皆様、こんばんわ。
今回のエピソードは……いよいよ状況開始です。
忍野はとある怪異の話を阿良々木君に告げ、阿良々木君は行動に移ります。
でも、それはどれもが微妙に
「最近、委員長ちゃんはどうだい?」
ここは僕の住む街の一角にある廃墟となったビル、テナント的な見地から言えば”学習塾跡”というところか?
4月29日ゴールデンウィーク最初の夜、僕こと阿良々木暦はそんな場所に来ていた。
脈絡もなくそんな……羽川のことうぃ聞いていたきたのは、この今のオーナーも定かじゃないこのビルに無断で根城にしている自称”専門家”の忍野メメだった。
「どうだいって? それはどういう趣旨の質問なんだ?」
はぐらかしたわけではなく、本気で忍野が何を聞きたいのかわからないんだが?
「ん~……そうだね。何か変わったことはあったかい?」
「あるにはあった」
僕は端的に言い切った。
口止めされてること以外は別に語ってもいいだろう。
「今日はちょっと家族間のトラブルがあったみたいだったぞ? 気晴らしを兼ねて遊びに誘って、ついさっきまで一緒にいたけど……帰る時は機嫌よさそうだった。上手く気晴らしになってればいいけど」
「吸血鬼ちゃんそんなムッとした顔しなーい」
忍野はクックックと小さく笑う。
言い忘れたけど胡坐をかいた僕の膝には、今8歳児くらいの金髪の幼女が座っている……というか僕を座椅子代わりに丸々背を預けている。
僕もちょうどいいので”
言うならばシートベルト状態かな?
まあ、胡坐をかいてぬいぐるみを抱きかかえてる感じをイメージしてもらえばいいが、可愛い女の子じゃなくて男子高校生がやってるのだからあまり絵にはならないだろうけど。
驚くことに僕が抱きかかえている彼女は、かつて”伝説の吸血鬼”、”鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼”と謳われた「キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード」……正確には、その成れの果てだ。
彼女と僕との因縁は春休みまで遡ることになるが……それは今はいいだろう。
ただ、考慮すべきはなんで彼女がムッとしたかなんだろうけど。
「僕が聞きたいのはさ、そういう青春の1ページじみた甘酸っぱい
「僕の言葉のどこに惚気要素があったか軽く小一時間ばかり問い詰めたいんだが?」
「”家族との問題を抱え、傷ついた気になる娘とのデート”なんて、まさにボクが中学生くらいのときに流行った少女マンガチックなノリだと思うんだけど?」
そういうもんなのか?
「阿良々木君は鈍感で朴念仁だからねー。まあ、それが君の持ち味なんだろうけど」
「それ、妹達からもよく言われるよ」
月火ちゃんは何故かそれを肯定的に捉えてくれるけど。
「とまあ、阿良々木君のパーソナリティーはこの際置いといて……他に何かないかい?」
「他にと言われても……」
強いて言うなら、
「車に跳ねられて道端で死んだ猫を埋葬したぐらいかな?」
その時、忍野の目がすっと細くなる。
「それ、詳しく聞かせてもらえるかな?」
***
僕は昨日の朝にあった出来事を詳しく話した。
通学中に羽川が死んだ猫を見つけ拾い上げたこと、僕と育が手伝って埋めて墓をつかったことなどだ。
「阿良々木君、それはまさか尻尾のない銀色の猫じゃないだろうね?」
「……どうだったかな?」
正直、そこまでじっくり見たわけではないから記憶が弱い。
「そう言われればそうだった気もするけど……もし、その”尾のない銀猫”だったらなんだって言うんだ?」
「”障り猫”」
忍野はそう端的に切り出した。
「食肉目猫科の哺乳類……に擬態している怪異な名だよ。ボクがこの町で蒐集してる”怪異譚”の一つさ。実を言えばさっきまで出かけていたというのもその情報を求めての事だよ」
そう、忍野の”専門家”としての主な活動は怪異譚の蒐集にあった。
「”障り猫”? 招き猫の類似品だか同族だかか?」
名前からするとそんなニュアンスだけど、
「正解とはいえないけど、悪くない視点だね? 確かに”障り猫”はそもそも招き猫の対極の概念で生み出された代物なのさ。福を招く猫ではなく、取り付いた人間に
「ふ~ん……憑依系の不幸吸引とはまたえらくオーソドックスというか、テンプレート的な怪異だな?」
怪異と巡り合って、関わって幸せになれた人間はあまりいないだろう。
僕はさほど不幸になった覚えはないし、身近どころか身内にも”怪異じみた”のがいるから、特にこれと言った不便/不遇はないけど、他人から客観判断されたらどう見えるか判ったものじゃない。
春休みに吸血鬼化しかけたり、死にかけたりしたのも人によっては不幸に見えるだろうし。
僕の場合、死にかける展開は怪異に出会う前からしょっちゅうとは言わないまでもたまにあるシチュエーションだったから、とり立てて特別視はできないけど。
「まあね。基本的に雑魚は雑魚なんだが……委員長ちゃんにはドンピシャな怪異だ」
忍野の言わんとすることがなんとなくわかった。
「”猫は被る”ものだからか?」
***
忍野は何故か軽く驚いたような顔をした。
「ほう? これは興味深いな……阿良々木君はそういう風に委員長ちゃんを見ていたのかい?」
「当たり前だろ? 僕が羽川の”
春休み……それを誰よりも実感したのが、他でもないこの僕だ。
「『普通と正しさと善をイコールで結べ、それを躊躇なく実行できる人間』が、まっとうな人間のわけないだろ? 人はもっと生臭く悪どい生物さ」
だからこそ羽川は危険なんだ。
「もっとも僕はその『人間離れした危険性』を含めて羽川に興味と好意を持ってるんだけどさ」
今更、忍野に隠すような話じゃない。
僕は羽川の危険性を百も承知で、むしろその部分にすら惹かれているのだから。
すると忍野は「はっはー」といつもの軽薄な笑い声を上げて、
「君はつくづく数奇者というか酔狂者というか」
「ほっとけ。ところで忍野、その”障り猫”の怪異としての特徴というか固有能力というか留意すべき点とか、とにかくそういうものはあるか?」
「それを聞くってことは阿良々木君は……」
「ああ」
僕は頷く。
「どういう関わり方になってるかまではわからないけど、あの猫の亡骸がもし”障り猫”だとするなら、おそらく……」
この展開が一番自然だ。
「羽川は十中八九その”障り猫”に障られるだろうな」
「その根拠は?」
「羽川は弾丸飛び交う戦場でも平然と入りそうだから」
そのあたりはむしろ確信と言っていい。
「なるほど……では教えておこうか。”障り猫”の特性は『エナジードレイン』さ」
エナジードレイン?
あのゲームや漫画で出てくる奴か?
「相手の生体エネルギーだか精力だかを奪うあれか? それはどちらかと言えば吸血鬼の特性じゃないのか? 血と一緒に相手の活力も吸い上げてるわけだし」
僕は懐でこっくりこっくりと船を漕ぎ出している吸血幼女の頭を撫でる。
腹も膨れたし、そろそろお眠の時間かな?
「確かに事象的にはおなじだけどね。それにエナジードレインは吸血鬼能力の代表的なそれであっても、別に専売特許というわけじゃない」
そういうものなのか……
「それに事象としては同じでも、意味が違うんだよ」
「意味?」
「吸血鬼のそれは食事。”障り猫”のそれは『呪い』だよ」
***
「それに方法も違うんだぜ? 障りとは触りに通じる。つまり吸血鬼が牙を突き立てるのに対して”障り猫”のそれは触る/触られるそのどちらかでも発動する」
なるほどな。
「吸血鬼のエナジードレインが自分の意思の介在が必要となる
「概ねその認識で合ってるよ。触るか触られるかすればのべつ幕なしに発動する……呪いの典型だね」
ならば考えることはとりあえず、
「どうやって羽川が”障り猫”化した場合に触れず/触れられずで退治するかだな」
「ヲイヲイ。阿良々木君、君はもう『委員長ちゃんが怪異化』した前提で、『君とエンカウントした場合』をシミュレートしてるのかい?」
「そりゃそうだよ」
だってそうなってしまえば、
「僕と羽川が出会うのは必然だろ?」
それがきっと、僕と羽川という存在なのだから。
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結局、僕と忍野は二手に別れて行動することになった。
忍野は僕や育が羽川と一緒に埋めた猫の亡骸の確認。
僕は羽川の所在&状態確認だ。
それぞれ適材適所と言ったところだろう。
僕の知識と見識じゃ刀剣はともかく怪異の判断はつかないし、忍野じゃ羽川の家に気軽に顔を見に行くとはいかないだろう。
幸い、ついさっき羽川の家の近所まで送っていったから、羽川家の大体の場所はわかる。
(ホント、何が幸いするかわかったもんじゃないな)
そして僕は夜の街をマウンテンバイクで疾走する。
かつて忍野は言っていた。
『怪異ってのは人の望むままに現れ、人の望むままに振舞おうとするものだよ』
と……
だから、僕が願ったから、”
『穢れ無き白い姿』で……
黒い下着の小さな布地で僅かに肢体を隠しているが、それは隠すのではなくむしろ黒を身につけることでより白を際立たせているような印象を受けた。
(それでも帯剣ベルトと【絶刀”鉋”】はしっかり持ち歩いてるのか……)
下着姿でも帯刀だけは忘れぬその姿に、僕は上手く説明できないけど確かに存在する”業”のようなものを見た気がした。
フルブレーキングで止めたマウンテンバイクのLEDライトの光の中に浮かび上がっていたのは……頭部に猫耳を生やし、肌も髪も無垢で純白な”
「羽川……会いたかったよ」
気が付くと僕はそう呟いていた
皆様、ご愛読ありがとうございました。
ブラック羽川さんの登場の回はいかがだったでしょうか?
確かに彼女の登場は、原作と同じような感じです。
しかし、阿良々木君が忍野より授けられた知識は、明らかに原作と比べて”
そして彼自身のメンタリティーもポテンシャルも
その結果、導き出されるのは……?
それでは皆様、また次回にてお会いしましょう!