人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
今回のエピソードは……お久しぶりの羽川さん視点より語られます。

彼女から見た、この事件の発端と経過、そして戦いの意味とは……?




[030] "猫翼語"

 

 

 

お久しぶりです。

羽川翼です。

 

「報復絶刀っ!」

 

もう日付が変わって5月3日になってしまいましたが、5月2日の夜から阿良々木君と交戦中です。

 

ニャハハ~。正確にはデートに誘われたんですけどね。

つまりは”夜通し(オールナイト)デート”ってことでいいのかな?

 

本当なら廃墟でデートなんて、どんな肝試し?

それも季節はずれの?

って言いたいとこだけど、でも来てみるとなるほど納得だ。

怪異”障り猫”を『()()()()()』私と、吸血鬼の力を宿した間違いなく現代の()()の一人の阿良々木君が全力で暴れられる場所なんてそんな多くはない。

しかも結界まで完備されていて、どんな激しく戦っても結界自体が破壊されない限りは外からはわからない場所なんて、きっと直江津市でもここだけだろう。

 

仮初でも、自分の住処を戦場にされた忍野さんや元ハートアンダーブレードさんはいい迷惑だと思うけど。

 

(後でちゃんとお礼言わないと)

 

 

 

阿良々木君は、私のストレスを全部受け止めてくれるって言った。

そのための戦争(デート)だって……

 

(でもね阿良々木君、何で私が本当に”()()()()”ちゃったか……きっとわからないよね?)

 

元々、私はストレスフルな生活を送っていた。

意識でもだけど、無意識でもストレスの存在を自覚していた。

お父さん(あのひと)に殴られたとき、本当はその時にも振り切れそうだったけど……でも、なんとか抑制できた。

はっきり言えば、突き殺さずに済んだ。

 

私はそんな綺麗な存在じゃない。

抑制できたのは、「親殺しをしちゃいけない」って思いからじゃない。

羽川夫妻(あの人達)は私を娘だと思ってはいない。生活できる最低限の環境はくれたけど、それ以上のことはなかった。

親としての情も、親としての役目もしてくれたことは無い……私の両親としての立ち位置を完全に放棄していた。

だからお父さん、お母さんって呼び方だけは()()()()()()してるけど、それは戸籍上はあの二人が両親だからって以外に強い理由は無い。

端的に言えば、私もまた()()()()を両親だとは思ってないし、情もない。

そんなものを求めてはいけないことは……無意味だってことは、もう嫌というほどわかっていたから。

 

だから我を失い衝動的に突き刺さなかったのは、自分を抑制できた「戸籍上でも両親がいないと生活に不便が出る」って()()からだった。

 

 

 

(それも、あの日のデートで)

 

4月29日、ゴールデンウィーク初日のあの日……ただ家に居たくないって理由で街を彷徨っていた私は、街で阿良々木君と出会った。

 

あの日のデートで……生まれて初めてって言えるぐらい楽しかった時間のお陰で、私の中にあったストレスは自分の中で随分軽くなった。

無くなったわけじゃないけど、それでもあの人に殴られたことなんてどうでもよくなっていた。

むしろ、殴られた傷痕のおかげでその……阿良々木君にキスをしてもらえたって考えれば、お釣りが出るくらいのイベントだ。

きっとそのお釣りが、軽くなったストレスなのだと思う。

 

我ながら単純だなぁ~とも現金だなぁ~とも思うけど、これは仕方の無いことだよね?

 

 

 

でも、最悪だったのはその日の帰宅だった。

ただでさえ憂鬱な帰宅なのに、あの二人は……

 

(阿良々木君を侮辱した……阿良々木君との思い出を汚した!)

 

そして私は爆発した。

 

 

 

***

 

 

 

怒りで我を失った私が気が付いた時には、私は二人の頭を鷲掴みにしていた。

首じゃなかったのは、奇跡みたいなものだろう。

私の”()()()”の膂力なら、窒息させてもおかしくなかったのだから。

 

『ニャハハハ♪ ご主人、気は済んだか?』

 

その時、”私の()()”から聞こえる声に気付いた。

”あの子”……私達が埋葬した”障り猫”だった。

 

『要するにだ、本来は俺が取り付く島なんて最初から無かったんだけどよ』

 

”あの子”は私が同情心なんて無くて埋葬したことを最初から知っていた。

知った上で、

 

『それが俺にはどうにも珍しくてニャ』

 

そして、「()()()()()()()()」のだった。

 

『まっ、俺も障ったし、ご主人も障られた。万事了解ニャ。じゃあ俺はもう行くぜ。これ以上ご主人に憑いてたら、ご主人がロクなことににゃんねーからな』

 

「待って!」

 

出て行こうとする”あの子”を繋ぎとめたのは、間違いなく私の意思だった。

 

 

 

その後の私……障り猫を取り込んだ私の行動は、一切釈明できるものじゃない。

 

『ご主人はしばらく眠ってろ。心を休めてろ。ご主人のストレスは、寝てる間に俺がにゃんとかしてやる』

 

優しい子だった。

私が繋ぎとめたことで、私と融合してしまったことで、『私のストレスを力の源とする怪異』になってしまったのに、私のストレスが消えれば自分も消えてしまうのに……それでも、あの子は私の為に動くといってくれたのだ。

 

手段は誉められたものじゃないけど、その気持ちが嬉しかった。

本当に嬉しかった……

私は、生まれて初めて家族が出来たような、そんな喜びが確かにあったのだから。

 

 

 

***

 

 

 

私は、体を乗っ取られていたわけじゃない。

私の了承で”あの子”は私の体を使い、私が起きているとき……意思があるときは、”あの子”は私であり、私は”あの子”だった。

 

そして、障り猫は優しくて、とても気の利く子だった。

 

『フン。あの()()だけはご主人の味方で、救いみたいだニャ? 俺は”()()”に徹してやるから、ご主人が話すといいニャ』

 

そういう訳で、”あの子”は仮面に徹して阿良々木君と話していたのは、怪異化してからもずっと私自身、”()()()”だった。

そう、最初の戦いの後半くらいからずっと……

 

 

 

結局、「()()()()()()()()()()()()」だったことは、阿良々木君には最初からバレバレだったみたいで、教室での一幕……とっくに私の正体を看破していた阿良々木君にニャアニャア喋りで啖呵を切っていたという、ニャんとも締まらない衝撃の事実に床を転げ回りそうになったけど、そこは何とか耐えた。

 

そして私のストレス発散の為の戦い……言ってしまえば、それだけのことを既に数時間つ続けていた。

 

阿良々木君は本当に私のことを理解していた。理解してくれていた。

手に握る”鉋”や、振るわれる刀のその意味まで……

 

『ご主人、お楽しみ中に申し訳ないんだけどよ……』

 

どうしたの?

 

『もうすぐ、俺はいニャくニャる』

 

えっ?

 

『俺は元々は”障り猫”って怪異にゃったが、今はご主人のストレスを力の源とする怪異ニャ。ご主人のストレスがにゃくにゃれば、消えるのが当然だニャ』

 

そんな……

 

『最初からわかっていたことニャろ?』

 

うん。障り猫は本当にいい子だ。自分が消えるのがわかっていても、それでも私のストレス発散を助けてくれるし、応援してくれるなんて……

 

『ヲイヲイ。障り猫は本来、”悪い()”の代表格ニャンだぜ? 俺がこんなことをやってるのは……まあ、ご主人に出会っちまったからニャア』

 

ごめんね。貴女を繋ぎとめたばかりにこんなことになっちゃって。

 

『それは言いっこ無しニャ。ご主人が俺を捕まえたときに、逃げなかったのもまた俺ニャんだから。納得づくさ』

 

ありがとう。

本当に、ありがとう。

 

『フン。でも、ま……認めたくはニャいけどあのオス、大したもんだぜ? あと500人は襲わなければどうにもならなかった溜まりに溜まったご主人のストレスを、たった数時間でここまで解消できるなんてニャ』

 

それだけ私が本気でぶつかれて、本気で私が楽しいって思ってるからかな?

 

『ああ。多分ニャ。だけどご主人、いくつか言わせて貰うニャ』

 

何を?

 

『あのオス、間違いなく”()()()()”って奴ニャ。何度も化け猫退治で戦ってきた俺が言うんだから間違いない』

 

そうだね。

きっとそうだ。

 

『だけどサムライってのは、基本的に強い奴との戦いを望む変な奴らニャ。だからあのオスもご主人が強者だから喜んでいるって()()もあるんだニャ』

 

……そうだね。

 

『でも、きっとそれだけでもないニャ。さっきも言ったけど、俺は何度もサムライと戦ってきてる……だから、わかる。あのオスは強者との戦いに喜んでるだけじゃニャい。きっと「()()()()()()()()()()」ことが嬉しくて楽しいんニャよ』

 

えっ?

 

『ご主人と同じってことニャ』

 

えっ?

 

『好きニャんニャろ? あのオスのこと。好きすぎて怪異になっちまうくらい』

 

!?

 

『ご主人、ぶつけるのはストレスじゃニャい。自分の()()ニャ。あれだけ我慢強いご主人が、俺が簡単に乗っ取れるようになるほど、我を忘れるほど好きニャんニャろ?』

 

うん……そう。私は

全て?

 

『何もかもを出し切って向き合ってみるんだニャ。自分の想いを刃に乗せて、本当の……生きてきてここまで出したことのない全力全開で』

 

それって……

 

『あのオスはそれを受け止めきれないほど弱くはニャいニャ。ご主人と俺がまとめてかかっても殺しきれないほど強い。だから大丈夫ニャよ』

 

そうかな?

それでいいのかな?

 

『ニャア、ご主人……本当に全力でぶつかれる相手がいる、包み隠さず向かい合える相手が居るってのはどんな時代でも幸せニャことニャんだぜ?』

 

……わかったよ。

うん! もう最後なら全力でぶつかってみる。

 

『それでいいニャ。俺も最後のもう一踏ん張りするとするかニャ!』

 

 

 

***

 

 

 

「阿良々木君、残念だけど……そろそろ、私は限界みたいなんだ」

 

「そっか」

 

名残惜しそうな顔……

これだけ阿良々木君に迷惑かけてるのに、こんなこと言ったら(ばち)が当たるかもしれないけど……私と過ごす時間が終わることを、阿良々木君が惜しいと思ってくれることが、ただただ嬉しかった。

 

「だから……これが私の全力全開!」

 

もう一度、私は”報復絶刀・弐の型”を取る。

 

「羽川……来いっ!!」

 

「報復絶刀っ!!」

 

気合一閃、私は踏み込み低い跳躍で飛び込む!

 

「甘いっ!」

 

阿良々木君は上空からの突き下ろしを、受けずに避けるためにバックステップする。

計算どおりだ。

これまでの斬り合いでそろそろ刀の強度が心配になってきたのか、阿良々木君は刀で受けるのを止め、回避を優先するようになっていた。

 

 

 

(けど、狙いは阿良々木君じゃない……!)

 

”この世で最も硬い刀”と称される”鉋”だからこそ出来る技!

 

「ニャアッ!!」

 

私は”鉋”の切っ先を、『狙っていた()()()()()()()()()()()』に突き立てる!

”ZuVaaaN !!”

 

突きの威力で朦々と立ち込める埃と破片の混じった粉塵……辛うじて阿良々木君のシルエットが確認できた。

 

(後は時間との勝負っ!!)

 

この奇襲で得た刹那を、使いきれるかどうかだ。

私は切っ先を引き抜くと同時にその反動も利用し、上半身を弓なりに逸らして……

 

「報復絶刀っ!!」

 

”ビュオッ!”

 

そう、これが今まで使わなかった『上半身を逸らし加速距離を稼ぎ、全身のバネで零距離を含む超至近距離で放つ打突技』、

 

(”報復絶刀・零の型”!)

 

この間合いと速度なら、いくら阿良々木君でも回避できないはず!

 

 

 

「トランザム!!」

 

(えっ? ガンダム00……?)

 

その掛け声と同時に、

 

「えっ?」

 

私は切っ先の延長線上にいたはずの阿良々木君の姿が、量子跳躍のように何の前触れもなく消えて、

 

”ガッ!!”

 

「うぐぅっ!?」

 

鋭い痛みと共に、私の体が浮いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
羽川視点のエピソードはいかがだったでしょうか?

実は意外と描写の難しい羽川の内面だったりします(^^
内なる会話、”障り猫()()()()()”との会話とか、『別の存在とも、もう一人の自分とも言える()()()()()との会話』って雰囲気が出せていたかどうか(汗

ラストで阿良々木君は、”ありえない技(?)”を使ったようですが……
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

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