手にする気がなさそうですしね~。
このシリーズ、現状の
不定期更新でも「気長に待つよ」と思ってくだされば、作者として本当に幸いです。
それでは皆様、また次回で会えることを期待して!