人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
今回のエピソードは……サブタイ通りについに戦いに決着がつきます。
もちろん、前話に出てきた阿良々木君の謎の台詞、

「トランザム!!」

の謎も解明されますよ~。

今回は、BGMに00繋がりも込みで”trust you”がお勧めです。
実際、作者もこの曲を聞きながら戦闘後のシーンを書いてました(^^




[031] ”決着語”

 

 

 

「阿良々木君、残念だけど……そろそろ、私もう限界みたいなんだ」

 

そう羽川が切り出したのはそろそろ丑三つ時を回ってしばらく経った頃だろうか?

 

僕こと阿良々木暦が戦争(デート)を初めてはや数時間……お互いに『()()()()()()』は全て切った。

 

このまま行っても待ってるのは、消耗戦だけだろう。

だから、ここいらで決着をつけようとする判断は的確と言えた。

 

「そっか」

 

納得はする。でも……

羽川との戦いは楽しい。これだけ全力で戦える相手はそうはいないから。

羽川と一緒に居るのは嬉しい。理由がなくてもただ嬉しかった。

 

だから惜しかった。

この時間が終わってしまうことが……

 

「だから……これが私の全力全開!」

 

そう言い放ち、”報復絶刀・弐の型”を取る羽川……

もう時間がないというのなら、終わるというのなら、

 

「羽川……来いっ!!」

 

僕はせめて、その全力を受け止めたかった。

 

 

 

***

 

 

 

「報復絶刀っ!!」

 

低く鋭い短距離跳躍(ショートジャンプ)から、羽川は”鉋”を突き下ろすように飛び込んでくる!

 

「甘いっ!」

 

そろそろ握る”剱”の強度が怪しくなってきた僕は、バックステップでそれを避ける。

太刀筋から考えて、羽川の狙いは僕の下半身、おそらくは足だ。

羽川らしい、合理的な判断だった。

いくら僕の再生力の高い僕でも、足を殺されれば即時の対処は不可能だ。

動きが止まれば、再生する前に「()()()()()()()()()()」を喰らうことになる。

「ニャアッ!!」

 

”ZuVaaaN !!”

 

羽川の渾身の突きが床を抉り、朦々と粉塵を巻き上げる。

僕が反撃の一太刀を入れようとした瞬間。

 

「報復絶刀っ!!」

 

ありえないタイミングで、”鉋”の切っ先が僕の眼前に迫っていた!

 

 

 

(ここで出してくるかっ!?)

 

零距離打突の”牙突・零式”を叩き台にした、おそらくは”報復絶刀・零の型”と呼ばれるだろう一撃……

 

存在はしているとは思っていたけど、この瞬間に出されるとは思わなかった。

 

(っ!? ということは……)

 

さっきの”報復絶刀・弐の型”は僕を串刺しにすることが本命じゃなくて、僕に避けられることを前提に”()()()()()()()()()()()()”ことこそが本命だったってことか。

 

(羽川……流石だ)

 

だけど、僕もただ串刺しにされるつもりはない!

 

(こっちも遠慮なく”切り札”を切らせてもらう!)

 

「”爆縮地・改(トランザム)”!!」

 

 

 

***

 

 

 

爆縮地・改(トランザム)”は、その構成を分解してしまえばさほど特殊な技じゃない。

 

剣術として「全刀流」の高機動歩法である”爆縮地”と、見かけ上の重さを消去する真庭忍法”足軽”を組み合わせた()()()()()()だ。

つまり”爆縮地”で加速する瞬間に”足軽”を接続発動させ、重量を消すことで筋力で発生したスピードを十全に生かすというやり方だった。

 

そして肝は技の本質よりも、そのタイミングだ。

人間は毎分20回瞬きをし、瞬き1回の所要時間は0.3秒……つまり、瞬きする0.3秒間は視覚情報は遮断される。

そして瞬きという生理現象は、羽川も例外なく行っていた。

猫も人間も瞬きするのだから当然と言えば当然だ。

 

爆縮地・改(トランザム)”を発動させるのはまさにその()()()()()で、視覚情報が途切れる間に相手の死角に回り込むのだ。

逆に言えば、『瞬きの間に死角へ潜り込めるスピードを出す』ことを編み出したのが、”爆縮地・改(トランザム)”だった。

 

 

 

あー、そのあんまり言いたくはないんだけど、元ネタはお察しの通り「ガンダム00」だ。

その昔、いつものように火憐ちゃんと月火ちゃんに挟まれて同作品を見ていた時のこと……

 

『あっ、なんか画面から兄ちゃんの声が聞こえる……?』

 

『本当だぁ。なんかこの中性っぽい人(?)、お兄ちゃんに声にそっくり♪』

 

そう言われるとなるほど確かに似ているかもしれない。

両腕に押し付けられる妹達の胸の感触を感じながら僕はそんなことを思っていた。

すると、

 

「トランザム!!」

 

翠に輝くGN粒子を纏いながら、リミットブレイクしたように急加速するMS……

 

『なんか、兄ちゃんなら生身でもできそうだな』

 

確かそう言ったのは火憐ちゃんだったか?

普通なら、「兄に期待しすぎだ。ばか」と言うべきとこかもしれないが、声が似ているキャラがいたせいか、僕はついこう答えてしまった。

 

『試してみるか』

 

 

 

これがきっかけで出来上がったのが”爆縮地・改(トランザム)”だった。

当たり前だけど、さすがに吸血鬼しようがなんだろうが生体GN機関なんて便利なもの、僕には精製できなかった。きっと木星のような高重力がないと無理なんだろう。

けど、タイムラグなしの連結に少々手間取ったが手持ちの技を組み合わせ、なんとか『トランザムと結果的には似たような事象』を具現化することが出来るようになった。

 

蛇足だけど、掛け声や気合として技名を叫ぶことはよくあるけど、イメージした元ネタが元ネタなせいか”爆縮地・改”は、「ばくしゅくち・かい」と叫ぶより「トランザム」とシャウトしたほうが明らかに技の()()()が良かったことを追記しておこう。

 

 

 

***

 

 

 

爆縮地・改(トランザム)”で羽川の死角、背面に回りこんだ僕は……

 

「”逆転夢斬・()()”!!」

 

”斬っ!!”

 

”剱”の()と鞘を用いた、順手と逆手の変則二刀流の重なるような連撃を、羽川の背中に放った!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************************************

 

 

 

 

 

 

”ドサッ”

 

宙に舞い上がった羽川が、重力に引かれて床に落ちる……

 

「羽川っ!!」

 

僕は慌てて駆け寄り、羽川を抱き起こす。

致命傷になるようなダメージは与えてない筈だけど……

 

 

 

「あ~あ……負けちゃったニャあ」

 

僕の腕の中で、羽川はそう力なく微笑んだ。

僕はホッと安堵の溜息を突く。

どうやら命に別状も無さそうだ。

 

「本当、阿良々木君は強いね……」

 

「まだまださ。僕自身、強さってものが未だに良くわかってないんだから」

 

「そうなんだ……私もよくわからないんだよ」

 

羽川の表情はあくまで穏やかで、

 

「羽川もなんでもは()()()()んだな?」

 

()()()()知らないよ。知ってることだけ」

 

戦いを終えた僕達は、こうして笑いあうことができた。

 

 

 

***

 

 

 

「羽川……満足したかい?」

 

「うん」

 

羽川は手を伸ばし、そっと僕の頬に触れて……

 

「”障り猫(あの子)”は、還っていったの……さよならって」

 

「そっか……」

 

瞳から零れた涙を指先で拭った。

 

「でも、この姿のまんまなんだね……」

 

羽川は純白のままの自分の髪を一房とり、

 

「でも、きっとこれが代償なんだと思う。だって私がやってしまったことは……これでも軽すぎるくらいだから」

 

「羽川……」

 

きっと聡い羽川はわかってしまっている。

どれほど美しくても、その姿は”()()”のそれだ。

 

人は排他的な生物で、羽川は人として受け入れられることは難しいだろう。

好奇の目を向けられる程度ならまだしも、それ以上の醜悪な感情や思考にまみれた視線に晒されるのは、きっと羽川には耐えられない。

強い齢の問題じゃなくて、”()()”とも呼べるほどのスペックを生れ持ち、それでも「普通でいたい」と願い続けた羽川には……

 

 

 

「羽川、一緒に生きないか?」

 

「えっ?」

 

決めたのは急だけど、でも元から僕の中にあった感情だ。

 

「何を言ってるのかな……? 私、もう怪異なんだよ? 人間じゃないんだよ?」

 

「それがどうしたんだ?」

 

そう、そんなの大した問題じゃない。

 

「僕だって似たようなもんさ。人でも吸血鬼でもない、ましてや刀にもなりきれない半端者だよ」

 

「だって……だって……」

 

「いいじゃないか。怪異が一匹で生きるなら辛いかもしれないけど、二匹で生きるなら割となんとかなるかもしれないだろ?」

 

「ばか…ばかだよ。阿良々木君は本当にばかだ……」

 

涙に濡れる羽川を、僕はできるかぎり柔らかく抱きしめた……

 

「馬鹿でいいよ。それで羽川が傍に居てくれるなら」

 

 

 

***

 

 

 

「阿良々木君……こんなときに言うのはズルいってわかってるけど」

 

「ん?」

 

羽川は僕の目を真っ直ぐに見つめて、

 

「好きです」

 

えっ?

 

「羽川翼は、阿良々木暦君が大好きです!!」

 

えっ?

 

「怪異になっちゃうような私だけど、阿良々木君を好きでいて、いい……?」

 

僕は内心、溜息を突きたくなった。

 

「先を越されちゃったな……」

 

「えっと……それって……」

 

「僕も羽川のことがさ、」

 

もう吊橋効果だろうとかまわないさ!

 

「大好きなんだ」

 

それは僕の正直な欲求で、望みで、願いなんだから……

 

「羽川……僕の彼女になってくれないか?」

 

 

 

”信じられない”って言いたげに、大きく見開かれる羽川の瞳が潤んで……

 

「私、怪異なんだよ?」

 

「さっきも言ったけど問題ない」

 

「私……幸せだよぉ……」

 

また涙が零れた。

でも、哀しい涙じゃないのなら、羽川を泣かせたこともきっと許されるだろう。

しかし……

 

 

 

”かぷっ♪”

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

……なんで金髪の幼女が羽川の首筋に噛み付いてるんだ……?

あっ、目が合った。

なんでジト目?

って、

 

「えええええっ~~~~っ!?」

 

これは一体何事!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
長かった阿良々木君 vs 羽川さんの戦いの決着と結末は、如何だったでしょうか?

先ず最初に……「トランザム!!」はもちろん、中の人繋がりが元ネタです(^^

ようやく戦いを終えられました。
原作のようなドラマティックな展開でもなく、ただただ二人が本気でぶつかりあっただけの、そして”障り猫だった()()()()”が消えた……そんな話です。

だから、羽川は原作と違い記憶を失うことはなく、もしかしたらそれに苦しむかもしれません。
でも、全力で戦えて、戦ったのは自分だと言えるから……そして忘れないからこそ罪を背負って怪異になってもそれを受け入れる覚悟があったから、真っ直ぐに気持ちを伝えられたのかもしれません。

でも、最後に一番美味しいところを持っていったのは忍ちゃんだったような……?

戦いはこれでおしまいですが、話はもうちょっとだけ続きます。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

もしご感想をいただけたら、とても執筆の励みになります。





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