真・恋姫†無双 一刀立身伝(改定版)   作:DICEK

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第031話 反菫卓連合軍 合流編⑤

 

 

 

 

 

 

人海という言葉がある。単純に表現するのであれば人が沢山(・・)集まっているのを指す言葉だ。想定よりも多数の人間を用いて事に当たる場合などに用いられ、人海戦術などの運用でも知られる。人の海、というとどうにも詩的な表現には思えず、また正確性にも欠けるため朱里はあまり自分で使うことを好まない文言だったのだが、ここ数日の風景を指して用いるのであれば、この言葉を使うより他はないように思えた。

 

 ここはまさに、人の海の中心だった。

 

 首都洛陽から西に臨むこの大平原に、反董卓を旗印とした連合軍の集合地である。生まれも主義主張も異なる面々が帝国中から集まり、これから帝国首都洛陽に攻め入るのだ。

 

 協力して物事に当たる。単純にそれだけを見ることができれば、どれだけこの行いが崇高な物に思えることだろう。

 

 これから大業を成すのだ。自分は英雄になるのだ。行きかう兵たちの目にも野望が、大志が燃えている。これから始まる大戦とそこから始まる帝国中を巻き込んだ動乱は、生まれの貴賤を問わず手柄を立てて出世をする絶好の機会だが、ここに集った全ての人間がそう思っているかと言えばそうではない。

 

 諸事情あってこの集合地には来ないが、例えば今朱里が仰ぎ見ている関羽などは世の乱れを正すために立ち上がった。出世はそのための手段であって目的ではない。あれだけの腕を持ちながら戦などない方が良いのだと言える心根は朱里にとっても好ましいもので、今回の大戦にも公孫賛に請われる形で同道した。

 

 関羽本人。翻って彼女が率いる戦闘集団――以前共に行動した彼ら(・・)に肖って、最近では関羽団と安直な名前で呼び呼ばれることを好んでいる――は洛陽にいる董卓が諸悪の根源だという主張には懐疑的だ。他にも道はあるのではないかと模索もしたのだが、その時点では既に戦は避けられない所まで来ていた。

 

 調べた限りでは董卓の治世は道を外している様には思えないし、致命的な誤りを犯したようにも思えない。聊か遅きに失した所はあるが、それは時間をかければ回復の見込みのあるものだった。宦官という病巣は取り除いた。さてこれからという時期に戦をしかけられるのは、董卓たちにとっては寝耳に水だっただろう。

 

 しかし、それ以外の権力者たちからすると、今この時を除いて他に立ち上がる時はなかった。董卓を中心に諸々の問題が片付いてしまうと、上の椅子が全て董卓軍を中心に埋まってしまう。出世の目が大きくそがれるのだ。中央の軍を握っている董卓は軍事力においても他の追随を許さず、呂布や張遼などの猛将や賈詡や陳宮などの軍師も抱えている。

 

 朱里の眼前に広がった人の海は、その董卓軍に対抗するためのものだ。董卓ただ一人を中心にまとまった軍勢に対し、これだけの人間を必要としているのである。董卓を蹴落とさんと集まった人間全てと、董卓を中心とした軍勢の戦力が釣り合っているのだ。

 

 放っておけばこの差は広がることはあっても縮まることはない。董卓の勢いを止めるにはもはやかの人間を蹴落とすより他はなく、総力戦を挑むしか権力者たちの道はなかったのだ。

 

 問題はそれが権力を欲する人間とそれを阻む董卓のみで片付かなかったことである。出世に興味のない人間、日々を維持するので精一杯の人間など、国家という胴体に乗る頭が人のものであろうとネズミのものであろうと気にしない人間にとって、権力を握っているのが誰であろうと知ったことではないのだが、ここで日和見を決め込むことはできなかった。

 

 どちらが勝ちどちらが負けるにせよ、勝ち馬に乗っていなかった人間は勝ち残った方から攻め立てられることになる。董卓軍と連合軍のどちらに乗るか。単純に考えればその二つの選択肢が用意されているはずであるが、自由意志でこれを選択できる勢力はこれから戦をしようと檄文が飛んだ時点では皆無と言って良かった。

 

 既にそれ以外を全て足した数と同等の戦力を有している董卓軍に今更加わっても、端っこの席しか割り当てられないのは目に見えている。受け入れてもらえればまだ幸福で、打診をしたのに断られそれが外に漏れた場合、連合軍でも端っこの席に追いやられることになる。

 

 事前の根回しがないのであれば、よほどの大勢力でない限り合流は難しいだろう。

 

 董卓軍に北袁か南袁のどちらかが合流していればこんな戦などしないで済んだのだが、彼女らはそれを由としないからこその袁家であり、それに乗らざるを得ない不幸な人間たちを生み出す結果となった。

 

 朱里たちはこれから無理にでも足並みを揃えて行軍し、名軍師に支えられた名将の率いる軍隊が守る、帝国中でも他に類を見ない堅牢な関を二つも抜き、準備万端待ち構えている董卓軍を帝都から叩きだして天子を奪還しなければならない。

 

 これが学校で出された課題であれば無理難題だと出題者の正気を疑う所だが、不幸なことに朱里と雛里にとってはいつも通りだった。『不可能なことは時間がかかる』というのが先生の座右の銘である。不可能だできませんと言うことは自由だが、それを理由に課題と思考を放棄することを先生は絶対に認めてはくれない。

 

 学ぶ意思を持った人間に対して常軌を逸した根気を発揮する水鏡先生は、それを放棄した人間を許容することは絶対にない。課題を諦める即ち放校処分だ。

 

 つまり水鏡女学院を卒業できたということは、程度の差はあっても全ての課題を達成できたということでもある。あの婆いつか殺してやると気合の入った陰口を聞いたことも一度や二度ではない。それだけに無理難題を突破した人間たちの結束はとても強固なものとして知られている。政財界で水鏡学閥がそれなりの幅を利かせているのは、この結束力があるからこそだ。

 

『この程度、二人ならできますよね?』

 

 と、欠片も笑っていない目で課題を吹っかけてくる先生の顔が思い出される。同期の学生の十倍を超える課題を出された時にはこの女は私たちのことが嫌いなのではと真剣に考えたものだが、今ではそれも期待の表れなのだと理解できる。

 

 しかしそれを良い思い出として振り返るにはまだ少し時間がかかりそうだった。笑顔を思い出すだけで胸が締め付けられるような人間とこの先出会うことがないよう、朱里は天に祈るばかりである。

 

 そんな先生から先頃、朱里宛に二つの指示が届いた。その一つ目が人員の引き受けである。てっきり補佐のために卒業生を複数送り込んでくれるのかしらと期待していたのだが、送られてきた人員はたった一人だった。

 

「朱里先輩!」

 

 人海を眺めていた朱里の背に声がかけられる。小さく息を吐いて振り返ると、そこには背の高い女がいた。

 

 先輩と本人が発したように、朱里と雛里にとっては後輩に当たる人物だ。名前を法正という。朱里と雛里、それから灯里とは真名を交換する程の間柄だ。学院時代、内外に才能を発揮していた朱里と雛里は有形無形の嫌がらせを受けていたのだが、その全てから守ってくれたのがこの法正である。

 

切れ長の目に大きな眼鏡。まっすぐな髪は腰のあたりまで伸ばしているが、飾り気はまるでない。頭には優秀な卒業生にのみ先生から贈られる帽子が乗っており、朱里と同じ制服の上着を羽織っている。

 

 帽子の見た目はほとんど一緒。ある種男性的な風貌という点では胸の大きさも含めて灯里に通ずる所があるが、灯里が主に年下の学生に絶大な人気を誇っていたのに対し、法正を慕う学生は全くと言って良いほどいなかった。

 

 理由は簡単だ。この法正、驚くくらいに口が悪いのである。誰が相手でも手加減なく物を言うために、教師陣ですら扱いに困る程だった。全く物怖じせずに彼女に話しかけていたのは水鏡先生と灯里くらいのものである。かくいう朱里も雛里もあまり法正のことは得意ではないのだがこの法正、朱里と雛里には最大限に遜った態度で接してくる。他の学生には立ち直れないくらいの毒舌を浴びせるのにだ。

 

 最初は気味が悪いと思いそう態度にも出したのだが、それでも法正はめげずに遜ってきた。どうやら本気でそうしているらしいと気付いた時には、朱里も雛里も彼女の態度に慣れてしまっていた。それから真名を交換するまでそれ程時間はかからず、学生時代は灯里も交えて良く議論をしたものだった。

 

 朱里と雛里は学生時代、ほぼ全ての分野で主席次席を分け合った。それが全てでない原因の一つが何を隠そうこの法正だ。彼女が最も得意としたのが『弁論』である。見た目が怖いというのも一役買っているがそれ以上に話の組み立てが上手く理路整然と、時に毒舌を交えて相手を押し込めていく。

 

 その手腕は世の秀才を集めた水鏡女学院にあっても他の追随を許さないもので、学生の中で勝負ができたのは灯里しかいなかった程だ。

 

 そして朱里たちが勝てなかったもう一つの科目が『情報分析』である。矢継ぎ早にもたらされる情報を元に次に何をするのかを臨機応変に行い、その精度を見るための実技科目なのだが、全てが数字に見えているのではというくらいに彼女の判断は速い上に正確だった。

 

 水鏡女学院が保有する情報収集組織を株分けするという話になった時、灯里と共に最終候補に残った彼女だったが結局、上記の二つの能力が誰よりも勝るということで先輩である灯里を破って彼女が受け継ぐことになった。

 

 彼ら彼女らは独自の資金源を持っているということなので、しばらくは独立して行動できるとのことだったが、やはり十全に機能させるためにはどこかの組織に所属する必要がある。卒業しても即時仕官したり就職したりする訳では必ずしもない学院であるが、法正は即時の就職を決めた。

 

 学院を卒業した法正が最初に行ったことは、憧れの先輩の元に身を寄せることだった。

 

 当初は自分と雛里両方がいる所に向かう予定だったそうなのだが、色々あって別の人間に仕官していたため、熟慮の末に公孫賛軍に来たらしい。選んでもらえたことは嬉しいけれども、自分と雛里の好感度にそれ程差があるとは思えない。何故と聞いて法正から返ってきた答えは、実に単純だった。

 

「私の頭を高く買ってくれそうな方に身を寄せようと思ったまで。あの神算士に雛里先輩までいるのであれば、私の出番もそうないでしょうからね。聞けば神算士の友人も中々に頭が回るそうじゃありませんか」

 

 これから自分を売り込もうという人間にとって、軍師過多とも言える一刀団はあまり魅力的に映らないのかもしれない。それは法正が自分の能力に自信を持っていることの証明でもあるが、理想だ信念だと言わない所は法正の最大の特徴である。打算的とも受け取られるそれは、学院でも評価が分かれる所ではあった。

 

 朱里もどちらかと言えば彼女の考えは肌に合わないが、その能力と心根については学院時代で嫌という程思い知った。諸葛亮が諸葛亮である限り、法正という人間は絶対に裏切ったりはしないだろう。親友である雛里を除けば、ある意味この世で最も信頼できるのが彼女である。

 

「まぁ、雛里先輩も朱里先輩と一緒で美少女ですからね。普通の感性をした男なら、三日も立たずに寝込みを襲うんじゃないでしょうか。私が男で奴の立場だったら間違いなくそうします」

 

 ただ信頼する中にも問題はある。この年上の後輩はこちらをきっちりと敬ってくれるのだがそれだけで、言葉遣いはともかく発言の内容にはあまり気を使ってくれない。色々あって離れることになってしまった親友についての論評は今朱里があまり聞きたくない類のものだったが、彼女は嬉々としてそれを語る。

 

 自分が男性だったらどうするか、頭脳が明晰なだけあって親友の朱里をしても『ありそう』だと感じてしまうくらいに現実味があった。馬に二人乗りして後ろから抱きしめられ、道中益体もないことを囁き合いながらいちゃこらするなど雛里ならやりそうだ。

 

 後輩の何がムカつくかと言えば、所々に入る雛里のモノマネが目を閉じればそこに本人がいるのではと錯覚するほどに上手いことだ。普段であれば見た目怖いのに器用なことだと感心する所だが、今は朱里を煽ることにしかならない。

 

 法正の分析は更にその先まで進んでいる。その全てが真実であるとすると既に雛里のお腹は大きくなっていなければならず、いくら親友でもこの大事な時期にそこまでのことはしないと信じたいところではあったが、人間は理屈と打算だけで動く訳ではない。それは恩師である水鏡先生も常々言っていたことだ。

 

 自分を置いて親友が大人の階段を二段抜かしで上ってしまったらと思うと胸が締め付けられる思いだったが、それは決して後輩から突き付けられて良いようなものではない。ここ数日の激務からいら立ちの募っていた朱里は後輩に対する先輩としての配慮をあっさりと放棄した。

 

「…………静里ちゃん」

「なんでしょうか朱里先輩!」

「そこに正座」

「よろこんで!」

 

 喜色に満ちた声でもって返事をした法正――真名を静里という――は、着物が汚れることなど全く意に介さず地面に正座した。わくわくした様子で発言を待つ年上の後輩の様子に頭痛を覚えながら、朱里は言葉を続ける。

 

「静里ちゃんさ、私がそういう話聞きたくないって解ってるよね? 何でそういう話をわざとするの?」

「申し訳ありません! 自分、大変な心得違いをしておりました!」

 

 額を地面に擦りつけ平服する後輩に、朱里は深々とため息を吐いた。この後輩は万事この調子だ。頭を下げていることに嘘はない。自分たちと灯里と、後は水鏡先生くらいにしかここまでのことはしないはずだが、心の底から申し訳ないと思っていることと、これが彼女なりの気遣いだということを朱里は理解していた。

 

 では何故こういうことを繰り返すのかというと、良い理由と悪い理由が一つずつある。

 

 まず良い理由だが、自分たちに対して精神的な配慮をするためだ。怒るという行為は相当に体力を消耗するというが、同時に身体に溜まったものを吐き出すこともある。精神的な息抜きとでも言えば良いのだろうか。静里は心的な疲労が溜まっている時を狙い澄まして、わざと舐めたことを言ってくる。

 

 自分の気持ちと上手く付き合えるようになりなさい。帽子を贈られた時、先生にかけられた言葉を思い出す。精神の習熟は目下、大体の学問を修め、それを実践している最中である朱里にとって急務であったのだが、学生時代と同様、後輩にここまで気遣いされているようではまだまだだなと思う。

 

 そんな自分を見越して、静里はここまでのことをしてくれるのだ。もう少しご褒美でも……灯里に相談したことがあったのだが、彼女は苦笑を浮かべながら否定した。

 

『あの娘は自分よりも賢くて小さくてかわいい人間に言葉責めされるのが何より好きな変態なだけだから、そこまで感謝する必要はないと思うよ』

 

 ははは、とさわやかに笑って忠告してくれた先輩は『自分ほど賢くなくてつれない態度を取る程よく巨乳な後輩』が大好物だということを朱里は知っていた。度を越して後輩にモテるのに、一線を越えたという話を聞かないのは節度を保っている訳ではなく、単純に好みにとても五月蝿いからだ。

 

 ともあれそれが静里の悪い方の面である。こちらを思ってやってくれているのは間違いないが、それが趣味と実益を兼ねていると知ると、微妙に感謝もし難い。

 

 それでも付き合いを続けられている辺り、自分も雛里もこの年上の後輩のことが好きなのだろうと思う。そう思うに至ったのは、自分たちが熱を上げる特殊な傾向の書籍が彼女の性癖とそう大差のない類のものだと気づいたからなのだが、それは誰にも言っていない親友と二人だけの秘密である。

 

 趣味と実益を兼ねて遜る後輩と、それを見下ろす自分。そう言えば、頭を優しく踏みつけてあげると泣いて喜ぶとも灯里は言っていた。流石に冗談だと思いたいのだが、でも喜ぶのなら……と後輩の後ろ頭を見ながら考える。

 

 ゆっくりと、朱里は首を横に振った。そうして喜ぶ後輩など見たくないし、実際にそうしてしまったら自分もその仲間入りだ。特殊な書籍と合わせて変態性の二重苦である。流石にそれはいただけないと、朱里は気持ちを切り替えた。

 

「謝るのはもう良いから。静里ちゃん、何か知らせることがあったんじゃないの?」

「……白馬義従の元に報告が入りました。愛紗たちの方は全て順調。このまま予定の通りに決行ということで問題はないと思うのだが、朱里先輩の意見を聞きたいと」

 

 問題ないのだ。それで行こう! と言い切れないのが白蓮の最大の特徴である。全ての能力が高い水準で纏まっているのに、今一つ自分に自信が持てないらしい。彼女を見て普通だの力不足だのという人間は身近にもいる。確かに少し南に居を構える袁紹や曹操などと比べると天下に覇を唱えるには力不足かもしれないが、朱里は白蓮という人間を気に入っていた。愛紗もおそらく同じ意見だろう。心根は誠実であるし、兵も彼女を良く慕っている。大人物ではないが人格者だ。

 

 助けてくれという彼女の要請で、関羽団は公孫賛軍に合流した。北上してきた黄巾の残党。異民族の討伐などするべきことは山ほどあった。愛紗や鈴々の武力と自分の知恵。それら全てを合わせて何とか撃退している内に、いずれ起こると見越した大戦が始まってしまったのは、計算外と言えばそうであるし、計算の内と言えばそうである。

 

 できることなら独立した軍として参加したかった所であるが、時期が時期ではそれも叶わぬことだった。公孫賛軍の客将ということで幽州を出発し――そして愛紗と彼女が率いる部隊以外全てがこの地にやってきた。現在の区分は騎兵を白蓮が、歩兵を鈴々ともう一人の客将が率いる構図である。

 

 軍師は自分とその補佐という形で静里がついている。騎兵の割合が多く、兵数としても袁紹、袁術、曹操に次ぐ四番手。連合軍の中でも無視できない勢力だが、こと兵数に限っては上位の二つが大きく抜きん出ている。兵数を発言力に置き換えるのであれば、袁紹、袁術に対抗できる勢力はない。

 

 やる、やれ、言い出されては身動きが取り難くなるのは想像に難くない。戦果を求めるのであれば、初手が肝心である。どうにかして彼女らを――より正確にはあの軍団を取り仕切っている顔良と張勲を出し抜けないものか。公孫賛軍に合流した時から朱里が頭を悩ませていた問題だったが、後輩である静里が合流したことで一気に解決することになった。

 

 草の軍団を株分けされたことは、卒業生であれば誰でも知っているようなことだったが、株分けされる際に静里に先生は一つ条件を付けたらしい。

 

『連合軍が結成され、汜水関を攻撃する時。どの勢力に所属していたとしても、一番槍を勝ち取るように』

 

 静里から話を聞いて、朱里は全ての事情を理解した。作戦を組み直し、公孫賛に進言。その仕込みのために、現在の公孫賛軍の一番の売りである愛紗がここに来られないという事態にまでなってしまったが、ここで多大な戦果を得られるのであればそれも安い出費である。

 

 問題は全ての作戦が上手く行ったとしても、最後に物を言うのは武力だということ。お膳立てが完璧であっても汜水関を抜けないようでは意味がない。せめてもう少し兵数がほしいところであるが、他所を頼ると戦果を横取りされる可能性も大きくなる。その危険性はある程度覚悟すべきではあるのだろう。

 

 どういう結果になるにしても、ここまでお膳立てをしたのは自分たちなのだ。それをもって多大な功績とするのは公孫賛軍が第四勢力で静里がいる事実がある以上、揺るぎはない。勝利することは大前提として、ことはどれだけ戦果を上積みするかという領域に達している。

 

 理想は兵数は少なく、しかし精鋭である部隊を一つか二つ、しかも別の勢力から借りることだが……こればかりは実際に事に当たってみないとどうしようもない。一番槍で汜水関を落とせる可能性が高いとなれば手柄を横取りされるだろうし、それを説明できなければ納得させることもできない。

 

 最悪公孫賛軍だけで何とかするしかないが、そうならないようにするのが軍師の仕事だ。自分の肩に仲間の命がかかっている以上、手を抜くことなど許されず、まして結果が伴わないことなどあってはならない。

 

「雛里先輩ならこちらの意図をくみ取って合わせてくれるでしょう。後は目端の利く曹操が動いてくれるのが理想ですが」

「足りない分は何とかしなきゃね。何よりここまでお膳立てされて失敗したら……」

「先生に何を言われるかわかったもんじゃありませんね……」

 

 自分たちが失敗した時の恩師の姿を想像し、二人は身体を震わせた。眼前に広がる百万の兵よりも、たった一人の恩師の方が恐ろしい。水鏡女学院の生徒は皆そうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




情報分析……こんな名前ですがクソGM(先生)相手のTRPGだと思っていただければ。

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