この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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三章二話

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一攫千金

「…というわけで、皆はこの体たらくなのですか。カズマとユウキの国の暖房器具はこの冬、私もかなりお世話になりました。…しかし、もう春に入っているというのに引き篭もっているのはどうなんでしょうか…?そろそろ、冒険者としての活動を再開しましょう?ね?」

 

呆れた表情で俺達を見ながら、クエストの準備を整えためぐみんが言った。

 

「いやー…カズマはやっぱり商人が天職じゃないのか?この世界でこたつの温もりを味わう事が出来るとは思っていなかったし、魔力を使わない形式だからバカ売れするぞ、これ」

 

めぐみんの視線の先――には、すっかりこたつもりとなった女神に幹部二人、そして同じ紳士の道を歩み進めている仲のカズマ、そして俺を含めた五人が、冒険者の面影も無くし、自堕落生活に浸かっている。

 

うん、春を迎えたと思っていたんだけど、まだまだ寒さが残っているパターンだった。率直に言うと外に出たくない。

 

「そこら辺は抜かりなく…だぜ?あの仮面悪魔…バニルとか言ったっけな、そいつが、俺の今まで研究した発明品の数々を、是非ともウィズ魔道具店を通して売りに出したいそうだ。今日はこれからその商談があるから、クエストはまた今度だな。というか、俺はすっかり金持ちになった訳だし、冒険者稼業から一線を退きたいんだが。五億だぞ五億!ここにいる全員で割っても一人七千万だ!…もう、危険な冒険者なんて辞めて皆で仲良く、半年に一回ぐらいのペースで旅行でもしながら余生を暮らそう。な?」

 

カズマの自堕落生活聞かされた、めぐみんと同じくクエストに向かう為に鎧を着込んだダクネスが、重々しく溜息をつき。

 

「…嘆かわしい。大金があるから働かない?皆がそんな考えであれば、この世の中上手く回っていかなくなるぞ。たとえ、働かなくていいほどの大金を手にしていたとしても、誰かのために力を尽くすのが人としての役割だ」

 

ダクネスの話を聞いたベルディアとアクアが、打ち合わせをしていたかのようにお互い目を合わせ。

 

「私女神なんですけど」

「俺アンデッドなんだけど」

 

「やかましいっ!ああ、私が言いたいのはそういう事ではなくてだな…」

 

頭を抱えるダクネスを尻目に、アクアはせっせとこたつの上に置いてあるみかんを口に放り込んだ。

駄女神と言いたくなる状況なのだが…まあ、このこたつの温もりは正義だろう。雪解けの時期とはいえ、寒さには敵わないのだ。

 

賞金五億に上乗せされ――詐欺レベルの方法で得た信用を武器に、数日後にはデストロイヤー戦の分の賞金も俺達に贈呈されるそうだ。

 

今の俺達の状態は…宝くじに当たったら仕事をやめてしまう人がいると聞いた事がある。きっとそんな人達と同じ感覚なのだろう。

 

――うん、確かにこれはやめたくなるな。

 

      2

 

「遅えな…あの仮面悪魔は何をやってやがんだ」

 

痺れを切らしたカズマが、溜息を吐くようにそう言った。

 

結局、俺達はあの仮面悪魔との商談を待つため、クエストに出発することは諦める事になったのだが、定刻になってもあの仮面悪魔は屋敷に来ない。

 

「ねえカズマ。あの忌々しい悪魔にターンアンデッド掛けちゃってもいい?寛大な女神である私も、流石にこれ以上待たされると腹が立っちゃうんですけど」

 

その場にいる全員が痺れを切らしそうになった、その時。屋敷の玄関のドアが数回叩かれた。

 

「やっと来やがったかあの仮面野郎!アクア、ターンアンデッドがどうこう言ってたな!構わん、超特大のを喰らわしてやれ!」

 

そう言って、勢いよくこたつから飛び出したカズマが、玄関のドアを乱暴に開けた。

 

そのドアの先には…!

 

「えっ!?いやあのっ!私を浄化しようとしないでくださいっ!き、今日は常連であるカズマ様に、来週から行われる特別サービスのご案内に…」

 

カズマの身長より一頭身ほど小さい、銀髪のロリサキュバスが怯えた表情で玄関前に立っていた。

 

「なっ!?あ、あのな、今の状況はマズい、ここはちょっと屋敷の外で、是非ともその特別サービスの説明を…」

 

「わ、わかりました。では、外に…。……フハハハハハハハ!特別な淫夢サービスを紹介しに来た淫魔と思ったか?残念、我輩でした!ふむ、遅刻した事は確かに謝罪するが、あのポンコツ店主ではなく我輩が直々に来た事には、皆喜びひれ伏し、よくぞ来て下さったと言うが吉。さあ、当店に卸す予定である品の、開発書と現物を見せてもらおうか。……む?」

 

カズマの目の前にいた筈のロリサキュバスは、みるみる内に仮面をつけた悪魔へと変身した。

 

それを見たアクアが、こたつから離れユラリと立ち上がり――

 

「ねえちょっと。なんであんたが屋敷内に入れているの?この屋敷の外には、あんたみたいな害虫が入れないように、神々しくも神聖な結界が張ってあるはずなんですけど」

 

「ああ。あの屋敷の周りに張ってあった半端なヤツか。なんと、アレは結界だったのか。いやいや、あまりにもあっさり効力を無くしてしまったので、ただのイタズラかと気にもしなかったのだが。失敬失敬。悪魔の中でも超強い、この我輩が通っただけで壊れてしまったようだな」

 

悪魔の挑戦的な挑発に、アクアは顔を引き攣らせ。

 

「あらあら、体の所々が崩れかかってますわよ超強い悪魔さん。まあ、どうした事でしょう。確か地獄の公爵と聞いておりましたのに、あんな程度の結界でそんな姿になるとは思いませんでしたわ」

 

ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべ、指摘した悪魔の崩れかかっている体のあちこちを興味深そうにつつく。

 

「フハハハハハハハ!この我輩の体は、どうせただの土塊であるからな!体の代わりなど使おうと思えば使える物は沢山ある。まあ、駆け出しの街のプリーストが張ったものにしては、そこそこの物ではないか?うむ、人間の、それも駆け出しのプリーストが張ったにしてはな!フハハハハハハ!」

 

愉快そうに笑うバニルを、アクアが眉を八の字にして、女神とは思えない形相で超至近距離で睨みつける。

 

そして、バニルもその挑発を受け、自らの視線をアクアの視線に高さを合わせて、真っ向から睨み合った。

 

……まったく、サティアとの一件といい、何故アクアはこうも魔王軍幹部とトラブルを起こすのか…。

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

「華麗に脱皮!」

 

俺が頭を抱えていた一瞬の隙に、アクアの叫びに呼応して現れた光柱が、バニルの足元から天井まで突き上がった。

 

光柱の輝きに包まれたバニルの体は完全に消滅したが、消滅する前に間一髪、自身の仮面を浄化魔法の範囲外まで投げ、アクアのそれを上手く回避した。

 

床に音を立てて落ちた仮面は、絨毯の上でも構わずというように、その場でニョキニョキと首から下の体を生成する。

 

しかしアクアは、その生成途中の体ではなく、バニルの本体である仮面に、全身の力を使って引き剥がそうと掴みかかった。

 

「あはははははっ!これね!忌々しい悪魔の本体を捕まえてやったわ!さあさあ、この仮面をどうしてくれようかしら!」

 

「フハハハハハ、この仮面をいくら破壊しようとも、第二第三の我輩が次々と…!こ、こらっ、こういう時の台詞は最後まで言わせるものだ!仮面は破壊するのはせめて言い終えてから…」

 

「おい、落ち着け、そろそろ落ち着け」

 

流石に痺れを切らしたのか、嬉々としながら仮面を剥ごうとするアクアと、それをさせるまいと抵抗しているバニルの間にカズマが仲裁として割って入り、何とか一触即発な状況は終わりを告げた。

 

      3         

 

――絨毯の上にあぐらをかいたバニルは、カズマが手渡した発明品を鑑定するように目を通している。

 

日本ではありふれたものだが、魔力を使わない構造で作成された品々であるため、こちらの世界での需要はかなり高いと思われる。例えるなら、このこたつだって家庭に普及すれば、薪を必要としない快適な冬が過ごせるのだ。

 

「うむ。小僧が我輩に商談を持ち込んだのは正解だ、いや、大正解と言っておこうか。これらの開発品を含めた品々だが、間違いなく売れる物ばかりだ、見通す悪魔、バニルが宣言しよう。特にこの、こたつという暖房器具は、庶民だけではなく、王都の貴族でも愛用する品になるやも知れぬぞ」

 

そう言って、アクアから出来るだけ遠くにいる、ベルディアの隣に座って、こたつに足を突っ込んだ。

 

というか、体は土塊で出来てる物だとさっき言ってたのに、こたつの温もりを感じれるのだろうか。

 

「ふむ。では長々と話すのも好きではないので、早速商談と行こうか。事前の取り決めでは、これら商品の全体売り上げの一割を月々支払う予定だったが、どうだ?この設計図に書かれている開発品を含め全て、知的財産権ごと売る気は無いか?これら開発品を全て纏めて、三億エリスで買い取ってやろう」

 

「「「三億!?」」」

 

どういう事だ、この一週間で人生がイージーモードに切り替わりやがった!

 

大金を提示された驚きで声を上げた俺達とは真逆で、彼らは金に無頓着なのか、幹部二人はそこまで大きい反応を見せず、バニルと一緒に開発品であるゴム状の物体を興味深そうに見つめている。

 

金額に驚き固まっている俺達に、バニルはなおも言葉を続ける。

 

「我輩は、月々の利益還元でも、どちらでも良いぞ?まあ、これだけの物ならば、生産ルートが確保できれば毎月百万エリス以上の収入があると思っておけばいい。詳しい話は、実際に販売する段階になってから決めてもらっても構わないぞ。……ところで、この伸縮自在な素材で出来た物は、一体何に使う物なのか」

 

月々百万か、一括で三億か。

 

マジかよ、これはいよいよ冒険者稼業なんてやってられなくなったじゃないか!

 

「それはね、風船って言って、空気を入れて膨らまして楽しむ物よ。一つ貸してごらんなさいな」

 

アクアがバニルから風船を一つ受け取り、無邪気な子供のように膨らませている。

 

俺もバニルから風船を一つ受け取り…風船?

 

「なんだコレ、日本にあった風船を再現した割には、口をつける部分のゴムの量が多いな。形状も何か細長いし、素材も少し固めなような…。――これ、アレだろ…?」

 

「…薄くしたり破れないようにするのが思ったより難しかったんだよ、まあその、こっちには避妊具って概念が無いようだし?風船として売っちまってもいいんじゃあないかと」

 

「いやまあ、風船に何とか路線変更出来たのは良いことなんだろうけど。その…なあ?女性がこれに口を付けて膨らませている光景を見る事に、なんだか心の中でモワモワした物を感じるんだが」

 

日本で生きてきた俺達にとって、避妊具という概念はもちろん知っているし、使用方法もしっかり頭に入れているつもりだ。

 

いやうん、知っているのを黙っている以上、何か心が痛くなってきた。

 

「うむ。商品の販売までにはまだ時間が掛かる。念を押しておくが、どちらの支払い方法が良いか、決めるのはその時でも我輩は一向に構わないぞ?では、めいめいにポンコツ店主の監視を任せているとはいえ、流石に店が心配になってきたので、我輩は帰るとしようか」

 

「それが良いと思うわ。私の神聖な屋敷に悪魔の悪臭が染み付いちゃうもの。出て行って、ほら、早く出て行って!」

 

アクアにシッシと手を振られ、バニルがギリギリと歯を噛み締めながら帰っていった。

 

――しかし、月々百万と三億か……

 

 

 




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