この素晴らしい世界に魔法を! 作:フレイム
そろそろアルカンレティアへの物語に進みます。
誤字脱字お気をつけください。
バニルがウィズの店に戻り、商談を終えてから約小一時間。
意外と早く終わった商談に拍子抜けした所は忘れて欲しかったりする。日は最頂点までに昇っておらず、まだまだ鳥の鳴き声がよく聞こえる時間だ。
嬉々としながら杖を握り、明るい表情をしためぐみんが、ここぞとばかりに言ってきた。
「さて、まだまだ日が落ちるまでに時間があります。ここは一つ、討伐クエストの一つや二つをこなし、私達の復活といこうではありませんか!全員のレベル上げもしていかないといけませんしね」
「え、嫌だよ何言ってるんだ?さっきの商談を聞いていたか?最高幹部の賞金五億。さっきの商談で三億。総額八億、これに上乗せされてデストロイヤーの賞金だ。もう、俺は危険な冒険者稼業を辞め、商売人として生きていくと心に誓ったんだ。レベル上げなんて、俺はそんなのどうでもいいよ」
…先ほどよりも深くこたつむりになっているカズマはそう言って、淹れ立ての紅茶とみかんを口に放り込んでいる。
カズマの人生楽園計画を聞いためぐみんは呆気にとられ、
「………は?」
すっかり固まってしまった。
と、俺の隣にいるサティアが、袖をくいくいと引っ張ってきた。
「君の隣にいる彼…彼が本当にこのパーティのリーダーなのか…?今、堂々と冒険者引退発言をしたし、いや、確かに彼には自堕落生活の方が似合っているかもしれないんだけど。ほらみかん、あーんして」
「あ、あーん?何か最近、こういうイベントがやたらと増えているのが怖いんだけど。俺、近々呪い殺されたりしない?」
「呪いとかそういう系なら、バニルに未来を見てもらった方が一番だと思うけどね」
ぶっきらぼうに、しかし笑顔で語るサティアからは、どこか確実な安心感を得る事が出来る。
俺より幾つか年上で、背も高く面倒見もいいので、これが世に聞く母性あふれる女性という事なのだろうか。
「でもでもカズマさん。流石に、魔王は倒してもらわないと困るんですけど。私、それだと一生天界に帰れないんですけど」
…女神に一生もなにも、寿命すらないだろうに。
「それじゃあ。俺がもっともっと商売の幅を広げて金を手に入れ、貴族や王族にも匹敵するほどの大金持ちになったら、金にものを言わせて高レベル冒険者を雇いまくり、魔王城に侵攻させよう。途中で俺のレベルも養殖してもらって、最後のトドメは格好良く俺が刺すってワケだ。どうだ?魔王討伐にも多少は現実味が出てきただろ?」
「そうだわ!それよカズマさん!冒険者のほっぺを札束でぺちぺち叩いて侵攻させ、トドメのおいしい所は自分で持って行く訳ね!」
「そういう事だ。伊達に一番長い付き合いじゃないな、流石わかってるじゃないか」
カズマとアクアが互いに笑いあっている中、めぐみんは腕をプルプルと震わせ…。
「認めません!認めませんよ!お、お金の力で魔王を倒すだとか、そんなものは絶対に認めません!だいたい、魔王を何だと思っているのですか!魔王という存在は、一から一緒に始めてきた仲間と共に、最終決戦の末に倒すものです!それがなんですか、高レベルの冒険者を雇って倒すとか!」
「いや、そう言うがな?俺みたいな特別な能力を持っていない冒険者は、ちまちま駆け出しの街のクエストをこなしていくのが精一杯だったろ?そんな状況下にいた俺が、いきなり八億もの大金を得てみろ、今のこの状況はなんら不思議ではないんだよ。…お、別な方法を一つ思いついたんだが、盗賊職のヤツを高額で雇いまくって魔王城に侵入させて、暗殺ってのも中々…」
非人道的な発言ばかりを繰り返すカズマに、めぐみんはもう返す言葉も無いようだ。
「まあ、運動不足にならない程度には冒険者やっといた方がいいんじゃないか?ここにいる全員で金を分けても、一人一億以上の取り分があるし。仕事としてこれからやっていくのは正直…なんかなぁ」
「私もヒュドラが現れるまでに一年近くはあるからね…。鈍っちゃうかもしれないけど、まあ趣味程度にちまちまクエストをやっていこうかな。朝日に向けて毎朝五十魔法、ってのが幹部時代の日課だったけど。この街の近くに、誰も所有してない土地とか岩山があったりしないかな…」
サラッと怖い事を言ったサティアに、めぐみんが対抗する様に。
「ふふふ…貴方は私の爆裂魔法の威力を知っていて、そう仰っているのですか…?一日五十魔法が何だろうが、それを全て濃縮しても我が爆裂魔法には到底敵いません!いい穴場を知っています、今からそこに行きましょう」
めぐみんは自信満々に宣戦布告をし、ローブのマントを翻して玄関に向かった。
…?そんな場所、聞いた事…。
「――ッ!お、おい!その穴場ってのはもしかしなくても、元俺の城じゃないのか!?やっ、やめろ紅魔の娘!あの城にはまだ、俺の荷物やら何やらが…っ」
「あっつゥ!?おいベルディア、鎧にこたつの熱が篭って、完全に鉄板になってるじゃねえか!ゴ…風船が溶ける!開発品が!俺の努力の結晶が!」
…平和なら、もうこれでもいい気がしてきた。
2
「う、嘘だ!認めない認めない!何で私の魔法がこんなにも容易く…!?」
結局、めぐみんが言う穴場という場所に向かった二人が帰ってきたのは、すっかり日が落ちた時刻だった。
「ふふふ…紅魔族随一の魔力を持つ私にとって、魔王軍幹部だろうがなんだろうが全てを吹き飛ばす自信があります。爆裂魔法を直接見る事が殆ど無いでしょうから、その威力には流石に恐れをなした様ですね…!」
格好良くサティアに勝利を宣言するめぐみんを称えたい所だが…その、勝負に負けた相手、すなわちサティアに背負ってもらって帰ってきたという事実は全くキマっていないのが残念だ。
「さて…俺は今からダスト達と酒飲みに行くんだが、ユウキも来るか?あぁ…でも向こうには女がいたか…」
出掛ける為に、いつもの部屋着ではなく、ちゃんとした私服を纏ったカズマが、魔法使い二人の会話を割って、俺に声をかけてきた。
どうも、記憶にはまったく残っていないが俺の酒癖は本当に悪いらしい。
女性の有無で酒に誘われるか誘われないかという判断をされている以上、本当に酷いという事は否定できない事実だが。
「いや、今回は俺から遠慮しとく。明日は暇つぶし程度に、適当なクエストに行こうかと思ってるから」
「そうか?しっかし、金に困らないと、やっぱりクエストは暇つぶしになっちまうよなぁ…。まぁ日々が充実してるいい証拠なんだろうが」
「暇って事も幸せな毎日の証拠なのは否定しないけど…さ、デストロイヤー戦から危険背負ってた毎日だったから、俺はもうちょっと平和に浸かりたい気分だな…。いやしかし、ここまで平和だと、何かが劇的に変わる、ピリッっとしたイベントが欲しい物だな」
「ははは、あんまりフラグ立てんなよ。そんなフラグでも、ひょっこりこの街に隕石とか落ちてきたら笑えねえからな。んじゃ、帰りは深夜か朝になるから、玄関の鍵掛けといてな」
そう言って、カズマは別れ際に手を上げ屋敷を後にし、ギルドの酒場に向かった。
しっかし、金持ちになるとここまで暇を持て余すとは思わなかった。
今度はカズマに、日本にあった娯楽品の品々を再現してもらおうか。
ところで、結局カズマは、三億を一括で受け取ることに決めたらしい。
どうやら幹部二人はそこまで金に対する拘りが無いらしく、幹部二人への分け前は一億。残り七億は割って五人、一人一億二千万で配分される事を、口約束ではあるが決まった。
…しかし、何か大切な事を忘れている気がするのは、気のせいだろうか。
「って、ベルディアは何処に行ってるんだろ、また先輩の店かなぁ…。結界張られてるから帰るのが面倒だって言ってたし、当分帰ってこないかもね」
先ほどまでめぐみんを長時間背負っていた疲れが回ってきたのか、サティアは暖炉前のソファーに深くもたれ掛かり、息を吐くように言った。
…そういえば、屋敷内が数時間前からやたらと静かだな。
「…あれ?アクアとダクネスも何時の間にか見てないな、夕飯の支度で台所か?」
「どうしたのですかユウキ。今日は、賞金やら何やら色々入って料理が面倒になったとか言っていたので、アクアとダクネスは街の食堂に行っている筈ですよ?食料が残っている訳でもなさそうですし、三人で何か食べに行きませんか?」
「え。何それ聞いてなかった…まぁいいか。二人とも杖とかの荷物を置いて、酒場行こうぜ酒場。今日は俺の奢りだから、バンバン高い酒飲みに行こう」
「本当!?それじゃあ今日は、この間の宴で食べ損ねたカエル肉を頂こうかなぁ…。それと一緒に飲むお酒が、また堪らないんでしょ?」
「その通り。絶妙な旨みって言葉はここで生かされるんだなって感銘を受けるほどの旨さだ。めぐみんも来年には十五歳なんだろ?一杯ぐらいは酒飲んでもいいんじゃないのか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!誰がお酒を飲んでいいと言いました!二人に酔いが回ってしまうと本当に手が付けられないんですよ!?ダメです、飲酒は許可出来ません!」
俺達二人は、めぐみんの言葉を受け、今日の飲酒は諦める事に…するわけがなかった。
「サティア、ほら、今日は夜空が綺麗だな。こんな日に酒を飲まないなんて勿体無さ過ぎる。行くぞサティア!支援魔法掛けて酒場まで直行だ!」
「了解!さっすがわかってるね!さぁ…あなたはどうする?来る?それとも――来ない?」
大きく出たサティアに、めぐみんの顔は次第と赤くなっていき…。
「卑怯ですっ!二人はどこまでも卑怯です!」
と、結局渋々付いて来たのだった。
誤字脱字修正していきます。