この素晴らしい世界に魔法を!   作:フレイム

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二章 二話 警察署にて。

誤字脱字お気を付け下さい。


この魔法使いに尋問を!

――街の中央区に位置する警察署。

普段ならば、善良な冒険者である俺達には縁のない建物なのだが。

俺達二人は今、この警察署の中を、奥へ奥へと歩かされていた。

「サトウカズマ、裁判が終わるまで、貴様の部屋はここだ」

俺達の前を行くセナがそう言って足を止めたのは、狭く薄暗い牢屋だった。

「おい、俺達って一応街を救ったヒーローなんじゃないのか?マジで?本当に牢屋に入れられんの?」

カズマがセナに訴え掛けるように尋ねるが。

「詳しい話は明日聞く。今日はここでゆっくり過ごすがいい」

セナは質問には答えず突き放す様に言うと、それを合図に騎士達が、カズマを牢の中に押し込めた。

「って俺は?カズマと一緒じゃないのか?」

勿論俺は生前、警察のご厄介になった事はない。

こういう場所では、話せる相手がいた方が嬉しいものだが。

「貴様の部屋は別に用意してある、早くついてこい」

セナは俺の後ろの騎士達に指示を出し、俺の肩を掴み無理やり警察署のまた奥へと歩かされた。

「おい!ちょっと待ってくれ!……おいって!」

冷たい牢獄に入れられたカズマがセナに向けて訴える様に叫ぶが、振り返りもしない。

その声から逃げる様に、セナは警察署のさらに奥の部屋の扉を開けた。

――コツコツと、警察署内には俺達の足音のみ響く。

……妙だな。

俺が歩かされている区画の牢獄の様子が先程とは違い、随分マシな物になっている。

「さあ、貴様の部屋はここだ。明日の取り調べまで、ここでゆっくり過ごすといい」

セナがそう言った先には、カズマの部屋とは全く違う部屋。

カズマの部屋には数枚の毛布が床に敷かれていただけの部屋だったが、この部屋にはしっかりとベットが備え付けられており、トイレも清潔だ。

騎士達も俺をカズマの様な手荒な扱いはせずに、部屋に入るよう促す。

「というか、何で俺はカズマの部屋とこんなにも扱いに差があるんだ?」

俺の言葉にセナは俯き、小声で。

「……詳しくは明日の取り調べの際に話そう。では、失礼する」

そう言って去っていくセナと騎士達。

……というか、今日の朝まで屋敷でゴロゴロしてたんですけど。

それが、どうしてこんな事になってるんだ?

ギルドに着いたのが昼前…だから今は精々昼過ぎか。

この世界に来てつくづく思っているのだが、暇すぎる。

生前では、軽度のネット依存を発症していた俺。

カズマのパーティに入ってから退屈するという事はなくなったが、今のようにこうしてポツリと一人でいると、時間が流れるのが異常に遅く感じる。

「なんか暇つぶしになるような物…物…」

ふと俺は、ベットの上にある戸棚に目をやる。

そこには、少し埃をかぶった本が数冊あった。

「…ん?何だコレ、何かの聖書か?」

その本の表紙には、白と紫の特徴的なマークが描かれており、『エリス教聖書』と書かれていた。

おお、まさかこんな場所で巡り合えるとは。

エリス教には前々から興味があり、ダクネスからも入信を勧められていた。

アクセルの住民のほとんどが信仰している宗教なので、嫌でもこの世界に居れば聞く名前だ。

どうせ明日まで暇なのだから、俺は明日までに、この聖書を読破してやろうという目標が知らず知らずの間にできてしまった。

 

 

――美味い。

 

まさか、塀の中でカエル肉が食えるとは思ってもみなかった。

いや、刑務所にいるという訳ではないのだが。

酒がないのが残念だが、この場にはめぐみんもいない以上、飲む理由も無い。

俺は粗方晩飯を食べ終えると、すぐに聖書の読破に移行する。

「幸運を司る女神…か」

エリス教では、基本、助け合いの精神を掲げており、人に善き行いをした者には、エリス様からの加護を受けられるといった、風習?的な物が存在している為、エリス教信者は穏やかな性格の者が必然と多くなるそうだ。

そういえばこの、『エリス教聖書』と一緒に埃をかぶっていた、『アクシズ教聖書』なんて物があったが……。

この宗教で崇拝されているのは、あの『アクア』

一応は女神のアクアだが、この世界で崇められているまでとは性格上到底思えなかった。

その時点で手に取るのを躊躇うぐらいだったが、興味本位で読んでみる。

『汝、何かの事で悩むなら、今を楽しくいきなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能のおもむくままに進みなさい』

『犯罪でなければ何をやったって良い』

『悪魔殺すべし』

『魔王しばくべし』

――俺はそっと本を閉じた。

 

 

「起きろ!さあ、一緒に来てもらおうか。今から取り調べを始める!」

聖書を手に寝落ちしてしまった俺は、牢屋に入ってきたセナに叩き起こされた。

「頭がガンガンする…なんなんだこんな朝早くから……」

「もう昼前だ!貴様は日頃どんな生活をしている!」

署内の職員達の視線を浴びながら、俺はある部屋の前に連れて行かれる。

「さあ、中に入れ。今回は、二人まとめての取り調べとなる。この結果で、裁判にするかどうかの判断を下す。よく考えて発言しろよ?」

威圧的なセナの言葉に、ビクビクしながら部屋に入ると、部屋の中央には机が置かれ、椅子が三つ並んでいた。

そのうち一つの椅子には、既にカズマが座っていた。

この光景は、なんというか刑事ドラマにでも出てきそうな取り調べ室そのままだ。

俺を連れてきた騎士の一人が、無言で入り口の脇の椅子に座り、机の上に紙を広げる。

ああ、調書ってやつを取るのか。

俺はもう一人の騎士に促され、中央の机の前に座らされた。

暴れたら即座に取り押さえられる様にか、その騎士は俺の背後に無言で立つ。

狭い部屋に、鎧を着た騎士が二人もいるプレッシャーにビクビクしていると、セナが向かいの席に腰掛け、小さなベルを机に置いた。

「これが何か知ってるか?この様な場所や裁判所でよく使われる、嘘を看破する魔道具だ。この部屋の中に掛けられている魔法と連動し、発言した者の言葉に嘘が含まれていれば音が鳴る。その事を頭に置いておくがいい。……では、話を聞こうか」

セナは俺達にそう告げると、酷薄そうな無表情で事情聴取を開始した。

「サトウカズマ。年齢は16歳で、職業は冒険者。就いているクラスも冒険者、か。……ではまず、出身地と、冒険者になる前には一体何をしていたのかを聞こうか」

おっと、いきなりそういう質問か。

「出身地は日本です。そこで、学生をしていました」

――チリーン。

カズマの言葉にベルが鳴る。

……っておい、このベル故障してるのか?

「……出身地と経歴詐称、と……」

セナの言葉に、調書を取っていた騎士が何かを書く音。

「待ってくれ!別に嘘は吐いていないはずだ!」

――チリーン。

「っておいカズマ、お前もしかして中卒だったのか?」

他にさっきの証言で嘘をつける様な事は……。

あっ。

「……出身地は日本です。毎日家に引き篭もって、自堕落な生活をしていました」

カズマがもう一度答え直すと、セナがジッとベルを見る。

俺とカズマも同じくベルを見た。

――今度は鳴らない。

「……どうして学生などと見栄を張った」

「見栄を張った訳じゃ……。ううっ……もういいです……」

そう言ってカズマは、そのまま俯いてしまった。

「では次は貴様だ。エンドウユウキ。年齢は16歳、職業は冒険者。就いているクラスはアークウィザード、だな。……では、同じ質問をさせてもらう。」

そう言ってセナは俺を睨みつける。

恐らく、俺も家に引き篭もっていたと思っている様だが、残念だ。

「出身地はカズマと同じ日本で、学生をしていました」

俺がそう言うと、セナとカズマはベルに視線を合わせる。

――だが、もちろん鳴らない。

「ニホンという名の地名は聞いた事がないが……まあ、それは置いておこう。では次に、貴様らが冒険者になった動機から聞こうか」

「魔王軍に苦しめられている人々を救うために、魔王を」

――チリーン。

「……おいカズマ」

つい、心の声が漏れてしまったが、カズマはそのまま続ける。

「……冒険者ってなんか格好良さそうだし、楽して大金稼いで、美少女にチヤホヤされたいなと思いました」

「あ、俺も同じく」

もう変な嘘をつくのはやめて、正直に答えた方が身の為だ。

「……よ、よし。では次だ。領主殿に恨みなどはなかったのか?」

まあ、嘘をついていても仕方ないので、ここは正直に話す。

「ええ、ありませんでしたが、その領主殿の判断の所為で、俺達二人が拘束されてるって訳ですから、今は恨んでいますね。ぶっ殺したいぐらいに」

――無論鳴らない。

「そ、そうか。では、次……」

「……あの、ちょっといいですかね?」

カズマが、若干引きながらも質問を続けようとするセナを遮ると。

「いっその事、ストレートに聞いてくれませんか?お前は魔王軍の手の者か?とか、領主に恨みがあって指示した事か?って。何度も言っていますが、ランダムテレポートを指示したってだけで、領主の人を狙った訳じゃないですよ。こんな事になるなんて思ってませんでした。アレを指示したのは、街を救うためでしたから。本当ですよ?」

それを聞きながら、セナはベルをジッと見た。

――鳴らない。

それを確認したセナは、深いため息を吐き。

「……どうやら、自分が間違っていた様ですね。特にサトウさんに関しては、悪い噂しか聞かなかったもので……。申し訳ありませんでした……」

態度が急変し丁寧な口調になったセナは、深々と頭を下げてきた。

おそらくは、今までの厳しい口調は犯罪者用で、こちらの口調が素なのだろう。

容疑が晴れたカズマが、ここぞとばかりに。

「まったく、噂を鵜呑みにして人を疑うだなんて、検察官失格じゃあないんですかね!」

「うぐっ……、す、すいません、申し訳ありません……」

そう言いながら、セナは俺達にペコペコと頭を下げる。

「ま、まあカズマ、そんなに責めなくたっていいんじゃないか?別にわざとって訳じゃないんだしさ」

一応、ここでセナをフォローしておこう。

なんたって噂で人を判断するからな……うん。

「ぐっ……まあそうだな、ちょっと言い過ぎた」

カズマがそう言いながら頭を下げ、なんとかこの場は収まった。

「さて……もう俺達には用はないんですよね?釈放って形で……」

俺がそこまで言うと、セナは思い出した様な顔で。

「はい、この後に釈放の手続きを行いますので……それと、最後に聞きますが、お二人は、本当に魔王軍の関係者ではないのですね?魔王の幹部と交流があるとか、知性を持っているモンスターとの繋がりとか……」

「ないですよそんなもの、俺達が、そんな大層な男達に……」

――チリーン。

見えますか、と言おうとして。

俺は、とんでもないミスをやらかした事に気がついた。

取り調べ室に響くベルの音を聞きながら。

俺は、アンデッドの王のリッチーである、ウィズの事を思い出していた。

 

 

 




次回 裁判編。

UA数ありがたやありがたや……

何を血迷ったのか、ツイ垢作っちゃいました。

@flame0606

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