人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
本日はリアル予定の都合で、中途半端な時間にアップです(^^

さて新章2話目のエピソードは……前半は、作者的には珍しいオリキャラ(ただしオッサン)が出てきたり、羽川が相変わらず何でも知っていたりします。

そして後半は、ついにエンカウント・イベント発生!
[001]の段階では隠されていた”ひたぎハンマー”の意味の断片も明らかになりますよ~。




[002] ”二輪語”

 

 

 

さて、時は移って5月8日の放課後……

 

「おやっさん、入るわよ」

 

「なんでぇ、育の嬢ちゃんかよ」

 

僕と羽川が、何故か意気揚々とした育に引率されたのは、間違っても小奇麗な街のお洒落なガレージショップなどではなく、昭和の匂いが色濃く残る”街のバイク屋”という風情の店だった。

 

育が声をかけたのは、あまり愛想のよくなさそうな機械油染み込むツナギを着た中年男だった。

 

「暦、羽川さん、この人がこの”オートショップ大丸”の店長兼オーナーの大丸定吉さん。通称”おやっさん”。私の釣り仲間兼ツーリング仲間よ」

 

「あっ、どうも」

 

「はじめまして」

 

と僕と羽川は釣られて挨拶。

 

「おやっさん、男の方が暦よ。前に話したことあったでしょ? 女の子の方が羽川さん、暦の彼女よ」

 

「えっと、その……はい♪」

 

まだ聞き慣れてない呼び方に、戸惑いながらも照れくさそうに微笑む羽川。

育、僕たちにとって初対面の人に対してその紹介の仕方はどうよ?

 

「おう。よろしくな」

 

「こちらこそです」

 

と代表して僕が返す。

 

「まあ、こんな感じで口も悪いし接客する気なんてまるでないしで店は一向に流行らないけど、腕は保障するわ。阿漕(あこぎ)な商売もしないしね」

 

「ほっとけ」

 

とおやっさんは苦笑する。なんとなく熊みたいな印象の人だ。

それもリアルの獰猛な奴じゃなくて、”くまみこ”とかに出てきそうな感じの。

ただし、妙にハイテク機器に詳しいヒグマの”ナツ”の方じゃなくて、どちらかと言えば怖かったと評判らしいその先代寄りって感じだが。

 

「暦、特に欲しいタイプのバイクってある?」

 

「いや、特には」

 

いきなり放課後に引っ張られたものだから、事前調査する暇もあったものじゃなかったし。

 

「だったら私と同じトレイル・タイプを薦めるわ。多少の悪路なら物ともせずに走れるし、釣り場のすぐ傍まで行けるわよ?」

 

そういうものなのか?

 

「エンジンのパワーは確かにないけど粘りはあるし、車体の軽さと相まって燃費もいいわ。街中メインで使うにしても車高があるから遠くまで見渡し易いし、逆に車幅は狭いから車と車の間のすり抜けも楽よ? 個人的には流行の大排気量(ビッグ)スクーターよりも街乗りに向いてると思うわ。足揃えて乗るんじゃなくて跨るから、操り易いしマウンテンバイクの延長線上の感覚でライディングいけるわよ♪」

 

育はよほど愛車の”ツーリング・セロー”が気に入ってるのか、トレイルを熱心にプッシュしてくる。

僕と育は結構、趣味が合うからそうしようかなぁと思ってると、

 

「ふーん。それじゃあ、トレイルにするかな? ん?」

 

ふと僕の目に留まったのは、赤いカラーリングが鮮烈なバイクだ。

形はやっぱり、オフロード仕様のトレイル・タイプ。

なんだか研ぎ澄まされたような印象のマシンだった。

 

 

 

「これ、いいな……」

 

無機物に対しても起こる一目惚れっていうのは、こういう情況を言うのかな?

僕の視線はそのバイクに釘付けだった。

 

「ほう? 坊主、それに目を付けたか?」

 

そうクセのある笑みを浮かべるおやっさん。

うん。中々渋い。

 

「そいつはHONDAの”CRF250L”ってモデルだ。だがノーマルの排気系(エグゾースト)の細部の創り込みや塗装処理が気に入らなかったんでな。排気系を”モリワキ”の”MX ANO”チタン・フルエグゾーストにリファインしてあるのさ」

 

薀蓄によればチタン製らしきメタリックな虹色の消音筒(マフラー)を撫でるおやっさん。

 

「おかげで少しはパワーが上がってるから、DAYTONAの赤パッドとSWAGE-LINEのステンレスメッシュのブレーキホースへの交換でブレーキ周りも強化済み。ZETAのアクスルブロック入れたり、シフトペダルを可倒式のサードパーティーのに変えてみたりと、まあ他にも細かい部分もそれなりにいじってあるが……燃料噴射装置弄ったりボアアップして排気量変えたりしてねぇから、全体的にはライトチューンってレベルだな」

 

ああ。ブレーキ周りはマウンテンバイクでもディスクブレーキは標準化してるからなんとなく理解できる。

というか話を聞いてる限り、ライトってレベル超えてないか?

 

「つまりより軽く、より効率よくですか? 特にマフラーは重心の高い場所に設置されますから、実測の数値より体感的には軽くなったように感じるかもしれませんね」

 

トータルで言えば今一つわかってない僕に助け舟を出すように言葉を挟んでくれたのは、当然のように羽川だった。

 

「ほう。眼鏡の嬢ちゃんはわかるクチかい?」

 

「いえ」

 

羽川は首を横に振って、

 

「かじった程度の知識と力学的な観点から予想しただけです。あと、モリワキエンジニアリングの創業者、森脇護(もりわき・まもる)氏は趣味のバードウォッチングをする場所への移動手段としてが、オートバイとの出会いだったって聞いたことがありますから……なんとなくオフロードバイクと相性がいいんじゃないかなって」

 

「森脇護?」

 

誰だ、それ?

 

「日本のオートバイチューナー界全体の草分け的存在の一人だよ。故吉村秀雄(よしむら・ひでお)氏の義理の息子さんでもあるんだ。吉村秀雄氏は、オートバイ・チューニングの本当の意味で先駆者(パイオニア)で、1972年、世界で最初に市販のオートバイ用集合排気管を作った”ヨシムラ”の創業者だよ。1970年代から80年代の活躍が特に顕著で、海外でも”チューニングの神様(ゴッドハンド)、POPヨシムラ”って呼ばれて、今でも内外を問わず業界じゃ伝説的な人なんだよ?」

 

「羽川は、本当に何でも知ってるんだな」

 

どこがオートバイは詳しくないだよ?

 

「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」

 

とお約束。

しかし、おやっさんも羽川の博学に感心したようで、

 

「いや大したもんだ。そりゃ、今時の若い奴らじゃ知ってる方が少ない話だぜ?」

 

「あはは。昔、たまたま”ふたり鷹”を読んだ事があるので覚えてただけです。それにヨシムラとモリワキ、吉村秀雄と森脇護両氏の物語は、産業や工業って側面からでも結構知られていますから」

 

 

 

そして羽川はコホンと咳払いして、

 

「ところで、このオートバイっておいくらですか?」

 

「呼んだ?」

 

「いや、老倉さんじゃないから」

 

育、ここぞとばかりに持ちネタを挟むなって。

 

 

 

***

 

 

 

まだ値札の付けてなかったらしいこのバイク、おやっさんから提示された金額は税込みメーカー希望小売価格くいらいだったみたいだけど、

 

「これはお得かな? 使われてる部品(パーツ)代と組み込み工賃考えたらバーゲンセールだよ」

 

するとおやっさんはニヤリと笑い、

 

「まっ、育譲ちゃんの連れて来た客だからな。いわゆる”お友達価格”って奴だ」

 

羽川のお墨付きなら間違いないだろう。

 

「よし、買った」

 

と僕は即決する。

ATMの一日の引き出し限度額があるから、一括払いは無理だけど……手持ちだけでも頭金にはなるだろう。

 

「おやっさん、見た目からは信じられないかもしれないけど、暦ってけっこう金持ちだからもう少し吹っかけてもいいんじゃない? というか暦にはもったいないバイクよね」

 

「ヲイコラ」

 

勿体無いのはそうかもしれないだが、前半部分は角が立つ。

 

「いや、私は老倉だって」

 

育、名前ネタ二連発とは……ずいぶん絶好調じゃないか?

 

「あのな~……ガキ騙して金巻き上げるほど落ちぶれちゃいねぇよ」

 

 

 

そうだな。

子供を騙して金儲けなんて、本当にクズのやることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************************************

 

 

 

 

 

 

数日に分けて放課後にバイク屋に立ち寄って残りの金額を支払い終え、後は”CRF250L()()()()”の受け取りだけとなったその日の朝……僕は遅刻ギリギリのタイミングで自転車を走らせていた。

 

いや、言い訳になってしまうけど、やっぱり僕だってバイクの受け取りは楽しみであり、放課後に想いを馳せるばかりに……昨日の夜は中々眠れなく、つい寝坊してしまったのだ。

 

どうやら僕は、自分で考えてるよりずっと”CRF250Lカスタム”を気に入ってるらしい。

 

火憐ちゃんと月火ちゃんは僕を起こそうと一所懸命に努力してくれたみたいだけど、僕は思いの他しぶとかったみたいだ。

そこで()()()()()()、つい僕のベッドに潜り込んで一休みのつもりが二度寝してしまったらしい。

おかげで本日の阿良々木兄妹は揃いも揃って遅刻 or 遅刻ギリギリだろう。

 

(二人には悪いことしちゃったな)

 

今度、何か埋め合わせをしよう……そんなことを考えながら、遠足を楽しみにして眠れなかった子供のような状態に、僕は自分自身に苦笑した。

 

学校の駐輪場に自転車を止め、僕はあの無駄に高くて長い……ある意味、うちの学校の名物とさえも言える螺旋階段を駆け上がる。

廊下や階段に既に人はおらず、完全に遅刻のタイミングだった。

そして……

 

”ふわっ”

 

視界に入ったのは、風に揺れる黒にも見えるくらいに濃い紫の長い髪……僕は、反射的に両手を伸ばす。

一瞬、僕は天使が落っこてきたのかと思った。

あの”ラピュタ”の1シーンのように……

 

”ぼきっ”

 

その女の子を抱きとめた()()()()()()()()()()()()()()()の僕の両腕が、鈍い音を立てて見事に、あるいはあっさり骨折してしまうまでは……

 

 

 

***

 

 

 

”べたん!”

 

なんだかひどく痛そうな……それでいて重そうな音と共に衝突する彼女。

一瞬、「死んだのでは?」と思い骨折してることも忘れて近づこうとしたけど、

 

”クワッ”

 

その娘は閉じていた瞼を開き再起動。

そして、すっくと立ち上がり無造作に服に付いた埃を払い始めた。

動作から見ると、一緒に服が破れてないかチェックもしてるようだけど、

 

「君はT-800もしくはロザリタ・チスネロスか何かか?」

 

思わずそう突っ込んでしまった僕は、悪くないはずだ。

 

「誰がロアナプラで二度にわたり大暴れした、全身武器っ()の高火力型アンドロメイドですって?」

 

「混じってる混じってる。ロベルタはあれでも一応は人間……多分だけど」

 

あんまり自信は無い。原作漫画+TV版/OVA版を観る限り、あそこまでの暴れっぷりは火憐ちゃんや月火ちゃんでも難しいかもしれない。

僕より頑丈そうだし、一緒に観ていた本人達も同じこと言ってたし。

月火ちゃんが、

 

『トゥーハンドっていいよね~♪ 参考になるわぁ』

 

とか言ってたのが妙に気になるが……

それにしてもターミネイターはともかく、まさか『BLACK LAGOON』ネタも普通に返されるとは思ってなかった。

それにしてもアンドロメイドって悪くない造語だな。いや、造語じゃないのか?

 

 

 

「ところで……ずいぶん骨が弱いのね?」

 

その髪の長い女の子……うちの学校の制服を着た「文句なく美人」と言える女の子は、何事も無かったかのように床から立ち上がり、表情一つ変えずにそう告げた。

いや表情が変わらないのは、再起動した瞬間からだけど。

 

「ああ。最近、骨密度が不足気味でね」

 

そう僕は努めて表情を動かさぬように合わせてみる。

剣士の勘という奴だろうか?

下手に痛がったり刺激したりしないほうが、この場合は適切な気がした。

実際、骨が折れてると言っても騒いだり、取り乱したりするほどの激痛って訳じゃない。

幸い、綺麗にぽきりと逝ったみたいで、変な応力のかかり方をして骨の破片が神経や腱を切ったり、筋肉を突き破ったりはしてみたいだし。

 

「カルシウムはきちんと摂取しなさい」

 

「ありがとう。心がけておくよ」

 

「そう」

 

そう言い残して、彼女はさっさと立ち去ってしまった。

骨折のフォローはもちろん無しで。

もっともそれは当然と言えば当然かもしれない。

結局、僕は落ちてきた彼女を受け止めきれずに床に落としてしまったのだから。

 

とはいえ落下地点の床がクレーターというほどでもないが激しくへこみ、蜘蛛の巣を連想させる放射状のヒビが入っていたことから、『まるで上から鉄塊が落ちてきた』ような惨状を呈しているので、受け止め切れなかったことも一応は納得がいく。

 

 

 

(むしろ問題とすべきは……)

 

かなりの……普通なら「死んでないほうが不思議な」ほどの衝撃がかかったはずだが、怪我を負った様子もなく立ち上がっていた彼女の方……、

繊細そうな見た目に反し、恐ろしく頑丈なんだろう。

それこそ鉄塊並、()()()()()()()()()()()の強度だ。

 

(それにしても……)

 

身長は僕と同じかそれ以上あったかもしれないが、華奢に分類されるだろう体格から考えればありえない”()()”だった……

 

「よし、治った」

 

こういうときはモドキとはいえ、吸血鬼の桁違いの再生力、治癒力はありがたい。

そしてもう見えなくなった後姿を思い出し、

 

「確か……戦場ヶ原だったか? 同じクラスの」

 

僕もまた遅刻した僕に御立腹だろう羽川が待つ教室に向かって歩き始めた。

同じく、何事も無かったように。

 

 

 

***

 

 

 

一応は申し訳なさそうな(ふり)をして教室に入る僕だったが、さっさと着席しろと促す教師に逆らう気もないので素直に席に着く。

すると、隣に座る羽川は両手の人差し指をクロスさせて×印を作り、

 

「阿良々木君、遅刻はメッ、だよ?」

 

……迂闊にも朝から萌えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、御愛読ありがとうございました。
ガハラさんがやや「サブカルに強い愉快な娘」になってしまった感があるエピソードはいかがだったでしょうか?
”キャラ崩壊”タグのうちですよね?(震え声

平行世界(げんさく)とは真逆に、どうやらヘヴィオブジェクト(超重量級娘)になってしまったガハラさん(笑)ですが、彼女と保有変体刀の秘密は次回、詳細が明らかになる……と思います。多分。
いや、銘自体は封印解除した章タイトル”ひたぎハンマー”と”()()()()()()()()”でモロバレなんですが……ガハラさんのアクションを見る限り、どうもオリジナルとは特性が大分違うみたいですよ?

それにしても羽川は何でも知ってましたね~(^^
いや、それはいつものこととはいえ、老倉が絶好調すぎ(by 暦)
ちなみに出てきたバイク、実際にああいうチューンはできますが高校生が乗り回すには普通に贅沢な代物です(笑

次回は放課後パートかな?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

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