予想外に深夜アップになってしまいました(^^
さて、今回のエピソードは、ちょっとラブコメ臭が強くなったかもしれません。
というのも……
『阿良々木君、仮の話だよ?』
その金髪中年、自称”専門家”は続ける。
『仮に変体刀が文字通り刀から変体して……在り様を変えて剣士を毒する
彼はニヤリと笑って、
『”妖刀”って言うんだよ』
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さて、本日は4月28日金曜日。
明日から楽しいゴールデンウィークを控えた私立直江津高校三年生の阿良々木暦と老倉育は、今日も仲良くいつものようにいつものごとく仲良く登校していた。
仲良くと書くと語弊があるかもしれない。
この二人にとって互いが「今更、仲良くするような間柄」ではない。
陳腐な言い方だが、比喩ではなく掛け値なしに「家族のような者」であり、だからこそ本気で心配することもあればぞんざいに扱う事もある。
気のおけない関係と言えばそれまでだが、阿良々木暦にとって老倉育は『高校になって自立&一人暮らしを始めた気丈な妹』のような存在であり、だからこそ過保護と言われようと老婆心とわかっていても、つい登校前に毎朝誘ってしまうのだ。
彼の線引きは、”プライベート”。逆に下校時は誘われない限り一緒に帰ることはなく、また登校のない土日祝日に登校日を除く春夏冬の長期休みは自分からは誘わない。
無論、育から誘われれば
では、老倉育にとって阿良々木暦とは?
内面をわざわざ深く掘り下げる気はないが、あえて言うのならば「毎朝登校を誘いにくるのは呆れるが別に嫌ではない。ただし、玄関の前で大声で人の名前を呼ぶのはできればやめて欲しい」ということぐらいだ。
つまりは「家族的な意味で好意的な存在」というあたりだろうか?
「ところで暦、私の世話を甲斐甲斐しく焼くのはいいけどさ」
「そこまで世話焼いてたっけ?」
「んー……けっこう、わりと。少なくとも私は暦の固有アビリティに”世話好き”が入ってると思ってる」
「それが僕の固有アビリティだったのかっ!?」
大げさに驚く暦だが、あながち的外れというわけではない。
種族”ちょっとだけヴァンパイア”、固有アビリティ”世話好き”はわりと彼のキャラを現しているだろう。
「多分。それはいいとして」
「そこは流していいところだろうか?」
首を捻る暦だったが、育はコホンと咳払いして、
「暦もそろそろ私以外にも世話を焼く人間を見つけたほうがいいと思うんだよね」
「それって火憐ちゃんや月火ちゃんとか?」
「……そこで躊躇なく妹の名が出るあたり、暦のキャラって感じがするわ」
「おいおい育。固有アビリティの次は僕のキャラ設定の話か? 参考までに聞いておきたいんだけど、育的には僕のキャラメイクはどんな感じなんだ?」
「デフォ設定で『重度のシスコン』。火憐や月火も重度のブラコンだから、これはこれでバランスがとれてるのかな?」
バランスというと思わず冒頭の”専門家”の領域だと思ってしまいがちになるが、
「ちょっと待て!」
阿良々木家の長男としては、その育の見解は大変不本意だったようで、
「育、一体何年寝食を共にしてきたんだっ!? 僕の普段の生活のどこに”重度のシスコン”なんて風評被害甚だしい文言の入る余地があるっ!?」
「いや、普段の生活知ってるからそう判断せざるを得ないんだけど? 暦、聞くけど……お風呂に火憐や月火とはまだ一緒に入ってる?」
「ああ、勿論だ。たまにはゆっくり湯船に浸かりたいから一人で入ることもあるけど、基本的には火憐ちゃんと月火ちゃん、どっちかとは入ってるかな? 週に1回くらいはせがまれて三人で入ることもあるが、その時はさすがに湯船が狭くてさ」
当たり前のようにそう返してくる暦に育は軽く溜息をついて、
「どこの世界に中学生にもなって、高校生のお兄ちゃんに一緒のお風呂をねだる妹がいるのよ? そしてそれを平然と受け入れてる兄のどこがシスコンじゃないと?」
「? 何か変か? 月火ちゃんによれば『この世の生きとし生けるもの全ての兄という生物は、妹が結婚するまでは妹にせがまれたら一緒に入浴するのがお約束』らしいけど?」
「それどこのプレイ年齢制限のある妹ゲーよっ!? というか、そんな話を真に受けるなっ!!」
「なんか間違ってるのか?」
すると育は今度こそ頭痛を感じながら振り向くと、
「ねえ、そこの何でも知ってる委員長、暦にその思考が根底から間違ってることを教えてあげてくれないかしら?」
すると彼女の視線の先にいた三つ編みお下げと眼鏡がトレードマークで、ついでに胸がやけに目立つ同じ制服の少女はにっこり微笑み、
「何でもは知らないわよ? 知ってることだけ」
***
「羽川、おはよー」
「おはよう。羽川さん」
「おはよ。阿良々木君、老倉さん」
そう二人に微笑んで挨拶するのは、小学生時代から数えて通算何度委員長という肩書きを得たかわからない少女、”羽川翼”だった。
「相変わらず仲良しさんだね?」
「やめてよ。暦との関係は仲がいいってより……空気?」
「そこは嘘でもいいからせめて『家族のようなもの』って言えよっ!」
軽く憤慨してみせる暦だったが、
「いや、何故かはわからないけど暦との関係をそう評するのって、未だ抵抗あるのよ。火憐や月火は妹のようなもんだと思ってるのに不思議よね?」
「うごっ!? まさかの家族内、疎外感!? 羽川、どうしよう? 育にとってどうやら俺だけが家族の枠外らしい」
「よかったじゃない? 人にとって空気は生きるのに必要不可欠だよ? 老倉さんにとって阿良々木君は家族とはまた別の……生きるのに不可欠な何かって意味だから♪」
「にゃっ!?」
思わぬ言語的不意打ちに顔を真っ赤にする育。
「だからそんなんじゃないって! というかそれこそ今まさに暦に『いつまでも私や妹の世話を焼いてないで彼女の一人も見つけたら?』って諭そうと思ってたんだからっ!!」
「そうなの?」
きょとんとする翼に育は頷き、同時にやり返す手段を思いついたのかニヤリと笑い、
「せっかくだし羽川さん、暦をもらってくれない? 何があったか知らないし、詮索する気もないけど……春休みからこっち、羽川さんて暦と急接近してるみたいじゃない?」
無論、育は春休みに起きた出来事……それこそ、阿良々木暦という少年の一生に関わる事件を知らない。
そして、そこに羽川翼という少女が関わっていたこともだ。
だが、直感なのか何らかの根拠があるのかは不明だが、彼女なりの解釈を元に特定の結論に辿り着いたのだろう。
「ちょっと待て、育! いくらなんでもそれは……羽川だって僕みたいなのを押し付けられたら迷惑に決まってる」
「いいよ」
まるで暦の言葉が聞こえてないように翼は作り笑いではない、何気ない台詞だけど本当に嬉しそうな小さな微笑で告げた。
「老倉さんがくれるって言うなら、私は喜んで阿良々木君のこと引き受けるよ?」
そして冗談ではない目で暦を見て、
「阿良々木君に何があっても、この先何が起こっても受け止められるよ。ううん違うかな? そんな人間になりたいよ」
「羽川さん、いつも思うけどやっぱり貴女って度量広すぎよ」
呆れたように苦笑いする育だったが、
「ま、でもそのぐらいの度量がないと暦の彼女にはなれないかもね? なんせコイツってば何かと後先考えないし、色々滅茶苦茶だから」
「あはは♪ それは私の目から見てもフォローできないかも」
「だから育、いくら冗談だとしても羽川に迷惑が……それに羽川も無理に話を合わせることはないぜ?」
「えっ? 別に迷惑とか思ってないよ? 正直、嬉しいし」
「ちなみに私も冗談じゃないわよ? 確かに羽川さんには悪いけど、暦と羽川さんなら結構お似合いかなってきがするし」
もしかしたら今は両手に花状態なのかもしれない。
右側には育が、左側には翼が位置し、暦を挟んで和やかに恋バナに花を咲かせてるのだ。
だが、暦は背中に変な汗をかいてることを自覚していた。
(し、進退窮まるとはこういう状態なのか……?)
無論、暦とて翼が嫌いな訳はない。
春休みの出来事……吸血鬼という俄には信じがたい非日常が魅せた翼の強さと、その表裏一体の危うさを垣間見、それでなお……いやだからこそ余計に惹かれた。
あの地獄のような出来事が過ぎ去り、無事に新学期を迎えられた日……高校三年生の1年間が翼と同じ教室で過ごせると分かったとき、胸が高鳴った。
最初は、同じ窮地を潜り抜けたからこそ思う「吊橋効果の残照」のようなものかと疑ってみた。
だけど、毎日同じ教室に通い、一緒の時間を過ごすうちに益々羽川翼という少女に引かれる自分を確かに感じたのだ。
暦には確かにはっきりとしたものではないが、「羽川翼という少女が持つ危険性と脆弱さ」が見えていた。
”専門家”に言わせれば、彼女の”
かくいう暦自身も、翼の強烈な”
もしかしたら暦は、その善性の裏側に潜む黒々とした”
だが、どうだろう……同じ空間で同じ時間を過ごす中で、暦は翼の持つ危険性をより強く感じながら、同時にそれを魅力として感じるようになってしまっていたのだった……
だが、彼が何らかの回答を示す必然は急速に失われた。
「あっ……」
不意に翼が駆け出す。
同時に会話は断ち切られたように終わりを告げた。
”それ”は考えようによっては暦にとって「小さな救いの神」だったのかもしれない。
しかし、それを神と称するには少々憚られる。
なぜなら、
「……」
翼が駆け寄った先に横たわっていたのは、小さくみすぼらしい猫の亡骸だったのだから……
皆様、御愛読ありがとうございました。
原作ヒロインの一人、羽川翼の登場の回は如何だったでしょうか?
どうやら”この世界”の羽川さん、
どうやら春休みの顛末も微妙に違いそうな……?
果たしてタグに”羽川ヒロイン”とか”暦×翼”とかつく日はくるのか?(えっ?
さて、羽川さんはどうやら
となれば次は……それでは皆様、また次回でお会いしましょう。