愛する弟に反抗期がやってきました(T . T)   作:Cr.M=かにかま

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今更ですが、この作品は弟が反抗期になった姉の心境を描いたものです。


五ページ目:萌えあがれ、萌え萌えに!

 

リビアスター空賊団、そして伝説の黒竜の出現したという情報はビヒュリア王国にまで行き届いていた。ビヒュリア王国とガルシア王国は街一つ挟んだだけでそこまで遠い位置ではなく、バスで行けば二時間で到着する距離である(ちなみに新幹線だと三十分だ!)

最大の厳戒態勢、隣国かられーざー☆びーむが飛んでくるかもしれないことも考えられる。ビヒュリア王国騎士団長、カトレア・フォン・ソシャーレアも例外なく雑務とグラン王の世話に追われることとなっていた。

二週間前、税金引き上げとかいう馬鹿みたいな政策を押し通したと思えば魔法のカードを買い占め、部屋に篭りここ数日出てきてない。ていうか十中八九ソーシャルゲームのイベント走ってるな、あの駄目王。本気でさっさと失脚すればいいのに。

 

「はぁ、ギルディア〜、早く帰ってきてくれ〜!」

 

「国王様?ゲームは一日一時間までとおっしゃったろうが、この引きこもりが!オメーが表に出ねぇとビヒュリア王国の面子が立たねーんだよォ!うだうだぬかしてんじゃねぇぞ、ゴラァ!」

 

「ちょ、カトレアさん!?キャラ変わりすぎじゃありゃしませんか!?怖い!!」

 

「うるせぇ!誰のせいだと思ってんだ!!」

 

ひぃ!?と国王グランは部下であるカトレアに責められる。ちなみにカトレアは更生は成功したものの極悪非道で有名だったスケバン、執念と欲望の巨乳願望(ドリームジーカップ)のリーダーである火斗連荒だったりする。

それに比べ女々しい溜息に女々しい行動、王の威厳も覇気もあったものじゃない。カトレアは溜息を吐きながら腰に携えてある剣を抜刀する、両断剣マップタツー。読んで字の如く、研ぎ澄まされた剣先に切れぬものなどないのではないかと錯覚させるような業物である。長さは一メートルと半。

 

「ちょ、何でここで剣構えるの!?」

 

「その小さな電子機器さえ斬り刻んでしまえば王も仕事に専念できるかと−−−」

 

「やめてー!今までの課金とか合コンプランとかが無駄になるー!」

 

「−−−そんなことよりもやることあるだろーが!」

 

ドンガラガッシャーン!と業物マップタツーを振るうカトレア。もう身分がどうとか相手が国王だろうが関係ない、この廃課金者を成敗してやる!そうでもしなければカトレアの気が治まらなかったのだ。

−−−パカラパカラ、という軽快なリズムと共に黒馬に乗った女戦士が王座の間にまでやって来た。ツヤのある白味を帯びたピンク色の髪はLEDライトで反射し、キラキラと輝きを放っている。カトレアとは対照的に動きやすそうな軽装だが、保護すべき部分はしっかりとプロテクターや鎧で保護している。

−−−それ以外は全裸、だが。

 

「.....国王様、姉様、何をしてるのですか?」

 

「な、い、いや、これは違うの!」

 

「おぉ、ヴァルキリー!」

 

ビヒュリア王国の英雄ヴァルキリーが愛馬のメルゼ・ハデスから降りる。たぷん、と馬鹿みたいに大きく無駄な豊乳を揺らしながら。

 

「.....」

 

「姉様?」

 

「それで、ヴァルキリーよ。ガルシア王国の様子はどうだった?」

 

グランが気を取り直して尋ねる。まさか、この駄目王は雷鳴竜を討伐したビヒュリアの英雄を偵察としてガルシア王国に送ってたのか?

他に人材がいたろうに、ていうかガルシア王国の偵察ならギルディアが現地にいるんだから直接聞けばいいのにとカトレアが思ったのは内緒である。

ヴァルキリーはそんな姉の様子を知らずに報告を進める。

 

「はい、黒竜はリビアスター空賊団によって一時戦闘不能になり落下、リビアスター空賊団の者たちは近くの草原に停泊してます。ガルシア十三人衆達も動き始めてます」

 

「よい、ならば我々も自国の防衛に務めるとしよう」

 

−−−今更厳格になったところで何の変わりもないが、グランが王たる覇気を醸し出す。カトレアとヴァルキリー姉妹も思わず萎縮してしまうほどだ。

とりあえずはこの人に従おう、普段はあれだが仕えるべき主。騎士団長であるカトレアにとっては一応護るべき存在でもある。

 

グランは息を吸い、タブレット端末をポケット取り出す。その様子に笑顔を浮かべたカトレアは間髪入れずにマップタツーを抜刀した。

 

スパン!と綺麗な音が王室の静寂を破る。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?ワシの努力と課金の結晶がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

ビヒュリア王国で悲痛な叫び声が響き渡った。

 

 

 

突然だが、リビアスター空賊団幹部であるヤスヒト・タカマツは転生者である。黒竜の尻尾の下敷きになりながらも何とか立ち上がり、空を見上げるが戻るべき船がない。置いてけぼりをくらってしまった、そういえば前世でもこんな経験があったなとしみじみとした想いになる。前世、そう餅を喉に詰まらせて死んでお決まりのごとく神様転生をしてこの世界にやって来た、結構可愛く愛くるしい神様だったことを今でも鮮明に覚えている。

ヤスヒトの持つ転生特典、身体能力の爆発的向上。しかもそれは鍛えれば鍛えるほど爆発的に向上し、身体も対応するという中々にいいものである。

 

だからこそ、バクが生じた。本来ならばこの世界は戦闘とは無縁の世界で特殊な能力を持つ人間など存在しなかったのだ。そう、ヤスヒトが微妙にチートな能力を特典として選んでこの世界に転生したがためにこの世界の調停者が面白半分に世界の理を改変したことがことの始まり。まぁ、ヤスヒト本人はそんなこと知りもしない。もちろん、この世界の人間たちにそんなこと知る由もなかった。

ヤスヒトは自分が急所、いわゆる黒竜の股間目掛けて殴ったところ黒竜は墜落し気絶までもしてしまった。鱗がなかったから或いは、と思ったが見事にビンゴだった。

 

「−−−ヤスヒトさーん!」

 

「おぉ、ラウェイ!それにカフとダラスも!」

 

「無事だったんっスね!俺らも船から落とされちまって、リビア船長がこっちに来るみたいですよ。合流しましょう!」

 

「そうだな!リビィにこいつを殴り落としたことを自慢して煽ってやらねばな!」

 

「.....それは船長怒るからいらないと思う」

 

口数の少ないダラスがポツリと呟く。そんなダラスの呟きが拾われることはなく、ヤスヒトとラウェイは肩を組んでやいのやいのと勝手に盛り上がってる。カフはそんな三人の様子を遠巻きに観察していた。

一通り馬鹿みたいに騒いだところでヤスヒト達は移動を始める、行く先なんてわかったものではないがとりあえず進む。その場に留まるように立ち止まってるよりは先へ進んだ方がいいと考えたのだが、自分が迷子になる可能性と黒竜というわかりやすい目印の部分から離れるなんて合流することから自ら遠ざかるようなものだと、ダラスは一人思ったが口には出さなかった。さっき無視された仕返しのようなものだ、小さい仕返しだ。

 

ヤスヒトが自販機で四人分の飲み物を買った瞬間であろうか、何かがこちらに向かって近づいてくるのがわかった。ヤスヒトがそちらに視線を向けると金髪褐色肌の少女、露出の多い着物のようだが派手、どこか改造した形跡が見られる少女を追いかける長い黒髪を靡かせる無精髭を生やしたおじさん。見たところ少女は追われている、痴漢か強姦の類だろうか?

 

「待てや、コラ!お前は絶対に逃さないぞ!」

 

「うるさーい!気絶した人のことガムテープでぐるぐるに雁字搦めにした上にタンスに閉じ込めるような奴の言うことなんて信じるかっての!私の得物までどっかにやりやがって!泥棒か!」

 

「だから!それはゼストが−−−」

 

「あの阿呆がそんなことするかっての!とにかく変態の言うことは聞かないっての!音ゲーでもしとき、な☆」

 

−−−ヤスヒトは目を光らせる。ダラスとカフは「あ、これダメなやつだ」と悟るとラウェイを連れてその場を離れる。ヤスヒトは筋金入りの馬鹿であるが、そんな彼でもさっきの会話を聞く限り、あの少女を守るべきだ、という考えには至ったようだ。そして好感度をあげれば遂に転生者らしくハーレムだって築ける!!そう考えたヤスヒトの行動は早かった。拳を握りしめ黒髪の男のことを殴り飛ばした。下心丸出しである。

 

「−−−えっ」

 

「行きなお嬢ちゃん。こいつは俺が止める!(キリッ☆)」

 

今世紀最大のいい笑顔を少女に向ける。しかし、そこにはもう既に少女はいなかった。ヤスヒトは黒髪の男と向き直る。

 

「ってて、お前ガルシアの回し者か!」

 

「−−−ごちゃごちゃうるさいぞ、変態野郎!女の子追い回して楽しいか、クソ野郎!!」

 

「俺だって、好きでやってんじゃねぇよ!」

 

黒髪の男は仕返しとばかりに殴り返してきた、威力も中々!ヤスヒトと互角か少し上だろう。だが、ヤスヒトは目の前の男を自分よりも格上だと認めなくなかった。

 

「やりやがったな!」

 

「そこを、どけ!」

 

−−−二人の拳が激突し、周囲に衝撃波を巻き起こした。

 

 

 

「シィーオォーンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!」

 

「怖い怖い怖い怖い!!」

 

その頃、現ガルシア王シオンは実の姉であるサリナから逃げていた。しかし、何故か一向に距離が縮まらず追いつかれるのも時間の問題だった。しかも眼光らせてあんな奇形な走り方をするものだからシオンは本気で恐怖していた、実の姉にである。シオンを守るようにリグロとセラフィールが陣を取っているが、それでも追いつかれそうなことに変わりない。キリがない、そう感じたセラフィールが先に動く。

 

「−−−リグロ!あんたシオン様連れて先に、あたしはあいつを足止めしてみる!」

 

「わかった、無茶はするなよ」

 

「大丈夫、後で必ず合流するからここは任せて先に行きな!なんて、言ってみたかったんだよね、これ!」

 

セラフィールが右腕を大きく振るう。それだけでサリナの道を阻むように炎の壁が現れる。炎神の加護を授かったセラフィールは火炎系魔法の最上位に位置する魔法を扱える。ゆえに魔力の消費も大きいがエルフ族として生まれたことが幸いし、他の種族よりも魔法の扱いに長けており魔力も多い。

 

「急ぎましょう、シオン様」

 

「う、うん」

 

シオンはサリナの頑丈さを知っていても不安だった。実の姉が心配とかそうでなく、果たしてセラフィールに足止めができるのかどうか。あの姉は一言言えば異常である、本当いろんな意味で。

 

セラフィールは一先ず様子を見る。サリナがシオンの実の姉であることを知らないからこそできた愚行。事実を知ればセラフィールは泣きながら自ら命を絶つだろう。それだけエルフ族とは義理堅い種族なのだ、エルフの里では神童として育てられ魔法が苦手な幼馴染を心のどこかで見下しながら育っていた。だが、そんな将来への期待だとかに嫌気が指す、幼馴染が里を飛び出したこともあってセラフィールがもうここにいる理由はなくなり故郷を飛び出した。そこで出会ったのがシオンである。彼は路頭に迷っていたセラフィールに仕事を与え、文化の違いを教えたり、計り知れない恩がある。自身の命一つではとても足りえない大きな大きな恩があるのだ。

その恩の形の一つがれーざー☆びーむ、何とも迷惑な話だ。

 

目の前に轟々と広がる炎、温度は軽く500度を超えている。この中を進んでやってくるなど阿呆を通り越して死にたがりもいいところである。

 

「−−−っあっつぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!ぃぃよぉ!あぁぁぁぁん!」

 

.....おかしい、苦しむどころかどこか悦びの声が炎の中から聞こえるのは果たしてセラフィールの耳がおかしくなったのだろうか?それとも目の前にやってきた火達磨は先ほどのサリナそのものなのだろうか?

だとしても可笑しい、どうして歩けるの!?どうして悶えてるの!?ていうか何で進んできてるのッッ!!?

セラフィールには理解できなかった、というよりもそれが普通の反応である。セラフィールの感覚は何一つズレてない、明らかにおかしいのはサリナの方である。

火達磨になって轟々と燃える衣服(着てた服はもちろんのこと焼失)を纏って走り始める、ホラーである。

セラフィールは思わず一歩後ずさってしまう。今すぐこの場から離れたい、だがここを動いてしまえばこの女がシオン様の元に。そう考えた途端、動くに動けなくなった。

火達磨の乙女はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ひっ!?」

 

「−−−もっと、もっと私を責め、て!」

 

セラフィールの回れ右!セラフィールは逃げ出した!

 

サリナが追いかける!しかし、中々追いつけない!

 

セラフィールは携帯電話を取り出した!電話帳を開いて通話ボタンを押した!

 

プルルルルルルルル...

 

『も、もし、もひ!?』

 

「ナイス!ちょっと来週一万貸したげるから今すぐ助けて、メル!」

 

「−−−承った!」

 

セラフィールとサリナの間にガルシア十三人衆の一人、メルククゥが現れた!

 

「−−−契約よ、セフィ!」

 

「当たり前!」

 

アイコンタクトを終え、メルククゥは火達磨になったサリナに向き合った。

メルククゥはポケットからサイリウムのペンライトを取り出す、そして、発光!

 

「さぁ、ショーを始めましょうか。猛獣さん」

 

−−−これより始まるは意味のない激突、意味不明で大草原不可避!

 

 

 

時間は少しだけ戻り、カグヤが目を覚ましたところから。

目の前の真っ暗闇、動かない体から察した。多分ゼストに気絶させられてどこかに運び込まれた。ご丁寧に彼女の武器であり能力のトリガーでもある七宝願ノ短剣までもが無くなっていた(既にゼストが売却なんて事実を知ったらどんな反応するか楽しみだ)

七夕になぞらえた特異な能力を持つカグヤは我儘放題、しかし、彼女の能力を持ってしても勝てない魅力が現れた。圧倒的カリスマに包容力、シオンという人物に出会いカグヤの能力はこの幼い殿方のために使うために宿ったのだと思わされた。

だからこそ、ここから逃げ出さねばならない!火事場の馬鹿力、そう言うに相応しい力がカグヤに宿る。全身の動きを制限するガムテープを力任せに引きちぎり、魔力を暴発させ空間という名のタンスを破壊する。

 

外にいたギルディア、宇宙人、ギドはすぐさま動いた。

 

「うお、パワフル!」

 

「いいから俺を自由にしろォ、女装野郎ォ!」

 

「−−−あいつは俺が抑える、魔神の奴を頼む宇宙人」

 

「へーい」

 

ぐぬぁぁぁぁぁぁぁ!!?という間抜けな悲鳴をBGMにギルディアは力を解放した。

ギルディア・アルバルバルド、その力は健在である。一昔前、隣国との大戦時にたった一人で千の軍勢を正面から相手にして無傷で生還、さらには敵軍を全滅させるという伝説を持つ、英雄ヴァルキリーに次ぐビヒュリア最強の戦士。無双のギルディアと呼ばれるだけはある。

 

「これは、気づかなかったけどえれー大物!逃げるが勝ちってね!バイバーイ☆」

 

「あ、待てコラ!」

 

そして、追い掛け回してるうちに警察に追いかけられるは道行く人々には変態だと言われるはカグヤのファンクラブのメンバーからは殺気を向けられ追いかけ回されるわで碌な目に合ってない(全て蒔いたが)

さらにはヤスヒトなる人物の妨害でカグヤを見失ってしまう、ギルディアのイライラは頂点にまでキテいた。

 

まずはヤスヒトからパンチ一発!ギルディアが吹っ飛ぶ、カムバックからのパンチ。ギルディアの青筋が増える。そしてヤスヒトは楽しそうに立ち上がる、ギルディアはさらに青筋を増やす!

 

「そこを、どけ!」

 

割と本気のパンチ、ヤスヒトの拳と激突し衝撃波を生む。ギルディアのイライラは120%、ヤスヒトが押し負けて吹っ飛ぶ。ギルディアは攻撃を止めない。所々でヤスヒトがギルディアの攻撃を受け止め受け流す、ギルディアの青筋が一気に増える。

ギルディアにサーチの能力はない。だからこそ見失う前に決着をつけたかったのに邪魔された。しかも、中々倒れてくれない。このイライラはどこにぶつけようか?答えは簡単である。

 

−−−目の前の男、ヤスヒトである。

 

「全身全霊を持って、ぶっ潰す!」

 

ギルディアの闘志は無駄に熱く燃え上がっていた。




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