人間強度が下がらなかった話   作:ボストーク

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皆様、こんばんわ。
筆が乗ったので、久しぶりに深夜アップです。

今回のエピソードは忍野との舌戦もありますが……もう後半はサブタイとおりです(^^

ただし、呼び出しメールの内容は平行世界(げんさく)と若干違うようですよ?




[025] ”再会語”

 

 

 

「僕が決着をつける」

 

それが僕、阿良々木暦の結論だった。

羽川翼の現状を知って、羽川翼の過去を知って、羽川翼の内情を知ってなお僕が出した結論だった。

 

「きっと【ブラック羽川】は、僕じゃなければ決着は付けられない」

 

「はっはー。言い切るじゃないか?」

 

こと羽川に関しては、忍野より僕の方が適任だけど言い切れる。

 

「忍野……お前は強者であるのに何故、強者の気持ちがわからないんだ? いや、それとも孤独と引き換えに自由を取ったからわからないのか?」

 

これは僕の純粋な疑問だ。

 

「羽川が”()()()()()()”と思ったのは、人の世を僕みたいに斜に見ず、人の世の()で生きようとしたからだろうに。強者が普通に生きようと、普通でいようとするなんてそんな他愛のない理由だよ。羽川はただ家族が欲しかったのさ。『家族の一員でいたい』から普通でいようとしたのさ」

 

僕ですら容易に想像できることが、何故忍野にはわからない?

子供にとって家庭は、家族は世界の全てだ。

誰が好き好んで自分の世界を壊そうとする?

 

「問題なのは羽川にとって”善が普通”であり、”善を普通とする()()()()があっただけだ」

 

それを悪と処断するのか?

ただ”普通でいたい”という願いさえ。

 

「羽川夫妻が『絶対的な正しさを間近で見せ付けられて自分の弱さや醜さを目の当たりにさせられ続けた()()()』であるというなら、その羽川夫妻は自らの弱さや醜さを是正する努力をしたのか? ”()()()()()()()()”に見合う両親になろうと努力したのか? するわけないよな」

 

じゃあなければ、羽川が()()()()になるわけない。

 

「それでも忍野は”普通であろうと努力”した羽川を『無駄な努力』と笑うか? 『強者は強者として生きればよかった』と。忍野、お前は『力を持つ持つ人間は、その力が周囲に与える影響に自覚的であるべき』と言ったな?」

 

「ああ。確かに言ったよ」

 

「じゃあ僕は強者側の意見を言ってやる」

 

弱肉強食……それもまた覆しようの無い、世の慣わしだ。

 

 

 

「”弱者は逆らわず、強者に合わせろ。それができないなら何も聞かず何も見ず部屋の隅で震えてろ”だ。もし、忍野の言い分が正しいとしても、羽川に問題があったとすれば『強者としての振る舞い』をしなかったことぐらいさ」

 

「阿良々木君、世の中の大半が弱者だと忘れてないかい?」

 

「わかった上で言ってるよ。例えば、”多数決”だ。単体としては弱くとも、多数派工作で強者を押し込めることが出来るやり方だ。だがそれだって”()()()()()”を手にした途端、弱者は強者に強者は弱者に転じる。それが我慢ならないからクーデターや叛乱は後を絶たない……それは歴史が証明してるだろ?」

 

数という力で勝てないなら武という力で訴える。当たり前の話だ。

 

「クーデターが正しいとは言わないよ。だが、衆愚政治が正しいとも言えないだろ? それと同じさ。強者は何もわかりやすい力だけで示すもんじゃない。数も金も腕力も権力も、突き詰めてしまえば全ては力だ。だから羽川の父親は、羽川の”()()()()()”で勝ち目が無いから暴力で訴えた。羽川が刀を抜かないのを承知の上でな」

 

だから不愉快なのさ。

 

「抵抗しないことがわかってて殴った。自分が斬られる事をわかって殴る馬鹿はいない。斬られる事がわかっているなら殴るんじゃなくて、殺しにかかるだろうからな……弱者がその身の程も弁えず、強者に牙を剥いたからこその結果なんだよ。今回は」

 

だから僕は言うんだよ。

 

「羽川を家族の一員にもできず、善性の眩さから目を背け、己の未熟さも醜さも受け入れられず、弱者であることに十数年も甘んじていていた……自分達は成長する必要がないとして両親であることを拒否し続けた羽川夫妻こそ、”諸悪の根源”だよ」

 

 

 

***

 

 

 

「阿良々木君……君の思想はとても危険なものだって気付いてるのかい?」

 

「ああ。お前ならそう言うと思ったよ。弱者が弱者で居続けることを肯定するお前ならな」

 

「弱者が無理して強者になる必要はないよ。弱者と強者がいるからこそ生態系のバランスはとれるんだから」

 

()()”バランサー”らしい言い分だな? 弱者は強者の餌に過ぎないってのも真理なんだぜ?」

 

「はっはー。強者が無自覚に欲望のままに弱者を捕食すれば、生態系のサイクルが狂い、結局は回りまわって強者は自分の首を絞めるのさ」

 

 

 

僕と忍野の視線がぶつかる。

お互いに一歩も引く気はない。

 

「いずれにせよその立ち位置じゃ、忍野……お前じゃ羽川をどうすることもできない。殺すしか手段は無い」

 

その選択肢は忍野は取れない。

()()()()()()()()()”がある以上は。

優しさとかじゃない。甘さでもない。バランサーとしての忍野の立ち位置が、無闇に命を奪うことの邪魔をする。

 

「羽川の強さも、その()()()()()()()()()()()も理解してやれない……それが()()()()()()と映らないお前じゃ、決して羽川をどうにかすることなんてできないんだよ」

 

きっと忍野と羽川は平行線だ。

決して交わることのない並んだ二本の線……例えるならそんな関係だろう。

 

「阿良々木君ならどうにかできるとでも? ”専門家(プロ)”でもない君が」

 

「逆だよ。他の怪異ならともかく、相手が羽川なら僕にしかどうにか出来ない」

 

そして忍野……お前は忘れてるよ。

 

「僕と羽川は”()()()()()()()()()”んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************************************

 

 

 

 

 

 

『いいさ。そこまで言うなら阿良々木君に任せようじゃないか』

 

『決戦の場所はここにするぞ。他の場所であんまり派手にドンパチやると余計な邪魔が入って面倒なことになりそうだ』

 

『いいよー。結界もあるし、術式補強もしてるから多少、派手にやっても倒壊はしないだろうからさ』

 

『それは助かるな』

 

『ところで阿良々木、委員長ちゃんを見つけるアテはあるのかい? ボクだって発見してもバトルにまで発展させられるのは三回に一回くらいなんだぜ?』

 

『別に街を彷徨って探す必要はないよ』

 

『あん?』

 

『こっちから呼び出せばいい』

 

 

 

と忍野とこんなやり取りをしたのが今から三十分くらい前。

そして……

 

「よお。()()、待ってたよ」

 

黒い下着と金色の瞳以外は全身、穢れ無き純白に染めた……”()()()()()()()()()の羽川”が姿を現したのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「どういうつもりなのかな?」

 

久しぶりに聞く気がする”()()()()”の声……

あの悪戯っぽい猫目じゃなくて、いつものくりくりとした愛嬌のある大きな瞳の、異形の風体でも確かに羽川翼がそこにいた。

 

「どういうつもりもこういうつもりも……メールで送ったとおりさ」

 

そう、僕は忍野に啖呵を切った後、羽川にメールを一通送っていた。

羽川なら無視しないことを信じて。

内容はこうだ。

 

”To 羽川

今からデートしようぜ。

場所は学習塾跡地な。”

 

「私が無視するとか思わなかったの?」

 

「無視されるのなら、その程度の関係だったってだけの話さ……まあ、賭けだったけどね」

 

どうやら僕は、羽川を探して深夜の街を駆け回らずに済んだみたいだ。

 

「見透かされてるみたいで嫌だけど……私が阿良々木君の誘いを断るわけ無いじゃない」

 

それは僕にとって予想外に嬉しい言葉で、

 

「本当だったら……その、凄く嬉しい」

 

刹那、羽川はちょっと顔を赤らめて、

 

「ほ、本当じゃない可能性を考えられると、逆に傷つくよ?」

 

素の……姿は変わっても()()()()()の反応がやけに嬉しかった。

 

「それは……僕は羽川に好意を持たれてるって自惚れていいのかな?」

 

「……う、うん」

 

 

 

僅かな沈黙……

これから戦おうというのに、変に甘酸っぱくなってしまった。

 

「ねえ、阿良々木君……聞いていいかな?」

 

その空気を変えようと、言葉を切り出したのは羽川だった。

 

「どうして()()()()だって……”障り猫”に飲み込まれてないって気付いたの? いつから気付いてたの?」

 

「実は最初にエンカウントした時から。あの夜の街で一目見たときからそうじゃないのかなって思ったんだ。異形の姿をしていたって”羽川だろうな”って直感で思った」

 

「どうして?」

 

「だって”()()()()()()()()”んだ。僕が羽川を見間違うわけないから」

 

僕が大好きな娘を見間違うわけないから……

 

「でも、それでも感覚的にそうだってだけで確証はなかったんだ。その瞬間は」

 

「でも、阿良々木君は確証を得たからこそ……私を呼び出したんだよね?」

 

「ああ」

 

僕は肯定する。

 

「確信したのは……羽川が繰り出した”報復絶刀”を見た時だったよ」

 

 

 

明日は5月3日、また連休が始まる。

なら、多少の夜更かしは許されるだろう。

 

多分、羽川も判ってるはずだ。

羽川はこの上なく聡明なのだから……

だから、今となっては僕達が既に戦うこと以外に選択肢がないことぐらい。

 

ならば今は……刃を交える前に雑談にふけるのも一興だ。

夜はまだ長いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様、ご愛読ありがとうございました。
羽川との再会はエピソードはいかがだったでしょうか?

実は書いてて一番楽しかったのは、忍野との”強者論”の舌戦だったのは内緒です(笑
どうやら”この世界”は、忍野と阿良々木君ははっきりとスタンスというか……立脚点が違うようです。

それにしても……やっぱり”この世界”の阿良々木君もやっぱり、つくづく羽川さんが大好きなんだなぁ~と(^^

確かに火憐ちゃんも月火ちゃんも目の中に入れても痛くないほど溺愛してますし、ある意味相思相愛ですが、やっぱり想いのベクトルは違うようです。

次回からはいよいよバトルステージ!
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!

もし、ご感想をいただければとても執筆の励みになります。


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