今回のエピソードは……ちょっと箸休め的なエピソードです。
具体的には、
そして、スーパー
羽川家を後にした僕は、何事も無く家に帰り着いた。
「ただいまー」
そして何事も無かったかのように玄関を潜ると、
「おかえり、お兄ちゃん♪」
お風呂に入る格好の月火ちゃんとエンカウント。うんうん。綺麗好きなのは女の子としてポイント高いぞ。
とてとてと走りよってくる可愛い妹に、
「ぎゅー」
とせがまれ、
”ぎゅー”
抱きついてくる月火ちゃんを当然のようにハグハグし返す僕がいるわけで。
「月火ちゃん、いい匂い」
「ん? でも、まだお風呂入ってないよ?」
「んー……きっと、月火ちゃんの汗がいい匂いなのかな?」
「もう♪ お兄ちゃんったら変態さんっぽいよ?」
台詞のわりには月火ちゃん、嬉しそうすぎるぞ?
「じゃあ、お兄ちゃん……わたしの汗、舐めてみる?」
”ペロッ カリッ”
「ひゃん♪ お兄ちゃん、ピンポイントで”
月火ちゃん、首筋と耳弱いからなー。
えっ?
何したって?
首筋舐めて耳たぶを甘噛みしただけど、何か?
「ほら……お兄ちゃんがえっちなイタズラするから、こんなになっちゃたよ?」
と月火ちゃんは甘く艶のある声で僕の手をとり、足の間を覆う小さな布地へと誘った。
「すごいな? もうびしょびしょだ」
「お兄ちゃんのせいなんだからね?」
「そうだね。僕のせいだ」
これはきっと様式美だ。
「だから責任とってこれからわたしと一緒にお風呂に入って……洗ってくれる?」
「
「もちろん
月火ちゃんはトロンとした瞳でそう答えた。
もちろん、僕に断る理由は無い。
「りょーかい。委細承知だよ」
「お兄ちゃん、大好き☆ 先にお風呂で待ってるから早く来てね?」
「ああ、すぐに行くよ」
やっぱり、家族っていいなぁ……
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取り合えず結論を先に言おう。
月火ちゃんが僕にいつも以上に甘えてきたのは、僕を気遣ってのことだった。
帰ってきた僕を一目見た瞬間から、様子がおかしいことに気が付いたらしい。
「月火ちゃんは優しいな。でもどうして僕の様子がおかしいって気が付いたんだ?」
僕のベッドで、僕の腕の中でゴロゴロと甘えながら月火ちゃんはニッコリ微笑んで、
「だってお兄ちゃんのことだもん♪ いつもと様子が違うくらいはすぐにわかるよ」
「そっか……」
僕は月火ちゃんの華奢な肢体を苦しがらないように加減しながら、少し抱きしめる力を強くする。
「何か辛いことがあったの?」
「いいや。辛いのは僕じゃない」
「じゃあ……羽川さん?」
「えっ?」
ど、どうしてわかったんだ!?
「だってお兄ちゃん、羽川さんをデートに誘ったんじゃないの?」
あっ、そういうことか……
「うん。結果として誘えたし、一応はデートとして成立したと思う……あんまり自信ないけど」
「その表情だと満更でもない感じだったみたいだけど……もしかしてデート後に何かあった?」
「うっ……」
ああ、月火ちゃんには一生勝てる気がしないよ。
***
「プライバシーが入ってくるから、あんまり詳しくは言えないけどさ。ちょっと厄介ごと」
僕は腕の中の月火ちゃんのさらさらの髪を撫でながら告げると、
「もしかして……
「……月火ちゃんは賢すぎるよ」
僕は思わず溜息を突いた。
”栂の木二中のファイヤーシスターズ”の「
「『怪異に出会えば、怪異に惹かれる』だっけ? 羽川さん、春休みにお兄ちゃんと一緒に吸血鬼に遭遇したんだったら、そのエンカウント率が跳ね上がっても不思議じゃないから」
少し妹の、月火ちゃんの話をしよう。
月火ちゃんは怪異のことを知っている。
自分のことのように知っている。
自分が怪異だということを知っている。
たったそれだけのことだ。
詳しくはいずれ語ろう。
だから今は簡単に言えば……
結果を先に言えば、月火ちゃんは、生命になる一歩手前の受精卵だったときに、
その怪異の名は、”しでの鳥”。
ホトトギスの怪異だ。
ホトトギスとは漢字で不如帰、杜鵑、時鳥と多くの表記があるが、同時に”蜀魂”という書き方があるのを御存知だろうか?
他にも、ホトトギスの異名は”
そしてその名に負けず、”しでの鳥”は「《不死性》」を特徴とする怪異だった。
***
ホトトギスには、托卵という性質がある。
簡単に言えば、別の鳥の巣の卵を蹴落とし、代わりに自分の卵を産みつけ育てさせるというものだ。
つまり、”しでの鳥”は「人間に托卵する怪異」だ。
いや、これも厳密に言えば違う。
”しでの鳥”は存在するのに人間の体が必要であり、それに宿られた人間は「寿命以外では一切死ななくなる」。
どんな怪我や病気も、宿り主を殺せなくなるのだ。
逆に言えば、宿主の体は寿命では死ぬ。
そして宿主の体が死ぬと体から抜き出て、別の憑依する体を捜す。
そして十数年前、たまたま”しでの鳥”に憑依されたのは厳密には受精卵を宿した母さんであり、その受精卵に「
つまり、月火ちゃんは僕の可愛い妹であると同時に”しでの鳥”という怪異だった。
だからどうしたというわけではない。
月火ちゃんが月火ちゃんであることは何の代わりも無い。
だけど、そのことを僕と月火ちゃんに教えてくれた”とおえ”さんには、どれほど感謝してもしきれない。
”とおえ”さんに関しては、僕も月火ちゃんも多くを語ることはできない。
まず、”とおえ”が名前なのか名字なのかもわからないくらいだ。
でも不思議な人だった。
いつ、どこで出会ったのか僕も月火ちゃんも記憶が曖昧だけど、ふらりと現れたって印象だった。
そして、”月火ちゃんの真実”を教えてくれたのだった……
***
”とおえ”さんから真実を教えてもらった時、月火ちゃんは僕の服をギュッと握って涙を一杯溜めた瞳で僕を見上げていた。
だから僕は頭を撫でて涙を拭って、
『月火ちゃんは月火ちゃんだよ。僕の大事な大事な可愛い妹だ。それだけは何があっても変わらない』
それがその時の、
月火ちゃんは僕に抱きついて静かに泣いていた。声も出さずに静かに……
『暦くん、君がその選択をしたってことは、月火ちゃんを今ままでと同じように妹として想うってことは、今まで以上に月火ちゃんと一緒にいるってことは、それだけ……それに見合うだけの苦労をするってことだよ?』
”とおえ”さんは苦笑気味にそう言ったけど、
『かまいません。月火ちゃんのためにする苦労なら、僕はきっとそれを苦労だとは思わないだろうから』
『そっかそっか』
何故か”とおえ”さんは満足そうに微笑んでいた。
そして僕と月火ちゃんの頭を撫でると、
『じゃあ、お姉さんがいくつかおまじないをしてあげよう。君や妹ちゃんがいつか自分の振る刀で、自分の道を切り開いていけるようにね』
具体的にどんなおまじないだったのかもう覚えていないけど……
『バイバイ、優しいお兄ちゃん♪
***
今となってはあれが現実だったのかさえあやふやだけど、僕はあの時……月火ちゃんの真実を知ったときから、僕と月火ちゃんは「本当の兄妹」になれたと思っている。
おっきい妹の火憐ちゃんだってもちろん可愛い。それは間違いない。
でも、あの日から前以上に甘えてくる月火ちゃんが、僕はどうしようもなく愛しくなった。
きっと僕は、家族愛というものを一番月火ちゃんに感じているのだろう。
「お兄ちゃん的には傾向と対策はもうあるのかな?」
「まだ固まりきれてないけど、今の羽川が僕の想像通りの存在なら、手の打ち様はある」
(羽川なら……)
それなら、僕にも理解できるはずだから。
「う・ふ・ふ♪ でも楽しみ☆」
腕の中でクスクスと笑う月火ちゃん。
「どんな理由があったかはわからないけど、怪異に魅入られるなんて……ますます羽川さんが”お
「おいおい。月火ちゃん、気が早いって。今の羽川の状態じゃ、そもそもまともな告白なんて無理だろうし」
「お兄ちゃんがサクッと解決しちゃえばいいんだよ☆」
「軽く言ってくれるなー。それに第一、羽川は僕には勿体無いくらいの女の子だ。例え
「んー? そっかな? わたしに言わせると、羽川さんとお兄ちゃんってお似合いだと思うよ?」
「やれやれ。月火ちゃんは僕を高く評価しすぎだよ」
「そんなことないよ! だってわたしの大大大好きなお兄ちゃんだもん♪」
本当に月火ちゃんには敵わないな。
これじゃあ、ますます本気になるしかないじゃないか。
妹にここまで応援されて、異変一つどうにかできなきゃ兄が廃るってもんだな。
「久しぶりに……燃えてみるか」
皆様、ご愛読ありがとうございました。
原作より大幅に前倒しで、月火ちゃんの秘密が明らかになったエピソードはいかがだったでしょうか?
実は犯人は、「なんでも知ってるおねーさんのおねーさん(故人)」だったというオチ。
ただし神原夫妻の死亡時期は原作より遅い可能性があります。
本当に
今回は暦目線でしたが、実は月火目線だともっと想いは根深かったりするのですが(^^
まあ、それはそのうち機会が在ればということで。
次のエピソードでは、なにやらこよみんは準備を始めるようですが……
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!