皆様、こんばんわ。
今回は少し執筆に苦労してしまいました(^^
さて今回のエピソードは……「阿良々木君は@取り乱さない」というサブタイを付けたくなる感じです。
この作品における阿良々木君は冷静です。
正確には努めて冷静になろうとします。
やせ我慢だろうが強がりだろうが、それが滑稽だとしても悲劇だとしても。
可能な限り、受け入れようとするはずです。
『障り猫と羽川の
「やあ、阿良々木君。待ちかねたよ」
そこには
「その様子じゃ、羽川の身に何が起きてるか……既に委細承知ってとこか」
「はっはー。まあね。この結果、流石に委員長ちゃんと言えるね? ああ、言うまでも無く墓にはなんにも埋まってなかったよ」
僕は溜息を突きたくなる。
忍野は『重大ごとほど軽く、軽薄に言いたくなる』という困った癖がある。
「ああ、その通りだ。流石に羽川だよ。見事に引き当てた」
残念ながら、忍野の皮肉だか冗談だか本気だかの台詞を否定する材料を僕は持ち合わせてはいない。
「となると……後は対策だね」
と大して困った様子も無く言う忍野。
「とりあえず阿良々木君、委員長ちゃんとエンカウント・バトルしたみたいだし、その詳細を教えてくれるかな?」
「よくエンカウントしたってわかったな? しかも遭遇戦に至ったことまで」
「はっはー。推理と呼ぶのも憚れるくらい簡単な話だよ。君がこの時間にこの場所に現れたってことは即時報告の必要のある緊急事態の発生ってことだろうし、今回に限ってはそれに該当する事項はたった一つだ」
そりゃそうか。
そして忍野はすっと目を細めて、
「それに阿良々木君、そんなに昂ぶりの残滓を残してりゃ、誰だって君が戦った直後だってわかるさ」
いや忍野……それ、普通の人には中々わからないと思うぞ?
火憐ちゃんや月火ちゃんならともかく。
***
街中のエンカウント
放り投げられた「戸籍上の両親」
丁々発止とは言えないまでも数合の剣戟
そして化け猫の撤退
一通り”
「うーん……なんかおかしなことになってるねぇ」
それが忍野の率直な感想だった。
「怪異ってのは元々、おかしいもの。”
忍野の言わんとすることはわかる。
「僕もおかしいとは思うよ。エナジードレインは喰らってないからその効果のほどはわからないけど、忍野から聞いていた”障り猫”とは情報が食い違いすぎる」
「例えば?」
「障り猫のはずなのに”
「はっはー。阿良々木君にはそう見えたんだ?」
「ああ」
僕は躊躇無く頷く。
「まあ”障り猫”ってのは憑依系のテンプレートなお化け、脳に寄生し寄生主の記憶を積極的に利用できるから……ありって言えばありなんだけどねぇ」
忍野の言葉はどうにも歯切れが悪い。
なんというか違和感は感じていても、その確証が得られないという感じだ。
「そういうんじゃないな。多分」
「ほほう?」
「あればかりは戦ってみないと判らない感覚だと思う。逆に言えば忍野なら戦えば、”
「おいおい。阿良々木君、あんまりボクを買い被らないで欲しいね? 委員長ちゃんじゃないんだから、何でも知ってるってわけじゃないんだぜ?」
「そうか? 僕でさえ、なんとなく
「はっはー。それこそ買い被りさ。ボクは阿良々木君ほど委員長ちゃんを見てないし気にかけてもいない。”専門家”として見えるものはあっても、逆に言えば専門家として『委員長ちゃんはヤバイ、危険だ』という立脚点からしか見えないし見ないからね」
「それは『専門家でない僕』だって同じさ。羽川の危険性は重々承知してるよ。もしかしたら『
そして、そんな危険な部分を含めて僕は羽川に惹かれてるんだから。
「言葉ってのは便利で不便だねぇ」
ああ。それに関しては全くの同意だ。
同じものを語っている筈なのに、どうしようもなく齟齬を感じるんだから。
「では、参考までに聞かせて欲しいね。阿良々木君から見て、異形の姿と化した委員長ちゃん……”
「確証はないぞ? 直感……まだ感覚頼りのあやふやなもんだ」
「かまわないよ」
ならば、言ってみるか。
「
「つまり?」
「障り猫と羽川が交じり合って生まれた、”
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廃ビルから出た僕は、羽川家にマウンテンバイクを飛ばしていた。
結局、忍野とは喧嘩別れ……とは言わないまでも、良好な別れ方はしなかった。
僕の私見を聞いた忍野は、
『なるほどね……』
相変わらず火のついていないタバコ片手に、そう小さく頷くだけだった。
『忍野、僕はどう動けばいい?』
『いんや。阿良々木君はもう動く必要は無いよ』
『……どういう意味だ?』
『すでに情況は始まってしまってるんだ。しかも相手は、正体不明じゃないけど新種の怪異ときてる……ここから先は
『……確かに一理あるけどさ。アマチュアでもできることはないのか?』
『ないよ。能力的に技術的に、実力的に無理だ。強いて言うならボクの邪魔をしないことが阿良々木君ができる最大限の協力だよ』
『そこまで言うなら仕方ないな』
僕はあっさり引く
『確かに僕は怪異の専門家じゃないからな。だから今できるのは羽川を想うことくらいだ』
『それがきっと一番だろうさ』
***
僕は、”彼女”の柔らかい髪を撫でてビルを出た。
(忍野、まさか本当に僕が何もしないとは思ってないよな……?)
確かに忍野の邪魔はしない。
その約束は守る。
きっとこれから、忍野は羽川を追跡し捕捉し戦闘するだろう。
忍野は色々と一流だ。
それこそ金髪つながりで、どこかの三国志エロゲーの魏の軍師、ちっこくて猫耳じゃない方に匹敵するくらい色々一流だろう。
だけど……
(忍野、きっとお前のやり方じゃ『
まだ上手く言語化できるほど情報、あるいはイメージは固まってない。
だけど、半ば確信をもって言える。
「旧来のやり方やその周辺、応用、延長線上にある手段じゃ”
それこそ技術の問題じゃないんだよ、忍野。
お前が最初から「羽川を
いや、それも違う……
「忍野……多分、今回は怪異の中でも特大のイレギュラーかもしれないんだぜ?」
だから、”怪異の
「そうだろ? 羽川……」
僕は羽川家の前に自転車を止めた。
***
「開いてる……」
幸い、羽川家はオートロックじゃなかったようだ。
きっと羽川が羽川夫妻を引きずって出て行ったとき、鍵を開けたままだったのだろう。
無用心なことだ。
「お邪魔しまーす」
無人であることをわかっていながら、僕はついそんなことを口ずさんでしまう。
最初に気になったのは、生活臭の希薄さ……
家族がそこにいたとか、家庭がそこにあったとか……そういう”痕跡”の薄さだった。
むしろ、ここが
そして部屋を一つ一つ調べていくけど……
「そういうことかよ……」
僕は合点した。
いや、初めて”羽川翼”という少女の、『生い立ちと存在』……その重さと軽さをを理解したのかもしれない。
そう、この家には『羽川翼という少女の
具体的な実例を挙げよう。
この家には六つの部屋があり、当たり前のように使われてない部屋があるにも関わらず……
「羽川の部屋がない、か」
***
羽川にも私物と呼べるものもあるし、それどころか着替えやら何やらはある。
だがそれらは、家の中に分散して収納されていた。
例えば、廊下には布団が置いてあるというようにだ。
本来、「一つの部屋にまとめて収納されているはずの私物が、家中に分散されている」……その意味は単純明快だ。
羽川は、純粋な意味で「自分の
おそらく15年前から……
(衣食住が保障される……ただ、それだけの場所か)
「一日中家にいるなんてゾッとする」……羽川はそう言っていた。
そりゃそうだ。
当たり前だ。
ここは”羽川家”という名前の一軒家かもしれないけど、羽川の居場所は最初から存在しない……断じて「羽川の家」などではなかったのだから。
ひどく冷めた……もう暦の上では初夏だというのに、僕は心の内側から底冷えするような感覚を味わっていた。
皆様、ご愛読ありがとうございました。
事象と行動は同じでも
阿良々木君は原作と同じように忍野に諌められ、原作と同じように「羽川家の実態」に触れました。
でも、彼の心に去来するものは明らかに異質な物でした。
だから、一見すると原作をなぞるように見える動きも、その意味はきっと変わってくるはずです。
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!