この素晴らしい世界に魔法を! 作:フレイム
良い感じの日常回を作りたい。
誤字脱字お気をつけください。
俺は昨日のカエル狩りで12、3万の収入を手に入れ、おまけにレベルも3→7に上がり、スキルポイントも追加された。
かといって、チート能力でスキルポイントには全く苦労しないので、正直必要はない。
「ユウキ、今日は爆裂魔法の特訓をしたいのですが、少し付き合ってもらえませんか?」
ギルドのテーブルに座っていた俺にめぐみんが声を掛ける。
「ん、なんで一人で行かないんだ…って、魔法撃っちゃうと動けなくなるからか」
そう言うと、めぐみんは顔を赤らめて俯く。
こう見るとめぐみんも中々可愛いのだが、爆裂狂なのが残念だ。
「よし、いいよ。って、どこで練習するんだ?」
俺の言葉を聞いためぐみんは、俺の手をひき、街の外に連れ出された。
「そこの岩場なんてどうだ?早く撃って帰ろうぜ」
街からちょっと出た所の、大きな岩が密集している場所を指し、俺は魔法を撃つよう促す。
しかし、それを聞いためぐみんは、首を横に振る。
「駄目なのです。街からもうちょっと離れた所じゃないと、また守衛さんに怒られます」
「またって…何度か叱られたことあるんだな…」
俺は呆れて返す。
仕方ない、携帯食料などは持ち合わせていないが、ちょっと遠出して良い所を探すしかなさそうだ。
俺達は街から延びている街道を頼りに、練習場所を探す。
「…ん、あれは廃城でしょうか?」
めぐみんが右手で指した先には、しっかりとした造りの廃城があった。
「おお…結構大きい城だけど、周りは森だし所有者もいなさそうだな」
「アレにしましょう!あの廃城ならいくら壊しても誰にも文句は言われない筈です」
めぐみんはそう言ったと同時に、杖でその城を指し、詠唱を始める。
そういえば俺もアークウィザードの癖に杖も満足に手に入れていない。
昨日の報酬をつぎ込みウィズの店で購入しようか。
そんなことを考えていると、めぐみんは詠唱を終え、杖の先が光る。
「『エクスプロージョン!』」
そう叫ぶと同時に、廃城の内部で爆発が起き、外壁が崩れる。
そして、めぐみんはいつも通り、俺の方に倒れ込む。
「よしよし、ほら、背中に掴まれ、俺も魔法を一発撃ち込みたいから撃たせてもらうぞ?」
俺は右手に魔力を込め、白い球形の魔法弾を生成する。
「よし…『クラッシャー!』そりゃぁぁああ!」
俺が全力で投げたそれは、城の天守閣部分に直撃、上部が吹き飛ぶ結果となった、
「ぐぬぬ…ユウキも中々やりますね…ガクッ」
「おいおい、死んだフリするなよ、セクハラするぞ?」
それを聞いて飛び起きるめぐみん、やっぱり面白い。
俺はめぐみんを背負ったまま、街へ帰った。
めぐみんを背負ったままギルドに戻ると、カズマに盗賊スキルを教えていた人と、ダクネスが話をしていた。
「あ、ダクネス。ちょっと頼みがあるんだが…」
「き、貴様は…!普段は真面目だと思わせておきながら、酒を飲むと獣の様に女性に襲いかかることで有名なユウキじゃないか」
それを聞いていたギルド内の女性は、俺を軽蔑している様な目で見てくる。
「ち、ちげーよ!まああながち間違ってはいないが、本当にやめてくれ!」
俺はダクネスに大声で叫び、なんとか収拾をつける。
「うむ…それで、頼みとは何なのだ?もしや、魔法の実験台になってくれ、とか…んんっ…!む、、武者震いが…」
「ちげーよ!実はな、ダクネス。俺に剣の扱いを教えて欲しいんだ」
ダクネスは驚いた表情で、俺を見つめる。
「ま、まあ教えてやるが…何故アークウィザードのお前が剣術を身につけたいのだ?」
「ああ、魔法を連発しすぎて魔力切れで、めぐみんを背負ってたら見捨てて逃げる訳にもいかないからな、魔力を使わない剣術を身につけたくて」
「そうか…では、裏の広場で練習しよう。これから毎日付き合ってやる」
こうして、爆裂散歩とダクネスとの木刀での打ち合いが俺の日課となった。
そして二週間、その生活が続き、俺は平和ボケしてきたのか、その緊急指令に異常な恐怖しか感じてこなかった。
『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!』
突然街に鳴り響いたアナウンスは、この街にただならぬ雰囲気を醸し出す。
そのアナウンスを聞いて、俺はめぐみん、ダクネスと合流して正門に向かう。
カズマとアクアは既に到着しており、二人とも武器を構えて待機していた。
街の正門前に集まった冒険者は、5、60人ほどだろうか。
そのほとんどが熟練者の様な風貌をしており、今回の招集が危険な物であるという事を悟るのは難しくはなかった。
冒険者の列を掻き分け、俺はアクア達がいる最前列に向かう。
最前列でようやく見えた、俺達の前に佇むモンスターは、凄まじい威圧感を放っていた。
デュラハン。
それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士。
アンデットとなり、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスター。
正門前に立つ漆黒の鎧を着た騎士は、左脇に己の首を抱え、街中の冒険者が見守る中、フルフェイスの兜で覆われた自分の首を目の前に差し出した。
差し出された首から、くぐもった声が放たれる。
『……俺は、最近、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……』
やがて、首がプルプルと小刻みに震え出し……!
『まままま、毎日毎日毎日毎日っっ!!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法と、訳のわからん魔法弾を撃ちこんでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だあああああああー!!』
魔王軍の幹部は、それはもうお怒りだった。
どこかの線が切れ、耐えられなくなったデュラハンの叫びに、俺の周りの冒険者がざわついた。
というよりも、今回の件は全く周りの冒険者には関係ない。
だって、俺達に心当たりがありすぎるのだ。
「……爆裂魔法?」
誰かが呟いたその言葉は、冒険者達に拡散していく。
「爆裂魔法を使えるやつって言ったら……」
「爆裂魔法って言ったら……」
周りの冒険者の視線は、自然とめぐみんに集まる。
「めぐみん、ここは俺達でなんとかするしかなさそうだ……」
俺の問いかけに、めぐみんは嫌な顔をしつつも、前に出る。
俺とめぐみんは、デュラハンの十メートルほど離れた場所で対峙する。
それに伴い、カズマとアクア、そしてダクネスが俺達の十メートルほど後ろで武器を構える。
「お前らが……! お前ら二人が、毎日毎日俺の城に爆裂魔法と魔法弾をぶち込んで行く大馬鹿者か! 俺が魔王軍幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい! その気が無いのなら、街で震えているがいい! 何故こんな陰湿な嫌がらせをする!? この街には低レベルの冒険者しか居ない事は我々も知っている! 雑魚ばかりと見逃してやっていれば、調子に乗って毎日毎日ポンポン爆裂魔法を撃ち込みにきおって……っ!! 頭おかしいんじゃないのか、貴様らっ!」
毎日放たれる爆裂魔法がよほど応えたのか、デュラハンの兜が激しい怒りでプルプルと震えた。
それにめぐみんが若干怯むも、意を決して口を開いた。
「我が名はめぐみん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……!」
「……めぐみんって何だ。バカにしてんのか?」
「ちっ、違わい!」
「我は紅魔族の者にして、そしてこの街随一の魔法使い。我が爆裂魔法を放ち続けていたのは、こうして魔王軍幹部の貴公をおびき出す為の作戦……! こうしてまんまとこの街に、一人でノコノコ出て来たのが運の尽きです…!」
「お、おい…いつから作戦になったんだ」
俺はめぐみんの耳元で囁く。
「……ほう、紅魔の者か。なるほど、そのイカれた名前は別に俺をバカにしていた訳では無かったのだな」
「おい、両親から貰った私の名に文句があるなら聞こうじゃないか」
何故かめぐみんはヒートアップしているが、デュラハンは未だに余裕を見せている。
というか、俺達の後ろの冒険者など気にしていないと言うべきか、全く動じていない。
流石は魔王軍の幹部、俺達みたいなひよっ子など眼中に無いのだろう。
「それはそうと貴様ぁ!貴様は訳の分からん魔法弾を撃ち込んでいた奴だろう!正々堂々勝負に来ていれば、そこそこ俺と対等な戦いが出来る程の魔力を持ち合わせている癖に、何故チマチマと嫌がらせを掛けるのだ!貴様ァ!」
デュラハンは突然、俺に指を指して叫ぶ。
あれ…?これって今褒められたのか…?
「……フン。まあいい。とにかく、俺はお前ら雑魚共にちょっかいかけにこの地に来た訳ではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在する事になるだろうが、これからは爆裂魔法は使うな。いいな?」
「それは、私に死ねと言っている様なものなんですが。紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです」
「お、おい、聞いた事ないぞそんな事。貴様、適当な嘘をつくな!」
デュラハンは片方の手の平の上に首を乗せながら、そのまま器用に、やれやれと肩をすくませた。
「どうあっても、爆裂魔法を止める気は無いと? 俺は魔に身を落とした者ではあるが、元は騎士だ。弱者に手を出す趣味は無い。だが、これ以上城の近辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」
剣呑な気配を漂わせてきたデュラハンに、めぐみんがビクリと後ずさった。
そしてそのままアクアに目をやると、
「迷惑なのは我々の方です! あなたがあの城に居座ってる所為で、我々は仕事もロクにできないんですよ! ふっ、余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには、対アンデッドのスペシャリストがいるのだから! さあ、先生、お願いします!」
盛大な啖呵を切った後、めぐみんはアクアに丸投げした。
……………おい。
「ふふん、しょうがないわね! 魔王軍の幹部だか何だか知らないけど、この街にこの私が居たのは運が悪かったわね。アンデッドが、力が弱まるこんな昼間にノコノコ出てきちゃって、浄化して下さいって言ってる様なもんだわ!さあ、覚悟はいいかしらっ!?」
先生呼ばわりされたアクアが満更でも無さそうに、ズイとデュラハンの前に出た。
成り行きを固唾を飲んで見守る冒険者達の視線を浴びながら、アクアがデュラハンに片手を突き出す。
それを見たデュラハンは、興味深そうに自分の首をアクアに向かって前に出す。
きっと、これがデュラハンなりのマジマジと見る行為になるのだろう。
「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストか? 俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街に居る低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、アークプリースト対策は出来ているのだが……。そうだな、ここは一つ、紅魔の娘を苦しめてやろうかっ!」
デュラハンは、アクアが魔法を唱えようとするよりも早く、左手の人指し指をめぐみんにへと差し出した。
そしてデュラハンはすかさず叫ぶ!
「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!!」
デュラハンが呪いを掛けるのと、ダクネスがめぐみんの襟首を掴み、自分の後ろに隠すのは同時だった。
「なっ!? ダ、ダクネス!」
めぐみんが叫ぶと同時、ダクネスの身体がほんのりと一瞬だけ黒く光る。
「ダクネス、大丈夫か!? 痛い所とかは無いか?」
カズマはダクネスの元に駆け寄り、声を掛ける。
「……ふむ、何とも無いが」
平気そうに言ってのけた。
だが、デュラハンは確かに叫んだ。
一週間後に死ぬ、と。
「その呪いは、今は何とも無い。若干予定が狂ったが、仲間同士の結束が固い貴様ら冒険者には、むしろこの方が応えそうだな。……よいか、紅魔の娘よ。このままではそのクルセイダーは一週間後に死ぬ。ククッ、お前の大切な仲間は、それまで死の恐怖に怯え、苦しむ事となるのだ……。そう、貴様の行いの所為でな!紅魔の娘よ。一週間の間、仲間の苦しむ様を見て、自分の行いを悔いるがいい。クハハハッ、素直に俺の言う事を聞いておけばよかったのだ!」
デュラハンの言葉にめぐみんが青ざめる中、ダクネスが慄き叫んだ。
「な、なんて事だ! つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば俺の言う事を聞けと! つまりはそう言う事なのか!」
「えっ」
ダクネスが何を言っているのか分からなかったデュラハンが素で返した。
俺も何を言っているのかが分からない。……というか、分かりたくない。
「くっ……! や、止めろお……! 呪いぐらいではこの私は屈しはしない……! 屈しはしないが……っ! ど、どうしようカズマ! 見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を! あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙って言う事を聞けと、凄まじいハードコアプレイをする変質者の目だっ!」
大衆の前で、突然変質者呼ばわりされた可哀想なデュラハンがぽつりと言った。
「……えっ」
……気の毒に。
「この私の体は好きに出来ても、心までは好きに出来るとは思うなよ! 城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる女騎士とかっ! ああ、どうしよう、どうしようカズマっ!! 行きたくは無い、行きたくは無いが仕方がない! ギリギリまで抵抗してみるから邪魔はしないでくれ! では、行って来る!」
「ええっ!?」
「止めろ、行くな! デュラハンの人が困ってるだろ!」
ノコノコと敵に着いて行こうとするダクネスをカズマが羽交い絞めにして引き止めていると、デュラハンがほっとしている姿が見えた。
「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を放つのはやめろ!そして、紅魔族の娘よ!そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城へ来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来ることができたなら、その呪いを解いてやろう!……だが、城には俺の配下のアンデットナイト達がひしめいている。ひよっ子冒険者のお前達に、果たして俺の所まで辿り着く事ができるかな?クククククッ、クハハハハハハッ!」
デュラハンはそう言うと、帰るつもりなのか、振り返り、遠くに停めている首の無い馬に歩いて向かう。
「……なぁ、めぐみん」
「な、なんですか…!」
俺が声を掛けても、ダクネスが自分を庇って死の呪いを受けたことに責任を感じているのだろう。
苦虫をすりつぶしたような顔で俺を見つめる。
「………俺、ダクネスに教えてもらった剣術でやっと活躍できそうだ」
「……え?それってどういう…ってユウキ!?」
俺はめぐみんが言い終わる前に、デュラハンの方に駆け出し、構える。
「……ッ!?」
流石に魔王軍の幹部も、あれだけ脅しを入れておけば駆け出しの冒険者が襲いかかってくることはないと思ったのだろう。
デュラハンは咄嗟に振り向くが、もう間に合わない。
「『ライト・オブ・セイバー』っ!!!」
俺は光の剣を両手で持ち、無防備なデュラハンに斬りかかった……!
次回、首無し騎士さん編(後編)
もう魔法使いじゃなくね感があるけど気にしない。
誤字脱字修正していきます。