この素晴らしい世界に魔法を! 作:フレイム
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誤字脱字お気をつけください。
「ううっ…やっぱり寒いな…」
俺は昼間から、暖炉の前のソファーの上で動けずにいた。
そう、季節はもう冬に入ろうとしている。
冬といえば、この世界では凶暴なモンスターしか活動しない駆け出し冒険者泣かせの季節。
冬に入る前に、この屋敷を手に入れたのはラッキーだった。
だが、そんな暖炉生活を阻む者が…
「ちょっとユウキ、暖炉前のソファーは私の特等席よ?すぐにそこを退きなさいな」
そう、「この屋敷に住めるようになったのは私のお陰よ?」とでも言いたそうな顔でこっちを見つめてくるアクアだ。
もちろん、俺は日頃からアクアとカズマのやり取りを見ているため、この状況で無理に抵抗すると面倒だということは分かっている。
「いいよ、ほら、どうぞ」
俺は即答でアクアに席を譲る。
「えっ?本当にいいの?べ、別に無理にとは言ってないんですけど」
「ああ、どうせ今から出掛けようと思ってたし、じゃあ、行ってくるわ」
譲った理由は、何だかんだかまってちゃんなアクアの反応を見るのが楽しいからだ。
もちろん、本格的に冬に入った場合は一歩も引くことは無くなるが。
外に出ると、街の中には雪が積もり、寒さの為か人もあまり出歩いていない。
こんな寒い中、街中をぶらいついているのは俺の様な暇人か……。
------もしくは俺の前方で不審な動きを見せている、カズマぐらいだろう。
俺は道の端でコソコソしながら、路地裏に佇む一軒の店の様子をうかがっている、カズマと、カズマの知り合いらしき人に声を掛けた。
「カズマ?こんな所で何コソコソしてるんだ?」
「「「うおっ!?」」」
背後から声を掛けられ、カズマとその知り合いらしき二人は飛び跳ねる。
「な、なんだよユウキか、脅かすなよ…」
「ん、驚かせたんならすまない……ところで、この二人はカズマの知り合いか?」
俺は、カズマの隣にいる二人に視線を合わせながら言う。
まず自己紹介をしてきたのは、黒い髪に青い服が印象的な人だった。
「あ、ああ…俺はキース。一応職業は≪アーチャー≫だ、よろしく頼む」
なるほど。この世界の冒険者は職業も自己紹介の時に名乗っておくのか。
次に紹介してきたのは、銀髪で赤い服が印象的な男だった。
「俺はダスト。職業は≪戦士≫だ、まあ、カズマの知り合い同士仲良くやろうぜ。」
むう…カズマの知り合いじゃなくてパーティメンバーなのだが…
そこも踏まえ、俺は彼らに挨拶をする。
「俺はエンドウユウキ。職業は≪アークウィザード≫だ、後、一応俺はカズマのパーティメンバーだからな…?」
「あ、ああ…すまないなユウキ…今後ともよろしく」
ダストは申し訳なさそうに、俺の顔を覗き込む。
「…それはさておき、三人はここで何をしていたんだ?」
俺がそう聞くと、三人は急にコソコソと話出す。
『おいカズマ、ユウキとやらは信用出来るヤツか?』
『ああ、酒に酔うと女に手を出すっていう所があるが、普段は真面目なヤツだ、この話をしても構わないと思うぞ』
『なるほどな…まあカズマのパーティメンバーだし大丈夫だろ』
『よし…じゃあ話すぞ…』
「待たせたなユウキ、じゃあ言うが、今から言う事は、この街の男性冒険者達にとては共通の秘密であり、絶対に漏らしちゃいけない話だ。パーティの女達に、絶対に漏らさないって約束できるか?」
先ほどまでラフに話掛けてきたダストが、急に重々しい雰囲気で話掛けて来て、俺は若干押されながらも頷いた。
「ユウキ。この街には、サキュバス達がこっそり経営してる、良い夢を見させてくれる店があるって知ってるか?」
「詳しく」
-----俺はダストに即答していた。
ほんのりと赤い顔のダストが、腕を組み教えてくれる。
「この街…いや、この路地裏の店には、サキュバス達が住んでるんだ。って言うのも、連中は人間の持つムラムラする欲望の感情、つまり男の精気を吸って生きる悪魔だ。となると当然、彼女達には人間の男って存在が必要不可欠になってくる」
ふむふむ。
俺は外の寒さも忘れ----熱心にダストの言葉に耳を傾けていた。
「で、だ。当然彼女達は俺達から精気を吸う訳だが……。ここの男性冒険者達とこの街に住むサキュバス達は、共存共栄の関係を築いている。……ほれ、俺達は基本馬小屋暮らしだろ?つーとだ。その、色々溜まってくるじゃないか。でも、周りには他の冒険者寝てる訳だ。ムラムラ来たってナニする事もできないだろ?」
「た、確かに…」
俺はコクリと頷いた。
やましい事なんて一つも無いが、俺の頬を一筋の汗が流れる。
そう、やましい事は何も無い。
「かといって、その辺に寝てる女冒険者にイタズラでもしてみろ。そんなもん即座に他の女冒険者に気づかれて袋叩きにされるか、もしくはイタズラしようとした相手が隠し持っていたダガーで、逆にアレを切り落とされそうになったっておかしくねえ」
言って、ダストが青い顔でブルリと身震いした。
キースがそれを見て、
「お前、まだリーンにちょっかい掛けた時のトラウマ、治ってなかったのか」
リーンというのは、恐らくダストのパーティの女性冒険者だろう。
「う、うるせえ!……で、そこでこのサキュバス達だ。こいつらが、俺達が寝てる間に凄いのを見せさてくれる訳だ。俺達はスッキリできて、彼女達は生きていける。彼女達も、俺達が干乾びたり冒険に支障をきたさない程度に手加減してくれる。精気を吸い過ぎて冒険者がヤバい事になった例は無い。……どうだ、誰も困らない話だろ?」
ダストのその言葉に、俺はコクコクと何度も頷いた。
素晴らしい!素晴らしすぎる!
これが現代の日本に存在すれば……男性の犯罪を格段に減り、治安維持にも繋がるだろう。
ま、まあ怖いのが、少子化の歯車がさらに加速しそうという事だが。
そんな軽い感動を覚えていた俺の様子を見て、キースが言った。
「実はその店の事を教えてもらったのって、俺達も最近なんだ。で、今日初めて、俺達もそこの店に行こうって事になってな。そこでユウキに会ったって訳だ」
ダストは深く頷き、
そして、俺に言ってくる。
「と、いう訳だ。……どうだ?なんなら一緒に」
「ぜひ行きます」
きっと俺一人では、こういった店には入れなかっただろう。
だが、今の俺には頼もしい仲間がいる。
俺達の目の前には、路地裏に佇むレンガ造りの店。
一見飲食店にも見えるのだが……。
「いらっしゃいませー!」
多くの男が、女性の体はこうあるべきとと夢に見る様な、そんな魅惑の体をした女性。
そんな体の、とてつもなく綺麗なお姉さんの出迎えを受けながら店に入ると、中にはものの見事に男性客しかいなかった。
男性客は皆、それぞれのテーブルで、アンケートの様な紙に一心不乱に何かをカリカリと書いていた。
俺達を空いているテーブルに案内してくれたお姉さんは、メニューを手に笑みを浮かべ。
「お客様は、こちらのお店は初めてですか?」
その言葉に俺達四人はコクリと頷く。
お姉さんは微笑を湛え、
「……では、ここがどういうお店で、私達が何者かもご存知でしょうか?」
俺達は再び無言で頷いた。
それに満足したかの様に、お姉さんがテーブルにメニューを置く。
「ご注文はお好きにどうぞ。勿論、何も注文されなくても結構です。……そして、こちらのアンケート用紙に、必要事項を記入して、会計の際に渡してくださいね?」
俺は渡されたアンケート用紙に目を落とすと………。
「あの、夢の中での性別や外見、ってのは……?」
そんな、良くわからない事が書いてあった。
状態は分かるが、自分の性別や外見って……?
「状態とは、夢の中では王様とか英雄とかになってみたい、等ですね。性別や外見は、たまに、自分が女性側になってみたい、というお客様もいらっしゃいますので。年端もいかない少年になって、強気の女性冒険者に押し倒されたいとのお客様もいらっしゃいました」
大丈夫なのだろうか、この街の冒険者は。
しかし、そんな事まで設定できるのか。
キースがおずおずと、お姉さんに質問する様に片手を挙げた。
「……あの、この相手の設定ってのは、どんな所まで指定ができるんですかね?」
「どんな所までも、です。性格や口癖、外見やあなたへの好感度まで、何でも、誰でもです。実在しない相手だろうが、何でもです」
「マジですか」
「マジです」
横から思わず素で聞いてしまっただろうカズマに、お姉さんは即答してきた。
と、いうことは……?そう、二次元嫁まで可能って事か?
「……あの、それって肖像権とか色んなものは大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫です。だって夢ですから」
「ですよね」
お姉さんの即答に俺は安心した。
夢なら何も問題は無い。
ダストがおずおずと片手を挙げる。
「……相手への年齢の制限なんかも、無いって事ですかね?いや、別にそういったものを指名する気はないんですがね、一応、なんて言うか……」
「ありません、お好みでどうぞ」
お姉さんは一切の揺らぎもなく即答する。
夢なら何も問題ない。
なんて事だ、最強じゃないかサキュバスの淫夢サービス。
俺達四人は、無言でアンケートを書き続けた。
そう、店内の他の客と同じ様に。
「では、皆さま三時間コースをご希望ですので、お会計、それぞれ五千エリスをお願い致します」
安いな!
俺は会計でサイフを出し、その値段に驚いた。
そんな俺の表情から察したのか、お姉さんが、
「……私達にとって、お金は、この街で人として生活していけるだけの分があればそれで十分なんです。後は、ほんのちょっと、お客様の精気を頂くだけですから」
そう言って、クスリと微笑んだ。
なんてこった、コレほどまでに皆が幸せになれる商売があるのだろうか。
俺達四人は思わず、サキュバスのお姉さんを拝み、呟いていた。
「か……神様……」
「や、止めてください縁起でもない!で、では最後に、お泊りのご住所と本日の就寝予定時刻をお願いします。その時間帯に、当店のサキュバスが就寝中のお客様の傍へ行き、希望の夢を見せて差し上げます。できればお酒等は控えめにしておいて下さいね?泥酔されて、完全に熟睡されていると、流石に夢を見させる事ができませんから」
お姉さんの忠告を受けて、俺達は店を出る。
時刻はまだ夕方だが、店を出た俺達は、何となくそのまま解散する事になった。
「そ、それじゃ、またな」
「はは、今日はありがとな!教えてくれて」
「お、おう!」
「ま、またな!」
二人は、何となくソワソワして早く帰りたそうにしている。
というか、俺も同じ気持ちだ。
指定した就寝時間までは余裕があるのだが、早く帰って準備して、今日は早めに寝ておきたい。
俺達は何処かへ寄り道する事もなく、そのまま急いで帰宅した。
「カズマ、ユウキ、お帰りなさい!喜びなさいな、今日の晩御飯は凄いわよ!カニよ!さっきダクネスの実家の人から、これからそちらでダクネスがお世話になるのならって、引っ越し祝いに、超上物の霜降り赤ガニが送られて来たのよ!しかも、すんごい高級酒までついて!パーティメンバーの皆様に、普段娘がお世話になってる御礼です、だってさ!」
屋敷に帰ると、アクアが満面の笑みで出迎えてくれた。
この世界でも、カニはどうやら高級品らしい。
日本に住んでいた頃でもろくにカニなんて食えなかった身なのだが、まさか異世界で食う事になるとは……。
二階のリビングに着くと、ダクネスが食卓テーブルに、調理済みのカニが並べられていく。
俺はめぐみんの隣に座り、嬉々としながら食べるのを静かに待つ。
全員が食卓に着き、早速霜降り赤ガニを……。
パキッっと割ったカニの脚から取り出した、白とピンクの身を醤油につけて、そのまま頬張る。
「!?」
-----そのあまりの美味さに驚いた。
見れば、他の皆も黙々とカニを食べていた。
確かに、よく考えれば、この世界には化学物質なんてモノはない。
プラスチックもないこの世界では、海は全く汚れておらず、自然とこの様な美味さのカニが生まれてくるという事だろう。
ダメだ、これは止まらん!
「カズマカズマ、ちょっとここにティンダーちょうだい。私が今から、この高級酒の美味しい飲み方を教えてあげるわ」
アクアが、テーブルの中央に置いてある七輪の上に、カニ味噌がついている甲羅を置く。
カズマが七輪の炭に火をつけてやり、アクアがそのまま、カニ味噌が残っている甲羅に、日本酒の様な高級酒を注いでいった。
アクアは上機嫌で、軽く焦げ目がつく程度に甲羅を炙って、熱燗にしたそれを一口すすり……。
「ほぅ……っ」
実に美味そうに息を吐いた。
-----ゴクリ
その場にいる全員が喉を鳴らし、皆と共にそれを実行しようとした俺は、ふと気がつく。
------罠だ…これは罠だ!
カニの美味さですっかり忘れそうになっていたが、これからサキュバスサービスがあるのだ。
俺はカズマと目を合わせ、この戦いに耐え抜くと意思表示をする。
よし…落ちつけ、俺は我慢が出来る男だ。
「!?これはいけるな、確かに美味い!」
惑わされるな!
ダクネスのその声に騙されてはいけない!
恐らく、いや絶対、一度あれを口にしたら止まらない。
「ダクネス、私にもください!いいじゃないですか今日ぐらいは!私だってお酒を飲んでみたいです!」
「ダメだ、子供の内から飲むとパーになると聞くぞ」
その言葉に、めぐみんは頬を膨らませ、むう、とした表情で諦める。
そんなやり取りをよそに、密かに我慢している俺とカズマを見たダクネスが首を傾げ。
「……どうしたカズマ、ユウキ。……もしかして、家のカニが口に合わなかったか?」
そんなことを言って、ちょっと不安そうな表情を浮かべた。
「いや、カニは凄く美味い、それは間違いない。ただ、今日は昼間に、ユウキと一緒にキース達と飲んできたんだ。だから、今日の所は酒はいいかな。……明日!明日貰うよ!」
俺も深く頷き、カズマの言い訳に、そうか、と安心した様にホッと息を吐き、屈託なく笑うダクネス。
くっ…!普段は色々とドM発言で困らせてくるのに、そんな純粋そうな顔で笑わないでくれ…っ!
「ほーん?カズマにユウキ、明日までこのお酒残ってると思ってんの?勿論私が全部飲んじゃうわよ?これを飲まないとはとんでもない!わーい、二人の分まで私が飲もう!」
む…安定のこの女神が憎たらしい。
そんな俺達に、ダクネスが再び笑いかけ。
「……ん、そうか。なら、せめてたくさん食べてくれ。日頃の礼だ」
そのダクネスの笑みは、どこか無理をしている気がして、どうも後ろめたい気持ちになる。
その言葉を受け、俺とカズマは再びカニに手をつける。
先にたらふくカニを食べ終わったカズマは、立ち上がり、覚悟を決めた顔で。
「それじゃ、ちょっと早いけど俺はもう寝るとするよ。ダクネス、ご馳走さん、お前ら、お休み!」
カズマは、俺を残して自分の部屋に引き篭もってしまった。
俺はまだ自分のカニを食べ終えていなかった為、アクア達の会話に入りながらチマチマ食べる。
「ねえユウキ、よかったらなんだけど…ちょっと、ちょっとお酒くれない?」
アクアは俺に、手を合わせながらそうお願いをしてくる。
「ん、いいよ、一本だけな」
今日の俺は機嫌が良い為、気前よくアクアに酒を差し出す。
「えっ…?ほ、本当にいいのね?ユウキって、カズマと比べると全然違うから調子狂っちゃうんですけど」
アクアが、俺の顔を見ながら少し慌ててそう言う。
「はは、そうか。じゃあ酒はいらないんだな」
俺はそう言うとアクアは、必死に酒を抱き締め、俺に取らせまいと抵抗する。
そんな会話も続きながら、俺の就寝時間も近づき始めた頃、遂にカニもなくなってしまった。
「ふー…あらかた食べちゃいましたね…じゃあ、そろそろ片付けましょうか」
めぐみんがそう言うと、俺達は片付けに入る。
はは、ヤバい、今日はこのまま寝てしまいそうだ。
俺は気がつくと、アクアの特等席の暖炉の前のソファーで寝てしまった。
「……んっ…!」
俺は一体、どのくらいの間寝ていたのだろうか。
暖炉の前のソファーで寝ていた俺の体には、毛布が掛けられていた。
きっとあの三人の誰かが掛けてくれたのだろう。
俺は自分の部屋に戻って寝ようと、立ち上がった瞬間、ある事を思い出した。
そう、今、この時間が夢なのではないか、と。
俺は嬉々としながら自分の部屋に向かった。
設定では、俺の部屋のベットで寝ているという事にしている。
きっとそこでは…
ダメだ、ニヤニヤが止まらない自分が情けない。
俺はリビングのランプを消し、自分の部屋に向かう。
屋敷の中の広い廊下では、俺の足音のみが響く。
「よ、よし…」
俺はドアノブを強く握り締め、勢いよくドアを開ける。
俺は挙動不審で通報されてもおかしくないぐらいに、部屋を確認する。
すると…その部屋のベットには、寝ている女の子の姿が。
だが、その女の子には、しっかりと見覚えがある。
「…!?め、めぐみん!?」
ううむ…しまったなぁ…
何故夢の中で現れるのがめぐみんなのか。
黒髪の後輩で敬語の女の子って書いたのがいけなかったのだろうか。
次からは、もっと細かく設定しよう。
まあいいや、夢の中だし、襲ってしまってもかまわんのだろう?
俺は、寝ているめぐみんの隣に座り、こっそりそのままめぐみんの横で寝てみる。
同じベットで寝ていると、めぐみんの寝息が聞こえてくる。
ヤバい、何だか心臓がバクバクと音を立て出した。
流石サキュバス、凄い再現度だ。
こうしているだけでも幸せだな…と感じつつも、俺も一応は高校生だった身だ。
意を決して、俺が行動を起こそうとした、その時だった。
めぐみんの目がパチリと開き、そのままトロンとした眠たそうな目で、状況を把握しようと隣にいる俺を見る。
「おはようめぐみん、よく眠れたか?」
「ああ……。おはようございますユウキ。……で、なぜ私はユウキと同じ布団で寝ているのでしょう?」
そんな事を、天井を見上げて言ってくる。
「ああ、心配するな、これは夢だからな」
めぐみんはキョトンとしながら。
「…え?ゆ、ユウキ、何言って…」
めぐみんが言い終わる前に、俺はめぐみんを抱きしめた。
「うん、夢の中でだけど、いつも苦労掛けちゃって悪いな…好きだよ」
「ええっ!?いや、あの、その…どうして急にこんな…!」
おお、凄い、サキュバスの再現率ヤバいな。
まるで本物のめぐみんの様な感じだ、しっかり体温も伝わってくる。
抱きしめていると、混乱しているめぐみんが声を抑えて、
「ちょ、ちょっと待ってください!ま、まず、どうして私と同じベットで寝てるんですかっ…!」
めぐみんは顔を真っ赤にして、俺に言ってくる。
「何しにって…もちろん夜中にめぐみんにイタズラしに来たに決まってるだろ」
「!?!?」
俺がそう言った途端、めぐみんは口をパクパクさせていた。
「い、いやその、ゆ、ユウキ?ほ、本当に今日のユウキは何か変ですよ…!」
「ああもう!焦らしプレイとかは設定してないぞ!いいから続けるぞ!」
-------俺がそう大声で言い、行動に移そうとした時…。
「この曲者ー!出会え出会え!皆、この屋敷に曲者よーっ!!」
それは屋敷に響くアクアの声。
おいおい、良い所で邪魔が入るとか、そんなおあずけ設定はつけてないぞ!
くそ、このままめぐみんにイタズラ続行といきたい所だが、夢の中でも邪魔するアクアに文句言ってやらないと!
そのまま部屋から飛び出し、アクアの声が聞こえたリビングに向かうと、そこには、昼間見たお姉さん風のサキュバスよりも幼げな、小柄なサキュバスの女の子と、中学生ぐらいの身長サキュバスの女の子がアクアの手によって取り押さえられていた。
そこには何故か、腰にタオルを巻いているカズマもいる。
「カズマ、ユウキ、見て見て!私の結界に引っ掛かって、身動き取れなくなった曲者二人を捕まえたわよ!」
ん…?アクアはまだしも、サキュバスやカズマといい、幾らなんでも登場人物が多すぎる事に違和感を覚える。
「実はこの屋敷には強力な結界を張ってあるんだけどね?結界に反応があったから来てみれば、このサキュバス二人が屋敷に入ろうとしてたみたいで、結界に引っかかって動けなくなっていたの!サキュバスは男を襲うから、きっとカズマ達を狙ってやってきたのね!でも、もう大丈夫よ。今、サクッっと悪魔祓いしてあげるから!」
アクアの言葉にサキュバス達が、小さくヒッと声を上げた。
あれっ。
何これおかしい、本当におかしい。
というか、つまりさっきのめぐみんは……!
いや、今はそれどころじゃない、まずは目の前のサキュバスだ!
「さあ、観念するのね!今とびきり強力な対悪魔用の……。……?カズマ、ユウキ、男のあんた達はこっちに来ない方がいいわよ?でないとサキュバスに操られて……」
俺とカズマは無言でサキュバスの前に立つと、その手を取り、玄関に向かって連れていく。
「ちょ、ちょっとちょっと!カズマ達ったらなにやってんの?その子は悪魔なの。カズマ達の精気を狙って襲いに来た、悪魔なのよ?」
アクアが俺達に鋭く叫ぶ。
サキュバス達が、俺達にだけ聞こえる小さな声で。
「お、お客さんすいません!私達の事はいいです、どうせモンスターですから!結界は予想外でしたが、コッソリ枕元に立つのは私達の一番得意とする所。こんな状況になったのは、侵入できなかった未熟な私達が悪いんです。お客さんに恥をかかせる訳にはいきません、私は街に迷い込んだ野良サキュバスって事で退治されますから、お客さんは、何も知らないフリをしてください!」
俺達はそんな事を言ってくるサキュバスを、背中に庇う様にして、アクア達に対して向き直った。
そのままサキュバス達を、玄関に向けて後ろ手をドンと押し。
そして、カズマはアクアに向かって拳を構え、そのままファイティングポーズを取り、俺はアクアに右手を向けた。
「お、お客さん!?」
サキュバス達が小さな悲鳴じみた声を上げる中。
「……ちょっと、一体何のつもり?仮にも女神な私としては、そこの悪魔を見逃す訳には行かないわよ?カズマ、ユウキ、痛い目に遭いたくなかったら、そこを退きなさいよ!」
アクアが眉根を寄せて、チンピラみたいな事を言ってきた。
「アクア、今のカズマ達は、恐らくそのサキュバスに魅了され、操られている!先程から、カズマの様子がおかしかったのだ!夢がどうとか設定がこうとか口走っていたから間違いない!おのれ…そこのサキュバスめ、よくもこの私に、あんな……、あんな辱めを……っ!ぶっ殺してやる!」
裸足で飛び出してきたダクネスが、サキュバスに向けて叫んできた。
目に涙を浮かべながらのその物騒な言葉に、俺は思わず後ずさりしそうになる。
カズマが、後ろ手に、サキュバス達に早く行けとばかりに手を振った。
それを見たアクアは一歩前に出て、腰を落として身構えた。
「どうやら、カズマ達とはここで本気で決着をつけないといけないようね……!いいわ、掛かってらっしゃい!カズマ達をけちょんけちょんにした後、そこのサキュバスに引導を渡してあげるわ!」
そして、叫ぶと同時に、俺達に向かって飛び掛かってきた。
それを見たサキュバスが、小さな声ながらも悲痛に叫ぶ。
「お、お客さーん!!」
俺達は拳を握りしめ。
「「かかってこいやー!!」」
屋敷中に響く大声で、熱く、熱く、叫んでいた。
「………………………」
背中に無言の視線を感じながら、俺はリビングで、杖の手入れを黙々としていた。
「なあ、いい加減口利いてくれよ。ていうか、俺は何にも覚えてないんだぜ?ちょいと酷くないか……?」
「……ッ!………」
背後にいるめぐみんが、一瞬俺に何かを言い掛けるも黙り込んだ。
結局めぐみんは、昨日の夜俺はサキュバスに操られていたという都合の良い解釈をしてくれているのだが。
「…………本当に、昨日の夜の事は覚えていないのですね?ユウキは、あのサキュバス達に操られていて、記憶がないのですね?」
念を押すように。ようやく口を開いためぐみんが尋ねてきた。
「ああ、残念だけど覚えていないよ。良い夢を見ていたとしか覚えていない」
せっかくの都合の良い解釈なので、俺もそれに乗っかっておこう。
その方が、お互いの為にも良さそうなので。
「そ、そうですか…なら…しょうがないですね。事故みたいなものです、私も忘れます。」
「そうか…でも、俺が操られていてやったことって何なんだろうな…?全く、サキュバス達も、意識ぐらいは残してくれてもいいよなぁ」
「ゆ、ユウキ…ユウキはやっぱり、昨夜の事を覚えているんじゃないですか!?あれは本当に、サキュバスに操られての行動だったんですか!?」
「じゃあ逆に聞くけど、昨夜の行動が俺の意志だったとしたら、何か俺ヤバいことやっちまったか?」
めぐみんにそう言うと、顔を真っ赤にしてポカポカ殴ってくる。
何にせよ、これでようやく生活基盤が出来上がった訳だ。
衣食住さえ揃ってくれれば、後はなんとかやってくれる。
俺は、この世界に来て、ようやく安らげる場所を得られた訳だ。
今夜は、とてもよく眠れそうだった。
そう、街中に轟いた、全てをぶち壊そうとするアナウンスさえ流れてこなければ-------
『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近中です!冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ!そして、街の住民の皆様は、直ちに避難してくださーいっ!!!』
はい、まさかの一万字超えです。
異常なほどまで疲れましたが、最近は見てくれる人が増えたりしてくれているので、
モチベ維持できて次もすぐ書けそうです。(更新速度が速くなるとはry)
次回、デストロイヤー決戦前
誤字脱字修正していきます。