この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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二章最終話です。

次話から三章が始まります。

誤字脱字お気をつけください。


再会の宴

「ただまーっ!」

 

日はもう既に沈み、調理が終盤に入ってきた頃に見合いに行っていたダクネス達が帰ってきた。

あのアクアの声を聞くからに、お見合いの件は俺達にとっていい結果に終わったのだろう。

 

そして、今日の夕食は勿論豪華な物ばかりだ。

 

以前、ダクネスのお父さんから貰ってやみつきとなった霜降り赤ガニをはじめ、毒無しフグに天空飛魚…こっそりカエル肉も買っておいた。

海鮮物が多めだが、これが全て酒に合う物なので仕方がない。

 

サティアは意外と家庭的で、料理もテキパキと出来る女性だと知った。魚類は手際よく全て刺身の盛り合わせにし、カエル肉は俺の最強調理法、唐揚げにしてもらった。

今は、上機嫌でめぐみんを除いた全員分のグラスに酒を注いでいる。

 

流石に高級食材を購入しすぎて賞金では足りなくなったので、自腹を切って高級酒も買ってきた。

 

ほとんど治療が済んで顔色も良くなっためぐみんも席に着き、俺達の宴は始まる。

全員が席についている事を一拍確認し、彼は立ち上がった。

 

高級酒を注いだグラスを片手に、パーティリーダー、カズマが乾杯の指揮を執った。

 

「えー…。それでは!この度、ユウキの無事な生還と、ダクネスの見事なお見合い失敗を祝って!乾杯!」

 

「「「乾杯!」」」

 

「お、おい……。確かにお見合いは失敗して戻ってこれたのは事実だが、その表現の仕方だと何だか悲しくなるな…」

 

微妙な顔をしているダクネスはさておき、ベルディアを除く全員は次々に高級料理に手を伸ばしていく。

 

ベルディアは種族上食事を必要とはしないが、紅茶や酒は何故か飲んでも大丈夫らしい。

 

高級食材を食えない分、ベルディアの分の酒は多く買っておいた。今回は残念だがそれで我慢してもらおう。

 

俺は、人生二度目となる、白とピンクの身をした霜降り赤ガニに少し多めの醤油を付け、それを一気に一口で頬張った。

 

――やっぱり旨い、旨すぎる。

 

今晩はサキュバスサービスを頼んでいないので、以前アクアが発案した、七輪の上で酒を注いだ甲羅を炙り、それを味噌ごと頂くという方法を…。

 

―いや、ここは他の高級食材も楽しんでからにしよう。まだ勿体無い作戦だ。

 

グラスの酒を一口含んで喉を潤し、見事に皿に盛られている毒無しフグの刺身を数切れ、こちらは軽く醤油を付けただけでさっぱりと。

 

なにしろ、こちらの世界でのフグは初めての試み、恐る恐ると口に運んだ。

 

うん、旨いという感想しか思いつかない。

 

「っておい駄女神!お前、しれっと俺の分の酒飲んでんじゃねえ!ああ…俺の酒が…」

「うっさいわね!ヒキニートアル中は、日頃私に迷惑掛けている分、神である私に何かを献上しなさい!」

 

やっぱり、早々と始まったようだ。

今回の高級食材を大量に使用した夕食の本当の目的は、半分がダクネスのお見合い失敗祝い、もうその半分が、酒が入った状態での親睦の深め合いだ。

 

今日の朝、サティアとアクアのあの言い合いはダクネスの突入でなんとか中断されたが、今後またトラブルが起きるかどうかはわからない。

これから同じ屋敷で住む者同士、先に問題があって関係が壊れてしまっては困る。

その為、問題が起きる前に今日の様な酒の席を用意し、親睦を深める事で問題の芽を摘み取っておくのだ。

 

さて、俺の思惑通りに事を進めるにはサティアとアクアが会話でもしてくれるとありがたいのだが……。

 

よし、ここは俺から自発的に動き、目的を達成すべきだ。

俺は覚悟を決め、グラスの高級酒を一気に飲みほ…し…?

 

――あれ、何だか意識が…。

 

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「あれ?もう酔っ払っちゃった?君、大丈夫?」

「…ほえ?」

「あー…完全に酔っ払っちゃってるね、今水を用意してあげ…ちょっ!?ど、どうしたの…?急に抱きついてきて…」

「ほええ…?サティア温かい…気持ちいい…」

 

めぐみんが、サティアと意識が完全に飛んでいる彼を見て、呆れた様に。

 

「ユウキはですね、酒を飲むと近くの女性にとにかく抱きつくという習性があるのですよ。今までその対象は私だったのですが…」

 

めぐみんが自身の胸元を見ながら、しょんぼりとした表情でそう呟いた。

そんなめぐみんを見たサティアが俺に抵抗しないまま大慌てで。

 

「いやいやいや…流石に彼は胸の大きさだけで選ぶ事はないと思うよ…?それにあなたはまだ成人もしてない年でしょ?ま、まだ心配する必要はないんじゃないかな…」

 

「――ッ。一つお聞きしますが…サティア…さんでいいですか。サティアさんは爆裂魔法を習得していますか?」

 

「爆裂魔法…?随分急な質問だね。まあ、多分使えると思うよ、爆発魔法と炸裂魔法は何度か使った事あるし」

 

「そうですか…。では、数年程前に紅魔の里には訪れた事はありますか?」

 

「紅魔の里…か、その質問にはあまり答えたくはないかな。だけど今回は特別だよ?答えは、紅魔の里に行った事はないし、爆裂魔法なんてネタ魔法も関係無い。どう、これで満足?」

 

「ネタ魔法…サティアさんも、爆裂魔法はネタ魔法だと思いますか?」

 

「思わない。あれは状況によっては全てを守れるし何もかも壊せる」

「え?」

 

サティアの返答に、めぐみんは思わず上擦った声を上げる。理由は簡単、今まで爆裂魔法をネタ魔法と言った人の中で、その膨大な威力を有効的に活用しようと考えた者はいなかったからだ。

 

サティアは自分のグラスに氷を補充し、高級酒をギリギリまで注いでから。

 

「まず爆裂魔法のメリットとデメリットをしっかりと把握すべきだ。まずはデメリットからいこう。爆裂魔法の消費魔力量はそれはもう言い表せないぐらいなのは知ってるよね?一番の問題はそれだ、上級魔法のように連発は出来ないし、一発撃ってしまえば小回りも利かない、残念ながら、爆裂魔法は個人で持つべき力ではないんだ。そこを踏まえた上で、私が考えている使用方法はただ一つ。――軍だ」

 

「軍…ですか?」

 

「そう、軍だ。攻撃…いや、防衛時が一番使い勝手がいいかもね。メリットの部分を全面的に活用するんだ。何せあの魔法は全魔法の中で最長射程、敵軍の真ん中に撃ち込んで混乱させてから、前衛騎士が突撃して打開、なんて策にも使える。一つのパーティで個人単位が使う魔法じゃないんだよ、爆裂魔法は」

 

「……個人では使うべきじゃないんですかね。どうしても、一人じゃ迷惑になってしまうんですか…?」

 

「――まあ、個人で使うにも色々な手はあるよ。爆裂魔法を撃ったらほとんどの人はその場で動けなくなるか、または魔力不足による不発。不発の場合はもう論外な話だけど、爆裂魔法が撃てるんだったら傍にテレポートを詠唱出来るウィザードが一人いればそれでいい話だ。撃ち込んで拠点まで撤退、これを毎日繰り返せば、どんな大物賞金首や魔王軍幹部でも一週間は耐えられないだろうからね」

 

サティアの爆裂魔法の使用方法の考えを受けためぐみんは、顎に手を当ててなるほどと考え込んでいる。

 

そんなめぐみんを見ながら、サティアはすっかり水滴が付いたグラスに注がれている酒を流し込むように飲んで。

 

「まあ、今は折角の楽しい夕食だよ。魔法の使い方は私が色々と編み出せるから、後日紹介するよ。ほら、まずは一杯。ほら一杯!」

「いえ、私はまだ十三…今年十四歳になりますので、成人してないですよ。というか、さっきサティアさんが自分で言ってた……ああ、これは結構出来上がっちゃってますね…」

「大丈夫大丈夫!後一年もすれば成人なんだから、ドンドン飲んじゃえばいいの!何さ、そんなに嫌がるって事は、私の酒が飲めないとでも言いたいのか!?」

「口調!口調がおかしくなってますって!水…ユウキ、サティアさんの胸の中が嬉しいのはわかりますが、サティアさんに初級魔法で水を出してあげてください!」

「んー…。めぐみんもこっち来て」

 

意識を失っている俺の手招きに、めぐみんは首を傾げながら応じる。

彼女は、すっかり泥酔している俺に腰に左手を回され、力強く抱き締められた。

 

「!?結局またこうですか!一度に二人も相手にするなんて、本当にユウキは変態です!変態、変態!」

 

「変…態…!?よしめぐみん、それはお前からの宣戦布告として受け取っていいんだな!いいだろう、日本の変態紳士を代表し、今夜は寝かせない程のハードプレイを…そう、朝まで…。…ほえぇ?」

 

「ダメじゃないですかっ!完全に酔いに負けてるじゃないですかっ!」

 

「ユ、ユウキ!何だそのハードプレイというのはっ!くっ、領主の息子に嫁ぐ事を何とか阻止した私に、一体何をしようというのだ!?んんっ…!くぅ…!」

 

顔を真っ赤に染め、若干涙目になりながらめぐみんは俺に対して叫び、ダクネスは酒が入っても結局ロクでもない発言をしている。

 

そんなめぐみんの前に、酔いによって顔を赤らめたサティアが高級酒の瓶と氷を大量に入れた大きめのグラスをドンと置き。

 

「ここは仕方ないか…百合がどうとか世間に言われても最早構わない!口移しだ!自分から飲めないっていうのなら、私が無理やり飲ませてやる!」

 

「ああっもう!魔法使い職はお酒が入ると手が付けられなくなるとか特性として備わっているんですか!?って…え?いや、ちょ…じょ、冗談ですよね…?あっ…!」

 

酒を口に含んだサティアの唇がめぐみんの唇に残り数cmといった所で、この騒ぎの中で唯一冷静だった全身鎧の騎士がサティアの首襟を掴み、何とか引き剥がして収拾をつけた。

 

「おいおいサティア…。いくら酒の席とはいえ無理やり未成年に酒を飲ませるなよ…。ほら、大丈夫か紅魔の娘。この酒、各町のギルドの酒場に流通してるヤツより強いから無理もないがな…。正直、サティアがここまで取り乱すとは思わなかったが」

 

呆れた様に腕を組み、酒の強さに自信があるのであろうベルディアは、酔っ払い組を宥めた後、椅子に座ってちびちびと酒を飲んでいる。

 

と、やはり酒が入ったメンバーは全員、まったく収拾がつかないようで。

 

「あああああっ―!?ちょっと何すんのよこのヒキニート!私のお酒、殆ど飲んじゃったじゃない!さっきの仕返しなの?女神の献上品を略奪するなんて、本当にクズマさんだわ!」

 

「うるさい駄女神!酒を取ったかと思えばその勢いに便乗して霜降り赤ガニまで奪ったくせに!というか、お前に物を献上する信者なんているもんなのか?もし一人でもいたとしたら、ちゃんとした加護かなんか与えてやった方がいいぞ?」

 

「な、何ですって!?あのね、この世界には私の信者が五千万…いや、一億人を超えてるんだから!信じられないって言うのなら、証拠もこっちは出せるんですからね!ほら、コレを見なさい!」

 

アクアに色々な正論を飛ばしたカズマの前に、一枚の広告紙も様な物を叩きつけた。

それを見たカズマはその広告紙に首を傾げ。

 

「『水と温泉の都、アルカンレティア』?何だこれ、パンフレットでも旅行代理店から貰ってきたのか?見合いも終わって裁判も落ち着いたし、全員で旅行に行くもの悪くは無いな」

 

「そうそう、裁判とかで疲れた体を湯治でゆっくりと…って違うわよ!いやちょっと違わないけど。いい?このアルカンレティアは我がアクシズ教の総本山。湯治で疲れを癒すのと同時に、私の信者の信仰深さをカズマ達に証明出来るの!ほら、まさに一石二鳥というヤツでしょ!?」

 

「なるほど…デストロイヤーさえも避けて通るアクシズ教の総本山アルカンレティア。だけど、その女神様様が信者より弱いって事はないでしょう…ね?私としては折角だから、人生で初めて出会った女神はエリスの方が良かったけど…まあ、アナタの方が先輩らしいし?あんまり私を失望させない程度にそこで崇めてもらう事ね…!」

 

「色々突っ込みたい所だらけなんだけど…まず、私の信者は魔王軍の中でもどう思われてるの…?デストロイヤーが避けて通るとか、侵攻の痕にはアクシズ教徒しか残らないとか、いささか風評被害すぎるんですけど…」

 

泥酔している俺は、人間、いや、生物の三大欲求には従順だ。言葉遣いだってカズマより酷くなる。

そして、三大欲求の中でも特に、性欲はズバ抜けて強い訳で。

 

「なあなあ、アレカンレティアに…。いや、この世界に混浴はあるのか?あるんなら勿論…」

 

「…!そ、そうかっ!例えば、旅先でたまたま知り合ったお姉さんと休憩ついでに、混浴いかがですかと上手く誘い…!」

 

「それだっ!それでこそのカズマだ!…あれ?でも行く金あるっけな。最近はそんなに纏まった金は無かった気がするし、裁判の件も完全に勝利した訳じゃないだろ?街から出るの許してくれるのかな」

 

俺達二人が金の事で解り易く悩んでいると、サティアが俺の肩に手をぽんと置き、酔いによって赤くなった頬を艶っぽく見せながら、語りかける様に。

 

「ほら、私を倒した事にすればいいんだよ。『魔王軍幹部』の私を倒したって報告をすれば、賞金も貰えるし、その…裁判のなんちゃらも信用が得られれば解決する物なんだったらそれだけで終わるよ?」

 

「いや…それって結構な詐欺じゃあないのか?倒した証拠なんて求められたなら最悪だし、それで裁判を起こされたら勝てっこないし…」

 

「確かに…二度目の裁判なんてこの短期間で起こされたら、疑いがすっかり晴れたユウキの事だって再び疑われかねない。…一応聞いておくが、賞金ってお幾ら万エリスなんでしょうかね…?」

 

カズマの質問に一瞬、サティアはベルディアと目を合わせ、思考に入る。

その時間は思ったより少なく、お互い『言ってもいい…のかな』と少し不安を残しているが、納得した様子で。

 

「賞金は…ね、えっと…。ベルディアが――エリス。私が、――エリス、だよ」

「え?よく聞こえなかった。もう一回、もう一回お願い」

 

「だから!ベルディアが、三…億エリスで、私が…ご、五億…?」

 

それを聞いたアクアがすかさず杖を持ち、嬉々としながら椅子に座り無防備なベルディアに襲い掛かった!

 

 

 




二章終わりましたー!
UA数もいつの間にか六万を超え、モチベ向上です。

魔王城編のほとんどはオリジナルなので一章よりも疲労感が大きいです。

次話から三章、『恋 アルカンレティアの温泉旅』が始まります。

紅魔族の族長の娘さんのお話はもう少しお待ちください。(書籍版では二章の物語内での登場)

誤字脱字修正していきます。

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