人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんにちわ。
今回のエピソードは、サブタイにも関連語が乗っかってるように追加した”るろ剣”タグが大きな意味を持ってきます。

阿良々木君が、平行世界(げんさく)とは全く違う経緯で、ブラック羽川の本質に気が付いたその経緯……それが今、明かされます!




[026] ”牙突語”

 

 

 

5月2日深夜、学習塾跡の廃ビルに僕は羽川をメールで呼び出した。

具体的にはデートに誘った。

 

現れた羽川は僕に問う。

 

『どうして()()()()だって……”障り猫”に飲み込まれてないって気付いたの? いつから気付いてたの?』

 

だから僕は答えた。

最初に一目見たときからだと。

僕が羽川を見間違うわけないと。

 

 

 

「確信したのは……羽川が繰り出した”報復絶刀”を見た時だったよ」

 

 

 

そう、初めてのエンカウントバトルを演じた4月29日の夜、贋作【絶刀”鉋”】を抜き、僕に繰り出した技……

 

「その技の使い手であるお前には言うまでもないことだけどな……”報復絶刀”は()()()()()()()()()()()んだ」

 

 

 

***

 

 

 

少し説明が必要だろう。

そもそも”報復絶刀”という技のオリジナルが登場するのは、一般に知られているのはたった二回。

それも作者が今一つはっきりしない、史実だったか創作なのか未だ研究者の間で意見の別れる【草紙”刀語”】の中だけだ。

その中で”報復絶刀”の使い手は二人出てくる。

冒頭に出てくる最初の敵である真庭忍軍(まにわにんぐん)の「真庭蝙蝠」と、家鳴将軍家御側人十一人衆の一人「般若丸」だ。

 

だが、ここで問題がある。

この二人、「全身の筋力とバネを使って加速し、全体重を切っ先に相乗させた【絶刀”鉋”】を用いた()()()」というところまでは一致しているが、本質的に技が違うのだ。

 

真庭蝙蝠は、フェンシングと同じで速さと射程距離を優先した「()()直突き」……

対して般若丸は、正確さと威力が持ち味の「()()直突き」……

 

読み解くとそういうことになる。

となればその解釈としては、

 

「刀語を読む限り、『”鉋”を用いた渾身の突き技全般=”報復絶刀”』ということになってしまうんだ。逆に言えばこの条件を満たす限り、『”鉋”の使い手の数だけ報復絶刀は存在する』ってことになりかねない」

 

「確かにそうだね……」

 

「そして羽川、僕は春休みにお前の”報復絶刀”を見てるんだ」

 

あのバンパイアハーフの投擲した巨大十字架の弾道をカウンターで逸らして弾いて魅せたあの技を……

 

「”その報復絶刀”は羽川だけのものだ……だって、」

 

答え合わせをしよう。

 

「”お前の報復絶刀”って【牙突(がとつ)】を参考にして編み出した、()()()()()()だもんな」

 

 

 

***

 

 

 

牙突(がとつ)”とは?

明治時代には”藤田五郎”と名乗っていた元・新選組三番隊組長”斉藤一”の得意としていた剣技、今なお突きの”最終進化系”とも言われる技だった。

 

その技の詳細は現在、公式には「正史ではない」とされているが……幕末から明治中期辺りまでの”()()()()()()”を忠実に描いたとされる奇書、【明治剣客浪漫譚(めいじけんかくろまんたん)】に詳しい。

 

正史としては否定されていても単純に時代物文芸作品として未だ人気があり、今でもアニメや漫画、映画などの様々なメディアで映像化される作品を羽川が知らないはずは無かった。

 

「牙突の特徴は、”()()()()()”……お前の”報復絶刀”と完全に一致する」

 

もっとも牙突ではなく原型となった”平突き”その物は、同じ新撰組の副長……戦術の鬼才こと土方歳三の考案だったらしいけど。

しかし、平突きを牙突に昇華させたのは間違いなく斉藤一だろう。

 

「だけど”斉藤一の牙突(マスターピース)”とも、羽川のそれはまた違う……そもそも斉藤一の、正確には”牙突・()()”は『()()の片手平突き』なんだ」

 

だが、羽川のそれは左右真逆だ。

羽川の片手平突きは、必ず右手で繰り出される。

 

これは斉藤一が左利きで、羽川が右利きという単純な話じゃない。

剣道、そして剣術においては利き腕に関係なく(つか)を握るのは右手が前(鍔元)で左手が後ろ(柄頭付近)だ。

太刀筋の安定と距離が稼ぐため、右手よりも左手の方の力により重きを置くのは基本と言える。

 

「羽川は剣術の基本を無視し、左右逆の『()()を伸ばし()()で柄頭を握り、片手平突きを繰り出すモーション』だ……理由は利き腕の右手で繰り出すほうが合理的と考えた。そんなところか?」

 

 

 

「お見事♪」

 

本気で感心する羽川の瞳に、思わず優越感を感じるくらいは許されるよな?

 

「お前の”報復絶刀”は、その本質において『()()()()()()()()()()』に特化したものだった。何もモーションや太刀筋だけじゃない。足捌きまで含めてだ」

 

「あの一瞬で、本当によく見てるね……本気で凄いと思う」

 

そう言ってくれるか……

 

「なら羽川、もう少し戯言に付き合ってくれるかい? 夜はまだ長いんだ」

 

「いいよ。阿良々木君が望むのなら、いつまでだって付き合うよ」

 

 

 

***

 

 

 

「羽川……僕が”()()()報復絶刀”をお前だけのオリジナルと判断できたのは、もう一つ理由があるんだ。ここからは憶測だけど……間違っていたら言ってくれ」

 

「いいよ」

 

「お前が報復絶刀を練習し始めたのは、どういう経緯かわからないけど……贋作【絶刀”鉋”】を手に入れてからで間違いないよな?」

 

「うん。正確には小学生の頃だよ。気が付いたら、()()()()()()

 

怪異化した完成形変体刀……怪変刀まで引き当てるなんて、やっぱり羽川だな。

 

「それから報復絶刀の……いや、『()()()()()()報復絶刀』の練習をし出した。資料に乏しい報復絶刀をなんとかして再現しようとして……【明治剣客浪漫譚】の斉藤一、その牙突を参考に少しずつ少しずつ自分向けに改良していった。動機は……そうだな、『”鉋”の持ち主は報復絶刀を使うことが普通だから』。そんな感じか?」

 

 

 

「阿良々木君はなんでも分かるんだね?」

 

羽川が茶目っ気出して言う台詞に、

 

「何でもは分からないさ。分かるのは刀のことだけだ」

 

そう応える。

 

「だからわかっちまうんだ……羽川、お前嫌なことがある度、ストレスが溜まる度に家を飛び出して報復絶刀の練習してたんじゃないか? 泣く代わりに、さ」

 

「!?」

 

「泣きたい気持ちが消えるまで、へとへとになって何も考えられなくなるまで突きの練習をしてたんじゃないか? まるで哀しい気持ちを刺し貫くように」

 

「……なんでそう思ったのかな?」

 

「そんな難しい話じゃない。お前の生い立ちと家庭環境、”鉋”の存在と羽川の繰り出す報復絶刀の太刀筋……それを総合して出した憶測だよ」

 

「それじゃあ……わからないよ」

 

嘘つきだな、羽川……

 

「お前の太刀筋はそりゃ見事なものさ。ブレが無く真っ直ぐで、迷いがない。この世でもっとも頑強な刀の一つであろう”鉋”との相性もばっちりだ。お前の歳でそこまで”鉋”を自分のものとできた奴はそう多くない……僕が保証する」

 

だからさ、羽川……

 

「このまがいなりにも世間一般で平和って呼ばれるこの時代、お前の歳でそれだけの技量を持つってのは()()()()()()のさ」

 

僕みたいな”()()()()()()”でもない限りは。

 

「羽川、お前の太刀筋はさ……愚直に、ただひたすら信念の如く”一つの技”を繰り返した物だけが持つ”()()”があるんだよ」

 

 

 

***

 

 

 

忍野が羽川をどうにかできない理由の一つは、アイツが「()()()()()()()()」っていうのもある。

いや、むしろ大きな理由の一つだ。

確かに忍野はべらぼうに強い。特に怪異やそれに類似する相手には、だ。

だけど、それだけだ。

忍野は人間や怪異を観察してその行動や思考を読み取ることには長けてるが、刀を使わないアイツには「()()()()()()()」は読み取ることは出来ないのだろう。

 

 

 

「泣きたい気持ちを刀に乗せるのは、悪いことじゃない。もしかしたら、よくあることなのかもしれない……だけどお前の場合、歳に見合ってないんだ」

 

「私……泣けないんだよ。泣き方を忘れちゃったんだよ」

 

そっか……「私には流す涙は無い」とか「涙なんてとっくの昔に枯れ果てた」なんて強がりも言えないのか。

 

「だったら怪異に身を委ねても仕方ないな」

 

きっと流せなかった涙の数が多すぎるんだろうな……だから溜まって溜まって、心の奥底に沈殿した。

 

「なあ、羽川……自分のその姿、怪異化した理由が積もりに積もったストレスだって自覚はあるか? 幾万もの突きでも払いきれなかった”蓄積した鬱屈”だって理解しているか?」

 

「……うん……」

 

「”障り猫”はただのトリガーだ。障り猫がお前に憑いて乗っ取ったんじゃない。羽川が『()()()()()()()()()』……それで間違いないな?」

 

「うん。確認するけど、阿良々木君は最初の戦闘で……私が報復絶刀を放ったときにはもう確信してたんだよね?」

 

「そうなるな」

 

「じゃ、じゃあ教室でのやりとりって……」

 

ああ、シリアスな空気なのに口元が緩みそうだ。

 

「ああ、確信犯的行動って奴だ。羽川がニャアニャア言ってて可愛かったなぁーと」

 

「ふみゃあぁぁぁーーーーーっ!!」

 

思い切り羽川の猫系絶叫が響き渡った。

 

 

 

***

 

 

 

「恥ずかしい! 恥ずかしい!! 恥ずかしい!!!」

 

おいおい、羽川さんや。

それ、キャラ違わないか?

 

「酷いよ阿良々木君! わかってて黙ってるなんて!」

 

「猫かぶってた羽川が悪いんじゃん」

 

「ばれてるってわかってたら、あんなことしないよ! あぅぅぅ~っ……これから、どうやって阿良々木君と顔を合わせれば……」

 

「いや、現在進行形で目の前にいるって。それよりも下着姿って方がむしろ羞恥心的には問題あるんじゃないのか?」

 

「そんなのどうでもいいよ! それなりにお洒落なのつけてる自信あるし!」

 

『パンツじゃないから恥ずかしくないもん!』ってネタは、羽川には使えないっと。

 

「猫語を阿良々木君の前で使いまくるくらいなら、下着姿を見られるほうがまだ百倍くらいマシだよぉ……」

 

僕は初めて羽川の価値観の疑問を持った瞬間だった。

 

「なら、比較対象が『全裸首輪でお散歩露出(猫耳&尻尾バイブ付き)+野外放尿プレイ』とかだったら?」

 

「そっちのほうがいいよ!……ちょっと楽しそうだし……」

 

ヲイヲイ。

そんなこと言うと本当にやっちゃうぞ?

本当に堕ちる所まで堕としちゃうぞ?

 

 

 

「まっ、いいや」

 

緩んでしまった空気を取り繕うように僕は切り出す。

 

「羽川、その姿をもしかして気に入ってるかもしれないが……まあ、流石にそのままってわけにはいかないだろ?」

 

「それはそうだろうけど……」

 

戦う前に何か色々精神的ダメージが蓄積したのか、猫耳をへにゃりとさせてる羽川……可愛いと思ってしまうのは罪か?

 

 

 

「抜けよ。そろそろ始めようぜ?」

 

「なにを……って聞いていい?」

 

羽川、それも確信犯的行動だぞ?

 

「お前の姿が、発散しきれないストレスの成れの果てって言うなら……」

 

僕は左腰に下げた朱鞘から贋作【千刀”剱”】を抜き放つ。

 

「僕が全て受け持つさ」

 

涙の最後の一滴までさ。

 

「あはっ♪ それは素敵な提案だね?」

 

羽川も呼応するように”鉋”を抜いてくれた。

僕は内心で意図が伝わっていてくれたことに安堵する。

ならば、僕も羽川も言うべきは一つだ。

 

 

 

「「さあ……僕達(私達)の”戦争(デート)”をはじめよう!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
るろ剣ネタが続くと思いきや、最後は「デート・ア・ライブ」になってしまったエピソードはいかがだったでしょうか?(えっ?

楽屋オチなんですが……阿良々木君と羽川さんが対決のときに、二人同時に

「「さあ……僕達(私達)の”戦争(デート)”をはじめよう!!」」

って唱和するシーンは物語の初期プロットの時から既にあり、ずっと言わせたい台詞でした(^^
本当にこれで一安心です。

そして「羽川の報復絶刀=”()()()片手平突き”=”羽川式牙突”」って伏線が無事に回収できてよかったですよ~。
羽川の繰り出す報復絶刀の元ネタが牙突って気付いた読者様は、果たしていたのでしょうか?(汗
実は「羽川=牙突使い」は、原作小説の方で羽川に上半身と下半身を泣き別れにされた阿良々木君が、その状態の自分を「牙突・零式に殺られた宇水さん」に例えたことから発想していて、微妙な原作オマージュになってます。

加えると、”()()()()()()()()”刀語的な時代の後はるろ剣的な幕末があったという恐れが……(汗

阿良々木君は原作でも「僕と羽川よく似ている」という趣旨の発言をしてましたが、このシリーズでは剣士……”変体刀使い”という共通項もあり、この戦いは決して避けられないものです。
剣士が会話するのは言葉じゃないですから……

それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

ご感想をいただければとても嬉しいです。


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