この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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久しぶりの、カズマ達の物語です。

誤字脱字お気を付け下さい。



この仮面男に魔法使いの運命を!

「サトウカズマ!サトウカズマはいるかあああ!」

 

そんな怒声と共に、屋敷の玄関のドアが開け放たれた。

荒々しくドアを開け、真っ赤な顔で息を切らしながら屋敷に飛び込んできたのは、裁判で検察官を務めた、セナだった。

「お、おいなんだよ。悪いけど、今はあんたに構っていられる程、暇じゃないんだ…。俺の仲間が二人も…」

ちなみに、カズマが心配している二人の仲間は、ダクネスとユウキの事であるのは言うまでもない。

ダクネスは裁判の翌日から領主の所に行くと言って屋敷を飛び出し、ユウキに至ってはクエスト中の遭難で命も危ぶまれており、遭難の通知がカズマ達に行われた日から、めぐみんは自室で水以外ほとんど口にせずに寝込んでしまっている。

アクアが部屋の外から衰弱しない様に回復魔法を放ち続けているが、この生活が一週間も続けば厳しくなると、アクアが心配そうに言っている。

流石の女神でも、食事をしない者の生命維持は難しいらしい。

「構っている暇はないだと!?抜かせっ!やはり貴様は、魔法軍の手の者だろう!」

仲間が一人死亡した可能性まである現実を突きつけられているカズマに対し、目の前のセナはまるで自分の事しか考えていないように見える。

流石にカズマの堪忍袋の緒がプツプツと音を立て切れそうだが、なんとかその感情を飲み込み、冷静さを取り戻した。

「ダンジョンだっ!貴様、ダンジョンで一体何をした!街の近くのキールのダンジョン!あそこで、謎のモンスターが大量に湧き出しているそうだ!貴様も関与しているのではないか!?」

カズマ達には、最早関係のない話だ。

ダンジョンで何が湧きだそうとも、セナの言う事を聞くにも、現在の状況は全く変わらないのだ。

セナの言葉を適当に聞き流し、カズマはリビングのソファーに、倒れこむ様に座る。

そんなカズマの様子に違和感を覚えたのか、セナは切り札があるとでも言いたげに、話を続けた。

「いいだろう、貴様の仲間であるエンドウユウキ。彼が、生存しているか否か、知りたくはないか?」

セナのその切り札は、カズマの心の暗雲に、一筋の光を灯したのだろう。

「その話…。詳しく聞かせろ」

淡々と言い放ったカズマは、セナの言葉にしっかりと耳を傾け始めた。

 

―――――――――――――

 

「……なるほど。確かに謎のモンスターだ」

セナの案内によって道中を難なく進んだカズマ達は、キールのダンジョン前に到着し、遠巻きにダンジョンの入り口を観察している。

一人では流石に不安だと判断したカズマは、アクアにはめぐみんの世話を一時中断してもらって、同行してもらう事に。

リビングに事情を書いた手紙を置いて来たのだが、未だにめぐみんは寝込んだままだと思われる。

肝心の、ダンジョンから湧き出るモンスターは一言で表すと仮面人形。

仮面を被った、膝の高さほどのサイズの人形が、二足歩行で這い出していた。

今回、カズマがセナの要望に応えたのには大きな理由がある。

それは、人形が付いている不気味な仮面が、未来さえも見える事で有名な、≪見通す悪魔≫の証なのだからだ。

セナはもし、ダンジョンの謎のモンスターが発生する原因が≪見通す悪魔≫の仕業なのであれば、本人が直々に召喚している可能性が高く、アークプリーストのアクアがいれば色々と聞き出せるのではないかと、カズマを説き伏せたのだ。

限りなく可能性が低い話だが、ユウキがどこかの集落でも生き延びていれば、助け出すことも出来る。カズマは、そう考えたのだ。

「えっちょっ!な、なに!?……って、あら?」

様子見をしているカズマの背後にいるアクアが、仮面の人形から膝にしがみつかれていた。

無邪気な子供のような笑みが描かれている仮面からは、悪戯好きな子供のような印象も受ける。

「だけど一見、何も害がなさそうだと思うんだが…。あんなにちっこいのに、攻撃なんてしてくるのか?」

カズマの声を聞いて振り返ったセナは、アクアの膝にしがみついた仮面人形を見た途端、血相を変え、

「サトウカズマっ!避けろ!」

セナがカズマの襟首を無理やり掴み、出来るだけ距離を取りたかったのか、カズマを掴んだまま地に伏せ、匍匐前進で無理にアクアから離れる。

そして――

大きな爆発音を響かせながら、アクアにしがみついていた人形は跡形もなく消し飛んだ。

後には、爆発に巻き込まれてボロボロの格好で地に倒れ伏すアクアの姿が。

「……この謎のモンスターは見ての通り、動いている者に取り付き自爆するという習性を持っていまして。冒険者ギルドでも対処に困っている状態なんです」

「なるほど…。こいつは確かに厄介だな」

「二人とも、何でそんなに冷静なのよ!もうちょっと私を心配してよ!労わってよ!」

冷静に話し合っていたカズマとセナは起き上がり、雪をはらって再びダンジョンの入り口の様子見に入る。

「どうしましょう。このまま待っていても、あの人形が自然に数を減らしてくれるとは思えません。ここは強行突破で、最深部まで潜入を試みるというのは?」

「……お聞きしますが、検察官殿は戦闘能力はお持ちで?」

そう言ったカズマの視線を感じ取ったセナは、視線を合わせようとはしない。

「…わかりました。申し訳ありませんが、私はダンジョン前の入り口で待っていてもよろしいでしょうか?このまま私が入っても、足手まといになるだけでしょうから」

「まあそこまでは仕方ないか…。よし分かった。おいアクア、いつまでも寝転がってないで行くぞ」

先程、カズマとセナに華麗にスルーされたアクアは、ふてくされた表情で動きたくない事の意思表示をする。

「嫌よ。そこまで言うなら、盗賊スキル持ちのカズマだけで行けば…って。そうよ!これはユウキの命が懸っているんだったわ!まあでも、仮にお陀仏になっちゃっててもエリスがなんとか…」

「ほら!縁起でもない事言ってないで行くぞ!」

痺れを切らしたカズマは、アクアが神器だと自称している羽衣を無理やり引っ張って、セナの見送りを受けながらダンジョン内に潜入した。

 

――――――――――

 

「おおー…。どこもかしこも敵感知に引っ掛かる物ばっかりだ。でも、結構抜け道があるな」

カズマの敵感知スキルには三十体ほどの仮面人形が反応し、最大の反応はやはり最深部からだった。

その最深部の中には何故か強大な反応二つもあり、カズマは少し身を震わせながら、ダンジョンの中を慎重に進む。

「おかしいわね…。アンデッドが結構な頻度で出るダンジョンって聞いてたのに、全く反応がないわ。これはまさしく何かあるわね」

女神パワーで分かるのか、それともアークプリーストの勘で分かるのか。敵感知ですぐに分かる情報をドヤ顔で言うアクアには、暗視が多少なりとも利くらしい。

ランタン等の光源を一つも持たず、ダンジョン内を散策するというのは少しリスクを伴うが、この爆発人形の所為なのか。仮面人形以外のモンスターの反応は一つも存在しない。

感知の反応を避けて進むだけでいいカズマ達の歩みは、最深部まで止まる事はなく、普通ではない不気味感を漂わせていた。

 

順調過ぎるほど順調に奥まで進み、最も大きい敵感知反応がある部屋近くに到着した。

地面はダンジョン内の石造りとは違い、土で埋め立てられた様に造られており、どこからか湿っぽさが残る雰囲気だ。

「…アレだな」

「アレね」

カズマとアクアが指差した先には、あぐらをかいて、地面の土をこね回し、せっせと人形を作る影がある。その影の横に、ダンジョンには似合わない幼さを残した少女は床にぺたんと座り、人形を作っているその者を横から覗きこんでいた。そして、その少女からも大きな敵感知が反応していた。

人形を作っている者は、ダンジョンには明らかに場違いなタキシードに身を包み、白い手袋を付けたまま人形を作る影は、カズマ達を襲った人形とまったく同じデザインの仮面を付けていた。

口元が開いた仮面は、禍々しい印象を受ける。

仮面のせいで顔が分からないが、体形からして男と判断できた。

「ねえねえバニルさん。冒険者さんが二人、わざわざ最深部まで来てくれてますよ」

目の前にいるカズマ達を指差して、ようやくこちらに気が付いた少女が、今もなおせっせと人形を作っている男の肩を揺さぶっていた。

少女の声で今更気が付いたかの様に、仮面の男が人形から目を離し、カズマ達に視線を合わせる。

 

――今のカズマの脳内を簡単に言い表すのなら、驚きを隠せないという言葉で説明できるだろう。

まだ声変わりしていない幼い声。ダンジョンの暗闇に溶け込めるほどの黒髪。そして、この暗さの中でも輝く紅の瞳。

カズマが驚きを隠せなかった原因は、少女の容姿が、めぐみんの容姿と瓜二つだったからなのだ。

「……あなた、悪魔族ね。それもとびきり上位種の。その人形を作っているって事は、モンスター騒ぎの元凶って事で間違いないわね?」

そう言い放ったアクアは、カズマが最も気にしていた少女には視線を合わせず、その仮面男に杖を身構えた。

そんなアクアの様子を見たカズマも、慌てて腰の短刀を抜刀し、仮面の男に向ける。

恐らく、アクアの優先順位は、人間の本能からも危険信号を発信させる、この仮面男なのだろう。

仮面の男は立ち上がると、かなりの大柄な成人男性をイメージさせる程の長身だ。

武器らしい物は持っていないが、間違いなく雑魚の類ではない事は、男から漂う異様な雰囲気と敵感知の大きさから読み取れる。

男は、仮面の目の部分を赤く光らせ、開いた口元をニヤリと歪めた。

「……ほう。よもやここまで辿り着くとは。我がダンジョンへようこそ冒険者よ!いかにも、我輩こそが諸悪の根源にして元凶!魔王軍の幹部にして、悪魔たちを率いる地獄の公爵!この世の全てを見通す大悪魔、バニルである!」

「ちょ、ちょっとバニルさん!私の事も忘れてもらっては困りますよ!……っと、コホン。我が名はめいめい!魔王軍の幹部として、ダークウィザードを生業とし、対プリースト用最強魔法、暗黒魔法を操る者……!」

悪魔の恐怖を抱かせる威圧的な自己紹介と、めぐみんと同じ紅魔族伝統の名乗りを受けたカズマは、思いがけない魔王軍幹部の連鎖に、早くも絶望を感じていた。

 




誤字脱字修正していきます。

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