真・恋姫†無双 一刀立身伝(改定版)   作:DICEK

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第016話 流浪の軍団編③

 

 

 

 

 

 

 元直が選んだのは住宅街にある、小洒落た雰囲気の店だった。労働者が中心の大衆食堂とは明らかに客層が違う。目につく身なりの良い連中は下級官吏だろう。彼らは来客があったことに入り口に目を向けたが、それが女性の集団であることに目を剥いた。

 

 目ざとい連中は元直と後輩二人が着ているのが水鏡女学院の制服だと気づいていた。才媛を輩出すると有名な学院で、政財界にその出身者は多い。そんな連中がこの地方都市に何の用だろうか。地元の役人としては気が気ではないが、元直は主人に話を付けると奥まった個室へ足を進める。

 

 金の使い方が堂に入っている。おそらく普段からこういう所を使っているのだろう。一緒に旅をした仲ではあるが、経済的な感覚には開きがありそうだった。

 

(思えば洛陽にいた時からこんな感じだったな……)

 

 一緒に散策していても遊び方が綺麗と感じたものだ。それでいて楽しそうに見えないというのではなく、同行している人間にも常に気を配っている。良い意味で遊び慣れている社交的な人間だ。初めて足を踏み入れる都会で遊ぶことになっても、こいつと一緒にいれば大丈夫という安心感がある。

 

 個室に案内された元直は一刀たちに席を勧め、適当に注文を済ませると帽子を取って一礼する。

 

「そちらのお嬢さんたちは初めましてだね。僕は徐庶。字は元直。一刀とは友人で、洛陽から村まで一緒に旅をした仲だ。見て解るかもしれないけど、水鏡女学院の出身だ。後輩共々よろしく」

「私は郭嘉。字は奉孝と申します。学院きっての才媛と名高い貴殿に、お会いできて光栄です」

「その肩書も後輩二人に持っていかれそうで、冷や冷やしてるけどね。こちらこそ『神算の士』と名高い郭嘉殿にお会いできて光栄だ。それでそちらは――」

「徐晃。字は公明」

 

 シャンの自己紹介は短い。お前と関わり合いになりたくないという感情が透けて見えていた。小さな両手で抱えた椀に口を付けながらも、視線は全く元直に向けようとしない。口数は少ないが人につっけんどんな態度を取るような少女ではないはずなのだが、何か理由があるのか。それを聞こうとした一刀を、元直が指で制した。

 

 元直は卓に身を乗り出してシャンに顔を近づけると、努めて優しい声音で言った。

 

「大丈夫。別に一刀を取っていったりはしないよ。見たところ君はかなりの手錬のようだ。君みたいな可愛い武人がいるなら、一刀も安心だね。僕の親友のことをよろしく頼むよ」

「…………ごめん。シャンが悪かった」

 

 シャンがおずおずと差し出した手を、元直は笑顔で握り返した。惚れ惚れする程の気の回しっぷりに内心で感心していると、一刀の袖がちょいちょいと引かれる。

 

「お兄ちゃん、この人凄い良い人?」

 

 手錬よりもかわいいという言葉を気に入った様子である。今までシャンの周囲にいた人間は、誰も彼女に可愛いと言ったことがなかったのだろうか。こんなにかわいいのに……と思いながらシャンの髪に手を伸ばす。唐突に髪に触れられたことにシャンは僅かに身体を震わせるが、すぐに髪をすく指を受け入れて笑みを浮かべる。

 

「一刀、そういうのは君らの部屋でやってもらえるかな?」

 

 放っておくといつまでもいちゃついていそうな気配を感じた元直が、少し強い語調で断りを入れる。隣では郭嘉が額を押さえて苦い顔をしており、少女二人は『私たちは何も見てません』という顔で視線を逸らしていた。そもそも、今は少女二人の自己紹介のタイミングである。咳払いをしてその場を誤魔化す――誤魔化したことにした一刀は、視線で少女たちに先を促した。

 

「しょ、諸葛亮。字は孔明です」

「鳳統。字は士元と申しまひゅ」

 

 かみかみであるが、少女たちの名乗った名前を聞いた一刀は動きを止めた。片方に聞き覚えがある。諸葛亮。字は孔明。三国志を全く知らない人間でも名前を知っているだろうその人物は、主人公格の一人である劉備に仕えた天才軍師として知られている。

 

 一刀は諸葛亮と名乗った少女の顔をじっと見つめた。頭にはベレー帽。薄い青色の長い髪は首のところで二つに縛られている。気が強い性質ではないのだろう。視線は定まっておらず常に泳いでいた。自信に満ち溢れた元直とは対象的である。

 

 それは鳳統と名乗った少女も同様だった。一刀が視線を向けると、童話に出てくる魔女が被るような先の曲がったとんがり帽子のつば(・・)で、顔を隠してしまう。一刀の位置から見えるのはおかっぱの金髪くらいである。

 

 最初に出会った水鏡女学院の関係者が元直なせいか、小動物のような、という印象を強く持った。考えれば卒業生在学生が全部元直のような少女、という方が恐ろしい。二人には男心を擽るかわいらしさはあるが、軍師として見ると聊か頼りないようにも思える。

 

 しかし、青い髪の少女は諸葛亮だ。学校を卒業したばかりというならば、まだ誰にも仕えていない可能性が高い。仕官先に向かっている途中という可能性もあるが、それにしては急いでいる気配が感じられなかった。元直はここで出会わなければ村まで足を運んでいた風である。後輩の二人は元直の旅に同行していると考えるのが自然だろう。

 

 小さく、溜息を吐いた。

 

 一刀に三国志に関する知識はほとんどない。それでも、諸葛亮が後の三大勢力の一角、その大軍師であることは知っている。この世界が三国志に似た世界であることも、荀家にいた頃に薄々ではあるが気づいていた。

 

 問題なのはここが同じ世界ではなく、似た世界ということだ。

 

 仮にここが同じ時間軸の過去であるとしても、既に未来から過去に向かって一人の人間が移動している以上、同じ過程、同じ結末になるとは限らないし、何より重要人物の性別が変わっているという重大な差異がある。

 

 女だからこそできることも勿論あるだろうが、男でなければできないことも当然ある。性別とはそれだけ個人を構成する要素の中で大きなものだ。今後の展開が実際の歴史や小説と同じになると、期待するのは難しい。

 

 だが、展開とは別に期待できるものもある。かの史実を元にしたという歴史小説において、重要な役割を果たした人物たち。彼らと同じ名前を持った少女らには、同じような能力、同じような役割があると考えて差し支えないように思える。現に曹操は英傑と評判だし、一刀程度の知識でも聞いたことくらいはある名前が周囲にも何人もいる。

 

 知らない人間が他に思いつくとすれば、精々劉備関羽張飛趙雲、後は呂布くらいのものだろう。趙雲はシャンたちの旅仲間だったらしく、今は幽州の公孫賛の元で働いているという。呂布は朝廷の軍に属しており、司隷が活動の拠点だとか。国士無双の武士として知られており、最強の呼び声高い。

 

 ただ劉備他二名については情報を集めながら旅をしていた郭嘉たちも知らないと言っていた。まだ世に出ていないだけならば良いが、最悪この世界には存在していない可能性もある。やられ役が百人千人消えたところで誰か別の人間がやられ役になるだけだが、三勢力の一つの代表が存在しないのでは展開が大きく変わる可能性があるが――そもそも、そんなことを気にしたところで始まらない。

 

 元より大した三国志の知識はないのだから、三国志のように歴史が転がったところで対応できる所は少ない。現代の知識を活かそうにも、ただの高校生である一刀にはすぐにでも実行できる革新的なアイデアには心当たりがなかった。

 

 火薬ならば作れるかも、と某落第忍者漫画で読んだ知識を元に実践できないか考えてみたが、結局危険すぎるということで誰にも相談せずに断念した。硫黄と硝石と木炭で作れるということは知っていても、どれをどれくらいの分量で混ぜるのか全く解らないし、木炭と硫黄はどうにか他人にも説明できるが、硝石がどういうものでどこで取れるのか一刀には見当もつかない。

 

 この世界にもあくまでこの世界の水準で化学的な知識を持っている人間はいるだろう。そういう人間を捕まえて試行錯誤を繰り返せばいずれ作れるようになるかもしれないが、その過程に危険があることに変わりはない。

 

 一刀の勢力の規模ではその危険を受け入れることはできないし、そもそも試行錯誤するだけの予算がない。生兵法は怪我の元、というのが良く解る思索だった。

 

 ついでに言えば、仮に歴史通りに物事が進まなかったところで、一刀に不都合は全くない。現代から見た過去と同じように物事が進まなければ、北郷一刀という存在が消えるというのであれば本腰も入れようが、今のところ身体が透けたり頭痛がしたりという兆候は見られない。

 

 どういう事情でこの世界に来たのか、一刀は考えないようにしていたが、もし神様のような超常的存在の力で送られてきたのだとしたら、きっとその神様は『自らの欲するところを為せ』と言っているに違いないと考えることにした。

 

 神様については顔を合わせる機会があったら渾身の力を込めて殴りつけるとして、今はともかく諸葛亮である。

 

 この少女が演じる役割は、史実や小説とそう差はないと考えて差し支えないだろう。この少女の小さな肩に、この国の命運が乗っている。少女がどこに行く、誰に仕えるということが、多くの人間の趨勢を決めるのだ。欲を言えば自分のところに欲しい。郭嘉にも程立にも何の不満もないが、物を考える人間こそ今、一刀の勢力では大きく不足している。

 

 後の大軍師であれば大歓迎だが、しかし誰もが郭嘉や程立のように好んで小勢力に籍を置いてくれる訳ではない。名門の学校を卒業したばかりだ。まさか現代と同じで新卒か既卒かを気にするような環境でもないだろう。就職口はいくらでもあるだろうし、是非うちに! という勧誘も掃いて捨てる程あるに決まっている。

 

 そんな純真無垢な美少女二人に、盗賊あがりの傭兵団に来ませんか、と言うのは人間として抵抗があった。アットホームな職場である。やる気次第で出世もできる。現代的な誘い文句が次々に浮かんでくるが、どれも空々しく思えた。どちらも一応事実ではあるのが、救いと言えば救いである。

 

 とは言え背に腹は代えられない。一刀は既に傭兵団の団長であり、団員の将来を預かる立場である。団員の質は団員たちの生存率に直結する。この少女たちが味方にいれば、それだけ味方の命は助かり将来性も豊かになるのだ。輝かしい未来に水を差すのは心苦しいが、人間やはり自分たちが一番大事である。ダメで元々。結婚詐欺師にでもなったつもりで、一刀は小さく余所行きの笑みを浮かべた。

 

「俺は北郷一刀。これから村に向かうつもりだったなら聞いてるかもしれないけど、少し前までそこで自警団の団長をやってた。今は色々あって、傭兵団の団長をしてる」

「詳しく聞きたいね。僕の見立てでは、もう少しもう少しと先延ばしにして、子義ちゃんあたりと番になると思ってたんだけど」

「そんな気配は感じてたけど、幸か不幸かそうはならなかったな。というか、他人の目から見てもそんな雰囲気だったのか?」

「僕が村の人の立場だったら君を放っておかないよ。それなりに顔は整ってるしそれなりに学がある。何より若い男だ。頭数は生産力。若さはその持続性を表す。ちょうど良い年齢の子がいるなら、とりあえず宛がってみようと思うのは当然さ」

「五歳も下だぞ?」

「たかが五歳だろ? それくらい年の差のある夫婦なんて世にいくらでもいると思うけどね」

 

 何を言ってるんだい、と元直は表情でそう言っている。郭嘉もシャンも、子義を宛がうことそのものに思うところはあるようだったが、五歳の年齢差を問題にしているようには見えない。そも、現代でも五歳差の夫婦というのは珍しいものではない。一刀が『五歳も下』と思ったのは、現代で考えると子義がまだランドセルを背負っているような年齢だったからだが、ただ嫁ぐだけであれば十代前半というのは少ないだけでありえない訳ではない。

 

 特に人口が生産力に直結する田舎であればなおのことだ。男も女も夫婦になるのは早ければ早い程良い。その分、子供が沢山生まれ、生産力に貢献できるからだ。子義と夫婦になる。別段、悪い話と思えないのが非常に恐ろしい。長くあの村にいて、周囲にそんな状況を作られていたら。考えれば考える程、あのまま村に残っていたら本当に子義と夫婦になっていた気がする。

 

「誰が君の気持ちを射止めるかには興味が尽きないが、今は置いておこう。自己紹介も済んだことだし近況報告をしてもらえるかな?」

 

 気を取り直して、一刀は最近自分に起こったことを話し始めた。村に二百人からなる盗賊団が押し寄せてくると情報が入ったこと。その盗賊団を追ってきた郭嘉たちが村にやってきたこと。彼女らの作戦で盗賊団に奇襲をかけて幹部を皆殺しにし、子分たちを自分の勢力下においたこと。

 

 その際、『天下を狙う』とぶちあげたことは省略した。仲間たちにも、外でその話は絶対にするなと厳命してある。元直のことが信頼できない訳ではないが、個室とは言え、流石に外でする話でもない。一刀の全ての話を聞き終えた元直は、長い長い溜息を吐いた後、

 

「どうして僕がいない時に、そういう面白そうなことをするのかな。親友として理解に苦しむね」

「悪かったよ。次はちゃんと声をかけてから面白いことをするよ」

「頼んだよ。それでも疑問は残るけどね。二百人の荒くれ者をどうやって支配下に置いたのか、とかさ……」

 

 君の作戦? と元直の視線が郭嘉に向く。

 

「いいえ。勧誘に関しては一刀殿に何の入れ知恵もしていません。彼の器を見るためでもありましたから」

「なら、一刀は君の眼鏡に適ったのかな。最初はどうして君がと思ったけど、納得尽くでいてくれるなら安心だ。一刀、この眼鏡の美人さんを逃がしちゃだめだよ?」

「愛想を尽かされそうになったら、拝み倒してでも引き留めるつもりだよ」

「仲が良さそうで何よりだ。傭兵団ということは、いずれ起こるだろう大戦までは、盗賊を狩って生計を立てるつもりなのかな」

「そのつもりです。先ほど大手の商家に挨拶に行ってきました」

「繋ぎを作る、ということだね。しばらくはこの街を拠点に?」

「この辺りではここが一番大きいですからね。もっと大きな街に行っても良いのですが、そういう場所には似たような勢力が多くありましたし……」

 

 村に到着する前、情報収集をしながら旅をしていた郭嘉は、近隣の街の状況を良く理解していた。もっと良い街に行くこともできたがここで妥協したのは、そういう存在を知っていたからに他ならない。無論のこと頭脳で負けるつもりはないが、地元有力者の支援を受けているという段階で、彼らは勢力として一歩も二歩も先を行っている。兵数では既に同等以上のものなのだ。彼らに勝つのに必要なのは、時間だけである。

 

「今は雌伏の時という訳だね。いずれ軌道に乗るとは思うけど、まだ乗ってはいない。なら、僕らにもまだ機はあるってことかな」

「協力してくれるってことか?」

「いや、もっと打算的な表現をしよう。業務提携のお誘いさ。僕は――水鏡女学院は、一刀の将来に期待して情報を提供する。代わりと言っては何だけど、将来君が立身出世したら、僕の後輩たちのために就職を世話してくれないかな?」

「名門女学院の期待に応えられるか解らないぞ?」

 

 全国にその名が知られるような名門校。通っているのは名家の子女に限らず、全国から優秀な少女が集まっているという。全てが元直に匹敵するという訳ではないだろうが、その卒業生となれば超のつく優秀な人間だ。いずれ天下を取るとぶちあげている。最終的には何でも受け入れられるようにならなければならないが、それはあくまで最終的な話。名門校の少女を受け入れられる体制が、何時整うかは現状全く見通しが立っていない。

 

 一刀の問いにはそれでも良いのか、という確認の意味も込められていたが、元直は大して考えた様子もなく首を縦に振った。

 

「いくら優秀な生徒を生み出しても力を活かせる場所がなければ意味がない。就職口が増えれば、優秀な人間は取捨選択の幅が広がるし、そうでない人間も進路に幅ができる。後、卒業生だけでなく途中で退学になった生徒たちについてもできる限り就職口は世話をしなきゃいけないからね。就職口は多いに越したことはないのさ」

 

 ただの卒業生というよりは教務員のような口ぶりである。お使いに行かされたり後輩の面倒を見たり就職口の世話をしたり、元直の仕事は一体何なのだろうか。その興味は尽きないが、彼女の提案は一刀にとって願ってもない話だった。

 

 元よりこちらはお願いする立場なのに、向こうから枠を確保してくれとお願いされている。現時点では、一刀側に大きなうま味があるだけで、水鏡女学院にはそれがない。即断即決しようとした一刀がブレーキをかけたのは、その差分に何が充てられるのか解らなかったからだ。

 

「嬉しいよ。ちゃんと用心深くなったんだね。二つ返事で是と言っていたら、軽く説教でもするところだった」

「他にも条件があるんだろ?」

「うん。僕からの要望は二つ。これからは僕と連絡を密にしてほしいということ。早い話、水鏡女学院の情報網に協力してほしいんだ。勿論、全ての情報をよこせなんて言わない。あげられるものだけで構わないから、適宜情報をこちらに送ってほしい」

 

 悪い話ではないように思える。小勢力である一刀たちは、確固とした情報網を持っていない。既に持っている勢力のものを使わせてもらえるなら、これに越したことはない。勝手に情報を吸い上げられる、という可能性もあるにはあるが、情報を吸い取られるデメリットよりも、情報を得られるメリットの方が大きいように思えるのだ。

 

 一刀は視線を郭嘉に向けた。個人的な考えでは、この話は受けておきたい。元直は信頼に値する人物だし、水鏡女学院とのコネは維持したい。黙っていても有望な新人を確保できる……可能性がある環境は、先々のことを考えるならば今の内に構築しておきたい。

 

 その優秀な新人を受け入れる体制が整うのは二年も三年も先だろうが、元来先行投資とはそういうものだ。確定した未来を観測できないからこそ、皆懸命に勉強するなり手を回すなりして、将来に備えるのである。

 

 一刀の視線を受けて、郭嘉は小さく笑みを浮かべた。

 

「私の顔色を窺う必要はありませんよ。貴殿の思うようになさってくださって結構です」

 

 部下を思う上司と、上司を立てる部下の演出である。それを装っているが、これは迂遠な表現による郭嘉のゴーサインだ。受けて問題なし。希代の軍師はそう言っている。

 

「ありがとう郭嘉。やっぱりお前は頼りになるな」

「おだてても何も出ませんよ」

 

 そっけない態度だが、口の端が僅かに上がっている。シャンや梨晏ほど感情表現が豊かな訳ではないが、起伏が少ないという訳ではない。個性の塊のような程立と一緒に旅ができたのだ。郭嘉も相当な変わり者である。

 

「それは問題ない。受けようと思う。もう一つは?」

「こっちは特に深く考えずに受けてくれると嬉しい。僕の最も自慢する後輩であるところのこの二人を、しばらく預かってもらえないかな?」

「それは願ってもない話だけどさ……」

「学院でも演習はするんだけどね、それはあくまで演習だ。実際に就職してから軍権を預かることになる訳だけど年端もいかない美少女にいきなり軍権を預けるには色々と抵抗がある。未経験なら尚更ね。そういうところでしらない衝突を避けるために、実地訓練をできるだけさせておきたいのさ。君のとこにはデキる軍師もいるし、徐晃ちゃんみたいな腕の立つ美少女もいる。後輩を預けるには持ってこいの環境なのさ」

 

 持ってこいとは言うが、軍権をいきなり預けるのは抵抗があると言われたばかりである。少女二人を受け入れるということは、それをするということだ。元直の紹介である。しかも諸葛亮だ。一刀には受け入れることに全く抵抗がなかったが、普通はいくら優秀でも抵抗があるものなのだろう。何しろ元直が態々条件の一つに数えるくらいだ。

 

「良いよ。構わない。むしろ俺からお願いしたいくらいだ。元直の紹介なら安心だしな」

「そう言ってもらえると助かるけどさ。僕だからってのは信用し過ぎじゃないか?」

「親友なんだろう? それくらいは信頼するよ」

「…………君も言うようになったね」

 

 元直は肩を竦めて苦笑した。信頼までされたのでは、疑問を持つ訳にはいかない。いくつもの懸念が一気に解決した。これで後輩の未来が開けるならば、安いものだ。

 

「君の仲間たちに挨拶に行かないとね。子義ちゃんの顔も見たいし、もう一人の軍師さんにも会ってみたい」

「良い奴だよ。元直もきっと気に入ると思う」

「楽しみだね」

 

 ほほ笑む元直の横で、所在なさげにしている少女二人を見る。ベレー帽の青髪と、魔女帽子の金髪。諸葛亮と鳳統。少女二人に、一刀は妙な違和感を覚えていた。言葉にはできないが、何か大きなことが違っている気がする。

 

 元直を見る。彼女は笑顔を返してくるだけだ。ここに何かあるという気配はないが、元直ならばそれくらい笑顔の下に隠して見せるだろう。元直のことは信頼できる。何か隠しているとして、それがこちらに危険があるものではないと確信は持てた。

 

 ならば、気にすることはないと、一刀は思うことにしたが、何かを試されていることは解った。これは少女二人の実地研修であると同時に、北郷一刀の面接試験でもあるのだ……

 

 

 

 

 

 

 




違和感の正体については後々に。多分想像の通りです。

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