この素晴らしい世界に魔法を! 作:フレイム
屋敷除霊編
誤字脱字お気を付けください。
「ん…?この依頼は…?」
俺は先日購入した杖で早速討伐クエストに出ようと、ギルドの掲示板で募集を探していたのだが、今の俺達には喉から手が出そうなほど好条件な依頼が張られてあった。
屋敷の除霊。
元々その屋敷は、とある貴族の別荘として使われていたのだが、突然その貴族が屋敷を手放したそうだ。
そしてアクセルの街の不動産屋に売りに出されようとした所、屋敷に悪霊が発生し、とても売りに出せないという。
悪霊を除霊には、アンデッドの王であるリッチーすら浄化しようとしたアクアがいるので、特に問題はないだろう。
しかもこの依頼、成功報酬が屋敷の譲渡という大判振る舞い。
俺はこの依頼を他の冒険者に受けさせないよう、募集の紙を剥がし、宿屋に持ち帰った。
「……この屋敷か」
カズマがポツリと呟いた。
俺達の目の前にある、日本の一軒家の数倍の大きさがあるその屋敷は、きちんと貴族によって手入れをされていたのだろう、ほとんど新居に近い屋敷であった。
「悪くないわね!ええ、悪くないわ!この私が住むのに相応しいんじゃないかしら!」
アクアが自分の荷物が入った小さめの鞄を手に興奮したように叫び、同じく鞄を手にするめぐみんも、心なしか顔が紅潮していた。
「しかし、本当に除霊が出来るのか?聞けば、今この街では祓っても祓ってもすぐにまた霊が来ると言っていたのだが」
ダクネスが、大きな荷物を背負いながら言ってくる。
「でもこのお屋敷、手入れはされていますが長く人が住んでいない感じがするのですが悪霊が発生してるというのが広まったのは、ここ最近ですよ?もしかして、今回の悪霊騒動が起きる前から問題がある、訳あり物件だったりして……」
めぐみんが不安になることを言った。
「ま、まあこの屋敷が事故物件だとしても、こっちにはアークプリーストのアクアがいるんだし、特に心配する事はないだろう」
自分で言っといてなんなんだが、アクアに完全にまかせっきりなのも何だか不安だ。
ま、まあ、アークプリーストとしてのアクアの実力は本物だ。
ここは全てアクアに任せておいても大丈夫だろう。
「じゃあ私は除霊の準備をしておくから、皆は先に屋敷に入っててくつろいでなさいな」
珍しく気がきくアクアに違和感を覚えつつも、俺達はワクワクしながら屋敷に入る。
月が昇り始めた頃。
俺達はみんな鎧などは脱ぎ、屋敷でくつろいでいた。
屋敷は主に二階建てで、一階はカズマとアクア、二階はめぐみん、俺、ダクネスの部屋割りとなり、荷物も部屋に運んでいる。
俺は、今日からこの屋敷にアクアが住む以上、悪霊はすぐに出て行ってくれるのではと、淡い期待を抱いていた。
もし悪霊が自ら出て行かなくても、自分の家を好き放題やられていくのを放置していくヤツではない。
俺達は暖炉があるリビングのような広い部屋のソファーで、安心して休んでいた。
「あああああああああっ!?わあああああーっ!!」
その、頼りにしていたアクアの声を聞くまでは。
カズマはいち早くアクアの悲鳴が聞こえた部屋に飛び出し、俺達三人は慌ててカズマに続く。
「どうしたっ!?おいアクア、何があった!大丈夫かっ!?」
カズマは、そう大声で言いながら悲鳴が聞こえた部屋のドアをノックする。
しかし、部屋からは返事がない。
そのことを不安に思ったのか、カズマは勢いよく部屋のドア開ける。
そこには……、
「うっ……ううっ……。カ、カズマああああっ!」
部屋の中央で、大事そうに空の酒瓶を抱え、泣いているアクアの姿。
……おい。
「えっと、何があった?てか、お前は酒瓶なんて抱いて何してんだ。酔っ払って奇声を上げたとか言ったら、クリエイト・ウォーターで水ぶっかけて酔いを醒ましてやるからな」
カズマはそう言い、アクアに右手を向ける。
「ち、違うの!この空になった酒瓶は、私が飲んだ訳じゃないわ!これは、大事に取っておいた凄く高いお酒なのよ。お風呂から上がったらゆっくりちびちび大事に飲もうと楽しみにしてたの!それが、私が部屋に帰ってきたら、見ての通り空だったのよおおおおおおっ!」
よし、風呂入って寝よう。
「そうか、じゃあお休み。また明日な」
「んじゃ俺も風呂入って寝るわ、お休みアクア」
「それじゃあ私の疲れているので先に寝させてもらいますね」
「ん…それじゃあ私も…」
俺達四人はアクアの話など気にせず、それぞれ自分の部屋に急ぐ。
「ああっ!?ちょ、ちょっと待って!ねえ、ねえってば!」
後ろでアクアが叫んでいるが、誰も振り返らなかった。
俺はアクアの戯言を聞いた後、自分の着替えを持って風呂を目指していた。
だが、流石屋敷、今日は初日なので、結構迷ってしまう。
ようやく脱衣所を見つけた俺は、早速服を脱ぎ、風呂に入ろうとする。
が、目の前にある西洋の人形の様なものを見て、固まってしまった。
「な、何でこんな所に人形が…?」
めぐみん辺りがイタズラで置いたものだろうか…?
いや、めぐみんはそんな姑息なイタズラをするヤツではないだろう。
直感でだが、変な考えが頭の中で生まれてしまって、嫌な汗が出てくる。
俺はとりあえずその人形を脱衣所にある机に置き、とりあえず風呂に入った。
風呂に入っている間にも、さっきの人形の事を違和感に感じていたが、風呂の温かさに安心したのか……いつの間にか俺はそのまま寝てしまっていた。
「ん…今何時だ…」
風呂場のランプは消えており、月の光でなんとか辺りが見える程度だ。
屋敷は静まり返り、時間はとっくに深夜を回っているだろう。
-------トイレに行きたい。
俺は湯船から体を起こし、そのまま脱衣所に向かう。
脱衣所に入った俺は、早速着替えようと…!?
机の上に置いていた西洋人形が、脱衣所に入ってきた俺の目を見つめる。
-------カタンッ。
その西洋人形から、静かな脱衣所に大きく響く、小さな音がした。
俺はその音を聞くなり、服を着ていた手が危機を察し素早く動く。
カタンッ。
その音は、さらに俺を恐怖に陥れ、服を着ている手がまた早くなる。
カタンッ。
その音は段々間隔を狭め、俺に恐怖を与える。
カタンッ。
カタンッ。
よ、よし……!なんとか下は着替え終えた…!
次は上の服を着ようと、服に手を伸ばすと…
カタカタカタカタ……。
ガタガタガタガタガタガタガタ。
俺はもう我慢出来ず、慌てて脱衣所を飛び出し、尿意を我慢しながら自分の部屋に走って向かっていると、屋敷の奥から。
「アクアー!アクア様ああああ!」
それは遠くで聞こえるカズマの声だった。
という事は…この屋敷全体でこの現象が…?
そこまで思った後、俺の背後から先程の音が聞こえ出した。
ガタタタタタタタタッ、カタカタカタカタカタッ!
背後から聞こえる嫌な音を聞きながら、俺は二階に続く階段を駆け上がる。
あったっ!俺の部屋ッ!
俺は勢いよくドアを開け、部屋に飛び込んだ。
そして慌ててドアを閉め、そのままドアに鍵をかける。
一拍置いて、ドアが何かがぶつかる音。
それをドア越しに背中で聞きながら、俺は部屋の中に視線をやった。
そこには、誰もいないはずの部屋に、両の目を紅く輝かせた、黒髪の少女が、暗闇の中、部屋の中央に座り込んでいた。
「うわああああああああああああああっ!」
「きゃああああああああああああああっ!」
そこにいた少女は、よく見ると、パジャマ姿のめぐみんだった。
俺とめぐみんはひとしきり叫んだ後、少しだけ落ち着きを取り戻す。
「な、何でめぐみんが俺の部屋に…?危うく漏らす所だったぞ…」
「それはこっちのセリフですよ!というか、ここは私の部屋ですよ!上半身裸でいきなり飛び込んで…!」
そうめぐみんに言われた途端、俺は、この部屋の中を見回す。
確かに、俺の部屋とベットの配置が違う。
「しまった…普通に慌てすぎて部屋を間違えてしまったか…悪いがめぐみん、長いタオルかなにか持ってないか?」
俺はめぐみんから、白いタオルを受け取り、それを上半身に巻く。
「ところでめぐみん…何で部屋に座り込んでいるんだ…?」
俺のと言葉にめぐみんは。
「う……。いや、その……。人形が、ですね。その、あちこちで動いておりまして…。えっと…トイレに行けなくて…。」
ああ、めぐみんも俺と同じ目に遭ったのか。
「何だ…めぐみんも俺と同じ状況ってことか…」
俺がそう呟くと、めぐみんも俺が同じ目に遭った事を察したらしい。
「ところで…今、アクアは何をしているのか知らないか…?多分今の状況からすれば、アクアが頼みの綱だ…」
マズい、そろそろ尿意が限界になってきた。
「ちょ、ちょっとユウキ?大丈夫ですか?」
めぐみんが不安そうな顔で俺の顔を覗き込んでくる。
「…ヤバい…早くトイレに行かないと…」
それを聞いためぐみんは、どうすれば良いかと右往左往している。
「…あっ!ユウキ、ドアの外の音が止んでます。今なら外には人形はいないのでは?」
そういえば、いつの間にか音は止んでいた。
俺は変な考えを持たずに、めぐみんの腕を掴んで二階の奥のトイレに駆け出す。
「ちょっ!?ちょっとユウキ!?どうしたのですか急に飛び出して…」
「いいから来い!トイレはもうすぐそこだ!」
俺達はそのままトイレのドアを開け、めぐみんを掴んだままだという事を忘れてトイレに入ってしまった。
「ふう…これで安心して用をたせ…」
そこには、トイレという狭い密室で、めぐみんと二人っきりというシチュエーションが。
「ちょっ!?ちょっとユウキ!?何で私までトイレに連れて入っちゃうんですか!外が怖くて出られないじゃないですか!」
俺は慌てて発射口をしまい、めぐみんに小さな声で。
「しまったッ…!本当に悪いがめぐみん、ちょっと耳塞いでてくれ…」
そう言うと俺は、そのまますぐに用を足し、めぐみんが出てくるまで、ドアの外で待機する。
俺がどこかへ行くのが怖いのか、先ほどからしきりに話しかけてくる。
「……あの、ユウキ。流石にちょっと恥ずかしいので、大きめの声で歌でも歌ってくれません?」
「…ダメだ、俺は中学の時、友人と初めて行ったカラオケで音痴だとバカにされまくってな、人の前で歌うのはトラウマだ」
「ちゅ、中学…?よくわかりませんが、じゃあ耳を塞いでてください!」
俺は指示通り耳を塞ぎ、トイレを出た先の廊下に何かいないか確認する。
よかった。今の所何もいないようだ…
それがフラグになったのか、廊下の窓の外に…ヤツらがいた。
人形は俺を凝視した後、突然と消えた。
俺は一瞬で人形が目指すところを察し、
「お、おいめぐみん!まだ終わらないのか!?ヤツらにここにいるってバレた!もうじきここに来るぞ!」
「えっ、えええっ!?…はい!今終わりました…」
後半の方がよく聞こえなかったが、めぐみんも用を済ませ、アクア達と合流しようと廊下に出ると…。
カタンッ。
「…!」
俺は人形が近づいてくる、その音を聞いた途端、まためぐみんの腕を掴み、音とは逆の方向に向かう宛ても無く走る。
「ゆ、ユウキ!駄目です!そっちには人影が…」
確かに、俺の走る方向に二人の人影。
「『フラッシュ』!」
相手が人の霊なら、フラッシュも牽制程度には使えるだろう…と思った瞬間。
「ぎゃあああああああっ!目が、目があああああ!」
「くっ…!視界を封じて私に何をするつもりだ!?ハアハア…」
そこには、フラッシュの光をまともに喰らい悶絶するアクアと、逆に喰らって喜んでいるダクネスがいた。
「ふう、これでよし、と。結構いたわねー。結局朝までかかっちゃったじゃないの」
アクアが、人形に憑いた最後の悪霊を浄化して、明るくなってきた窓の外を見て呟いた。
流石は対アンデッドのエキスパート。この広い屋敷の悪霊を、一晩で退治してしまった。
「ふむ、流石はアクアだな…この街で除霊を本業とするプリーストでも、この屋敷には手を焼いていたそうだからな」
ダクネスが関心したように言うと、アクアはドヤ顔で返してくる。
殴りたい、この顔。
いや、女性には暴力は一度も振るったことがないのだが。
「ということは正式に、今日からこの屋敷に住めるって事だな」
カズマはそう言い、眠たそうに目を擦る。
結局カズマは、朝までアクアに発見されるまで一階のトイレに籠っていたそうな。
「ああ…夜中に西洋人形に追いかけられるのはもうごめんだな…」
俺はそう言うと、めぐみんも無言で頷く。
屋敷を手に入れ、もっと喜んでいい状況なのだが、俺達は疲れに疲れ切っていおり、素直に喜べる雰囲気ではなかった…。
近頃見てもらえる人が増えて、モチベUPUPです。
(更新速度が上がるとは言っていない)
次回、屋敷も手に入ったという事で、念願のサキュバス回。
カズマとユウキの二人視点に挑みます。
誤字脱字修正していきます