この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

33 / 48
短いです。プラスが力を得た過去を知りたい人のみどうぞ。

誤字脱字お気を付け下さい。


狂気の少女と一本角の風炎龍

「――絶対に、殺してやる!!」

叫びに応えるように、魔力が騒ぐ。

彼女の持つ魔力が、本人の意思で、最大限の力を吐き出そうと騒ぐ。

魔力が、力を封じこめずに一部が雷光となって分裂し、少女に蒼光が纏わりつく。

極限の魔力で敵意を現わしている少女の前に、それは風のように颯爽と。

狂者の魔力に惹き付けられた龍が、少女の前に降臨した。

一瞬で上空に現れた龍は、この世の生物の速さを凌駕している。目で全く追えなかった動きに、少女に戦慄が突き刺さるが、最大の敵を相手に、既に引くという選択肢は放棄した。

龍は、こちらの存在を邪魔だとでも言いたげに、額からの壮大な一本角を少女に向ける。

威嚇行為だろうか、龍は襲いかかってくるという雰囲気を全く見せない。

胴体はこの世の光を全て反射するかのような鋼色を持ち、相手に恐怖を植えつけさせる雄大な両翼は、返り血を浴びて赤錆を輝かせていた。尾は鞭の様にしなり、街の炎に反応して、紅い光を輝かす。

自分を敵とも見ていないような龍の威圧的な態度に、少女は異常な憎悪を覚えた。

街を、両親を、日常を。少女の全てを奪った対象が、何食わぬ態度で目の前にいる。

龍は地上から数メートル上で滞空し、少女の力を、覚悟を、最大限の魔力。その全てを軽視し、挑発する様に。そして、少女の視界を遮る様に、呼吸する程度の力で炎を吐いた。

口元を歪ませ、その挑発に乗ったという表情のプラスは、右手を炎の奥の龍に向け、詠唱無しで魔力に干渉する。

「いい根性してやがるな…ッ!この野郎…!まずはその炎から掻き消してやる!『アクアブレス』ッッ!」

狂気は少女の優しさをも打ち砕き、荒い口調になる。全てを失った少女には、優しさなど無意味と化したのだ。

魔力が激流に変わり、龍が吐く炎は大気に抗えず、消滅する。拡散した激流をまともに顔面から受けた龍は、不愉快そうに水を振り払う。

龍は自分を不愉快にさせた対象、その少女に、少しの敵意が芽生えた。少女の賭けは、狙い通りにいったのだ。

少女に対する敵意が芽生えた龍の周りには、魔力から発生した風が主を守るように纏って、大気の流れを急変させた。

目は街を覆い尽くした紅色の様に充血し、龍からの力の解放を感じる。

風は既に生易しい物ではなく、鋭利な鎌が少女の皮膚を切り取っていった。鎧の類を一切装備していない少女の身体は、龍との本戦に入る前に傷だらけになり、各部位の傷から血が滲みだす。

もはや、龍を纏っている風はただの鎧ではなく、傍にいる少女を一方的に攻撃する棘の鎧となった。

「――ッ!風で少しずつ削るとしか考えがない能無しか…!?」

一枚の風の鎌が、少女の左頬を下から上に、縦に引き裂いた。

頬の皮膚が、炎の風のそのまま浚われていった。

激痛が走る。頬からべっとりとした液体が零れ落ち、足元の人血と混ぜ合わさった。

頬の痛みが熱に変わり、異常なほど体温が急上昇する。

狂気で異様な程、興奮状態に陥っている少女の震える手は、頬の裂け目を指先で捉えて状況を納得する。

傷つけられる、だが、力に変わる。

傷つけられた身体に比例し、魔力はさらに上昇し、一枚壁を超え、少女に龍を殺す方法を考える冷静さを与えた。

その場即興で考えた方法だが、成功させる、絶対に殺す。

そこまでの自信を得られるまでの魔力を、少女は持っていた。

「『トルネード』ッ!」

人血でぬかるんだ地面に、大容量の魔力を使用した風を生み出し、自身を空に打ち上げる。

角度をつけた風の勢いは少女を龍の真上に導き、空中で体形を立て直し、で自由落下に従って、龍の赤錆が目立つ両翼にバランスよく着地。上下にまで風の鎧を纏っていなかった龍は、唖然とした様子で立ち尽くすしかできなかった。

少女は右手を龍の一本角に向け、突き出し、魔力を。

「私の勝ちだ。その一本角、圧し折ってから地獄行きにしてやる」

悪意に満ちた笑みを浮かべて、自分の両翼に乗った小さな敵が、そうこぼすのを龍は聞いた。

――――――――――――――――

 

――龍は全てを後悔した。

異常量の魔力に気が付かず、風の鎧で小動物を虐待するかのように弄んだ結果が、予想外すぎた。

面白半分に痛めつけていた少女の、狂気の力を覚醒させてしまったのだから。

龍が両翼の上に立つ『脅威』を振り払う判断に至るまでが、遅かった。

大気の魔力までが、自身の両翼に集中しているのを龍は嗅ぎ取った。

それだけではない、自分が従えていた魔力までが、脅威に従い、風の鎧は完全に効力を失った。

魔力を失い、無力となった龍に戦慄が貫いた。

――風の鎧も無くなった龍を待つ結果は、無防備に晒した一本角を折られ、死までの残された時間を抗うことだった。

だが、無情にも『脅威』は、時間を全く与えない。

「お前は、私から全てを奪った。なら、今決めた。私は全ての龍を殺してやる。仲間が死ぬ所を、地獄でゆっくり見物でもしてるといい」

そう吐き捨てる様に言った少女の足元の存在は、抵抗する事も叶わず、壮大な一本角は閃光によって粉々に吹き飛ばされ、完全に息絶えるまで、少女の的となった。

――狂人、プラスは、孤独な龍殺しとなった。

 




誤字脱字お気を付け下さい。

次回から普段普段通りに戻ると思われます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。