この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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『まおうじょうぐらし』


この魔法使いに平和な日常を!

デュラハンから聞いた話によると、魔王軍幹部はこの世界各地に配置されているらしい。

だが、それであるが故に、魔王城から遠くに配置されていればいる程、連絡の取り合いはもちろん難しくなる。

魔王城から離れた場所に配置された幹部は、その地の冒険者との戦いで命を落としてしまった場合、事の発覚はもちろん難しい。

その為、魔王軍の支配が弱くなってしまっている可能性がある地域が存在してしまうのだ。

それを防ぐため、デュラハンは俺を解放する代わりに、消息不明な幹部達の安否を探ってきてもらいたいという条件を提示してきた。

少なくとも、これを断るメリットは俺にはない。

第一アクセルから魔王城までの道のりまで分からない以上、自力で脱出しても無意味だ。

だが、こちらにもデメリットは多少なりとも存在する。

それは、『俺が魔王軍の手助けをする事になる』という事だ。

もう経験する事はないと願いたいが、先日の取り調べと裁判の際に使用された嘘を見抜く魔道具には、この事実が引っ掛かってしまう可能性が高い。

つまり、本当に俺が魔王軍の関係者になってしまうのだ。

「えぇ…どうしてこうなった」

俺は深い溜め息を吐く様に言いながら、今の現状に困惑する。

元々俺は、魔王討伐を頼まれて転生された筈だ。

歴代の転生者には魔王軍の関係者になった者も少なからずいると思うが、どうも俺には不本意だ。

「お、おい……別にそこまで深く悩む必要はないぞ……?魔王軍の戦力になれと言っている訳ではない。この仕事はあくまでも魔王軍の人事整理の厄介事なだけだ」

俺の姿を見かねたデュラハンが、己の首を俯いている俺の顔に覗きこませる様にしながら言ってきた。

まあそんなに悩むことではないと自分でも思うのだが……。

ここは、断るべき所ではない。

「……分かった。じゃあ、最初の目標というか、探して欲しい幹部ってこれに載ってる誰なんだ?」

俺はデュラハンの兜の前で、魔王軍人事の本をヒラヒラさせながら言う。

「おお、引き受けてくれるか。なら、ここの……コイツだ。この中の幹部の中では、最終確認先がアクセルに近いから探しやすいだろう」

承諾の声を聞いたデュラハンは、先程よりも少し上機嫌な様子で、俺に言ってきた。

デュラハンが指差したページには、先ほどの様な幹部の詳細が。

 

紅魔族 めいめい 危険度☆3 最終確認先 キールのダンジョン

 

……は?紅魔族?

俺は一瞬読むのを躊躇ったが、そのまま読み続けた。

 

魔王軍では貴重な魔法使い職を生業としている。

性格に難ありな為、部下との協調性に欠けるが、紅魔族特有の超絶的な魔力は、高レベル冒険者パーティを軽々と返り討ちにする事が可能であるほど。

ダークウィザードである彼女は、暗黒魔法を得意としており、彼女のそれはレベル30越えのアークプリーストでもまともに食らえば即死級の代物である。

よって、対プリーストに強気に出れる彼女は現魔王軍には必要不可欠な存在である……か。

 

おいおい、コイツも中々のチート能力持ちだぞ。

しかも相手はめぐみんと同じ紅魔族ときた。

この世界では、紅魔族以外にアークウィザードの職に就ける者は、王族か貴族を除けばほんの一握りらしい。

アンデッド族が全体の何割かを占めている魔王軍では、プリースト相手に強気に出れる人材は喉から手が出る程欲しいだろう。

というより、普通に危険度☆5はあるだろこの紅魔族の子。

改めて見てみると、悪魔族の……バニルとかいう幹部はどれほど恐ろしい存在なのか……。

こうして内部から見てみると、いかに魔王軍の戦力がヤバいのかがよく分かる。

俺が本を読みふけっていると、ドアからノックの音が聞こえ、デュラハンより一回り小さい、鎧を纏った騎士が部屋に入ってきた。

その騎士がデュラハンの左脇に抱えられている首に耳打ちをすると。

「む…?少し厄介な事になったな……。よし、伝えておこう」

その騎士は、デュラハンに何かを伝えた後、深く礼をして部屋を後にした。

デュラハンは俺の方を向き。

「面倒な事になった。貴様をテレポートさせる予定の魔法使いの奴が、明日まで遠征に向かっているらしい。居心地が悪いかもしれんが、今日はここで一泊の可能性がありそうだ」

……はっ?

俺、雪山で遭難して、助かったと思ったらその翌日に魔王城に一泊……?

おいおい、誰でもいいから今のこの状況になってしまった理由を俺の前で説明してくれ。

俺の待遇に不満があるとかそういうのではないのだが、人類の敵の本丸で寝ろって、この国の冒険者全員にアンケートを取っても、全員がNOと答えるだろう。

ダクネスなら、『くっ!殺せ!』とか言いながら喜んで最奥まで進んで行きそうだが。

「……どうした?この部屋が不満なのなら、空いている幹部の部屋で寝ても構わないが」

なかなか返答を出さない俺に対して、兜のせいでくぐもって聞こえる声で言ってきた。

いやいやいや。そうじゃないんだけど…。

だが、俺は何故かその時の空気に耐えられずに。

「……この部屋でお願いします」

結局、魔王城で一泊する事になってしまった。

 

 

 

 




誤字脱字修正していきます。

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