この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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二章十話

誤字脱字お気を付け下さい。


この魔法使いに安心を!

「いただきます」

ユウキは軽く手を合わせ、食事に対しての感謝の一礼をする。

日本らしい文化といえば文化だが、この世界にもいただきます、という言葉は存在し、同様の意味がある。

英語ではいただきますという意味の言葉は無いとか聞いたことがあるようなないような気もするが、どのみちこの世界は英語は通じないので考えるだけ無意味だ。

最初は肉から…といきたいところだが、ユウキは一品一品、順番を決めて食べるタイプの人間だ。最初は軽い野菜類から食べ、胃が驚かない程度に解しておく。始めから、肉を食べる時の準備をしておくのだ。

日本でいうキャベツの様な野菜は、みずみずしい感触と、丁度良い歯ごたえが口の中を占領し、飲み込んでからも胃を潤す、一級品の味だった。

恐らく、この世界では農薬を使った農業は行われていないのだろう。変な苦みも一切発さず、サラダとしての役割を担う、塩辛めのソースとの相性もバッチリだ。

「この野菜って、結構高いやつじゃないのか?流石魔王軍の食事、食品にも手を抜かないのか」

「いや、それはたまたま城の近くに飛んでたのを、魔王軍専属の盗賊らに収穫してもらったものだ。今年のキャベツはなかなかの上物らしいぞ、まあ俺は食えんが」

「今、キャベツが飛ぶとか変な冗談が聞こえた気がするんですけど…って?食べないの?」

ベルディアの前には何故か、先程ギルトによって置かれたカップだけ。ユウキの目の前にある豪華な食事は一つも見当たらない。

「一般的に、アンデッド族は食事などしなくてもその生命は維持できる。まあそれでも、一部の種族の者は必要とするがな。それより…今から食事を取ろうとしている者がフルフェイスな訳がないだろう」

「確かに俺もそう思ったけど…どうも、食わない奴の前で豪華な飯を食うのは何処か引っ掛かるんだよ」

「そう気にするな。この姿になってから、人間の三大欲求は殆ど無意味なのだ。もちろん食欲はないし、睡眠欲もない。性欲は…まあそれは置いておこう」

「一番置いといてはいけない物だろ、それ」

ユウキは会話の途中途中でサラダ、スープの順で食べ進めながら、ベルディアとの会話は続けていく。

ある時突然、その話は始まった。

「そういえば貴様、アクセルで暮らしているんだったな…?アクセル近くに、リッチーがいるというのを聞いた事はないか?」

…リッチー?

突然のベルディアの言葉に、ユウキは少し狼狽えてしまう。

アクセルの近くにリッチー。アンデッドの王が、ウィズ以外にいるとは聞いたことがない。

もちろん、聞いた事はある、というか、それがウィズの事を指しているのなら、一緒に機動要塞から街を守った大切な仲間だ。

そう、心当たりはあり過ぎる。あり過ぎるのだ。

だが、ウィズの事をあっさり、ベルディアに教えてしまってもいいのだろうか。

「…まあ、聞いたことはあるけど。そのリッチーとベルディアとの間に、どんな関係があるんだ?」

ここは少し揺さぶりをかけておくのが得策だ。危険性があるかないかによって、――恐らくウィズの事だろうが、ベルディアに伝えるべきなのかは大きく変化する。

「どんな関係…か。少し昔の事だが、同じ魔王軍幹部だった。とでも言っておこうか」

…は?

至って冷静なベルディアはあっさりと、ユウキの前で言い切った。

ベルディアが言っている事が本当ならば、ウィズは魔王軍幹部…つまり、ユウキら冒険者とは敵対する関係だ。

どうやら、俺の焦りはベルディアにも伝わってしまう程だったらしい。

「ん?貴様、何を焦っているのだ?俺とそいつは古い友人の様なものだ。もし仮に知っているのなら、何処にいるのかぐらいの情報が欲しいのだが」

ううむ、これは教えるべきなのだろうか…?

かといって、でたらめな事をベルディアに告げるのも何だか気が引けてしまう。

「……分かった。じゃあ、アクセルにベルディアも一緒に来てくれよ。街中でも…まあ、ローブか何か着込んでおけば正体はバレないだろうし」

今サラッとウィズの場所を殆ど言ってしまった気もするが、気にしない方向で行こう。

第一、ベルディアには死にかけの俺を拾ってくれた恩がある。俺がウィズの所在を簡単に言ってしまった事も、恩返しの一つと言う事にしておこう。

もしベルディアがその場でウィズに危害を与えるような事をすれば、アクアとウィズ、そして俺で総攻撃を加えれば、撃退ぐらいは容易い事だろう。

だが、その場合に街の住民が被害を受けてしまった等があれば、俺はまた警察署に逆戻りだ。それだけは避けたい。

「おお、本当か!感謝するぞアークウィザード!それでは、明日は道案内、よろしく頼むぞ」

俺の提案にすっかり満足したのか、ベルディアは右手をしっかり握りしめ、兜で顔が隠れていても喜びを隠せない様子だ。

不安は多少、いや異常に膨らみつつある。が。

仕方ない、命の恩人からのお願いなのだとその場で何故か自分に言い聞かせながら、ユウキは残りの晩飯を全て平らげた。

 

「しっかし、魔王軍幹部と一緒に帰る事になるとはな…カズマ達には出来るだけバレない様にしておいた方が好都合か」

ベルディアとの約束を交わし、晩飯を済ませた俺はそのまま、食事を取った白色の部屋とは正反対の、ランタンの光が反射し紫色に表現された昼間とはまた違った様子の私室に戻った。

拾われて寝かされていた部屋を私室というのは自分でもどうかと思うが、魔王城内では此処だけが俺の個人スペースだ。

廊下に出てしまうと、ランスとギルトが付いて来てしまうのでどうも動きにくい、突然魔王城に連れて来られてパニック寸前だった俺からすれば、一人の空間は必要不可欠だ。

明日にユウキはこの魔王城を去る事になるが、ベルディアが人探し――否、ウィズを探しにアクセルに付いてくる為、当の本人を始め、ランスとギルトも身の回りの世話係としてアクセルに来る事になった。

彼らとは出合って一日と経っていないが、友好的に関係を持ってくれたランスやギルトには別れの挨拶は早過ぎると思っていた。一緒に付いてくると聞いた時には安堵の表情を浮かべたほどだ。

だが、決して彼らも見返り無しで動いてはいない。失踪した魔王軍幹部を探し出すには、長い月日を必要としそうなのは一目瞭然である。

「その面倒事を、俺を助けたのを口実に押し付けた感は薄々感じてたんだけどな…」

アクセルは魔王城から非常に遠く、魔王軍の侵攻もその近くにさえ及んでいない。

そのため、魔王軍ご自慢の魔王使い幹部さんでも、個人単位でしかテレポートを使用して送り込ませることが出来ずに、大軍を送るまでには至らないそうだ。

勿論、魔王軍側が調査員を送り込むのは訳のない事だが、報告に掛かってしまう時間を考慮すると、とても現実的ではない。

この様な様々な条件が上乗せされた為、魔王軍側は冒険者でありテレポートを難なく使用出来るユウキに、ここぞとばかりに目を付けたのだろう。

第三者から見れば、ユウキに依頼された事は、簡単に言うと魔王軍の手助けをしていると捉われてしまうが、直接人を殺したり、都市を攻撃する等の事を依頼されるよりは幾分かマシな事だ。命の恩人からの依頼とあらば、無碍にする事もできない。

だが、覚悟も勿論持ち合わせておくべきだ。

今現在、彼ら…。ベルディア、ランス、ギルトには少なからずとも友好関係は存在する。

それはユウキからの一方的な友好なのかもしれないが、どちらにしろ、彼らが街の中で不穏な動きがあった場合には、被害が出ない内にこちらから攻撃を加えなければならない。

つまり、彼らを切り捨てる覚悟が必要だという事だ。

そこはしっかりと、誰も被害を受けないように、認識しておかなければならない。

だが、そのことを分かっていても、ユウキは彼らを『敵』とは思えないのだ。

勿論その考えは非常に危険だ。ユウキ自身も心の中ではそう思っているのだが、考えるのを先延ばし――先延ばしにしている。

油断して仲間の誰かを失ってしまってからではもう遅い。

「…誰も、何も失わない様にしないとな…」

今はもうそう考えるしかない。先延ばしにしてしまっては、後で重く圧し掛かる可能性は高いと自分でもどこかで感じている筈なのに。

ユウキは何事もなく何時もの日常に戻れる事を願いながら――疲れ切った身体を癒したいという脳の命令に勝てず、倒れこむ様にベットに身を倒し、ユウキは深い眠りについた。

 




誤字脱字修正していきます。

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