この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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誤字脱字修正していきます。



五人の魔王軍幹部

――光源が一切ないダンジョンの中、カズマは幹部ら二人に気づかれないように少しずつ後ずさる。

アクアがバニルに向けて油断なく杖を向けているが、もう片方の紅魔族のめいめいには完全な隙を与えてしまっている。

アクアがいれば悪魔族相手にはどうにかなるだろうと思っていたカズマにすれば、暗黒魔法を得意とするめいめいの存在は予想外すぎた。

「アクア。お、おいアクア。これは俺達二人じゃどうにもならん。一旦退避した方が…」

「――ッ!カズマ!忘れてしまったの?アクシズ教教義第五条、『悪魔殺すべし!』聖職者である私が、悪魔相手に尻尾を巻いて逃げる事はできないわ!」

「って知らねえよんなもん!いいか、あの悪魔からユウキの事を見通してもらうんだろ!いいか、絶対に殺すなよ、絶対にな!」

閉鎖空間に近いこのダンジョン内での会話は、幹部達にもしっかり届いてしまったようで。

「ほう。この我輩を倒そうだと?魔王より強いかもしれないバニルさんと評判の、この我輩を?確かに悪魔族は対プリーストは苦手だが、たった一人の人間風情から、浄化されるほど地獄の公爵は落ちぶれてはおらぬわ!」

「それよりも、バニルさんを倒そうと思うのなら、まず私から相手になります!悪戯に暗黒魔法でアークプリーストを葬ってきた訳ではありませんから。バニルさんには指一本触れさせません」

そう自信有り気に放った幹部らの言葉は決してハッタリの様な代物ではなく、凡人であるカズマの本能でさえ警鐘を鳴らすほどだったが。

「まあ落ち着くがいい。我輩は、別にお前達と争うためにこの地にやってきた訳ではない。魔王の奴に頼まれた、最後の調査。そして、アクセルの街に住んでいる、働けば働くほど貧乏になるという奇妙な特技を持つ、ポンコツ店主に用があってここまで来たのだ」

そんな悪魔の言葉に、カズマは思わず恐怖心を解き、杖を持ったまま警戒しているアクアと顔を見合わせた。

 

――――――――――――――――――――

 

隣では、アクアがいつでも浄化魔法を放てるように油断なく杖をバニルに向ける中、カズマはダンジョンの土混じりの床に座り、バニルの話に耳を傾けていた。

「まず、我輩の横にいるめいめいは既に魔王軍幹部を辞めていてな。そして我輩は、世間で言うところの悪魔族。魔王から頼まれた仕事の途中、たまたま通り掛ったこの主のいないダンジョンを我輩の物にしようと入った所、偶然にも昔の幹部時代に友好を深めていた旧友に再会し、それから楽しい日々を楽しんでいるので、もう魔王軍を辞めてしまおうと思っていてな」

「魔王軍って辞めたい時に辞めていいのか…。すげぇシステムだな。……ところで、この結構手の込んで作られている人形達は何なんだ?さっき争わないとかどうとか言ってたけど、ダンジョンからポコポコ出てきて色々被害が出てるんだけど」

バニルは作りかけていた人形を土に戻し、白い手袋に付いた土を払いながら。

「……む?我輩はこやつらを使って、ダンジョン内のモンスターを駆除していたのだが。ふむ、ダンジョンの外に溢れ出しているという事は、もうこのダンジョン内にはモンスターはおらぬ様だな。では、バニル人形の量産は中止し、そろそろ次の計画に移るとしようか。……ところで、我輩の人形が一つ一つ手が込められているのを見破るとは、見る目がある様だな。お礼に、我輩特製の夜中に笑うバニル人形を進呈しよう。」

「い、いらない。って、次の計画って何だ?一体二人は何を企んでいるんだ?」

「企みとは失礼な。先程も似たような事を言ったが、我輩は自分のダンジョンを持つ事が一つの夢でな、いつか近い将来。凄腕冒険者にしか越えられぬダンジョンを築きたいのだ…と。……そういえば、汝らは自然と我輩らと会話しているが、何用でここまで来たのだ?どれどれ、ちょっと汝の過去を拝見して…」

バニルの仮面越しに輝く瞳は紅魔族の紅い瞳とは違った、これぞ魔族といった、人に本能的な恐怖を呼び起こさせる、血の色をした瞳に変わった。

一秒、また一秒毎に、バニルの口元の歪みは、苦笑程度のものが、次第に何かを楽しむような笑いに。

「………………フハハッ」

何かを堪え切れず出た、何かを見通した様子のバニルが、乾いた笑い声を上げた。

その異様な気配に、今もなお杖をバニルに向けていたアクアの影に隠れるように、カズマは逃げ込む。

「フハハハッ、フハハハハハハハ!フハハハハハハハハハハハハハハハ!なんという事だ、なんて事はない、遭難した仲間の安否を汝は望みか?その仲間という奴は、何らかの手法で魔王軍幹部トップクラスの二人を手玉にとり、既にアクセルの屋敷に戻っておるわ!」

バニルが異常な興奮を表し、右手を高らかに天に掲げた後にアクアに指差し、仮面に隠れていない歪ませた口を開き。

「現在、魔王軍幹部がアクセルに三人。三人だ!それに我輩らも加われば、五人……!フフ、フハハハハハハ!めいめいよ!すまないが、我輩はこのダンジョンは放棄してアクセルに向かう。めいめいも一緒に来るか?」

「っ!い、行きます!バニルさん、私達が暴れれば、王都の一つや二つは陥落しますよ!そんな戦力が固まった場所に、紅魔族が行かないわけないでしょう!」

「フハハハッ、流石は我輩と波長が合う友!親友よ!それでは、早速テレポートの用意を…!」

めいめいの右手に収められている杖先が更に暗黒に染まり、今にも開放されそうな魔力を込められていくのをカズマはしっかりと感じた。

このまま易々と逃げられてしまうのではという事を恐れ、

「ちょっ!ちょっと待て!ほ、本当にお前らは人を襲わないんだよな!?今の会話だけ切り取ると完全に襲撃一歩手前だぞ!」

カズマは咄嗟に脳内に並べられた言葉をバニルらにぶつけ、本能的に時間を稼ごうと声を張り上げる。

「汝よ、心配するな。これは魔王軍幹部らの協調性あっての興奮。我輩らは人間を襲ったりする事はないと思ってくれても構わないが、汝の仲間とやらが連れて来た幹部らと手を組むかどうかは我輩らの勝手。汝の願いはしっかりと叶えてやった。邪魔をするというのであらば、全力で実力行使でも構わんぞ?」

バニルが大きく手を振り上げながらの脅しとも取れる発言を終えた途端。めいめいの杖先の暗黒色から一瞬の光に変わり、彼女の顔が笑みに変わった。

「バニルさん!準備できました。いつでも行けます!」

「フハハハハ!では汝ら、アクセルでまた会おうぞ!フハハハ!」

「『テレポート』ッッッ!」

めいめいの甲高い声がダンジョン内に響き、バニルらが一瞬の光に包まれた途端、その後には何も残さなかった。

ダンジョン内に取り残されたのは、途中から全くバニル達の会話に付いていけず、立ち尽くしていたカズマとアクアのみ。

「……これ、急いでアクセルに戻らないと相当ヤバくないか?」

「うん。ヤバいってレベルじゃないわ。下手すりゃ街ごと壊滅するかもしれない事態よ」

「そこまで感づいてたんなら、何で浄化魔法を撃たなかったんだこの駄女神!アクセルにはめぐみんも残ってるってのに…」

「うわああああああー!カズマが、カズマが私を駄女神って言ったー!だってだって!カズマがあの悪魔に浄化魔法を撃つなって…」

「言ったけど!言ったけどな!臨機応変だ駄女神!完全にさっきのは宣戦布告発言だっただろ!」

「……あれ?カズマ、何か大事な事忘れてない?そもそもここに来た理由って……何だっけ」

話の流れを変える様な発言をしたアクアに追い討ちを掛けようと、カズマが口を開いた瞬間、先程のアクアの発言がループするように脳裏に過ぎり。

「………あ、ユウキだ」

そこまで思い出した途端、カズマは顔を手で隠し、己の情けなさに絶句した。

 

 




ここら辺はかなりの場面を転々としていく物語になっていっています。
もしかしたら時系列的に混乱する人がいるかもしれません。

誤字脱字修正していきます。

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