人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
今回のエピソードは、老倉さん(+少し阿良々木君)に「原作ではありえない思考と嗜好と趣向」を付け加えてみました。

そして、また一人変体刀が登場?


とりあえず原作”猫物語(黒)”の開幕です。





[004] ”月物語”

 

 

 

『やあ、阿良々木君。今日は刀の話でもしようか?』

 

突然だな?

 

『なぁ~に。【絶刀”(かんな)”】が、あんまりにも委員長ちゃんに似合う刀だなぁ~と思ってね』

 

……どういう意味だ?

 

『”鉋”の特徴は覚えているかい?』

 

折れず曲がらず切れ味落ちず……錆びることも朽ちることも無い刀だろ?

 

『そうだね。どんな劣悪な環境にあっても刀としてあり続ける刀だ。怪異認定は微妙だけど、さながら永久機関のような刀……とても怪異らしいと思わないかい?』

 

ん? 何が言いたいんだよ?

 

『だからさ……委員長ちゃんの()()()にとてもよく似ているってことさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

 

4月29日土曜日。

ゴールデンウィーク初日、素晴らしいことに快晴だった。

 

ギリギリ朝と呼べる時間に目を覚ましたた阿良々木暦は、日課のメールチェックを行う。

未読は1件。差出人は老倉育だった。

何気なく読んでみると。

 

『ちょっと釣りに渓流までいってくる。

帰りはいつになるかわからないけど、

ゴールデンウィーク中には帰ってくる予定。

”新しい相棒”の真価を確かめるまで戻って

こないと思う。

心配ご無用。私はどこででも生きていける』

 

いつものこととはいえ、とりあえず書きたいことだけ書きなぐったような内容に、起き抜けなのに暦は頭痛を感じてしまう。

 

(らしいって言えばらしいけど)

 

いっそ二度寝でもしてやろうかとも思ったが、何故か小さいほうの妹が「バールのようなもの」で襲撃してきそうな予感があったので止めておいた。

 

部屋の片隅を見ると、そこには一応は手入れしてあるフライロッド一式が立てかけてあった。

ダイワ製で商品名は”ロッド ロッホモア プログレッシブ2”。

無論、暦が買い揃えたものではなく育から去年の誕生日に「まっ、私のお古だけど性能は保証するわ」とプレゼントされたものだ。

 

ここまで書けばお分かりの通り、育の趣味はネットスラングの「釣り」でもなければフィッシング詐欺でもなく、ガチの釣り……それも「フライフィッシング」だった。

 

フライフィッシングというのは簡単に言えば、軽い西洋毛鉤を特性の糸の重さと細く長い鞭のようにしなる竿の反力を使って飛ばし、羽虫やら何やらと勘違いして食いついた魚を釣り上げる釣りだ。

大きな意味でルアーフィッシングと同じ疑似餌釣りだが、その歴史はルアーよりも長い。

特に彼女は割と本格的にフライフィッシングにはまっており、川を区切って魚を放流して初心者でも釣りやすい管理釣り場ではなく、自然の渓流を好んでいた。

そう意外なことに老倉育という少女、かなりのアウトドア派だった。

正確には阿良々木家に引き取られ(あるいは保護され)、1年ほど過ぎたときに「とある些細なきっかけ」からインドア派からアウトドア派に宗旨替えしたのだ。

 

 

 

(そういえば育の新しいパックロッド、”天龍”ってメーカーの奴だっけ?)

 

やったことのある人ならわかると思うが、フライフィッシング専用の釣竿であるフライロッドというのは非常に長い。

短いものでも優に2m以上はある。

なので分割して携行し、釣り場で繋ぎ合わせて使うように出来ている。

普通は三本継ぎ(3ピース)五本継ぎ(5ピース)くらいが多いのだが、天然の渓流に往こうとすると藪に分け入ったり狭い岩場の間を潜ったりしないといけない場合があり、例え5分割(ピース)した竿でも長くて邪魔になる場合がある。

 

パックロッドというのは要するに持ち運ぶ際の長さをより短くできるよう更に細かく分割できるようにした竿で、フライロッドの場合は6ピース以上に分割できる物を指す場合が多い。

もっともパックロッドの由来は、どうやら「旅行かばんにも詰め込める(パックできる)ように短くできる釣竿」という意味らしい。

これ以上詳しい情報は羽川翼に聞くべきだろう。

 

(天龍か……どうしてだか月火ちゃんが思い浮かぶな)

 

いやそれは単純に、暦が一時的に提督になっていた某海戦ネトゲーの軽巡艦娘の声が似てるだけだと思うのだが?

 

「よし」

 

と彼はいつものクラシカルなデザインのアンティーク時計でなく、かなりごつめなデザインのダイバーズウォッチを腕に巻く。

ソーラー充電の電波時計、チタンボディなので見掛けのわりには軽くおまけに200m防水ときてる。

これなら大抵の環境で壊れることは無いだろう。

 

暦はせっかくの天気なのだと思い直し、動き易い格好に着替えると育お墨付きのフライロッドをロッドケースに収納し部屋を出た。

 

 

 

***

 

 

 

「あれ? お兄ちゃんおはよ。もう起きたんだ?」

 

噂をすれば影というか……リビングで暦がエンカウントしたのは、ファイアシスターズのちっちゃい方で、天龍に声が似てるともっぱらの評判(でも龍田の方が声質も喋り方も雰囲気も近い)の、

 

「おはよ、月火ちゃん」

 

そう、今の髪型はストレートロングの阿良々木月火であった。

まあ、それはいい。

可愛い妹の顔を朝から見れるのは、隠れシスコンの日常にあるささやかな幸せだろう。

だが、暦にはどうしても看過できない……否。看過してはいけないアイテムを完治していた。

 

「時に月火ちゃん。その右手に握ってる『バールのようなもの』は、一体何に使うつもりなのかな?」

 

「えっ? やだなー。お兄ちゃんがせぇ~っかく可愛い妹が起こしたのに、二度寝するような心得違いを起こしたら目覚まし代わりに使う気だったに決まってるじゃない」

 

「そっかそっか」

 

「「あはははっ♪」」

 

兄と妹は顔を見合わせて楽しげに笑い……

 

「そんな厳つい鈍器で殴られたら、いくら僕でも目が覚める前に永眠してしまうわっ!!」

 

「大丈夫大丈夫。お兄ちゃんなら軽い軽い♪ それに殴るつもりじゃなくて突き刺すつもりだったし」

 

「なお悪い! ってよりなお怖いわ!!」

 

 

 

朝のいつもの風景、阿良々木流の兄妹の挨拶も一段落。

 

「なあ、月火ちゃん……もうちょっとソフトな起こし方は思いつかなかったかい?」

 

「う~ん……もしかして、【炎刀”銃”(コレ)】の方が良かった?」

 

彼女が着ていた浴衣の両袖口から抜き出したのは二丁の拳銃……いや『拳銃の形をした刀』だった。

 

 

 

【炎刀”(じゅう)”】。

ファイアーシスターズ(炎姉妹)にも月()にもかかる、二重の意味で似合う完成形変体刀の……紛れも無い、これ以上無いほどの『()()』であった。

 

偽物と言い切れる理由はは実に簡単だった。

完成形変体刀の姿を最も現世に伝えてるとされる草子”刀語”によれば、【炎刀”銃”】は凡そこのような姿で記されている。

 

『二本一組の対なる短筒型変体刀。一振りは自動式拳銃(オートマチック)、もう一振りは回転式拳銃(リボルバー)

 

と。

だが、月火が両手に1丁ずつ握るのは両方とも自動式拳銃で、形は基本的に同じであり一番の違いは黒と銀という色と、排莢口や安全装置などの操作系が左手用右手用に左右対称に配されてることぐらいか?

詳細な形もまた異なり、基本的にはコルトM1911の近代化クローンと言えるキンバー社のガバメント・タイプに近い。

『緋弾のアリア』のメインヒロインのメインウエポンに非常に良く似ていると書くと判り易いだろうか?

 

つまり形からしてまったくの別物と言ってよく、だが同時に「炎刀”銃”の偽物」として、正式に所持許可と携行許可と管理義務が月火に与えられていた。

 

 

 

「いや、それで撃たれた方が僕は確実に死ぬと思うんだけど?」

 

『特に銀の弾丸ならより確実に』と暦は心の中で付け加える。

 

「まさかっ! 大事な大事なお兄ちゃんを至近距離から乱れ撃ちになんてしないよ」

 

「いや、既にその発言が怖いよっ!」

 

「ただちょこっと台尻を頭に振り下ろすことはあるかもしれないけどね♪」

 

「月火ちゃん……まさかと思うけど、僕を殺したいとか」

 

「ううん。わたしはただ、お兄ちゃんを起こしたかっただけ。でも困ったな。『バールのようなもの』でも駄目、”銃”でも駄目っていうならわたしはどうやってお兄ちゃんを起こしたらいいんだろ?」

 

「いや、僕はもうバッチリ目が覚めてるから! 覚めまくってるから!」

 

「よし。ならこうしよう」

 

「だから聞けって」

 

ソファに座る暦の上に、正確には膝の上に月火は対面で座る。

いや、むしろ短い浴衣がめくれて下着が見えるのもかまわずに暦の膝に跨り、

 

”Chu”

 

躊躇いなく唇を重ねた……

 

「改めておはよ、お兄ちゃん。可愛い妹のキスでのお目覚めはお気に召してくれたかな?」

 

「……ああ。残念ながら、最高の目覚めだよ」

 

 

 

***

 

 

 

「でもお兄ちゃんとしてはちょっと心配だよ」

 

「何が?」

 

あのまま、ねだられるままに二度三度とつい唇を重ねてしまった暦である。

特にキスしたまま唇を舐められ、こじ開けられ舌を絡められてつい負けてはならぬと絡め返してしまった時は、つくづく自分は「妹に弱い駄目なアニキだなぁ」と思った。

いや、そこで軽く流していい問題かどうかはひとまず置いておくとして……

 

「果たして月火ちゃんが彼氏の……名前、なんだっけ?」

 

すると月火はにっこり微笑み、

 

「忘れたのなら、お兄ちゃんが忘れたままでいい名前だよ♪」

 

「そうか? ならその彼氏くんと上手くやってるのかとかさ」

 

「中学生らしく清く正しい男女交際をしてるかって意味? それならわたし、まだ処女だよ?」

 

「いやいやいやっ! だからそう剛速球のじゃなくて!」

 

「んー……キスもまだなプラトニックなお付き合いかな?」

 

「時に月火ちゃん。そう言えば、僕達たった今何度もキスしましたよね? それも最後はかなり濃厚なの」

 

「したねー。それが何か?」

 

「月火ちゃん的にはそれでいいの?」

 

「”妹の彼氏がお兄ちゃん似”。その意味がわからないんだったら、さすがに温厚なわたしでも『乱れ撃つぜっ!!』しちゃうかな?」

 

暦は考える。いや、考える考えない以前に誤解のしようがなかった。

 

「あー、それはつまり()()()()()()でいいのかな?」

 

月火は満面の笑みで、

 

「お兄ちゃんの解釈がどういうのかわからないけど、きっと()()()()()()でいいんだよ♪」

 

 

 

「やっぱり心配だ」

 

「今度は何が?」

 

「いや……これは例えば、本当に仮にの話だよ?」

 

「うんうん。仮の話だね?」

 

「僕がもし万が一にでも彼女を作ったらどうするのかなって」

 

「…………………えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、御愛読ありがとうございました。
かなり小悪魔な月火ちゃん登場のエピソードはいかがだったでしょうか?

原作のパロディはパロディなんですが、かなり内面は違ってるような……(汗

そして老倉さんの趣味がフライフィッシング(^^
いや~、原作的にはヒッキ―の不登校でインドアイメージの強い育に、是非とも似合わないことをさせてみたくて(笑)

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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