この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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三章一話

温泉旅までの日常が数話描かれます。

誤字脱字お気をつけください。


三章 恋 アルカンレティアの温泉旅
女神からの信頼


春。

雪解けの季節であり、冬眠していたモンスターは活動を始め、さらには新たな生命が誕生する自然の季節。

 

冬は比較的他の季節より強大な力を持つモンスター以外は現れない季節であるので、駆け出し冒険者の街、アクセルの冒険者は冬の間収入がなく、貯金を少しずつ切り崩していく生活となる。

 

そのため、春を迎えた冒険者達は我先にへと、血眼になってギルドのクエストに出発するのだ。

さて、俺達も彼らと同じく、朝早くからクエストに行き、収入を得るのが自然な流れだ。

 

――だが、今の俺達は違う。

 

「最高級のお茶が入りましたわよサティアさん」

 

すっかり俺達の憩いの場となった一階の大部屋で、アクアは白く高級そうなカップに琥珀色の紅茶を注ぐ。

椅子に座りながら暖炉の視覚的に柔らかい火を見ていたサティアは、突如アクアによって差し出されたティーカップを見て、困惑の色を隠せない様子で。

 

「あ、ありがとう…。あの、本当にどうしちゃったの?何か女神らしさというか、アナタにとって大事な物が失われた気がするんだけど」

 

「ふふ、私はいつもの私ですわよ?しかし、サティアさんを変に心配させていたとあれば、とんだご迷惑をおかけしてしまいましたわ。申し訳ありません」

 

ぎこちなさを隠せていないアクアの一応はセレブっぽさを表現している口調は、アクアの性格を知っている者であればまず彼女の体調の心配をするだろう。

                                                         

正直なところ、俺もアクアが道端に落ちていた物でも口に入れてしまったのではないかと心配していたのだが、どうやらやはり『アレ』の影響らしい。

『アレ』の影響でアクアはすっかりサティアと打ち解け、当分は何かがない限り喧嘩等のトラブルは起きないと思う。

 

「ユウキさんも、こちらは少し趣向を凝らしたお茶ですわ」

 

サティアから目を離し、俺に視線を合わせてきたアクアは優雅な動作でティーカップを差し出した。

 

いや、というかこれは…。

 

「お湯なんですけど」

 

「あら、ごめんなさいねユウキさん。私とした事がついうっかりしておりましたわ」

 

「いや、また淹れ直せばいいし、これはこれでいただく事にするよ」

 

一瞬、ただの嫌がらせかと思ったがそうではないようだ。

水の女神だから何だかは知らないが、アクアには自然的な浄化効果でもあるのだろうか。

 

アクアとサティアはそこそこ普通の会話が成立するまでの関係になったし、近頃はすべての運がこちらに向いている気がする。

 

そして、何よりも平穏だ。

 

一週間前、敵の本拠地で震えていた頃の俺は、近い将来にこんなセレブ生活を過ごせるとは思ってもみなかった。

カップのお湯を飲み干し、一息ついた俺は改めてこう思う。

 

――ああ、お金ってやっぱり素晴らしい物なんだな…と。

 

      2

 

「ほら、起きるのよユウキ!朝から女神を拝めるんだから、布団に潜り込んでないで出てきなさい!」

 

宴の翌日、アクアは朝一番で本当にギルドに報告に行こうといい、俺の部屋まで来て早朝から叩き起こした。

 

何故俺だけ叩き起こして連れて行こうと考えたのかアクアに聞くと、カズマはヘマしそうだし、ダクネスは正義感がなんちゃらで上手くいきそうにもない。と言って泣きついてきた。

別にめぐみんとかサティアでもいいと思うのだが、理由は不明で俺らしい、どうしたものだろうか。

 

部屋のドアの前でアクアは、俺を説得するつもりなのだろうか、熱弁を振るっていたが。

 

「いや、どう考えても無理だろそれは。ギルドの受付で倒したって旨だけ伝えても、ちゃんとした証拠がなければ賞金を渡すわけにはいかないだろうし。まあ、サティアに聞くのが一番じゃないのか?」

 

見事に俺の前で玉砕したアクアは、渋々張本人のサティアを呼びに部屋の前へ。

どうやら女神には疲れというものがないのだろうか、この時間でもアクアはピンピンとしている。いや、五億の金の力がアクアに働きかけているのかもしれないが。

 

「ちょっとサティアー。起きてる?昨日言ってた、賞金貰いに行きたいんですけどー。私の五億が懸かってるんですけどー」

 

ノックを数回しながらアクアは部屋の外からサティアに声を掛けるが、その呼び掛けには返答がない。

 

「あれー…返事ないんですけど…。ちょっと、部屋の中見てくるから待ってて」

 

そう言って、痺れを切らしたアクアはそのまま部屋の中へ強引に入り込んだ。

普通この時間には起きないだろ…というツッコミは間に合わなかった。悪いなサティア。

 

と、いつの間にか部屋からは揉め合う二人の声が。

 

「ちょっとサティア!何で下着姿で寝てる訳!?なに、痴女なの?ビッチなの?元魔王軍最高幹部の影も形もないじゃないの!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!何で勝手に入って来てる訳!?まったく、アクシズ教の女神なんだから、人のプライバシーぐらい尊重してくれなきゃ信者なんか増えないわよ?だからエリスに信者ほとんど取られてるんでしょうが!」

 

朝から、大声で早速大喧嘩の言い合いになる最高幹部となんちゃって女神。

 

「わああああああっ!今、サティアが言っちゃいけない事言った!エリスは私の後輩なんだから、全てにおいて私の方が上なの!魅力といい信仰の深さといい、大体、エリスの胸はパッド入りなんだから。いい、わかった?」

 

「やっ…やめて!半泣きになりながら下着を剥がそうとするのは本当にやめてってば!」

 

「何っ!?朝からけしからん、ここは紳士を代表し突入を…」

 

「君までいるの!?ちょっ…!と、とりあえず!何で私の部屋に朝から押しかけて来たのか理由を聞かせていただきたいって」

 

「口調が変なのは突っ込まない方向で行く…が!?」

 

――部屋に入った俺が見たもの…それは、二人の美女が縺れ合ってお互いの衣類が色々と肌蹴ている現場だった。

 

ふむ…本当にけしからんな。ああ、本当にだ。

俺は、更にサティア達の方へ一歩、歩みを進めようと…。

 

「――ッ!『カースド・クリスタルプリズン』!」

 

深緑の美しい髪を乱れさせながら、その美女は俺の視界から自身の姿を掻き消すように、天井スレスレまでの氷柱を作り上げた。

 

「おおい!室内で急に上級魔法を唱えるなぁ!危うく死ぬ所だったぞ!」

 

「だって仕方無いじゃん!ちょ、着替えるからちょっと待ってて…」

 

結局、サティアが着替えを終えるまで一歩も立ち入る事は出来なかった…。

      

      3       

 

「これ、本当なんでしょうねー…。もし騙されてたとしたら、後でアンデッド騎士さんの真下に魔法陣を敷いておこうかしら」

 

アクアが、ギルドへと向かう最中、自分の掌に乗せている金色に輝く徽章をまじまじと見ながら、そう呟いた。

 

なんでも、サティアから受け取ったこの徽章は魔王軍最高幹部の証らしく、魔王軍内では命と同等級の代物らしい。

失態を見せられないと、命の危機に陥った時にはこの徽章と共に自害、自爆、身投げ…。とにかく隠し通す事になっているという。

つまり、命と同格な物をうっかり幹部が落とす訳ないだろう…とギルドが判断するのを見込んだ上で、これをギルドに提出すれば俺達が幹部を倒した事を証明出来、賞金が貰えるのではないかという事だ。

 

「正直俺も疑ってはいるんだが…。まあ、サティアが嘘付いてるって可能性は捨ててもいいだろうな、嘘は付かない系だし。問題はこれだけで賞金が貰えるのかって事だ。これ一個で本当に五億なのかはサッパリ」

 

と、馬車の出入りが激しい、この世界では朝の出勤時とも言える時間、俺はふと、この街の冒険者がまったく外に出歩いていない事に気がついた。

 

「…アクア、何で外に冒険者が一人も出歩いていないんだ?前衛職のガタイがいいそれっぽい奴もいるけど、全員私服で酒とか入ってるぞ」

 

「んー…?そりゃ、デストロイヤー戦の賞金は迎撃戦に参加した冒険者、全員に割り振られているからよ。デストロイヤーは今まで数々の都市やら街を破壊してきたからね、被害に遭った人達が一刻も早く破壊してほしいって願いから、ギルドに対する寄付金が賞金に足されてデストロイヤーに掛かってる賞金はそれはもう何十億を超えているわ。だから、この街の冒険者は仕事をしなくても当分は遊んで暮らせるわよ?」

 

「……その賞金、俺達は貰ってないだろ?」

 

「そりゃまあ、裁判とかあってドタバタしてて、おまけにダクネスとユウキが同時にいなくなっちゃうんだもの、受け取れる訳無いじゃない」

 

「はは、そうかそうか…!」

 

「…何?なんか不敵な笑い浮かべてるんですけど大丈夫?私が誘っておきながら言うのもアレだけど、ちょっと引くんですけど」

 

酷い、相変わらず酷いなこの女神は。

確かに、これではアクシズ教がエリス教に信者数で負けている事に納得がいくのかもしれない。本人に直接その事実を伝えるのはちょっと良心が痛むので控えるが。

 

俺がさっき言いたかった事は、魔王軍幹部討伐で信用も勝ち取れるのではないかという事だ。

 

王都から来た検察官のセナは、俺とカズマに魔王軍との繋がりがあるのではないかと疑いを掛けてきた。

そんな俺達が、魔王軍幹部、ましてや最高幹部なんて大物を倒したという事が広まれば、その分俺達が魔王軍とかかわりを持っていて、故意にコロナタイトを領主の家に転送したという可能性はゼロに等しくなる。

 

なるほど…サティアはここまで読んでいたのか。

 

アクアは結局、徽章片手に半信半疑のまま、ギルドに着き、嫌でもサティアを信じられる結果を招いたのであった。




誤字脱字修正していきます。

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