この素晴らしい世界に魔法を! 作:フレイム
今話は本家このすばを意識して書いてみました。
誤字脱字お気をつけください。
「んん……?君がテレポートしてほしいって言っていた街って、本当にアクセルだよね?」
突然、自身の蒼い杖に魔力を込めていた手を止め、プラスが俺に問い掛けてきた。
「…?そうですけど。遠すぎて、魔力が足りなかったとかですか?」
「い、いや。流石にそんなことはないんだけど……。あー…ベルディア?彼に話しちゃっていいかな?」
ベルディアは既にプラスが何を言うか分かっていた様子で。
「まあ減ることでも無いだろうし、俺は一向に構わんぞ。但し、その件にアークウィザードのコイツを巻き込むかは勝手にするといい」
ベルディアの言葉を聞いたプラスは完全に杖に込めていた手を止め、フードの上からでも読み取れる、覚悟を決めたような表情で向き直る。
「――龍だ。半年…いや、一年後ほど先の話になると思うが、アクセル付近に強大な龍が現れる。私が殺してきた龍はもう数百になるけど、魔王城にまでその影響力を及ぼしている龍は相手にした事はない。悪いことは絶対に言わないし、君と、君の仲間には一切危害を加えたりしない。約束しよう。――絶対に、私が居た方がいい」
そのプラスの声は先程までの波長と大きく違うように聞こえ、どこか龍に対して異常な恨みを持っている様な物を俺は感じた。
俺は圧倒的な威圧感を避けるように一歩後ろに下がり。
「――龍?なんでそんな物が、駆け出し冒険者の街の近くにいるって事になってるんですか?もちろん、プラスさんがベルディアと一緒にアクセルに来るのには反対しないですけど」
俺の言葉を傍で聞いていたベルディアが、やれやれといった感じで腕を組み直し。
「恐らく今、プラスが感じた気配は『クーロンズヒュドラ』だろう。十年に一度、アクセル付近にある湖から姿を現し、眠っている時に蓄積された魔力を全て吐き出すように使うまで、近くの人や建物を見つけては破壊活動を行うという大物賞金首だ。十年前には王都から派遣された騎士団がなんとか魔力を削って眠りにつかせたと聞いたが…。……そうか、もう十年も前になるのか」
「とまあ、その龍は私が殺したいから、私も連れて行ってほしいの。それに、アクセルって確かウィズさんが魔道具店を開いている街でしょ?実は、私とウィズって先輩後輩の間柄だから、久々に挨拶しときたいんだよね」
勝手にポンポンと話が進んでいく状況に、俺は困惑の色を隠せない。
眠っている龍?ウィズと先輩後輩の間柄?
――プラスの元に来てから、話が異常な進行速度で走っているな。
「っていうより、プラスさんは魔王軍での仕事とか大丈夫なんですか?今の話を聞いていたら、一年後とかどうとか言ってましたけど」
「大丈夫大丈夫。当分はアクセルのどっか…君の家でもいいし、そっちが気に入ったら適当に魔王に死亡報告しとけば処理してくれるし、気に入らなくても王都で有名な呪術師の集団から大量な封印の呪いが……とかいっとけば籍は残ってると思うし平気平気」
魔王軍の人事は相変わらずどうなっているのか不安すぎる。そんな簡単に辞めてしまっていいのか。
……って、君の家?
「ちょ、ちょっと待って。え、俺の家に来るんですか?俺と同い年の思春期真っ只中な男が居ますけど、もし暮らすっていうのであれば、変に露出の多い服とかは控えたほうがいいですよ?」
「もしその子が私に手を出してきたら局部を風魔法で切り落としてやるから大丈夫だよ」
帰ったらカズマにしっかり釘を刺しておこう……。
とりあえず、そんな事にならないように、カズマにはサキュバスサービスで納得…してくれるかなぁ?
「……おい、何か俺の仲間外れ感だけはなんとかしてくれないか。確かに宿に泊まるって言ったけど、一年も宿暮らしとか冒険者でもやってないと流石に無理だぞ」
兜の上からでも分かる、どこか少しだけ寂しそうな顔をしたベルディアが、俺達に聞こえる程度にポツリと呟いた。
「それじゃあ、ベルディアも一緒にお世話になればいいじゃん。私の染色魔法で日替わりで色を変えてあげるよ?じゃあ、今日は桃色で…」
「や、やめろプラス!鎧も確かにそうだが、俺が一番気にしているのはこの首だ!これを脇に抱えてる以上、街の住民や冒険者から直に正体がバレてしまうだろう!」
確かに、ベルディアは以前アクセルを襲撃した時に、ほぼ全ての冒険者には顔を覚えられている事だろう。
アクセルの街ではその状態のベルディアに、俺から掛けてやれる言葉はただ一つ。
「接着剤か、ガムテープでくっつけりゃ…」
恐るべき速さで、ベルディアが襲い掛かってきた!
2
「痛てえ…まだヒリヒリする…」
見事にベルディアの右ストレートを顔面に受けた俺は、プラスの氷魔法で殴られた頬を冷やしてもらっている。
「あーあ、大丈夫?ごめんね、ベルディアのおじさんが急に殴るから…」
「お、おじさん!?おお、俺が騎士からこの姿になった時は、三十代前半の話だぞ!?まだおじさんじゃないだろう!」
いや、お兄さんとも呼ぶには十分厳しい年齢だと思いますが。
そもそも、アンデッドになってから年をとらないのか。
ってあれ。
……ウィズって今、何歳なんだ?
「……よし、とりあえず腫れは引いたっぽいよ。んじゃあベルディア、首の所に氷結魔法を常時張ってあげるから、多分ソレで首が落ちる事はないと思うよ」
杖を持たず、詠唱無しの氷結魔法はベルディアの首元を瞬時に凍らせ、その首元に恐る恐る自身の首を置いた。
「……ふう。これで大丈夫か?試しに少し動いて…おわっ!?」
「あっちゃー。やっぱりもうちょっと強くしないと落ちちゃうか……って、私の足元に転がってくるな変態!」
「やでっ!きゅ、急に蹴り上げるな!兜が凹む!……うおっ!?」
見事なプラスの蹴り上げはベルディアの兜がくるくると宙で一回転してちょうど首元の場所に着地。した瞬間にプラスから無理やりそのまま首元を凍らされた。
……上手かったな。
「とまあ、そろそろ雑談も終えて出発しようか。出発予定時間から結構過ぎてるし、早くウィズに会いたいし、君の家で早く休みたいし」
後半が駄目人間の発言だった気がするが、確かにこの部屋に入ってから随分と時間が経っている。
「うむ、別に急ぐ必要も無いが、アークウィザードのコイツも早く帰りたいだろう。恋人の紅魔族の娘が家で待っていると、ランスから聞いたからな」
「こっ、恋人じゃないから…!一番心配してくれてるだろうから、早く顔を見せたいだけだから…!」
ほぼ台詞的にはツンデレでしかない俺の言葉を聞いたベルディアが、高らかに笑い声を上げる。
畜生、じわじわとティンダーで氷溶かしてやろうかな。
俺達のやり取りを傍で見ていたプラスが口元を笑いで歪ませながら。
「紅魔族…か。君、その子を大事にしてあげてね」
突然プラスが、そんな事を言ってきた。
照れ臭さより先に、どこか違和感を感じた。
何だろう、何か紅魔族に思い入れでもあるのだろうか。
「という事でプラス。そろそろテレポートの準備を頼む。ランス、ギルト!全員分の荷物はしっかりと纏めておいたか?」
ベルディアの呼び掛けにランスとギルトは既に準備は整っておりますという意味らしき一礼をし、プラスは杖を構えテレポートの体勢に入った。
俺はランスの後ろに上手く積まれているベルディアの荷物を見ながら。
「……ベルディアの荷物だけ、やたら多くない?」
「し、失礼な、俺はこれでも鎧を毎日点検している性質だぞ?そりゃ、一週間分の普段の鎧と全属性に対応出来る鎧ぐらいは持つさ」
「んじゃあ何で、俺が付けたその傷が消えてないんだ?」
俺が指差した先にある、ベルディアの胴体の切り傷は確かに、単独でベルディアが襲撃した時に切り掛かって付けた物だ。
素人に毛が生えた程度の剣の実力である俺が振るった光剣で今もなお、ここまで大きな傷が残っているとは思えない。
「ああ、これか?ちょうど十字に傷が入ってるんで、歴戦の騎士感を出そうと残してたんだが…」
「アクセル襲撃の日から鎧変えてねえじゃん…」
俺の突っ込みが入った所で、ベルディアとの間に割って入ってきたプラスが。
「はーいはい、全く二人とも、子供みたいだったよ?子供の喧嘩じゃないんだから……。ほら、テレポートの詠唱が終わったよ」
先程までプラスが杖を構えていた場所に、漆黒の魔法陣が広範囲に広がっていた。
早速ランスとギルトが慣れた手付きで荷物を魔法陣内に置き、俺は荷物が置かれている間にぴょんと魔法陣に入ってみた。
おお、下から黒い光が差し込んでくる。
死後の世界からこの世界に転生した時に、確かアクアが水色の魔法陣を張っていたな。
俺は少し感動しながら、幹部の二人の方を振り向くと。
「ちょ、ちょっとベルディア!狭い!狭いって!もうちょっと奥に詰めて!」
「お、押すなプラス!俺の荷物が雪崩級で崩れてしまうぞ!も、もうちょっと魔法陣を広く出来ないのか!?」
「アクセルまでこの荷物を輸送するだけでもかなりの魔力がいるんだよ!?というかこの魔法陣は時間制だから、勝手にテレポートしちゃう…」
魔王軍の幹部同士って、仲がいいのな…。
足元の光が、次第に白の輝きに…って。
この光には見覚えが…!
「――マズい!これもう数秒でテレポートされるぞ!」
「ランス、ギルト!荷物を押さえろ!鎧が!鎧が雪崩に!」
危ねえ!もう少しでこっちに落ちてくる所だったぞ!
「ああもう!『テレポート』ッ!」
完全に何所か吹っ切れた様子のプラスの声と同時に、俺の視界は白い輝きに包まれた…!
誤字脱字修正していきます。