真・恋姫†無双 一刀立身伝(改定版)   作:DICEK

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第013話 とある村での厄介事編⑦

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦後処理である。まずは全員で死体を脇に片付けた後、生き残った盗賊たちは一ヵ所に集められた。自警団員はそれを囲むようにして配置されている。その正面には一刀と子義と徐晃。軍師役である程立と戯志才はその両脇に立った。

 

 話をするなら程立たちの方が……と一刀は中央に立つことを辞退しようとしたが、一番身体を張った功労者はお兄さんですからーと押し切られてしまった。誇らしげに両脇に立つ子義と徐晃を見ると悪い気はしないが、分不相応に偉そうに思えて、気分が落ち着かない。

 

 話し合いについては、生き残りの盗賊たちの中から代表者が立てられた。廖化という名前の三十絡みのダミ声の男だ。代表に立てられるだけあって盗賊たちからは信頼を得ているらしい。いかつい顔には違いないが悪人というよりは現代の土方のような雰囲気である。

 

 その土方っぽい廖化が、一刀たちを見て盗賊たち全員が思っていた疑問を口にした。

 

「…………結局よお、お前らはどこの誰なんだ?」

「俺たちはこの先にある村の自警団だよ。今日は先手を打って襲撃にきた」

 

 一刀の言葉に、盗賊たちは心の底から安堵の溜息を漏らした。奇襲という条件が伴ったからこそ、自分たちが見逃されたのだということが理解できたからだ。予定通りに村を襲撃していたら、大した加減をされることもなく、皆殺しにされていたことは想像に難くない。

 

「ところでまず質問なんだけどさ、お前たちは頭領ってどうやって決めるんだ?」

 

 盗賊のリサーチをしていた程立の言うところには、発起人が頭領になるケースが定番ではあるが、盗賊も生き死にの激しい職業だ。発起人がいつまでも生きていることは少なく、いざ発起人が死んだ時、スムーズに頭領が交代できるケースは少ない。 明確に序列を決めて副団長を用意しているケースもあると程立は言ったが、それに全ての人間が納得している訳でもない。

 

 それならお前たちのところはどうだったのか、と手近なところでサンプルを得ようと思ったのだが、一刀の問いに廖化たちは顔を見合わせた。

 

「……お前知ってるか?」

「知らん。そういや、何でお頭はお頭だったんだ?」

「俺が合流した時にはもうお頭だったぜ?」

「あぁ、幹部連中は皆死んじまったからなぁ……」

 

 盗賊たちはひそひそと話しあってはいたが、内容を聞くに結論は出そうにない。頭領本人と幹部が全滅しているのである。順当に考えれば組織の中では彼らが古参のメンバ-だろう。彼らが全滅した以上、それよりも後に入ってきた人間ばかりになるのは自明の理だ。

 

「とりあえず、解らないってことは解ったよ。話を早くするのに、とりあえずお前たちのお頭はお前たちをやっつけた俺たちってことで良いかな」

「それは異論ねえ。頭領をぶっ殺したんだからな。とりあえず、あんたをお頭と呼べば良いのか?」

「いや、俺じゃなくて俺たちって話だったんだけど――」

「風たちはこの人に率いられてきました。ですので、今日からこの人が貴方たちのお頭です」

『へい、姉御!』

 

 程立の物言いに盗賊たちはかしこまり、彼女に対して礼をした。話の流れでお頭になったはずなのに、盗賊たちは程立の方をより敬っている気がする。要所を押さえて、自分のしたいことを相手にさせる。そのための話術に長けた程立は、今の一刀たちの集団の中ではかなりの主導力を持っている。

 

 口の達者さでは戯志才も負けてはいないのだろうが、こと、今回の仕事については程立が異常なまでに積極性を発揮しているらしく、一歩引いた位置に立っていることが多かった。

 

「別に、彼女と付き合いが長い訳ではないのですが、これ程熱心に物事に取り組むとは思いもしませんでした。彼女なりに、思うところがあるのでしょう」

 

 とは、戯志才の弁である。何が程立をそうさせるのか一刀には見当もつかなかったが、ともあれ程立ほどの智者が知恵を貸してくれることは、一刀たちにとっては好都合だった。

 

 現に盗賊団はその機能を失い、交戦をしたというのにこちらには死者が出ていない。負傷者も、軽傷の者が三人いただけである。その三人すら、こんなものは唾を付けておけば治ると言っていた。十倍近い戦力を相手にした大戦だ。文句なしの大勝利だ。

 

「まずはお前たちのこれからについて話しておかないといけない」

 

 一刀の言葉に、盗賊たちは静まりかえった。捕まった盗賊の『その後』など考えるのもバカらしいくらいに決まりきっているが、勝者の言葉だ。それとは別に、けじめというのはつけなければならない。

 

「通常なら、お前たちはこれから官憲に突き出される。牢屋にぶち込まれるか、強制労働か、雑な判断をされて死刑か。いずれにせよ、ロクなことにはならないだろう」

 

 文句が出るかと思っていた一刀は、揃いも揃って神妙な面持ちである盗賊たちを意外に思った。事実、暴動くらいは起こされるかと覚悟していたのだが、その気配がまるでない。既に全員が自分のロクでもない未来を完全に受け入れている風ですらある。

 

「……文句は言わないんだな」

「俺たちも好き放題やったからなぁ……文句言えた義理じゃねえよ。まぁ、できれば捕まるのは勘弁してもらいたいが、ここから逃げ切れるとも思えねえしな。なに、今すぐ死ぬよりは大分マシさ」

 

 ここで負けてしまったのが運の尽きだ。元より、盗賊たちの誰も、この生活を長く続けられるとは思っていなかった。盗賊に身を窶す以前も、どんづまりの生活をしていた。どんづまりが、どんづまりのどんづまりになっただけのこと。それがついに終わるのだ、と思えば少しは気分も良い。

 

 もっと泣きわめいて文句を言うものだと思っていた。盗賊たちの目にあるのは諦観である。人間、死ぬ時は死ぬのだと彼らは理解しており、自分たちにその番が来たことを受け入れている。潔いと言えば、そうなのだろう。自分たちを打ち破った相手を恨まぬというのであれば、打ち破った側の気持ちもいくらか救われるというものだ。

 

 肩すかしも良いところだが、注文通り(・・・・)ではあるのだ。死を受け入れている彼らに、怖い物はない。無理難題を突き付けるなら今だと、程立は作戦を実行する前、最後の仕上げとしてそれを付け加えた。

 

 二百人からなる、戦闘可能な集団。今の世にこれを遊ばせておくのは勿体ないと、程立は言った。官憲に突き出しても、牢屋か労働か首を刎ねられるか。いずれにせよ、貴重な戦闘資源が無駄に消費されることには違いない。

 

 それならば、有効に使える内に有効に使ってしまおう。それを実行するのは――

 

(貴方ですよ、お兄さん)

 

 と程立が視線で言っている。やるなら今だと、軍師殿の仰せだ。この作戦を知っているのは、この場にいる中では程立と、その盟友である戯志才だけだ。重要な戦闘を担う前に、余計なことを考えさせるべきではないと、子義と徐晃には教えられなかった。

 

 俺には良いのかと文句を言った一刀に、程立は笑みを浮かべて答えた。

 

「お兄さんには、それ以上の覚悟を背負ってもらわないといけませんからね。これから(・・・・)のことを考えたら、これくらいのことは簡単にこなしてもらわないといけません」

 

 昨日今日出会った少女に、これからの人生のことを問われる始末である。居並んだ二百人の盗賊たちを見て、北郷一刀は考えた。村で自警団の訓練をしている時、故郷のことはあまり思い出さなかった。家族のことも、友人のことも脳裏に浮かばない。ただ考えていたのは、どうすれば彼らを強くできるか、どうすればこの村がもっと豊かになるのか。

 

 自警団が強くなれば、それを担保に安全を買うことができる。不慮の人災に対応できるようになるだけで、この時代では生存率が大幅に向上するのだ。一刀にすればたったそれだけのことだ。かつて『水と安全はタダ』とさえ言われた国で生まれ育った一刀は、この国のことを知れば知る程、何とかしてやりたいと思うようになっていた。

 

 そのためにはどうしたら良いのか。考えれば考えるほど、自分には全てが足りないことを自覚する毎日だった。

自分には力が足りない。金が足りない。権力が足りない。それら全てを持っている人間でも、国が腐ることを止めることはできなかった。

 

 もっとも、全てにおいてこの国よりも恵まれた現代においても、世界を、全ての人間を正しい方向に導くことはできなかった。科学や文明が進化したところで結局のところ、人間のすることは変わらないのである。ならば自分にできることは何もないのではないか。鬱屈しかけていた一刀のところに、お人形さんのような少女はそっと、耳元で悪魔のように囁いた。

 

 ここに、力があるぞと。人とは力、力とは礎である。その礎の上に文明が生まれ、国が興り、人の歴史が続いて行く。その一端を担う力が、目の前にあるのだ。それは即ち、この国の歴史への挑戦権に他ならない。一つの大きな戦が終わり、これから更に大きな戦が起こるという。

 

 そうなれば、より多くの血が流れ、多くの権力者が覇を競おうとするだろう。そこに一石を投じることは、流す血を増やすだけではないのか。疑問は残るが、自分ならという思いもある。この国で生まれた人間ではないからこそ、持てる感性というものもあるはずだ。

 

 頂点に立てなくても良い。自分の意見を聞いてもらえるだけの立場に就ければ、より良い国を作ることに協力することができる。そうまで考えると、一刀の口から自然と言葉が出ていた。

 

「そこで、俺からお前たちに提案がある。どうせならってことなんだけど、傭兵とかそういうものになってみないか?」

「…………なんだって?」

「牢屋とか強制労働とか処刑台とか嫌だろ? それなら危険ではあるけど、そこそこの自由が保証される傭兵の方が良いんじゃないかと俺は思うんだけども……」

「いやいや、ちょっと待てよお頭。俺たちゃ盗賊だぜ? 盗賊に傭兵になれって言うのか?」

「珍しいことでもないと思うけどな。どうだ、程立」

「食い詰め者の行く先としては、傭兵も盗賊も定番ですからねー。きちんと集計をした訳ではありませんが、真っ当な経歴をお持ちでない方も、かなりの数いると思いますよ」

「だ、そうだ。今盗賊であることと、過去盗賊であったことは、この際大した問題じゃないよ」

「お頭はそれで良いのか? その、お頭の村を俺たちは襲おうとしてた訳だが……」

「つまり、襲ってない訳だろ? 襲ってたらそりゃあ、自警団な手前手心を加えるつもりはなかったさ。盗賊とは言え奇襲をかけて幹部を皆殺しまでした俺の方にこそ、お前たちに負い目がある訳だけど、それをお前たちは頭にしてくれた。これでお互いに遺恨はなしだな」

 

 言葉にすれば簡単だが、お互いが内心でどう思っているかなど解るはずもない。自警団の面々も、自分の村が襲われていないから特に強硬な手段に出ていないが、盗賊というそれだけで許せないという気持ちはあるだろう。

 

 自分たちが悪党であるという認識があるからこそ、彼らはそれ以外の人間に信を置けない。そんな上手い話があるはずがないと、心のどこかで思ってしまうからだ。新しく頭領になった男とは言え、上手い話だ。俄かに信じることはできない。その疑いを一つ一つ晴らそうと、一刀は言葉を重ねる。

 

「俺の生まれた国じゃ、農民の子から大将軍になった男もいた。この国だって、帝国を興した劉邦は元々は亭長だった。盗賊から傭兵くらい、どうってことないだろ」

「そうは言ってもなぁ……というか、傭兵ってのは盗賊よりも儲かるのか?」

「いや、収入は今までよりも激減するし、窮屈な思いをするだろう。俺がお頭になったからには略奪は許さない」

「それじゃあ、どうやって稼ぐんで?」

「略奪してる奴をぶちのめす。俺からするとおかしなことではあるんだけど、今の世の中だと盗賊ならいくら雑に扱っても国も民も許してくれるらしい。お前たちだって結構ため込んでただろ? 今度はそれを狙うんだ」

 

 無論全てを懐に収めては角が立つから、ある程度は世に放出する必要があるだろうが、それでもそれなりの収入にはなるはずだし、盗賊を倒すということで農民たちからはそれなりの歓待を受けることができる。盗賊の時は村や街に入るにも抵抗があったが、これからは違う。精神面でも大きな違いがあると言って良い。

 

「同業者を襲うってのか」

「盗賊しか襲わない俺たちは、もう同業者じゃないから遠慮する必要はないぞ。頼もしい軍師殿が調べてくれたところによれば、この国に盗賊はまだまだ沢山いるらしい。金がなっている木だ。蹴飛ばして実を落とさない手はないぞ」

「今までよりも危ねえんじゃ……」

「武装してる奴を襲う訳だから当然危険は伴う。そこは我慢してほしい。でも、官軍と戦わなくても済むし、場合によっては協力することもあるだろう。あっちもあっちで人手不足だからな。戦力を高く売り込んでやる好機だ」

「断ったら皆殺しか?」

「そこまではしないよ、官憲に突き出す。ちなみに残ってくれれば、今までお前たちで稼いだ分を頭割りして全員に再分配する。嫌だと言ったらその時点で再分配には入れない。大人しく俺たちの糧になってくれ」

「つまり、全員が反対したら?」

「お前らが稼いだものは、俺たちが全ていただく」

 

 汚ねえぞ! と男たちが大合唱するが、一刀は耳を塞いで聞こえないふりをした。勝者総取りというのは、アウトローの解りやすい原理原則である。感情に任せて文句は言うが、理不尽だとは思わない。何故なら彼らも同じ立場であればそうするからだ。

 

「さて、この時点で傭兵になっても良いって奴は?」

 

 一刀が手を挙げると、盗賊たちの内半分程が手を挙げていた。その中には廖化も含まれている。官憲に突き出されるよりは、と打算的な判断でこちらに来ることを選択した者たちが。正直、この段階で転ばれるというのもそれはそれで信用ならないのだが、信頼関係は今後構築して行けば良い。今すべきは一人でも多くの盗賊を、真っ当な道に引っ張り込むことだ。

 

「じゃあ次はメリット――良いことを話す。これはまだ内緒の話なんだけど、一年くらい先、遅くても三年の間には黄巾の乱以上の大戦が起こる。兵はいくらいても足りなくなる。そこで一旗揚げることができれば、一生食うには困らなくなるくらい稼げるようになるだろう。故郷に錦を飾ることもできるぞ」

「黄巾の乱は終わったばっかりですが…………あれ以上の戦が起こるんで?」

「三年以内には必ず(・・)な」

 

 それで、盗賊たちは沈黙する。ただの民にとっては良い迷惑だろうが、身体一つで勝負するつもりのある人間にとって戦というのは稼ぎ時だ。ましてこれから傭兵でもやろうかという集団なのだ。戦は多ければ多い程良い。先ほど手を挙げなかった人間の半分は、傭兵になっても稼げないことを危惧していた。

 

 一年から三年と幅こそあるが、確実に起こるというのであればそれに賭けるのも悪くはない。無論、ただのホラ話という可能性もあるにはあるが、その時はその時で好き放題すれば良いのだ。元より、官憲に突き出されるか傭兵になるかの選択である。そこに稼げる可能性が加わったのだ。強制労働や牢屋、死ぬよりはずっと良い。

 

 そこまでで、残った盗賊の更に半分が賛成に回った。それでも残るという盗賊たちの諦観は深い。生き残る可能性、稼げる可能性を示しても、まだ死刑の可能性の方が良いと言っているのだから、その根深さが伺える。

 

 どうしたものか。考える一刀の横顔を、風は無言で眺めていた。風がさせたかったのは、まさにこれだ。動かないはずの人間の心を、動かすことができるかどうか。一騎当千の武人でもなく、知略で全てをひっくり返す智人でもなく、人の上に立って人を動かし、利ではなく心で人を導ける者。

 

 その資質が一刀に欠片でもあれば、力を貸すことも吝かではない。既にシャンは心を決めているようだし、今は戯志才を名乗る友人の反応も悪いものではなかった。ここで器を示してくれるのならば……と期待を込めて、風は一刀を見つめている。

 

 口説き落とすための助言は何もしていない。ここで話していることは全て、一刀が自分で考えたことだ。風の目から見ても良い線を行っている。正直ここまででも、十分に合格点をあげても良いくらいだ。これで残りの連中まで口説き落とせたら上出来を越えて、出来過ぎである。

 

 程立から期待の視線を受けていることも知らず、一刀は考えた。自らの命でもなく即物的な利益でもない。彼らを動かす者があるとすれば、それ以外の何かだ。利ではなく、心に訴えかけられるもの。それが何であるのかを考えて、一刀は程立を見た。

 

 飴を咥えたお人形さんのような少女は、値踏みするような目でこちらを見つめていた。試されている。そのことに憤りはない。程立たちは十分に仕事をしてくれた。自警団だけでは村を守ることはできなかったし、こうして盗賊団を前に話す機会も持てなかった。むしろ恩義に感じているくらいである。

 

 その恩義に報いるためにも、程立の眼鏡に少しでも適うような人間であると示してみたい。自分のこと、彼らのこと、これから名を馳せるであろう程立たちのこと。時間をかけて考えて、一刀はそれを覚悟と共に口にした。

 

「――俺は、天下を狙う」

 

 しんと静まり返っていたはずの場が、更に静まりかえった。沈黙が深くなるという現象を肌に感じながら、一刀は静かに興奮を覚えていた。自分が一体何を言っているのか。それは十分に自覚している。目をまん丸にして飴を取り落としてしまった程立を見れば、これが客観的に見てどの程度の大言壮語であるのかうかがい知れるというものだ。

 

 ホラ話で済むようなものでもない。場合によってはその場で首を刎ねられてもおかしくはない危険な言葉だが、そこまでやってようやく諦観に満ちていた残りの面々が聞く姿勢を見せた。居並んだ人間全員の目が、自分に集まっている。静かに高揚した一刀は、更に話を続けた。

 

「お前たちの協力を得た俺は、天下に名を馳せやがて天下を差配するようになる。広い部屋の中央にある玉座に俺が座って、その周囲にずらりとお前たちが並ぶんだ。今から欲しい役職を言ってくれ。そうしてくれたら、その役職に就けるよう最大限努力するよ」

「大盤振る舞いだな! するってえと、俺たちのお頭は陛下になるのか?」

「今から呼ばないでくれよ。俺もまだ死にたくないからな」

 

 盗賊たちの間に、一笑いが起きた。久しぶりに笑ったと、心の底からの笑みである。ホラ話であっても、ここまでぶち上げる人間は、盗賊家業の中にもいはしない。そんな人間が自分たちのお頭になったのだ。盗賊である自分たちももしかしたら、と夢を抱くには十分である。

 

「そんな訳で。俺の目指す山は遠く険しい。登りきるためには頼りになる仲間が必要だ。この大言壮語に付き合ってくれるからには、相応の報酬を約束する。自慢じゃないが、俺ほど分け隔てなく人材を登用して、働き相応の報酬を支払える人間は、他にいないぞ」

 

 盗賊たちを見まわす。全員が、一刀を見ていた。諦観の中にいた面々も、全てではないがそれが払拭されている。元より何もしなくても、ロクでもない死に方をするのだ。人生の最後にバカをするのも、悪い話ではない。そして付き合うのならば、最高のバカが良い。

 

「俺についてくるのに、異論のある奴はいるか?」

 

 ただ座っていただけだった盗賊たちは、一刀の言葉に居住まいを正し、全員が跪いた。それを見て、一刀は満足そうに何度も頷く。

 

 

 

 

「何度も何度も、窮屈な思いをさせるかもしれないけど、惨めな思いだけは俺が絶対にさせない。せめて胸を張って生きて、その内できるかもしれない家族にこう言おう。お前の夫は、お前の父親は、この国と、そこで暮らす人々と、そしてお前たちを守るために、多くの仲間と命がけで戦い、そして生き残ったと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これでこの章は終了になります。
事後処理の事後処理は次章の頭にて。
次章『流浪の傭兵団編(仮)』となります。

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