今回のエピソードは、ようやくタグ【学園異能バトル風】の一部を文章化できそうです。
いや、どちらかといえば異能チャンバラかな?
そして”
4月29日、ゴールデンウィークの初日の夜……僕こと阿良々木暦は、異形の姿へと変貌した”
黒い下着姿だけを均整の取れた肢体に纏い、肌は抜けるように白く、髪は雪を彷彿させるようにさらに白く……
三つ編みをほどき風に揺られるままに髪を靡かせ、瞳は切れ長になり金色の色を湛えていたけど……
それでも、マウンテンバイクに取り付けたライトの中に浮かび上がるのその少女は、間違いなく”羽川翼”だった。
「羽川……会いたかったよ」
気が付くと僕はそう呟いていた
「あん? なんニャ? 人間、お前”
普段ならありえない猫言葉……蓮っ葉な印象でもあるが、不覚にも萌えそうになってしまう。
「ん? ”ご主人”? お前、もしかして”障り猫”か?」
「にゃははっ♪ 人間、さっそく俺の正体を見破るとはやるじゃニャいか!」
予想通りというかテンプレート通りと言うか……
「案の定、”障り猫”に障られていたか」
「ほうほう。人間、お前は大体情況を察してるようだニャ?」
「まあな」
「ん? よく見たら、お前、ご主人や”二本尻尾の人間”と一緒に俺を埋葬した奴じゃニャいか?」
「”二本尻尾”? ああ、ツインテールね。育のことか……猫、お前あの時のことを覚えているのか?」
「もちろんだニャ。俺は確かに頭は悪いけど、そこまで記憶力は悪くないニャ」
「驚いたな……もっとロースペックな怪異と思ってた」
喋れるだけでなく記憶もできるとは中々の頭じゃないか。
「……お前、いい度胸をしてるってよく言われニャいか?」
「どういうわけかよく言われるな、本人は普通にチキン野郎だと思ってるが」
猫、なんでお前は心底呆れた顔をしてるんだよ?
流石に怪異にまで呆れられる覚えは無いぞ?
「ともかく、お前はご主人の友達ってことでいいんだニャ?」
「なんなら彼氏や恋人でもいいぞ?」
「ニャッ!?!」
なぜそこまで驚く?
全身の毛を逆立てんばかりに。
「コホン。ともかくお前がご主人と仲がいいのはわかったニャ。俺にはよくわからねーけど、友達同士ってのは助け合うもんニャンだろ?」
「時と場合によりけりだがな」
「フン。じゃあ今がその時ニャ」
そう言うと猫は引きずっていた”何か”を僕の足元に放り投げる。
ドサッと重く柔らかそうな音を立てて地面にぶつかるそれを見て、
「このズタ袋二つがどうした?」
「え-と、ニャンだっけにゃ? そうそう。そいつらはご主人の『両親』というやつらしーぜ?」
「ああ」
確かに良く見たら人間だった。
引きずられたせいか衣服がボロボロになっていたので、認識するまで時間がかかった。
「猫、情報伝達は正確にな。こいつらは『羽川の戸席上の両親』まで言って正解だ」
「猫に多くを求めるニャよ。ともかく”
すると”障り猫”は、野性味溢れる楽しそうな笑顔で、
「にゃんにゃらお前が殺してもいいぞ?」
だから僕は嘆息する。
「あのな、猫……まず最初に言っておくぞ? そんな面倒なことを僕に押し付けるな。殺したいならお前が勝手にやれ。僕は別に止めやしないし責めもしない」
「にゃに?」
ギョロっといつ間にか真っ赤に染まった殺意と敵意に溢れた瞳がこっちを向くが、僕は気にしないで続ける。
「まあ聞けよ。羽川がこのズタ袋……じゃなかった両親を死体袋に詰め込んでくれって僕に頼むのなら、吝かじゃないけどな。だが、羽川にとって無価値ってんなら僕にだって無価値さ。路傍の石をわざわざ踏み割りながら歩く奴がどこの世界にいる?」
「人間……言いたいことはそれだけかニャ?」
まいったな……どうやら火に油を注いだだけか。
「お前が、お前達がこんにゃんだから、ご主人がこうにゃんだろうがぁーーーっ!!」
疾風怒濤の勢いで襲い掛かってくる”障り猫”。
だけど……
「おっと」
とっくに臨戦態勢の僕は、脱力からのバックステップとサイドステップを組み合わせて、猫の強襲を回避する。
「よく避けたニャ……」
「猫だけに引っ掻くと思ったら、最初から噛み付きで来るとは思わなかったよ」
来るのがわかっていれば、かわすのはさほど難しくは無い。
発射された弾丸を見切って避けるのは難しくても、銃口の向きと引き金を引いたタイミングから弾道を予想して避けるのは難しくない……それと同じ理屈だ。
この程度のことなら火憐ちゃんだって容易くやってのけるし、月火ちゃんに至っては相手が自分に照準を合わせ終える前に【炎刀”銃”】を抜いて相手の眉間を打ち抜いているかもしれない。
少なくとも”爆縮地”を使うようなレベルじゃない。
「人間、お前に敬意を表して”コイツ”を使ってやるニャ」
”スラン”
猫は、左腰に帯剣ベルトで吊り下げていた【絶刀”鉋”】を抜き放った……
「”コイツ”は俺の爪よりよほど頑丈ニャ」
「そりゃそうだろう。曲がらず折れず錆びず刃毀れせずがその変体刀の売り文句だしな」
さすがに無手では僕も分が悪い。
僕は猫を視界から外さぬように周囲を見回し、
(あった……!)
電柱の影に『
「シッ!」
最小限の足の踏み込みと体重移動だけで行う予備動作なしのサイドステップ。
「このっ!」
僕の動きに反応した猫は、反射的に”鉋”を振りかざし突っ込んでくるが……
「遅い!」
僕は
***
【千刀”剱”】。本来は金偏に”殺”のような字だったと思うが、長い年月の間に銘が変化したと言われている。
銘が変わると同時にその性質は変化し、贋作でも更に製造され数百年も経つ様な代物ともなれば……
『阿良々木君、
『ああ。百年を過ぎて使われた道具が変化したとか、百年を目前に捨てられた道具が恨みで化けて出たとか、そういう民間伝承だろ?』
『それで大体正解さ。”陰陽記”の中には百年生きた百年生きた狐狸が変化したものと書かれてるね。出典の古さから考えて、こっちが大元らしい。阿良々木君の言う”つくも神”は”九十九神”の方だね』
『? それはどうかしたのか?』
『なに、大した話じゃないさ。ただ、かつて山ほど作られた”四季崎記紀”の完成形変体刀の贋作……本物も現存してれば当然だけど、多くの模造品や贋作や偽物ももう打たれてから百年以上経つんじゃないかってさ』
『そうかもな』
『ところで阿良々木君、付喪神にしても九十九神にしてもどっちにせよ立派な
怪異、即ち『
付喪神あるいは九十九神として「道具として在り方から異なったものへ変化」したそれらは、確かに怪異だろう。
そして具体例が僕の手に握られていた。
贋作【千刀”剱”】……
この銘すらも捻じ曲げられたまま百を遥かに超える時を多くの主と共に過ごした刀は、怪異と呼べる特性を持つ刀へと変化していた。
あえて名をつけるなら……”
怪変刀【千刀”剱”】
その特性は、
そしてそのテリトリーの範囲内で地形効果”千刀巡り”を常時発動させ、戦闘時に刀の主へ様々な恩恵を与える。
またこの刀の恐ろしさはマスターが破壊されない限り、「必ず千本の刀を維持する」ことにあった。
つまり一振りが圧し折られても、すぐに別のスレイブが範囲内にランダムに現出し、絶え間なく”千刀巡り”を継続発動させるのだ。
加えて副次効果というとなんだけど、マスターはともかく現出したスレイブは、その存在に気付けば誰でも普通の刀として使えるメリットがあった。
普通の人間は中々そこに怪変刀があることに気付きにくいが、幸か不幸か僕は半ば怪異化してるので「同族が存在する違和感」に気付き易くなっているためにこうして見つけられるのだった。
***
だから……
「さあ猫、仕切りなおしだ」
僕は障り猫の突進をぎりぎりで回避し、手に取った朱塗りの鞘から白刃を抜き放ち正眼に構えた。
「面白い。人間、お前は本当に面白いニャ」
「礼は言っておくべきか?」
「必要ないニャ」
障り猫は本当に楽しそうに笑いながら、
「殺し合いの再開ニャ♪」
”鉋”を構えた右手を引き、手首を返す。
僕はそこに強烈な概視感を覚える。
(おかしいな……この技は、このモーションは……)
「報復絶刀!!」
僕が何らかの結論に行き着く前に、全身のバネと体重を乗せた稲妻のような片手平突きが迫るっ!!
「なんの!」
僕はカウンターの一撃を放つが、
”パキィィィーーーーン”
硬く高い音を立てて砕けたのは、スレイブ”剱”の方だった。
そして、
「にゃん♪」
急停止した障り猫は、串刺しに変わり体を半回転させて横薙ぎで僕の胴を狙う!
平突きの最大の特徴、「打突を主眼とし、避けられても左右の薙ぎへの変化で対応する」……突きの点攻撃を素早く線攻撃の斬撃に切り替えられる特性を遺憾なく発揮した技だった。
「やはりそう来るか!」
(だけど、その変化は予想済み!)
”
だから僕は対応できる。
その技を
「まだっ!」
”ギィン”
僕はベルトに挟んでいた鞘を抜き、その勢いを殺さぬよう”鉋”の刃を流すように受ける。
鞘を用いた変形二刀流、強いて名づけるのなら『全刀流”逆転夢斬(応用編)”』というところか?
本来なら体制の崩れた猫に蹴りの一つでもいれたいとこだけど、触ればその瞬間に障られる。
つまりボディタッチは厳禁だ。
故に一度、”全刀化”を解除して手の平で無害な鞘として滑らせ、握り直すと同時に再び全刀化という面倒臭い課程をこなし、鞘を刀となして追い討ちの逆手突きを入れるけど、
「ちっ!」
障り猫はまさに猫の如く跳躍をみせて僕の間合いから驚くべき反射で飛びのくと、空中で1回転して見事な着地を魅せた。
***
「お前、本当にめんどくさい奴ニャンだな」
「そりゃどうも。お前にそう評されるとは光栄だよ」
見た目的には、僕は正気に見えないだろう。
なにしろ完成形変体刀を持つ化け猫相手に、剣どころか鞘を構えているのだから。
しかし、僕にとってはさほどのハンデとはならない。
「
猫は僕を警戒するように足音を立てぬように間合いを取り直した。
「それもただの棒っきれを、まさか”鉋”を受けても壊れないほどの刀に仕立てるニャンてどんな反則ニャんだ?」
「よく知ってるし、よく見てるな?」
まあ、
当然か。
「ニャハハハ♪ こう見えても俺は目はいいからな」
「厄介なのはどっちだよ? ああ、猫……それとお前は二つ思い違いをしてる」
「あん?」
「一つは別に鞘を”鉋”並みの強度の刀に強化したわけじゃない。単純に見切ってずらして逸らしただけだ。まともに”鉋”を受けたら、スレイブ”剱”と同じく砕け散ってたろうさ」
今度は『刃取り(応用編)』とでもなるのかな?
「それともう一つ……僕の”全刀化”は能力でもなければ技術でもない」
強いて言うならそれは生まれ持ったもの。
遺伝子に刻まれ脈々と受け継がれてきて、時折……何代か一度に顕在化するらしい”呪い”に似た何か。
「ただの【
正確には思い違いは三つだけど、最後の一つは言う必要が無いだろう。
どちらかと言えば勘違いではなく言い間違いだろうし。
僕の想像通りなら、当然
例え僕が全刀流を十全に使えたとしても、この”全刀化”体質をもっていたとしても、
(僕が最早、「完了形に至れない」ことくらい……)
皆様、ご愛読ありがとうございました。
”不完全な、或いは半端な変体刀”である阿良々木君と、「長靴を履いた猫」ならぬ「”鉋”を携えた化け猫」との1stラウンドはいかがだったでしょうか?
それにしても脳内イメージを文章化するのは本当に難しいです(^^
阿良々木君はようやく「
どうやら話も佳境に入ってきたようですが……
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!