この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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誤字脱字お気をつけください。


紅魔族の少女

風呂場で見事に俺は、変態という名の称号をゲットし。

流石に同じタイミングでアクアが待つ大部屋に帰るのはマズいので、俺とプラスさん、それぞれが別々のタイミングで戻る事となった。

荷物はプラスさんの部屋は二階、ダクネスの部屋の隣にアクアが荷物を置いてくれていたらしい、ベルディアの鎧は未だ玄関に寂しく置かれたままだが。

 

「いやプラスさん、本当に勘弁してくださいよ…?変態君って皆の前で呼ばれたら、風呂の事バレちゃうじゃないですか」

「えー…?だって変態君、今も鼻の下伸びてるもん。今、君から押し倒されても風魔法でアレを切り落とす事ぐらいは簡単なんだからね?」

「流石にそんな危険な橋を渡りませんよ!というか、いい加減変態君はもうやめて…ください…!」

 

別々のタイミングで帰る事になっていた俺達だったが、どうにもこの『変態君』の誤解だけは解いておきたいのだ。

いや、非は完全に俺にあるのだが。

 

「それよりもこのローブ、何だか暖かい。少し小さいけどね」

「まあ、プラスさんの身長は180cm後半ぐらいですからね…。やはり10cm近く身長が低い俺のローブは結構小さいでしょう」

「ふふ、でも何か心地いい。ありがとね」

 

屈託の無い、フードで隠されていない美しい笑顔で、プラスさんがそんな事を言ってきた。

やっぱりプラスさん、男の扱い方上手いなぁ…。これで落ちない男も少ないだろうに。

結局、俺がプラスさんに振り回されるペースのまま、変態の称号は無くならなかったのであった。

 

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俺はプラスさんを部屋まで案内して、自室で予備用に貰ったローブを身に纏い、めぐみんの部屋の前まで来ていた。

 

ここからは今までの感情を全て振り払わなければならない。

魔王城にいた時には一番会いたかった存在なはずなのに、いざ屋敷に戻ってみると緊張で会いに行くのが何となく怖く感じてしまう。

俺も酷い男だ。あれだけ、献身的に看病もしてくれた事もあったのに、直前になって会うのが本当に怖い。

 

逆に、何故今まで忘れられていたのか、これが一番の恐怖だ。

プラスさんの所為にする訳ではないが、そちらに心が逃げたがっていたのかもしれない。

 

今すぐ会ってやりたい、どういう理由かは知らないが、アクアやカズマは俺が帰ってきている事をめぐみんには知らせていないらしい。

ダクネスの方も不安だ。俺が遭難した日から、俺達の無罪を主張する為に、領主の元へ行ったっきり帰ってきていないらしい。

 

デストロイヤー戦から、俺達の身の回りに厄介な事が連続で起こっている事は、はたして偶然なのか?

誰かが故意に操作している事だと言いたい訳ではないが、ランダムテレポートが成功せずに、魔王軍幹部、ベルディアから助けられていなければ俺は確実に死んでいた。

 

「確実に殺しに掛かってんのか……笑えねえな」

 

少し考えすぎなのかもしれないが、どうも偶然だけでは済まされない全貌がある気がする。

いいや、その考えはあまりにも人に押し付けすぎてる。自分が悪い、俺が悪いのだ。

 

「よしっ…!もう、覚悟を決めて入るしかない…な」

 

俺は様々な不安を力任せに振り払い、大きく音を立てずドアをゆっくりと開けた。

 

まず、俺の視界に入ってきたのは黒…影だった。

部屋に備え付けられているカーテンで日の光を完全に閉ざし、光源がほとんど存在しない。

数十秒もすれば目が慣れてきたが、視覚だけで捉えるのなら、この部屋に本当にめぐみんがいるのかどうかと疑うほどの暗さだ。

 

人は、どんなに息を潜めていても気配という物を発する。

耳を澄ませば、どこからか呼吸をしている気配がする。ベッドの配置はサキュバスの一件の影響で覚えているので、めぐみんは寝ているという事だろうか。

 

俺はめぐみんを起こさないように足音を消し、枕元のカーテンを思いっきり開けた。

部屋にはカーテンから開放された日の光による明かりを取り戻し、暗さによる重い雰囲気を払拭した。

 

――もう、春が近いな。窓も、開けてしまうか。

 

めぐみんの机には魔道書らしき物が数冊並べられており、その横には少しだけ埃を被った、マナタイト製の杖が立て掛けられていた。

その机から椅子だけ借り、ベッドに横付けしてからめぐみんの寝顔を覗く。

 

「…めぐみん、随分と痩せたな」

 

この至近距離でも聞こえるかどうかの声だった。

食事を取っていないのか、疲労を隠せない顔色をしており、人間らしい膨らみも失いつつある。

息はしっかりとある。枕元には水が入ったコップが置かれており、僅かだが水分も取っているようだ。

 

だが、栄養不足、または食事を欠いている事は隠せていない。

 

いつの間にか俺は、彼女の手を握っていた。

罪滅ぼし、懺悔、全てに当てはまらない、感謝の気持ちと、彼女を悲しませた侘びの礼だ。

ベルディアに気絶させられていた時の事を思い出しながら、俺は何も言わずに、静かに寝息を立てている彼女の手を握り続けた。

 

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長い時間だった。

 

前方から、少し暖かい痛みが伝わってくる。しかし、どこか幸せを感じる物だ。

椅子の背凭れがあるお陰で地に倒れる事はないが、何かが俺に圧し掛かってくる感覚は伝わってくる。

どうも意識が朧げだ。俺はいつの間にか寝てしまっていたのだろうか?

 

それから数分が経った頃だろうか、意識が覚醒したと同時に、外はすっかり暗くなっている事に気がついた。

冬の肌寒い風ではなく、静かに空間を掻き回す春の暖かい風が、窓から部屋に入り込んでいた。

 

「ふふっ、やっと起きましたか?やっぱりユウキはまだ、子供ですね」

 

突然、悪戯っぽく、俺に圧し掛かってきていた存在が僅かな笑みを残しながら、そう言った。

物理的ではない暖かさを持った、その存在は俺を抱擁し、親に甘える子供のようにその手を回してくる。

 

「は…え?め、ぐみん…か?」

「ええそうです。我が名はめぐみん、紅魔族一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操る者…です」

 

言葉が、出てこない。

どうすれば、何を言えばいいのだろうか。

心配させてしまった事を謝るべきか?

それとも、ここは俺に何事もなかったと元気に振舞うべきなのか?

 

すぐにその二つを選ぶ決断は下せず、俺は黙り込んでしまった。

 

「無事に帰ってきてくれて、ありがとうございます。そして、おかえりなさい」

「…ああ、ただいま。…ごめん、本当にごめん、あれだけ無茶はするなって言われてたのに、数日も家を空けてしまって…。その、心配させてしまったか?」

「……いいえ、大丈夫ですよ私の事は。帰ってきてくれる事を信じていましたから。本当にもう、これからは私が毎日、近くでしっかりとユウキの事を見ていないといけませんね」

 

その事を言い切った途端、めぐみんが俺の腰に回している手の力が強くなった。

…あれ?

童貞の勘違いの可能性が高いが、これは遠回しに告白されているのではないか?

どうする俺、今日は流石に童貞には厳しすぎるイベントばかり起きるのだが。

…そうだ!よし、これでいってみよう。

 

「ああ、今日は月が綺麗だな……」

「……そうですね、ちょっと、綺麗すぎて逆に怖いですが」

 

こっちの世界ではこの意味じゃないってのか!?

マズい、これしか作戦を持ち合わせていなかった。

残りは普通の会話しかない。が、それが上手ければ俺は日本で既に童貞ではない。厳しい戦いだ。

 

「俺が呑気に言ってられる事でもないと思うが、ちゃんとご飯は食べていたのか?顔色が悪いのが少し気になってな…」

「ええと…確かに、ここ二日や三日は何も食べていませんね。アクアの回復魔法のお陰で、体調を崩したりはなかったと思いますが」

「そうか…。少しでも食欲があるんなら、今から何か食べやすい物でも作ってくるが…」

「ふふっ、いえ、今はこっちの方が嬉しいです」

「お、おう…。わかった、食べたくなったら言ってくれ」

 

ヤバい、心臓がバクバクしすぎてぷつぷつと壊れていきそうだ。

日本では恋愛経験がなかった、という訳ではない。

一応、彼女いない歴=年齢ではない…が、彼女がいた時期というのも、小学校低学年時代の事だ。

年齢一桁時代の頃の恋愛とは、あまりにも違いがありすぎてどうすればいいのかわからない。

 

というか、ここは男の方から何かすべきなのか?

いいや、変に状況を変えてしまうよりも、今こうして、抱きしめられているのがとても落ち着ける。

今、俺を抱擁している存在は、俺にとってとても愛おしく、愛すべき存在だ。

右腕でめぐみんの頭を抱く様にして、ひんやりと冷たい黒髪に手先を突っ込む。

 

その綺麗な黒髪を手櫛を入れる様にすきながら、瞑目して幸せをゆっくりと感じていると。

 

「あ、あの…その、私の気持ち、聞いてくれますか?」

 

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――人には、モテ期って物があるらしい。

俺のモテ期は小学校低学年で終了したと思っていたが、現に今、こうして一人の少女が顔を真っ赤にしながら、何かを伝えようとしている。

 

これは、そういう事なのだろうか。

いや、そういう事だろう。

まずは落ち着け、落ち着くんだ俺!そう、サキュバスサービスのシュミレーションを思い出せ!

俺は決心して、めぐみんと目線を合わせ話を聞こうと…。

 

めぐみんの目尻の辺りから、ほんの少し、一滴にも満たない程の涙が零れた。

 

「め、めぐみん?その…あれだ。無理してるんなら、ゆっくり休んだ方がいいと思うが…」

俺の言葉に、めぐみんは自分が涙を零していた事に気がついた様だ。

 

「大丈夫ですよ、あなたが帰ってきてくれて、本当に嬉しいんです。あなたが帰ってきていなかったら、私は生きる理由すら失っていたのかもしれません」

零した涙を指で拭い、心配しないでくださいと言わんばかりに、俺に満面の笑みを見せた。

 

俺の事を『あなた』と呼ぶ様になった事に、少しの緊張が走る。

 

やっぱり、俺は恋をしているのだろうか。

この気持ちは決して性欲等ではない、心臓が鼓動を強めている原因も、彼女を愛しているという事なのか。

確かに、この世界の中で一番好きな人は?と聞かれれば、迷わず彼女の名前を言うだろう。

 

恋って怖いな。本当に、その人の事しか考えられなくなるとは思わなかった。

 

「今、やっと気が付きました。あなたへの気持ち、今から伝えます」

 

上目遣いでそう言っためぐみんの、次の言葉を期待しながら待っていると…!

この部屋、めぐみんの部屋のドアが、ゆっくりと開かれた。

 

「めーぐみん。起きてる?どう、ちょっとでも食欲があったらと思って、お粥作ってきたんだけ……ど」

 

お粥を御盆に乗せ、器用にドアを開けて入ってきたアクアが、俺に腰を回して抱きついているめぐみんと目が合った。

オイ、どうすればいいんだこの状況。どうにも誤魔化せないぞ。

何故よりにもよってこの女神なんだ。ベルディア辺りだったらまだ大丈夫だと思うが、アクアは必ず近くにいる人に言いまくる筈だ。

 

「あ、あなた達…そういう関係だったのね…だ、大丈夫!カズマさん達には絶対に言わないから!あ、お粥、ここに置いとくわね!それじゃあ!」

「あ!おいちょっと待て!それ絶対言うだろ!?なあ、絶対言うだろ!?」

 

そのまま台所の方へ駆け出していったアクアを追い掛けようと思ったが、俺の身体に身を預けているめぐみんを倒してしまいそうな事を考えると、なんとか踏み止まれた。

 

「…行っちゃいましたね」

「……行っちゃったな。どうする、早く食べないと冷えるし、お粥食べるか?」

「折角なので食べます、食べさせてください」

「おいおい、子供じゃないんだからさ…。まあ、いいけども…」

「ちょっとしたツンデレ属性発動ですね、意外と中々可愛いですよ?」

「知ってるか?女子から男子に可愛いって言われても、男子側は困惑しかないんだぞ…?ほら、あーん」

 

熱々のお粥を一匙掬い、それを溢さないようにゆっくりとめぐみんの口元にまで運ぶ。

胃が驚かない程度にゆっくりと食べさせた方が良いとどこかで聞いた事があるが、本人が次から次へと欲しがるから仕方がない。

…てか、食べる時の顔、可愛いな。

 

「早…。もう食っちまったのか…」

 

食欲があるのなら、という程度に作られた量なので元々そんなに多くなかったが、それでもこの速さには驚きだ。

本人は満更ではなさそうな顔で、

 

「お粥、美味しかったです。ごちそうさまでした」

「っと…大丈夫なのか?急に胃に食べ物を入れると胃が吃驚するんだぞ」

「大丈夫ですよ、っと。でも、久々に食べたらちょっと眠くなってきました…。…何だか寂しいので、私が寝付くまで隣に居てくれませんか?」

「一緒に朝まで寝るってのも俺的にはアリなんだが、アクアの方に色んな誤解が広まっていると思うし、めぐみんが寝付いたら静かにお暇するよ」

 

そう言って、俺はめぐみんをベットに寝かせ、毛布を掛けてから手を握ってやる。

少しだけでも食べ物を摂取したお陰か、昼間よりも手が温かい気がする。

よかった、命に関わるまで容態が悪くなったりはしないようだ。

 

部屋のランタンの灯りを消して、めぐみんが静かに寝付くのを待つ。

……思い返してみれば、ここ三日四日で色んな事が変わったなぁ…。

裁判が一時休戦になった翌日に、あの雪崩に巻き込まれて遭難、そのまま一泊二日で魔王軍にお世話になって、今ここにいる。

俺がいない間にアクセルに魔王軍幹部が二人も来ていたが、それは俺も二人連れて来たし、お相子って事で…いいのだろうか。

 

この街にいる魔王軍幹部全員が本気を出して襲撃やらなんやらすれば、王都でも何でも陥落すると思うのだが。

あの仮面悪魔が言っていた通り、法の面から見ればデストロイヤーの一件など軽すぎる。確かに、今すぐ連行されて処刑されても不思議ではないのかもしれない。

 

――と、いつの間にか、めぐみんはすっかり安心した様子で、寝息を立てて眠りに入っていた。

 

俺はそれをしっかりと見届けてから、握っていためぐみんの手を離し、空になったお粥の御盆を持って、起こさないように静かに部屋を後にした。

 

窓の外を見るからに、時刻はすっかり深夜に入っており、直感で日付が変わったなと思う時間だ。

 

誰もいないキッチンのランタンの灯りを点け、その流しに御盆を置く。

そういえば、今日は魔王城の朝食以来何も口にしていない。

コップ一杯分の水で、台所にあったパン二つを流し込む様に食べ、そのまま自室に戻った。

 

その間、考えていた事といえば裁判の翌日から姿を消しているダクネスの事だ。

領主の元からダクネスが未だに戻ってきていない事に、静かな胸騒ぎが走る。

 

誰かが許していないのだろうか、この屋敷に、活気が戻る事を。

 

 

 

 

 




誤字脱字修正していきます。

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