いよいよこのシリーズも40話に達しました。
本当に応援ありがとうございました!
その記念すべき40話は……
おそらく、より厄介な方向へ進む公算が大きいでしょう。
また阿良々木君が、ある分野において原作と大きく異なるパフォーマンスを見せるかもしれません。
「その障られたって娘を直接見ないと、本当の意味で確定はできないんだけどさ、」
僕と羽川が同級生の少女、”蟹”の怪異と怪異化変体刀【双刀”
「十中八九”おもし蟹”だろうね」
そう言い切った。
***
おもし蟹
忍野によれば九州の山間あたりでの民間伝承で地域によって「おもし蟹」だったり「重いし蟹」、「重石蟹」だったりするらしい。
呼ばれ方は様々だが、「人の重みを失わせる」という特性は共通しているそうだ。
「阿良々木君の言っていた言霊の概念で言えば、”想い”/”重い”/”思い”は音で繋がる。言葉遊びのように聞こえるかもしれないけどね、この蟹は『重い重い/重い想い』を持ってる人間の前にしか姿を現さないんだよ。基本的には、ね」
いや、忍野……それって、
「行き遭ってしまうと……下手な行き遭い方をしてしまうと、その人間は存在感が希薄になるとも言う。さてお立会いだ。重さを奪い取ると同時に存在感を希薄にする。何故、希薄になるかって? 物理的な重さじゃなくて重い想いを持っていってしまうからさ。いや本来は逆で重い想いを持っていってしまう……言い方を変えれば、肩代わりする副作用で物理的な重さを持っていってしまうということなんじゃないかな? ”
「待て、忍野……その行動っていわゆる”妖怪”に該当する怪異じゃないだろ? 明らかに”神格”に該当するそれだ」
忍野はにんまり笑い、
「正解だよ。阿良々木君、おもし蟹は”おもし
なんてこった……
「阿良々木君、戦場ヶ原さんは障られたのでもなく、呪われたのでもなく……」
羽川の顔色が変わった。
「ああ、おそらく……」
僕はゴクリと生唾を飲み込み、
「戦場ヶ原自身が出会って、自ら”
クソ! これじゃあ話が全く変わってくるじゃないか!
何しろ前提条件が既に違うのだから……
***
(それにしても”蟹の神様”か……)
蟹で幻想と言えば、専門家ではない昔話の”猿蟹合戦”やヘラクレスに踏み潰された”カルキノス”くらいしかすぐに思いつかないけど……
「蟹ってのはさ、”
なおも続く押野の薀蓄の中で、僕の頭にチクリと痛みに似た引っかかる感覚があった。
(蟹……鋏……)
あっ……
「
全部、繋がってしまった……
「あ、阿良々木君……?」
羽川は驚いたような目で僕を見るけど、
「羽川、忍野……なぜ、戦場ヶ原の元に怪異化した”鎚”が出現したか凡そ見当がついたぞ」
「えっ? ”怪異に一度でも触れた者は再び怪異に遭遇し易くなる”って特質と、重さを失った戦場ヶ原さんが”重さを望んだ”からじゃないの?」
きょとんとする羽川に、
「どうやらその前提が狂ってたらしい。戦場ヶ原が道すがらに遭遇した
それに懸念すべきは、
「多分だけど、戦場ヶ原が本当に取り戻したかったのは、物理的な重さじゃなかったのかもしれない」
思い出せ……羽川は、教室で
『なんていうか……雰囲気は儚いのに、不思議と存在感が増してるような……』
そうだ。
戦場ヶ原が”鎚”で
だから僕はある結論に至る。
「忍野の言うとおり、蟹に鋏は付き物だ。羽川、よく思い出してくれ? 【双刀”鎚”】はどんな形状をしていた?」
「えっ?
「”鎚”は、蟹の鋏に強い
僕は慌て気味に思考をまとめる。
「忍野の見解と、僕の私見を組み合わせると……憶測になるけど、蟹の神様と遭遇した戦場ヶ原は広義な重さを担ってもらえるように願った。だけど失った
「怪変刀”鎚”……だね?」
「ああ。戦場ヶ原の後悔と取り戻したいという願い、その大前提になっていたのが『
その事象を突き詰めると、
「つまり怪変刀【双刀”鎚”】は、戦場ヶ原だけじゃなく、半分は戦場ヶ原と”
おもし蟹が、”想いし神”として神格として顕現してるというのなら、
(神は遍在する……世界のどこにも存在し、同時に存在しない……まてっ!)
だとすると……まずい!
「忍野……これは想ったよりまずいぞ。怪異”おもし蟹”と怪変刀”鎚”、本来は関連のない怪異が『戦場ヶ原ひたぎって
「はっはー。そりゃゴキゲンな情況じゃないか?」
あえて軽薄に言う忍野に僕は頷き、
「ああ、まったくご機嫌だ。なにしろ蟹と刀がミックスした『
神は必ずしも人にとって善の存在じゃない。
特に日本の神はそうだ。
でなければ、”
***********************************
ほどなく、僕は羽川を送り帰宅する。
結局、結論として出たのは……
『阿良々木君、君が明日すべきことは先ず説得して”その娘”をボクの前に連れてくること。そこで最終的に判断する。いいね?』
『ああ。異論はない』
『一応、実際にその娘を見てから決めるけど……状況証拠だけで、ほぼ間違いないと思う。だからさ、いざ”
忍野はニヤリと笑い、
『はっはー。恥ずかしながら、変体刀なんて物が出てきたら、どうにもボク一人じゃ力不足だって”ブラック羽川”の一件で思い知っちゃってさー』
だから僕はこう返した。
『いいさ。怪異対策の相場は知らないから、依頼料は忍野が設定してくれ』
『それでいいのかい?』
『ああ』
『じゃあボクへの依頼料と相殺だ。いいかい?』
『妥当だと思う』
少々茶番じみていたけど、様式美的なやり取りで僕と忍野の契約成立すると羽川が挙手し、
『あの私は……』
『委員長ちゃんは参加しないほうがいいな。今回は特にだ』
『えっ?』
『言ってしまえば”
『……わかりました』
別にだからフォローってわけじゃないけどさ、
『羽川』
『ん?』
『良かったら、羽川の【絶刀”
『えっ? でも……』
チラリと羽川が見た先には忍野が居て、小さく苦笑していた。
『そのくらいはかまわないさ。日本の神様ってのは元々、刀剣と抜群に相性がいいんだ。”三種の神器”にも入ってるし、そもそも刀剣が神格化した「
『いいよ。”鉋”』
羽川は慈しむように”鉋”の柄を撫で、
『明日は、私に代わってどうか阿良々木君を守ってね……』
『阿良々木君は愛されてるね~』
***
そんなやり取りを思い出しながら帰宅。
新たな相棒であるトレイル・バイク、”CRF250Lカスタム”を車庫に止めて玄関を潜る。
すると、
「お兄ちゃん、お帰り~♪」
廊下を走ってきたままの勢いで飛びついてきた月火ちゃんをしっかりキャッチ。
「ただいま。月火ちゃん」
「んー♪」
僕の腕の中で唇を突き出す月火ちゃんに、
”CHU”
抱きしめたまま靴を脱ぐ間もなくただいまのキス。
”ぺちゃ……くちゃ……”
と舌を絡めるのも忘れない。
最近は”ベロチュー”とかって新しいポケモンみたいな名前で呼ばれてるらしいけど、僕と月火ちゃんのキスではこれが
というか最近はマウス・トゥ・マウスのキスで唇だけの触れ合いだと、月火ちゃんが拗ねてしまう。
いや、まあそれは火憐ちゃんも一緒だけど。
そして一端唇を離して、
「そろそろ靴を脱ぎたいんだけど、いいかな?」
「うん♪」
***
さて夕食後、僕の部屋に月火ちゃんは紙束片手にやってきた。
「お兄ちゃん、これが頼まれてた『戦場ヶ原ひたぎさんの時間内で
そう、例の学習塾跡に向かう前に月火ちゃんに入れた電話の内容は、戦場ヶ原の調査依頼だった。
流石は”栂の木二中のファイヤーシスターズ”の参謀担当。実際に月火ちゃんの情報収集能力は驚くほどに高いし、おまけに怪異関係や変体刀関連も恐ろしく詳しい。
この短時間でも、きっと満足いく資料に仕上がってるはずだ。
”誉めて誉めてオーラ”全開の月火ちゃんをギュッと抱きしめて、
「ありがとう」
「えへへ♪」
蕩けたように笑う月火ちゃんは、本当に可愛い。
「お兄ちゃん、ご褒美の少しだけ前払いおねだりしていい?」
「いいよ」
今回の報酬は、「僕の費用全額持ちデート」のはずだったけど。
「一緒にお風呂入ろ♪」
「そのくらいなら喜んで」
その微笑ましい要求に僕の頬が思わず緩む。
「お姫様抱っこ~」
「仰せのままに。お姫様」
僕は月火ちゃんを要望どおりひょいと抱き上げ、そのまま風呂場へ向かうのだった。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
おもし蟹と”鎚”の繋がりを、阿良々木君が導き出してみせたエピソードは如何だったでしょうか?
今回の事例、原作より厄介でややこしくなったのは、”おもし蟹”と”鎚”という二つの怪異が存在していること、そしてガハラさんを触媒に二つが連動し融合する可能性があることです。
羽川が切れ者でいじらしいのはもうデフォですが、阿良々木君が原作とはまたベクトルの異なるパフォーマンスを発揮しました。
意外とまだまだ謎の多い主人公?
とまあシリアスな側面がいよいよ強くなってきましたが……最後で美味しいとこもっていったのは、久しぶりの登場な月火ちゃんという罠(^^
この娘は、いっそ感心するくらいブラコンをぶれさせませんです(笑
というかお兄ちゃんに彼女ができたことを嘆くのではなく、喜んでいるという噂もあり……今は色々画策中?
”ひたぎハンマー”もいよいよ佳境に入ってきましたが……
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!
もしご感想をいただければ、とても嬉しいです。