この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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旅の始まり

 

めぐみんが、散々とゆんゆんを追い掛け回し泣きながら帰らせた後。

 

俺達は屋敷に戻り、綺麗な断面で切り裂かれた玄関のドアをカズマが上手く修復しながら。

 

「しっかし、面倒な事になったな。あのミツルギとか言う奴、ゆんゆんとめぐみんの決闘中にいつの間にか逃げていきやがった。……絶対また来るだろ」

 

確かに、まだ少ししか会話を交わしていない御剣だが、なんとなく一度決めた事はどんな事があっても曲げないとか言い出しそうな、面倒な性格な気がする。いや絶対にそうだろう。

 

「ううむ…本当に王都からパーティの勧誘の為に人が来るとは思っていなかった。ユウキはどうしたいのかは本人に任せるが、これ以上魔王軍幹部を討伐なんて勲功を重ねれば、何時かは王家にも目を掛けられる存在になるかもしれんな。……善い行いをして迷惑な存在が増えるとは皮肉だな」

 

顎に手を当てて、ふむといった感じでそう言ったのはダクネスだ。大貴族の娘であるダクネスは、それこそ王都には多大な情報網が張り巡らされており、きっと王都の情勢にも詳しいのだろう。何故だか、王都の冒険者に嫌悪感を抱いている気がするが…。まあ、そこには突っ込まず話を先に進める。

 

「そうだな…毎日毎日屋敷に現れては何処かを壊されそうだし…うーん。俺とアクアだけ宿に泊まるとかにしてみるか?」

 

「いや、それは止めた方がいいね。他の街から来た冒険者は、必ずと言っていい程その街の宿で宿泊する。王都と比べて圧倒的に狭いこの街の中じゃ、向こうが二人の名前を出せばすぐに見つかってしまうのがオチだよ」

 

俺の考えを、普段より真面目な表情をしているサティアが遮った。

 

ううん…何かないのか…。

 

すると、こたつに篭りみかんを口に放っていたアクアが急に、情熱的な雰囲気を漂わせながら立ち上がった。

 

「――ッ!そうよ!こういう時こそ、アクシズ教の総本山であるアルカンレティアに、温泉旅という事にして疎開するのよ!私の信者の凄さも教えられるし、あのナルシスト男からも当分の間逃れられるわ!まさに一石二鳥ってヤツね!」

 

ああ、そういやアルカンレティアの事をすっかり忘れていたな。

 

温泉か。

……温泉?それは、勿論裸になって湯の温かさを楽しむ物だ。

 

温泉の他には、旅館から見える、観光客が大勢犇めいている商店街等で、その地ならではのお土産なども楽しんだりする。

 

そういう概念の事柄であるはずなのに、何故か高揚感が収まらない。

 

裸か?実はちょっと俺、混浴でも期待してるのか?

いや、俺も来年には十八禁の壁が破壊される年だ、という事は、多少は色々お盛んであってもいい。

 

それに、八億もの大金を手に入れてから、高級酒の味をすっかりと覚えてしまい、ここ最近はサキュバスのお姉さんにもお世話になっていない。

本当にぶっちゃけて言ってしまえば、ここんとこそれを発散させていないのだ。

 

……今回は、羽目を外してしまえる…のか?

 

     2

 

――翌朝。

 

「朝よ!ほら、皆いつまでも寝てないで起きて!皆、準備は良い!?起きて起きて、ほら早く!」

 

早朝だというのに、アクアの騒がしい声が屋敷中に響き渡る。

 

俺とは違う意味なのだろうが、温泉旅行がよほど楽しみだったのだろう。

 

そして、俺はといえば――

 

「おし、俺も準備は出来てる!カズマの方も準備は出来てるそうだ!……しっかし、女性陣三人がまだ寝てるぞ。アクア、ここは大きい声で叩き起こしてやってくれ」

 

「任されたわ!その間にユウキはギルド前の乗合馬車の待合場で、一番良い席を確保してきて頂戴!」

 

「おし、出来るだけ良い馬車を先に手配しておきたいから、荷物とか金の管理は悪いけどそっちに任せる!」

 

俺はそう言って、良い馬車をなるべく独占すべく、相場より少し多めに用意した手配料を持ち、足早に乗合馬車の待合場へ向かった。

 

 

――水と温泉の都、そして一部の人間からしてみれば聖地巡礼という意味合いもとれる、様々な人達が楽しむ事が可能である観光地、アルカンレティア。

 

このアクセルの街からは、馬車を使って一日半ほどで到着するらしい。

 

つまり、早朝から馬車を手配し出発すれば、野宿をするのは一日で済むわけだ。

 

向こうで何泊するかはまだ未定だが、最低でも一週間は向こうでのんびりとしないと御剣は諦めないだろうという推測的な意見が意外と通ったので、旅費は莫大な金額となるがそこは仕方が無い。

 

 

――馬車の乗合所に着くと、三十ほどの馬車がズラリと並んでいた。

 

その中のいくつかの車両には、まるで今からクエストに向かうと表したげな装備をした冒険者が、二十人ほど乗り込んでいる。

ふとその冒険者達に違和感を覚えたが、俺は頼まれていた馬車の手配に移った。

 

アルカンレティアに行く事になったのは言わずもがな六人。

ウィズの店に居候気味になっているベルディアは、アルカンレティアにトラウマを抱えているとかなんとか以前言っていたので、あえて声を掛けなかったが…まあ大丈夫だろう。

 

さて、この大勢の中、どの馬車がベストなのかが正直判らない。

 

単純に一番豪華な造りで施されている馬車を選べばいいのか?今思えばこっちの世界に来て一年は経ったが、馬車に乗るといった経験はしたことがない。

 

というか、行き先を伝えれば目的地まで連れて行ってくれる形式になっているのか、はたまた日本でいうバスのように、アルカンレティア専用の馬車があったりするものなのか。

 

しまったな、これはアクアに任せておけばよかった。

 

俺が行き場を失いその辺りを右往左往していると、ふと目にした木製の看板に、『アルカンレティア行き』の文字が。

 

その看板の先には、先ほど目に入った大勢の冒険者達の姿がある。

 

…ひょっとして、アルカンレティアって危険な場所にあったりするのか?

 

早速、のんびり温泉旅という目的が打ち砕かれそうだな……

 

      3    

 

「流石よユウキ!女神である私に相応しい馬車を用意するなんて、私が見込んだだけはあるわ!」

 

嬉々としながら、遠足前の小学生のような表情で馬車に乗り込んだアクアが、乗客席から見下ろしながらそう言った。

 

…こんな時間に大声で、女神とかなんとか言うのは冒険者達の目がなにやら冷たいのでちょっとやめてもらいたい。

 

俺が何とか手配した、アルカンレティア行きの小さめの馬車は、御者台と一体になった乗車席の後ろに、荷台部分が連結されている形となっている。

 

その荷台部分には、俺達全員分の荷物が積まれている。

 

御者席の後ろに位置する、木製の乗車席。

 

そこは本来、俺達六人分が座れるようになっている筈なのだが………。

 

「……ねえおじさん、何で既に一席分埋まってるの?これ何?邪魔なんですけど」

 

六席分の座席の内、既に一つが埋められていた。

 

そこにいたのは、小さな檻に入れられた一匹のトカゲ。

 

赤い瞳を持つ、猫ほどの大きさのトカゲは、凶暴そうな瞳を輝かせていた。

 

いや…これってもしかしてサティアと居合わせたらヤバい系じゃ…。

 

「お客さん、そりゃレッドドラゴンの赤ちゃんですよ。飼い主さんは向こうの馬車なんですが、そのドラゴンの分、ちゃんと一席分の値段を頂いておりますんで、お客さんはどなたか一人、座り心地は悪いですが後ろの荷台に移っていただかないと…」

 

俺はなるほどと、直ぐに馬車の運転手の言葉に納得した。

 

実はこの馬車の料金、一席分だけ安かったのだ。

 

誰か一人だけ知らない連中と相乗りなんてのは嫌だろうし、このままこの馬車に乗ることにしよう。

 

「さて、誰が後ろの荷台部分に乗るか…だが」

 

カズマがぽつりと呟いた言葉に、ふとサティアの事情を知らないダクネス以外の全員は、サティアに視線を向けた。

 

「…えっ?いやいやいや、流石に悪さをしない、人に飼いならされてるドラゴンにまで殺戮の対象にしないからね?…んまあ、私はほとんど飛び入りで参加してるような物だし、荷台に座っててもいいんだけど…」

 

視線を向けられたサティアは、前半は笑みを混ぜた話し方だったが、後半に入ってから少し申し訳なさそうに声のトーンを下げながら言った。

 

だがしかし、ここは公平であるべきである気がする。

実は、この温泉旅行は未だにサティアと絡みが少ない、ダクネスやカズマと良い関係を築いていってほしい、またはその足掛かりになってほしいという、俺の個人的願望もある。

 

そういう事であれば、初日から不公平な事は出来るだけ避けていきたい。

 

「いや、ここは公平に全員でじゃんけんにしよう。皆はいいよな?」

 

えっ、といった顔をしたサティアの姿が何となく脳裏によぎったので、あえてそちらは向かず。

 

何となく俺の心境を察してくれた皆が、拳を大きく振り上げて、

 

……じゃーんけん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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