人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ~。
今回のエピソードは……言うならば、”きっかけ”でしょうか?





[003] ”埋葬語”

 

 

 

『これは仮説だけどね、阿良々木君……仮に変体刀が長い年月を経て付喪神(つくもがみ)になっていたとしたら、付喪神って()()になってたとしたら』

 

”専門家”はどこか楽しそうに、

 

『それは結構、大変なことになると思うんだよ。なんたって怪異に関われば、また怪異に惹かれやすくなるからねえ』

 

そして底の知れぬ目で()を見ていた。

 

『えっ? 直江津市にどう考えても十二振り以上の完成形変体刀があるって? おそらくそのどれもが本物じゃないって? わかってないなあ』

 

どういうことだ?

 

『刀の怪異になるのは別に()()()()()()である必要はないのさ。例え偽者の変体刀でも”()()()()()”にはなれるんだ。変体刀の、あるいは刀って体裁をもっていればね』

 

それは酷くいい加減な解釈に聞こえた。

 

『そりゃいい加減にだってなるさ。怪異ってのはそもそもそういうものなんだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***********************************

 

 

 

 

 

ここで少し()()のことを紹介しておこう。

羽川翼(はねかわ・つばさ)”、私立直江津高校の三年生でクラス委員長。

チャームポイントは三つ編みお下げ髪と眼鏡、それに極端に着やせするのでわかりにくいが豊満な胸。

と、ここまでなら平行世界(げんさく)となんら変わらない。

だが、ここへ原作と異なる世界なのは間違いなく、故に原作と同じ道筋を歩く道理もない。

 

ならば、当然のように登場する人物達にも差異はある。

そう例えば、羽川翼という少女が「帯剣している」という事実はどうだろうか?

そう、翼は帯剣していた。

正確に描写するならスカートの上から帯剣ベルトを巻き、左腰に一振りの刀を帯びていたのだ。

梅の意匠をあしらった鍔の無い柄……柄自体も何やら洋傘の取っ手を思わせる、日本刀としては珍しい形状だ。

どちらかと言えば藪などを切り払うマチェット(山刀)に近い印象だろうか?

刀身は鞘に収められてるために見ることは叶わないが、翼の体格から逆算して刃渡りは精々二尺くらいだろう。

日本刀の定寸は成人男性なら一般に二尺三寸とか二尺三寸五分とか言われてるが、翼の体格なら敵してるのは二尺一寸~二寸な筈なので、短すぎるということも無いのかもしれない。

むしろ定寸より短めの刀が向く居合いをするなら最適かもしれないが、鞘の形状から見てどうやら直刀らしく残念ながら刀自体が形状的に居合いには向いてなさそうだ。

 

いや、それ以前に銃刀法がどうなってるのかという問題があるのだが。

 

 

 

さて、明日からのゴールデンウィークを控えたその日の朝、羽川翼はいつものように帯刀し、いつものように登校した。

そして最近、正確には新学期から恒例になった阿良々木暦と老倉育との朝のエンカウントを果す。

ここまでは日常だった。

しかし、世の中というものはいつも思いがけない部分に”非日常”の窓口が開いているものだ。

特にこの直江津市においてはそうだ。

ふとした瞬間に、エアポケットのように日常から非日常へ転じる口が開く。

 

翼にとっての非日常の入り口は、猫の姿をしていた。

 

 

 

***

 

 

 

おそらく、車にでも轢かれたのだろう。

その猫は力なく道端、通学路に横たわっていた。

 

翼は衝動的に駆け出し、その亡骸となった猫を抱き上げた。

 

「手伝ってくれるかな?」

 

翼はそう暦と育に振り返った。

 

「ああ」

 

「いいわよ」

 

二人は短く賛同する。

 

 

 

”スラリ”

 

翼は腰の鞘から刀身を抜き放った。

刀としてはやはり無骨な印象の刃渡り二尺ほどの直刀で、刀身には綾杉肌に二筋桶が彫られていた。

 

「【絶刀”(かんな)”】か……」

 

暦には見覚えがあった。

むしろ春休みには翼に借りて使ったことさえある。

 

贋作(レプリカ)だけどね。本物の絶刀”鉋”は刀身五尺刃長三尺以上の堂々たる大太刀らしいし、鞘も無いはずだから」

 

そう、完成形変体刀においては最も正確な記述とされる、今は草子として伝わる”刀語(かたながたり)”に記された記録を思い出す翼。

 

「さしずめ”鉋”に肖って打たれた小太刀ってとこかしら?」

 

育はそう予想を立てる。

だが、翼はそこに明確な回答をせずに、

 

”ざくっ ざくっ”

 

と通学路から少し奥に入った公園の端に、”鉋”の切っ先を突きたて墓穴を掘り始めた。

「羽川、さすがに変体刀をスコップがわりに使うのはどうかと思うぞ?」

 

「えっ? どうして? 一応、レプリカとはいえ完成形変体刀に選ばれた主だから慣わしどおりに帯刀はしてるけど……普段は鉈の代わりにくらいしか使い道無いよ?」

 

そう不思議そうな顔をしながら、

 

「それに第一次世界大戦や第二次世界大戦のとき、塹壕戦の武器としてスコップは立派に使われていたっていうし……逆もまたありなんじゃないかな?」

 

育は酢橘色の刀袋に収めた自分の愛刀【王刀”鋸”】を見やり、

 

「なんとなく罰当たりな気がするわ」

 

「そっかな?」

 

「一応、その刀を借り受けて一時的に相棒にした身の上としては、複雑な気分だ」

 

そう苦笑する暦だったが、その戯言を聞き逃さなかったのが育で、

 

「暦、それどういうことよ? なんか物騒な臭いがプンプンするんだけど?」

 

 

 

暦は育に春休みの出来事……吸血鬼にまつわる怪異譚を話してはいない。

ただ、妹達と同じく「自分探しの旅に出ていた」と告げただけだ。

実はあながち間違いでも無いのだが。

 

「ちょっと街を荒らすチンピラ三人と成り行きでやりあってしまうことになって、通りすがりの羽川に”鉋”を借りた」

 

これも嘘ではない。

少なくとも()()()にとり、バンパイア・ハンターの三人など確かにチンピラの一言で片付けていいレベルだ。

 

「そこんところどうなの? 羽川さん」

 

「そこでどうして羽川に聞く?」

 

「アンタが信用できないからに決まってるじゃない」

 

「わーい! 僕の信用度零だぁー!」

 

すると育、いかにも心外という顔で、

 

「暦……無茶で無謀で無鉄砲。学力はともかく行動原理に関しては、馬鹿の代名詞たるアンタのどこを信用しろと?」

 

「育、それはさすがに言いすぎ……」

 

だが、暦の反論はクスクスという翼の笑い声で遮られた。

 

「この場合、残念ながら老倉さんの方が分があるかな? 確かに阿良々木君は無茶で無謀で無鉄砲だもん。うん、さすが老倉さん。実に的確だよ」

 

育はえっへんと胸を張り、

 

「ほら、みなさい!」

 

「羽川さん羽川さん、君が僕を無謀といいますか?」

 

「何のことかさっぱりわからないなー」

 

と某人形童女張りの棒読みで誤魔化した後、

 

「とりあえずね、老倉さん。春休みのことはそんなに心配いらないよ? 単に道で倒れていた金髪で胸の大きな美人のお姉さんに阿良々木君がメロメロになって、そのお姉さんを追いかけてきた悪漢三人組と丁々発止にやりあっただけだから」

 

これも嘘ではない。

 

「それどんな武侠小説(ロマンス)よ? というか羽川さんが巨乳って言うってどんなレベルよ?」

 

武侠小説を騎士物語同様にロマンスとして語れる育も大概のような気がする……

 

 

「嘘はついてないんだけどなー。ちなみに私より胸、おっきかったよ? ねっ? 阿良々木君」

 

「羽川、どうしてその話題を僕に振る?」

 

じぃーっと翼の顔を見る育。どうやら彼女は何らかの得心に至ったらしく、

 

「まあ、羽川さんがそう言うなら納得してあげる。んで暦、勝ったの?」

 

「勝ったから僕はここにいるんだが?」

 

「そう。ならいいわ。羽川さんも助太刀ありがとう。私が言う義理じゃないけど、こんなんでも一応、私の幼馴染になるわけだし」

 

「羽川、どうしよう? 最近、僕の幼馴染が微妙に冷たいんだが」

 

「いえいえ、どういたしまして。でも、お礼を言われるほど助太刀にはなってないよ?」

 

「僕の言動はスルー!?」

 

「暦……そんなちっちゃい言動ばっかしてるから、いつまでも身長が伸びないのよ?」

 

「抉られた! 育に心をざっくり三角刀で抉られた!」

 

 

 

「阿良々木君の身長はさておいて……阿良々木君も老倉さんも手伝ってくれて、私こそありがとう」

 

会話を楽しんでるうちに、どうやら猫の埋葬は終わったようだ。

口と同時に手を動かすのを忘れてないのも三人らしいといえばらしい。

 

「いいのよ。確かにあのまま放置して、鴉に群がれでもしたら気分のいいものじゃないもの」

 

「だな。それにまだ若干ながら時間的余裕もある。急げばだけど」

 

「阿良々木君、それは普通は余裕が無いって言うんだよ?」

 

そして三人は学校への道を急ぐ。

 

猫の埋葬という非日常から通学という日常への回帰……確かに見た目にはそのとおりの事象かもしれない。

 

あるいは阿良々木暦にとっても老倉育にとっても、そして羽川翼にとっても、これは取るに足らない……すぐに忘れてしまうような「日常に紛れた出来事(アクシデント)」なのかもしれない。

だが、日常と非日常の境目は時にはひどく曖昧になる。

 

 

 

 

***

 

 

 

蛇足

 

同じく4月28日金曜日、場所は私立直江津高校の学食。

阿良々木暦と老倉育は、羽川翼を誘い昼食をとっていた。

 

「そういえば結局、暦の出会ったっていう金髪巨乳美人とはどうなったの?」

 

いきなり朝の話題を持ち出したのは育だ。

 

「フッ……所詮は実らぬ恋だったのさ」

 

高三なのに中二病全開で答える暦だったが、

 

「羽川裁判長、今の被告人の発言についてですが」

 

「ちょっと待て! いつから学食は法廷になったんだっ!? それに羽川が裁判長だったら僕の今までの悪行が全部ばれるじゃないかっ!」

 

「阿良々木君、罪の言及をするのは検事の仕事だよ?」

 

「誰か僕の弁護を!」

 

「そんな物好き、いるわけないじゃない」

 

育はざっくりと切り捨てる。

 

「まあまあ。とりあえず阿良々木君、嘘は言ってないよ? ()()()()()()()()()はもうこの街にはいないし」

 

「ふ~ん……フラれたんだ?」

 

「ごはっ!?」

 

「結果的にはそうなるのかな? その代わり、金髪の可愛い小さな女の子には懐かれたみたいだけど」

 

「暦、アンタまさか……その金髪美人に子供押し付けられたとかじゃないでしょうね?」

 

「それに関しては潔白だっ!!」

 

「そういうのじゃないみたいだよ? 阿良々木君、これで結構モテるみたいだし」

 

「まあ、羽川さんが言うなら納得してあげるけど……」

 

育はじとぉ~~~っと暦を見て、

 

「その金髪の小さな子に手を出して、性的な意味での犯罪者になるのだけはやめてよね? 友人代表でインタビューとかされてもコメントに困るから」

 

「なるかっ!!」

 

二人の姿を見て翼は笑う。

心から楽しそうに。

確かに、この時までは平和だったのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、御愛読ありがとうございました。
猫物語(黒)へのつながりとなるエピソードは、いかがだったでしょうか?

それにしても羽川さんのヒロイン力が、マジぱない(^^
しかもレプリカ(多分)とはいえ、完成形変体刀持ちという属性追加……
付加要素や異物混入が多い”この世界”、果たしてどうなるのか?
作者的にも不明だったりします。

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!


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