「やー、今日も働いた働いた」
腕を真上に伸ばしたらいい感じで音がなった。
春休みもあと残すところ3日になった今日この頃、俺は春休み最後のバイトに来ていた。それも今さっき夜の7時をもって終了した。
何時もだったらこのまますぐに家に帰って、俺の帰りを待ってくれているであろう圭萌と圭萌の作ったご飯を堪能するのだが、今夜は少し違うのである。
すべてはバイトに行く少し前まで遡る......
***
「花見に行こう」
「なんか言ったか」
「だから、花見に行こうって言ったんだよ」
圭萌が作ってくれたパスタ、ボンゴレビアンコを一緒に食べてたら、圭萌が思いついたふうに言った。てか、完ぺき思いつきだろう。
「いや、俺これからバイトなんだけど」
「わかってるって」
「じゃあ行けないけど...」
「バイト終わりに行けばいいんだよ」
「バイト終わるの夜の8時過ぎだぞ」
「それも知ってるよ。ハチ君さ、夜桜ってものは知ってるかな?」
「知ってるけど」
知ってるけどなんでそんなに上から目線なんだよ。なんでそんなに胸を張ってるんだよ。やめろよ、俺の視線が1点に集中しちゃうだろ。
「なら話は早い。今夜ハチ君はバイトが終わったら目黒駅まで来てください」
「普通に俺が一旦家に帰ってきて一緒に行けばいいんじゃねぇの?」
「ちっちっち、わかってないなぁハチ君は」
「いや、何がだよ。少なくとも圭萌の身体は隅々まで知ってるけど」
「う、うるひゃい」
赤面しながら噛んだよこの子。噛んだこともあってさらに赤くなって俯いちゃったよ。ここにきて庇護欲まで刺激してくるなんて、圭萌まじでっべーわー。
~~~
「いい、ハチ君。この際だから言っとくけど、突然何の前触れもなく変な事を言わない。いいね」
数分後、復活した圭萌(まだ頬がほんのり赤い)がそんな事を言ってきた。
ごめんな、そんなふうに言われるとさらになんかやりたくなるんだけど...
「変な事ってなにかな」
「絶対わかってやってるでしょ」
「はて?なんのことやら」
たぶん今の俺の顔は凄いニヤけてるんだろうな。
「もう」
「ほら、言ってごらん」
「その...俺の......もの...とか...」
我慢できずに食事中なのに立ち上がって圭萌のところまで行ってキスしたけど俺は何も悪くない。いいな、俺は何も悪くない。
~~~
「ゴホン、それで何だったけ?」
「サラッと話を戻そうとしないでよ。なんでハチ君は私を上にのせて座ってるのかな?」
「圭萌が腰を抜かしたからここまで運んできたんだろ」
「それはわかってる。なんで私が抱かれてるのかについて説明を求めてるんだよ」
キスをしてたらいつの間にか夢中になってそしたら圭萌が突然崩れ落ちたからビックリした。俺が悪いんだけどね。
いや、まてよ。圭萌が可愛いからいけないんだよな。それなら今やってる所謂あすなろ抱きも仕方ないことだよな。Q.E.D.証明終了。
「嫌だったか?」
「...嫌では......ない...けど......」
「ならいいだろ」
「私の心臓がもたないよ.........」
さっきまでの声より小さい声だったけど、流石にこの距離だと聞こえた。あえて聞こえないふりをするけどな。
「それでなんで目黒駅集合なんだ?」
「あぁ、そうだったね。なんでかって言うとデートだからだよ」
「?」
「わからないの?」
「むしろ今の返答で答えられるヤツいるのかよ」
「もうすこしわかりやすく言うと待ち合わせがしたいんだよ」
「そうなのか?」
だけど確かにむかし小町がそんなこと言ってたような、言ってなかったような...。どうだったけ?
よくわからないけど圭萌のしたいようにさせるのが正解だよな。
「わかったよ目黒駅で待ち合わせな」
「やったー。ついでにこの体勢もやめよ」
「それはできない。それで目黒駅ってことは目黒川か?」
「そのとーり。よくわかったね」
目黒で夜桜と言えばそこしかないだろ。花見をやったことない俺ですら知ってるから認知度は高いはずだ。
「2人でいいのか?」
「なにが?」
「いや、俺って花見したことがないからわからないんだけど、花見って大人数でわいわいやるもんだろ。だから俺と2人だけでいいのかなって」
「いいに決まってんじゃん。むしろ2人で以外は行きたくないよ」
やってしまった。またいらん事を聞いてしまったらしい。圭萌が頬を膨らましても怒ってるますアピールしてくるぐらいだし。
だけどね、圭萌さん。その膨らましてくるのただただ可愛いだけだからね。いいこと思いついちゃった。
「えい」
抱きしめていた手を解いて膨らんでいる頬を潰してみた。そしたら、なんかむかしのタレントがしていたぶりっ子ポーズみたいになったけど、元がいいから普通に可愛い。
なんか悔しいな。
「私いちおう怒ってるんだけど...」
「悪かったよ。それにそろそろ準備して行かなくちゃ」
そう言いながら、俺は圭萌を一旦持ち上げて立ち上がり、さっきまで一緒に座っていた場所に座らせてあげた。
「ありがとう」
「それじゃあね」
去り際にキスしたら、なんか背中のほうで唸り声が聞こえたけど気のせいだな。
***
思い出してみたけど、おもくっそバカップルしてんじゃないっすか。っべーわー。
「えっと、確か改札付近で待ち合わせだったな」
まさかね。あの人が集まってる所の訳ないよね。ないない。
だけど人だかりの中から出てきた人達が「あの女の子可愛かったね」とか「だけど人を待ってたみたいだから彼氏がいるんじゃないの」とか聞こえてきたんだけどまさかね。
念のために人だかりの中に入ってみたら案の定いましたよ。なんでベンチに座ってそんなに足を振って、鼻歌なんか歌って楽しみな感じ出してるのかな。
それに俺が家出る前に伝えた時間よりまだ1時間も早いのになんでいるの?
おい誰かカメラ持ってませんか?一眼レフカメラ持ってませんか?
ちくしょう、こんなことだったらあの時カメラ買っとけどば......てそろそろやめようか。
「あ、ハチ君だ。おーい」
やめてよ。そんなに笑顔で待ちに待ったみたいな顔でこっちに手を振らないで。凄いから、周りからの視線が凄いから。とくに男どもからの視線が。
「わるいな待たせたか?」
「そんな事ないよ、今来たところだしね」
「だけど、俺の伝えた時間よりまだ1時間早いけど...」
「気にしない気にしない。それよりもなんか言うことあるよね?」
たぶん服装のことだろうな。今日はデニムパンツとシャツの上に青のニットベストか。
「その服装似合ってるぞ。なんと言うか大人っぽくていいな」
「ありがと。それじゃあ行こったか」
言うが早いか自然に俺の腕に抱きついて歩きだした。
「あのー圭萌さん」
「なにかな」
「なんかあたってるんだけど...」
「あててるの!!」
怒ってるように聞こえるけどこれたぶん、照れ隠しだな。顔真っ赤だし。そんなになるんだったらやんなきゃいいのに。
えっ?なに?俺も赤いって?
厚着しすぎただけだから。
~~~
「帰らない?」
「何言ってるのハチ君。まだ来たばっかだよ」
「ここまで人が多いとは...」
「今日、開花宣言されたからね」
その情報は知らなかった。てっきり俺は開花してて、もう人が少ないもんだと思ってた。なのに蓋を開けてみたらこの有り様だよ。
どこ見ても人、人、人。まるで人がゴミのようだ。なぁ、目がぁぁぁぁぁぁ。
あのシーンってどうみてもサングラスしてるよね、突っ込んじゃいけないかもしれないけど。
「だけどハチ君見てみなよ。夜桜、すっごく綺麗だよ」
「そうだな」
圭萌の方が綺麗だけどな、とかは言うと流石にやばいので自重しました。俺だってTPOを弁えてるんだぞ。
あれ?TPOってなんだっけ?芸人だっけ?
「きれい」
そう言いながら圭萌は俺の肩に頭をのっけてきた。
あのー、圭萌さん。気付いてますよね、この周りからの視線。さっきまでも凄かったけど、今ので数十倍凄くなったんですけど。
「確かに綺麗だよ」
だけどこんなに嬉しそうにしてる圭萌をみたら何も言えないよね。同意するしかないよね。
帰りに胃薬買って帰ろ。
***
「そろそろ駅着くぞ」
「う~ん」
「起こせって言ったからにはちゃんと起きろよ」
初めての夜の花見だったらしく圭萌は帰りの電車の中で寝ていた。
寝る前に起こすように頼まれていたが、あれは簡単に起きないフラグだったな。
花見をしていた時と同じように俺の肩に寄りかかって寝ているので、横に座ってる男子学生(ぼっち)とか目の前に座ってる仕事帰りのおっさんとか居てすごい辛いんだけど、俺の胃が。
あと圭萌には知られたくないし、言いたくもないけどあんまり他の人に寝顔見て欲しくないから寝ないで欲しかったんだけど......。
楽しそうだったし、はしゃいでいたから疲れたんだろうと思い言わないけどな。
それに顔が近いせいか寝息がすごい聞こえるんだけど。それ自体はこの前の圭萌を拾って持ち帰った(なんか卑猥に聞こえるけどこの時は何もしてないよ)時になれたけど、たまに聞こえる寝言だと思うけど「ハチクン」とか「ダイスキ」とか、破壊力のすごさは異常。
やめて、もう八幡のライフはゼロよ。
「ほら、着いたぞ」
「おんぶして」
電車が最寄り駅に止まって、やばいと思い焦る俺の気持ちが通じたのか、起きてはくれたけどなんかまたとんでもない事言いだしたよ。
だけどこれ聞かなかったら絶対降りないんだろうな。
「わかったよ、ほらおぶされ」
「わーい」
寝起きだからこの人、たぶん家の中と勘違いしてるな。この子本当はこんな子じゃないんです。だから対面のおじさん、その目をやめて下さいおねがいします。
俺は1人恥ずかしいおもいをしながら電車から降りた。
~~~
「今日どうだった?」
最寄り駅をでて、ちょうど家と駅の中間地点を過ぎたあたりでおぶさってる人が、てか圭萌がそんな事を言った。
「起きたのか?」
「今さっきね。それでどうだったの?」
「楽しかったに決まってんだろ」
「決まってるんだ。そうなんだ」
「俺は圭萌と行くところだったらどこだっていいんだよ」
「バカ」
これは俺が悪いかもしれないけど、だからといって照れ隠しに首を絞めるのはやめようね。俺が死んじゃうから。
その後俺も圭萌も黙ってしまった。辺りは夜というよりも夜中と言っていいぐらいの時間だからかとても静かだ。
圭萌はどう思ってるかわからないが俺は今みたいな静かな時間も結構好きだ。もともとぼっちやってたからかもしれないが無言の時間は悪くないと思うのだ。この静寂が続くのも悪くないなぁと思っていると、圭萌の方はそんな事思ってなかったのかこの静寂を破ってしゃべりだした。
「ハチ君」
「ん」
「今夜さ、久しぶりにしよっか?」
「ん?」
言いながらさっきまで少し背中に触れるくらいだったのに、思いっ切り引っ付いてきた。
「だから最近してなかったでしょ?」
「何をだよ。ちゃんと言わんとわからないな」
「ニヤニヤしてるから絶対気づいてるでしょ」
「はて?なんのことやら」
「わかったよ」
そう言うとスーハースーハー深呼吸しだした。可愛いな、本当に。1つ残念な事を挙げるとおんぶしてるせいで顔が見えないことだな。
「私を食べてください」
「畏まりました、お嬢様」
そこからいつもなら15分かかる道を5分で帰ったのは、後日圭萌から言われて初めて気づいたことだった。
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