愛する弟に反抗期がやってきました(T . T) 作:Cr.M=かにかま
リビア・フルムーンとセラフィール・アポロニアの二人は同じエルフの里で育った幼馴染である。片や魔法の天才、片やエルフの落ちこぼれとしてベクトルの違う才能を持ちながらも仲良く過ごしていた。
−−−今思えばどこから歯車が狂ったのだろうか。ある日、いつものように高い椅子にお座りになってる自称エリート達からドヤ顔で自慢話ばかり聞かされた帰り道だった。いつものようにセラフィールと他愛のない会話で盛り上がっていたときに、ある一人のエルフの少女がリビアを呼び止めた。
セラフィールを置き、リビアは少女に着いて行ってしまった(もちろんセラフィールはその後をバレずに尾行したわけだが)夕暮れをバックに向かい合わせの二人は互いに頬を染めて、言葉を発しようにも何を言えばいいのかわからないといった状態が続くこと30分。このもどかしくて中々に幻想的なシチュエーションを最初に打ち破ったのはリビアだった。
「ど、どうしたの?俺に何か用?」
「う、うん」
ザザァン、と波の音が響き渡る。今更だけどここ海なんだよね。海に反射する夕日(もう既に落ちてしまったが)をバックにしたシチュエーション。やることは一つしかない。
「−−−好きです!見た目が、付き合ってください!!」
そう、愛の告白である!!
リビアは人生初の告白にドクン、と心の臓が鼓動する。そして視線はゆっくりと下に移動する。
「.....ごめん、貧乳には興味ないんだ」
瞬間、セラフィールは自分の貧相な胸に手を当てて少女は泣き崩れたのだった。
これはリビアが里を飛び出す三日前の出来事である。
−−−そして、現在。数年の時を経て二人は再会を果たした。セラフィールはあの日から必死に胸の発育を頑張り、でかいと言えるサイズになった。
しかし、雰囲気はとてもではないが穏やかなものではなかった。
それもそうかもしれない。過去はどうであれ今や立場で言えば敵同士、リビアは空賊である。そもそもが世間を敵に回してるのだ。
「久しぶりだな、セフィ」
「あんたも、生きてたんだねリビィ」
二人の眼光が強くなる。猛禽類も恐れをなして逃げ出しそうな鋭い視線をぶつけ合い、二人は同時に言葉を紡いだ。
「綺麗に、なったな」
「格好良く、なったね」
.....もちろん被った。しかし、二人は互いの言葉をしっかりと受け取っている。数秒のフリーズの後、ボンッ!と耳の先まで顔を真っ赤にしたと思えば
ぷいっと顔を逸らしてしまう。初心かてめーら!満更でもない顔を浮かべながら口元を抑えるリビアと言葉の意味を正しく理解しようと頬に手を当てながら目をグルグルさせるセラフィール。リビアの後ろに控えるリビアスター空賊団の面々はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「え、船長まさか彼女さんですか?いたんですか!?もう、それなら早く言ってくださいよ〜!」
「バッ、おま−−−」
「何も言わんといてください。ただ、俺から一言。爆ぜろ」
「クッソー!まさか外部だったとは!しかも同族の、フローラさんだと思って50万賭けてたのに!!」
「俺はオルビア嬢に80万だよ、コンチクショー!」
「幸せにしてやりなさいよ!僕は応援しやすから!」
「お前らッ!!少し落ち着け!好き勝手言うんじゃねぇ!!!」
こういう話になると煩いリビアスター空賊団。普段弄る機会と隙とネタがないためこの場にいる少数精鋭エイティーンズ(今結束)が代表してリビアを弄る。この勇姿はリビアスター空賊団戦いの歴史に一生刻まれることであろう。リビア弄りはまだ続く!
「じゃ、ちょっとコンタクト取ってきて紹介してくださいよ!せっかくなので」
「せっかくの意味がわからん!」
「彼女さーん!うちの船長がいつも迷惑かけておりまーす!」
「か、彼女って...」
「セフィを巻き込むな、ってセフィ?なんで真顔なの?なんで真顔なのに顔真っ赤にして両腕から炎出しちゃってんの!?しかも青い!」
「だ、だいじょぶだいじょぶ。リビィを燃やせばかいけつかいけつ。イケルイケル」
「一旦落ち着け!あと、離れろ!熱い!!」
「熱いのはこっちだよ船長!」
「見せつけてくれてんじゃねーっすよ!!」
「頼むから黙っててくれないか!?」
これ以上事態を悪化させるわけにはいかない!何故セラフィールがここにいるのか、何故こんなことになったのかとか色々積もる話もあるが、とりあえず今はあの馬鹿どもを黙らせて己の身を守らねばやばい!冗談抜きで燃やされかねない!
「大丈夫だよリビィ、熱いのも痛いのも感じる暇もないから」
「何を安心しろと!?」
−−−ピィィィィィィィィィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!と甲高い咆哮が響き渡る。
「何!?」
「あいつ、意識が戻ったのか!?」
状況を読めないセラフィールと焦るリビア。先ほども一度吠えていたのだが、どうやら二人の耳には届かなかったようだ。幼馴染との再会を喜ぶ時間も与えてくれないのか、心の中で悪態を吐きながらセラフィールから背を向ける。
「お前ら!一旦船に戻るぞ!」
「「「−−−ォォォォォォ!!!」」」
一時撤退、態勢を整える必要がある。他の幹部メンバーとも合流し、船に乗り上から黒竜に攻撃をするしかない。地上でやりあえば街への被害が甚大なものとなってしまうだろう。
「待ってリビィ!」
「来るなセフィ!どっかに隠れてろ!」
「やだよ!あたしの育ったこのボインをしっかりとワシワシしてくれないと!」
「俺に変態になれと言いたいのか!?今はそれどころじゃねぇだろ!!」
「え、船長それは状況が状況ならやるということですか?」
「何でそうなるんだ!?とりあえずセフィ、また後でな!」
「−−−いやーよ。リビィの隣があたしの立ち位置、もう一回会えたらそうするって決めてたの!」
走るリビアの手を掴んで呼び止める。力強く、それでいて優しく握り締められた両腕からは魔法ではない暖かさが伝わってきた。リビアは苦笑いを浮かべた後、溜息を吐く。
「−−−あたしは今の立場も、シオン様もたしかに大切だけど、あの黒竜はリビィの敵でもある。共通の敵に立ち向かうのに理由はいらないでしょ?」
「−−−お前は、昔っからそうだったよな」
リビアとセラフィールの目が合った。昔はリビアが見上げる体制だったが、今ではリビアの方がセラフィールを見下ろす形となっていた。いい気分である。
−−−リビアはセラフィールの手をゆっくりと離して一人、部下も連れずに黒竜の方へと走り去って行った。
「リビィ!?」
「船長!?」
「頭!?」
「けど、俺の蒔いた種は俺が片付ける!それが俺のケジメだ!」
−−−漢リビアの戦いが始ま
「ン、の逃がすかアホォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!あんた一人で行ったところで無駄に被害増えるだけやろうが、後先考えて行動しな!!」
「ぐぼ!?」
らず、全速力のセラフィールに捕まりそのままヘッドロックからの十字固め!!リビアの意識は失われた。
※
「−−−おろ、中々面白いことになってんじゃん。愉快愉快」
「ちょ、いい加減離しやがれ!!」
黒竜と激突するギルディアとヤスヒトから少し離れた位置で戦闘を傍観する宇宙人と未だに拘束され続けているギド。彼らが何故ここにいるのかと言えば理由は簡単、自他共に認識済みの男の娘、宇宙人が暇だと駄々をこねはじめ拘束したままギドを連れてそのまま外に連れ回し始めた。実に簡単な理由である。
「テメ、魔神様をこんな扱いしやがって、後で後か−−−」
「う〜ん、あそこに混ざりたいけど俺が行ったら一瞬で終わっちゃうんだよね。というわけで鬼君、ちょっと行ってみようか」
「ハァ!?ざけんな、ってお前、何で俺のこと鬼って!?」
「見たらわかるよ。もし仮に本物の魔神なんて存在だとすれば俺もただじゃ済まないだろうし」
主に上司からの叱責で、とはとても言えない宇宙人。この世界の調停者であることを申し出ることができない。自分で設けた世界のルールとはいえ、これは少し失敗したかなっと心の中で後悔する。
−−−ということでストレス発散がてらに自称魔神をハンマー投げの要領で黒竜に向けて投擲しちゃったぜ!☆
何やら叫んでるように聞こえるが思いっきりシカトする宇宙人。背後に現れた黒い裂け目から目を背けるようにして冷や汗を流す。
−−−まさか、もうバレだなんて、ね。そりゃ暇潰しで何百という単位で世界を滅ぼせばやって来るのも当然か。
付け耳であるはずの猫耳がしょぼんとしていた、そしてそのまま立ち去ろうとするが、裂け目から現れた白く細長い手によってガシッと肩を掴まれる。
「さ、貞子!?」
「アンポンタン。この世界に存在しない単語を発するな、調和が乱れる」
−−−裂け目から現れたのは露出度の高いビキニタイプの横縞ピンクのストライプ柄の水着を着用した胸板がとても貧相な人物、足元まで伸びる長くウェーブのかかった深紅の髪を揺らし同じく深紅の瞳の下に大きな隈の作った女性、ではなく男の娘。股間をよく見ればわかる。極め付けに首元手首足首には奴隷の付ける枷が付けられていた。ファッションのつもりなのだろうかはわからない。
「で、俺なんかやらかしちゃいましたかね〜先輩」
「当たり前だ。何故僕がお前の始末書やらされる羽目になるんだ?僕は誇り高きkc3n、む?舌がうまく回らないな。なるほど、この世界の作用か」
困ったな、と赤髪の男の娘が顎に手を当てる。スラリとした腰まわり、引き締まるところはしっかりと引き締まったしなやかバディはとても男性の体つきとは思えなかった。
「−−−よし、この世界で僕はとりあえず信号機と名乗ろう」
「あ、俺はこの世界では宇宙人ってことになってるんでよろしく」
「そうか、だがもうその名は必要ないな。帰るぞ」
「え、ちょっとタンマ!?まだ俺やるこ−−−」
−−−こうして宇宙人は信号機に連れ去られて裂け目と共にこの世界から姿を消したのであった。
めでたしめでたし。
※
とてつもない速度で空中に投げ出された自称魔神、鬼人ギドは疑問に思った。何故自分は空を飛んでるのか、何故こうなったのか?そもそも何故ここにやってきたのか、誰かについていった気がするがどうしても靄がかかっている気がする。先ほどまで誰かと一緒にいたはずなのに誰と一緒にいたのか思い出せない。
−−−そんなことを考えてるうちに黒竜の右目に矢のように刺さったのであった。黒竜が甲高い声で悲鳴を上げたせいでギドの鼓膜が破れそうになる。
突然の出来事にギルディア、ヤスヒト達も戸惑う。同時にギルディアも何かがポッカリと記憶から抜け落ちた感覚に陥ったが、一瞬の出来事だったので忘れることにした。
「−−−ダン!ダン!ダダン!ドーン!」
良、良、可、好良!!とギルディアが攻撃するたびに文字が浮かび上がる。音ゲーのやりすぎで現実に投影されるなんて夢にも思わなかっただろう。そりゃ誰だって思うはずがない。それが必然である。
ちなみにタイミングが一致すれば打点も上がるという謎能力をいつの日か手に入れたギルディアは今まで不可を出したことがない。これも悲しきかな音ゲーのやりすぎである。
「ギルディア!もう一押しいけるか!?」
「ったり前よ!」
いつの間にか意気投合してるギルディアとヤスヒトは攻撃の手を休めることなく攻め続ける。図体に似合うゆっくりとした動きをする黒竜だが、その威力は本物である。少し腕を振るうだけで突風が起こり、軽く気合を込めるだけで小さな地震が発生する。伝説と称されるだけあって一筋縄ではいかない。ちなみにギドはその辺で横たわっている。
「ヤスヒトさん!」
「ラウェイ!お前はリビィ連れてこい!ここにいても邪魔だ!!カフ、ダラスもだ!!」
「合点承知の助!」
「承りました」
「ウィッス!」
三者三様の返事をした後、それを聞いたヤスヒトはギアをさらに上げて主砲にも匹敵する右ストレートを放つ。
「−−−こっちは俺が片付けておく」
この宣言の数秒後、ヤスヒトは黒竜の右手に潰され意識を失うのであったが本人の名誉の為にここで記しておくことにする。
「ヤスヒトォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
−−−ギルディアは戦友の死(死んではいない)に怒り狂ったとか何とか。
※
「何だよ、これ」
一方、無事王宮からの脱出に成功したシオンは目の前に広がる光景にただただ唖然としていた。黒竜が暴れ回り、人々は逃げ惑い、国内が戦場と化していたのだ。隣国からは合計十の部隊が隊列を成してこちらへ向かってきていた。
戦争、シオンの脳裏にその二文字が浮かび上がった。たしかにれーざー☆びーむを持ち出して攻撃宣言したのは間違いない。だが、部下の独断である。それでも上司であるシオンに責任があるのは当然であった。
ガルシア十三人衆は国内にいるが分散している。シオンの側には今は誰もいない、姉であるサリナを止めるために全員が出払っているのだ。リビアスター空賊団の出現に関してはイレギュラーだが、敵とも味方ともいえない状況。とにかく、今は自分にできること、民を安全な場所へ誘導すること。黒竜がピィィィィィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァ!!と甲高い咆哮を上げる、街は危険。城内はサリナを止めるためにガルシア十三人衆がどこまで暴れてるかわからない。しかも姉がいる、とても危険。結論、安全な場所なんてこの国には既になかったのだった。
「僕は、僕は!」
−−−どうすればいいんだ!?助けて、姉さん!!
「−−−シオン!」
その声にハッとするシオン、今聞きたかった姉の声。振り返るとそこには生まれたままの姿、つまり真っ裸の実姉サリナ・コバルトが頬を紅潮させながら立っていた。
違う、こうじゃない。
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