はこちん!   作:輪音

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LⅩⅩⅩⅥ:LOST KANMUS

 

 

 

息を殺し、気配を殺して闇の中を進む。

真冬の夜。

雪混じりの冷たい風が頬を撫でる。

函館鎮守府。

今は狩り場。

艦娘たちが提督を狩る為の敷地。

識域値を最大限に向上させるべく、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。

まだ付近に音は聞こえない。

濃緑色の忍び装束は傷だらけだ。

ナムサン。

闇に溶けるように動くべし。

現役のニンジャマスターの教えを思い出す。

甲賀流の授業にもっと身を入れたらよかったのかもしれないが、訓練を重ねても隠身術はC判定から上がらなかった。

鎮守府でもたまに実践してそれなりに効果を出しているので、まったくの無駄ではなかったのが救いか。

ん!

光が見える!

RPG!

じゃない!

探照灯!

誰だ!?

 

「ふふふ。提督、逃げちゃダメじゃない。」

 

龍田か。

 

「こんばんは、龍田さん。」

「そろそろ覚悟は決まったかしら?」

「あいにくと往生際が悪い方でしてね。」

「天龍ちゃんがいたら更によかったかもしれないけど、仕方ないわね。」

 

槍が彼女の頭上に振り上げられる。

 

「お祈りは済ませましたか? 闇の底でガタガタ震えていましたか? 覚悟は出来ましたか?」

「ゴメンね。」

「その動きは西江水!? 何故提督が?」

 

ヤギューのワザマエ!

ギューと抱き締める。

あっ! と色っぽい声が聞こえた。

龍田を大破せしめる。

戦闘継続不能。

 

 

岡山三川艦が時折白い花を咲かせながら、私の動きを封じようと華麗に舞う。

試験型軽巡洋艦に組まれたライド・ギグ。

連携攻撃能力を高める為の機能。

それは容赦なく私を追い詰める。

だがしかしばってん。

 

「美しく散りたまえ! デーモンローズ!」

 

薔薇と共に美しく散る戦士たち。

 

 

走らなければならない。

私は提督なのだから。

 

 

ローマに航空戦艦!

 

「夜明けのエスプレッソを、二人で一緒に飲みましょうよ。」

「この瑞雲について、夜通し共に語り明かそうじゃないか。」

 

厄介な二名が……ちょっと待て。

 

「貴女たちは私の鎮守府所属ではないでしょう?」

「それは小さなことよ、アドミラル。」

「そういうことだ、気にしないでくれ。」

「私、とっても気にします!」

 

致し方なし!

 

「必殺添い寝券!」

「くっ! なんて卑怯な!」

「くっ! それは欲しい!」

「ちなみに一枚しかない!」

 

次の瞬間、共闘していた戦友たちは互いを倒すべく、死闘を始めるのだった。

隙あり!

すまない!

流星拳!

波動拳!

竜巻旋風脚!

廬山昇龍覇!

積尸気冥界波!

 

 

あれは……空母たち!

鳳翔、龍驤に加賀に雲龍か!

不味い!

いつから捕捉されていた?

夜間航空隊の訓練の成果をこんな形で見るだなんて!

弓が鳴り、巻物が翻る。

致し方なし!

鳳翼天昇!

航空戦力は退けた!

そして!

グレートホーン!

黄金の野牛の一撃に次々倒れる戦士たち。

済まぬ。

 

 

駆逐艦勢が眼前に佇(たたず)む。

幼い顔に獰猛な笑みを浮かべつつ。

さあ、夜戦を始めようじゃないか。

リストリクション!

痺れたところへ!

スカーレットニードル乱れ撃ち!

峰打ちだ。

安心せよ。

 

 

吹雪に戦艦棲姫にショウカクか。

それに長門に妙高。

メリケン艦娘たちまでいる。

私は彼女たちを抜かねばならぬ。

ならば。

このセブンセンシズを大いに高め、かの者たちを打ち砕かねばならぬ!

守りの楯よ、クリスタルウォール!

天魔降伏!

天舞宝輪!

とどめのギャラクシアンエクスプロージョン!

 

 

あれは……大淀?

何故、青いドレスを着ている?

何故、銀色の胸当てや籠手や脚甲を着けている?

何故、大きな剣を掲げている?

 

「お待ちしていました、提督。」

「大淀さん? その姿は一体?」

「体力の残量は充分ですか?」

「もうそろそろ尽きる頃ですね。ところで大淀さん、何故私たちが争わなくてはならないのですか?」

「それは運命黙示録。変転する世界の歪みを正す為。」

「えっ?」

「お話はここまでです。さあ、始めましょうか。」

 

ここまでか。

 

「これでお仕舞いです。」

「やらせん!」

「島風!?」

「島風さん!?」

 

最速駆逐艦が私を抱き締め、横っ飛びで大淀の剣から逃れた。

 

「待たせたな。」

「何故私を庇う? 大淀さんと二名がかりなら、容易く私を倒せるだろうに。」

「カメラーデン。私の戦友。友を庇うのに理由はいるのかい?」

「モンデュー! なんてこった! 流石は我が友!」

「残念ですが、お二人の力を合わせても私には勝てませんよ。」

 

ならば!

凍気で貴女を倒すまで!

先ずはカリツォー(ロシア語で氷の輪の意味)!

そしてダイヤモンドダスト!

オーロラサンダーアタック!

ホーロドニースメルチ!

 

「大淀さん、今のはわざと外しましたね。」

「私たちが提督を本気で害しようとする訳ないでしょう?」

「大淀さん……。」

「我が剣を託します。」

「わかりました。」

 

 

「提督、二人きりになったな。」

「夜が明けたら、みんな正気に戻るかなかな?」

「なにを言っているんだ、提督。」

「えっ?」

「夜戦はこれから始まるんだよ。」

 

そう言って、島風が嗤った。

まさか?

そんな?

 

ダイヤモンドダスト!

 

「おっそーい! 一度見た技は効かないよ!」

「ぐはっ!」

 

ホーロドニースメルチ!

 

「そのアッパーカットは遅い。それに、二度目は通用しない。なめられたものだな。なにより提督には小宇宙(コスモ)が足りない。」

 

あべしっ!

ここまでか。

いや。

私には大淀から託された聖剣がある。

 

「これで終わり!」

 

エクスカリバー!

 

「まだまだ!」

 

そして、最高の小宇宙で放つオーロラエクスキューション!

 

 

 

コミックマーケットで販売されたというDVDを講堂で鑑賞して、私は頭を抱えた。

確かに私は忍び装束とレインボーマンのダッシュセブンの中間みたいな恰好で艦娘相手に撮影した訳だが、こんな内容で大丈夫なのだろうか?

艦娘や元艦娘などを中心に行列が出来たと、大本営のマスターオータムクラウドや青葉が言っていた。

大本営の広報も西館四階で公式販売して、けっこう稼いだらしい。

 

 

なんだか複雑な気分だ。

 

 

 


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