この素晴らしい世界に魔法を! 作:フレイム
デストロイヤー編の全てを書いていたら今日中に投稿出来なさそうだったので…。
(言い訳)
誤字脱字お気を付け下さい。
その警報が鳴った途端、大きな声を上げながらアクアがリビングに慌てて飛び出してきた。
「逃げるのよ!遠くへ逃げるの!」
色んな物をひっくり返し、ワタワタしながらアクアが言った。
「じゃあ私も、部屋から荷物取ってきますね」
大声で騒いでいる元女神に対して、めぐみんは変に冷静だった。
俺が二人の行動に違和感を抱いている時に、庭からダクネスとカズマが戻ってきた。
「……な、なあみんな、勿論ギルドに行くんだよな?」
俺は恐る恐る逃げる準備をしている二人に聞く。
「ユウキったら何言ってるの?ひょっとして、機動要塞デストロイヤーと戦う気?」
アクアが呆れた様に言ってくる。
というか、まだ緊急の呼び出しを受けただけで、俺は状況が分かっていない。
アナウンスの声の慌て具合から、ヤバい物が接近中だとは分かったのだが。
「ユウキ。今この街には、それが通った後にはアクシズ教徒以外、草も残らないとまで言われる、最悪の大物賞金首、機動要塞デストロイヤーが迫ってきています。あれと戦うとか、無謀の良い所ですよ?」
「…ね、ねえ?どうして私の可愛い信者がそんな風に言われているの?」
アクアが何かを喚いているが、めぐみんの説明だけではピンと来ない。
「なあ、それはめぐみんの爆裂魔法でなんとかならないのか?名前からして大きそうだし、遠くから丸分かりだろ?魔法の一撃じゃダメなのか?」
カズマの質問に対してめぐみんは。
「無理ですね。デストロイヤーには強力な魔力結界が張られています。爆裂魔法の一発や二発、簡単に防いでしまうでしょう」
バケモノすぎるだろデストロイヤー。
…って
「あれ?ダクネスは何処に行ったんだ?確かさっきカズマと一緒に戻ってきてたはずじゃ……」
「部屋に駆け込んでいきましたよ?」
ダクネスも逃げる準備をしているのだろうか。
まだこの屋敷を手に入れて二日しか経っていないというのに、逃げるのは心のどこかに引っ掛かる。
そして、アクアの結界の所為で楽しめなかったサキュバスサービスも他の街では営業を認めてもらえるのか定かではない。
とりあえず、このアクアとめぐみんを説得してギルドに向かわないと……。
「……遅くなった!……ん、どうしたのだカズマ、ユウキ。早く支度をして来い。お前らなら、きっとギルドへ行くんだろう?」
自分の部屋から走ってきたダクネスが、見た事も無い重装備に身を包み、俺達を見るなり言ってきた。
ダクネスは、普段の全身の鎧の上に鎖を編み込んだ重いマントを羽織り、左の篭手には着脱式の盾まで着けている。
そこまでしても兜をつけないのは、女としての譲れない何かがあるのだろう。
逃げる為に部屋に荷物をまとめに行ったのではなく、装備を取りに戻っていたらしい。
流石、聖騎士なだけはある。
街の住人を放って、逃げるという選択肢は無いようだ。
「おいお前ら、こいつを見習え!長く過ごしたこの屋敷とこの街に、愛着はないのか!ほら、ギルドに行くぞ!」
カズマがそう叫ぶと、アクアとめぐみんも諦めたのか、其々の部屋で戦闘準備を整えるために戻る。
俺も自分の部屋に戻り、杖の手入れの仕上げに入る。
「……よし、これでいいかな…後は…」
俺は、まだ着込んでいなかった防具をつけ始める。
「そういえば、コイツも初心者の時に買ったんだよな…」
購入してからというもの、クエストの時には必ず着ていたこの防具。
デュラハン戦の時に、少し傷がついてしまったが、俺を守ってくれた。
「流石に、今回ばかりは壊れちゃうかもな…」
そんな俺の呟きをかき消すように。
「おーい!ユウキ、準備は終わったかー!ギルドに向かうぞー!」
やはり俺は、陰で怖がっていたのかもしれない。
だが、カズマの大声を聞いて、色々な思いが払拭された。
「ああ!今行く!」
「おっ!やっぱり来たかカズマ、ユウキ!お前らなら来るって信じていたぜ!」
完全武装でギルドに入ると、そこには同じく重装備のダストの姿。
ダストの隣にキースの姿も。
キースと親しく話しているのは、ダスト達のパーティメンバーだろうか。
挨拶をしておきたい所だが、今はそんな状況ではない。
俺は改めて、ギルドの中を見渡した。
そこには様々な冒険者が、それぞれが考えられる限りの重装備で馳せ参じていた。
きっと、彼らもこの街が好きなのだろう。
何だか、男性冒険者の比率が多い気がするが、きっと気のせいだ。
俺達がギルドに入ってきてからも、何人かの冒険者がちらほらと集まってきた。
……と、ある程度の冒険者が集まってきた所で。
「お集まりの皆さん!本日は、緊急の呼び出しに応えて下さり大変ありがとうございます!只今より、対機動要塞デストロイヤー討伐の、緊急クエストを行います。このクエストには、レベルも職業も関係なく、全員参加でお願いします。無理と判断した場合には、街を捨て、全員で逃げる事になります。皆さんがこの街の最後の砦です。どうか、よろしくお願い致します!」
ギルド内が喧しくざわめく中、ギルド職員が声を張り上げた。
そして、職員達が酒場になっている部分のテーブルをギルドの中央に寄せ集め、即席の会議室みたいな空間を作り出す。
尋常ではない空気が、ギルド内を張りつめさせる。
それほどまでにデストロイヤーが危険だということか。
「それではお集まりの皆さん、只今より緊急の作戦会議を行います。どうか、各自席に着いてください!」
俺達は職員の指示に従い、俺はめぐみんとカズマに挟まれる形となった。
しかし、どれだけの人数がいるのだろうか。
広いギルド内とはいえ、ここにいる人の数は百ぐらいではきかないだろう。
そこでまず俺達は、デストロイヤーの詳細についての説明を受け、話は対デストロイヤー戦の作戦へと移行した。
デストロイヤーの性能は、俺の想像していた物よりもチート級だった。
それはもう、過去の転生者が何かの腹いせに造ったのが暴走しているのではないかという程、この世界には似合わない性能。
近づいても踏まれる。魔法は結界により無効化。空からの攻撃も撃ち落とされる。しかもそれが迅速に。
そんな相手に対する会議は難航し、次第に周りの冒険者は沈黙していった。
難航する会議に飽きたのか、カズマの隣にいるダストが。
「おいカズマ。お前なら何かと機転が利くだろ。何かいい案はないのか?」
突然、カズマにそんな無茶振りをしてきた。
勿論カズマも、自分に話が振られるとは思っていなかったのか、急に慌てふためくが、少しして何かを考え始めた。
俺も何も考えていない訳ではないが、この作戦は魔法結界があるという時点で不可能な事だ。
……。
再びギルド内に静寂が訪れる。
「…可能性はある」
その呟きは、沈黙していたギルド内に大きく響いた。
声の主は、先ほどから何かを考え込んでいた、カズマだった。
「おいアクア、一応聞いておくが、結界を作れるお前なら、結界を壊すって事は出来ないのか?」
そのカズマの声に、冒険者の視線はアクアに集中する。
「…んー?まあ、確証はないけど、可能性がゼロって訳じゃないわ。やれるだけやってあげてもいいけど、ダメならその場にいる全員は死ぬと思っていた方がいいわよ?」
そんな事を言い合っていたカズマ達に、ギルドの職員が大声を上げた。
「破れるんですか!?デストロイヤーの結界を!?」
その声に、アクアを見ていた冒険者はザワつき始めた。
「いや、もしかしたらって事で、確約は出来ないそうです」
慌ててカズマが職員に対して言い、さらにギルド内がザワつく。
「一応、やるだけやっては貰えませんか?それができれば魔法による攻撃が……!あ、いやでも。機動要塞相手には、下手な魔法では効果が無い。駆け出しばかりのこの街の魔法使いでは、火力が足りないでしょうか……」
職員が再び悩みだし、また静まり返る中。
ある冒険者が、ぽつりと言った。
「…あの二人はどうなんだ?ほら、幹部の城にちょっかい掛けた…」
その言葉に、再びざわつくギルド内。
「そうだ…二人の火力なら…」
冒険者の視線は、職員から俺達二人に集中する。
「…わ、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留めきれない…と、思われ……」
めぐみんが少し顔を赤くし、俯いたままそう言う。
「…そっちの兄ちゃんは?確か、デュラハンが魔法弾がどうとか言っていたよな、それで…」
ある冒険者から聞こえた声に、他の冒険者の視線はめぐみんから俺に移る。
「…ああ、でも、魔法弾じゃ流石に壊れはしないな…いっそ、俺とめぐみんが一緒に爆裂魔法を放つとか…」
俺はめぐみんに目を合わせ、そう少し大きな声で冒険者達に言う。
「…でも、それでもまだデストロイヤーを壊せる保障は少ないからな…本音を言えば、せめて、あと一人は欲しい所だ」
俺が放った言葉は、またギルド内を静かにさせた。
――ギルド内の空気がそんな雰囲気になった時、突然入り口のドアが開けられた。
「すいません、遅くなりました……!ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに……」
ギルドに入ってきたのは、何かの作業をしていたのか、黒いローブの上に店で使うエプロンをつけたウィズだった。
次回、一章最終回。
デストロイヤー戦後編。
いつも間にかUA数が8000超えそうで嬉しいです。
誤字脱字修正していきます。