はこちん!   作:輪音

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LⅩⅩⅤ:胡蝶の園(後編)

 

 

 

 

通りゃんせ

通りゃんせ

ここは何処の

鎮守府じゃ

獄門島の鎮守府じゃ

ちょっと通して

くだしゃんせ

ご用のない者

通しゃせぬ

提督七人

死の原因

探ってみたいと

思います

行きはよいよい

帰りはこわい

こわいながらも

通りゃんせ

通りゃんせ

 

 

 

翌日の夜、島民たちと交流会を開くことになった。

夜は居酒屋になる黒猫亭。

今夜のお通しはアスパラガスとベーコンの炒めもの。

稲荷寿司とポタージュまで出された。

仁礼酒造の葡萄酒を勧められて呑む。

岡山の山奥で醸し出された逸品とか。

艦娘たちと共に島民たちと交流する。

先祖が子爵だという男がフルートを吹く。

助清さんの奥さんが全身タイツ姿で手品を行った。

濃いお茶を飲みながら、皆と歓談する。

助清さんの娘さんたちも余興を始めた。

 

「ヨキでーす!」

「コトでーす!」

「キクでーす!」

「三波春夫で御座います。」

 

酔った助清さんがドーンとやったら、三姉妹からどつかれていた。

 

「さあ、どんどん食べなさい。」

「食べて食べて、さあ食べて。」

 

新鮮な海の幸を堪能出来るのはよいのだが、島の人たちがひっきりなしにこれが旨いあれが旨いと料理を持ってくるのでお腹がパンパンで御座る。

鬼ノ城(きのじょう)という岡山県の酒も旨い。

フルートに加え、今度は琴の音が聞こえてきた。

岡山県は養鶏が盛んだそうで、生卵かけご飯が大変旨い。

鶏の唐揚げも旨い。

島のお婆ちゃんたちもノリノリだ。

「松でーす!」

「竹でーす!」

「梅でーす!」

「三波春夫で御座います。」

 

助清さんが懲りずに出ていって、三老女からやられていた。

何故だかいきなり歌い出す彼に、呆れたように皆が言った。

 

「キーが違うが、仕方ない。」

 

 

 

明け方、下着姿の古鷹が私の私室に飛び込んできたのでとても驚いた。

 

「提督、大変です! 一昨日会ったマスコミの人が逮捕されました!」

 

えっ?

ええっ?

ええーっ!?

 

瀬戸内海放送で臨時速報を見た。

岡山県警によると、逮捕された長谷山が複数の共犯者と共に提督の暗殺に関わったとしている。

彼はこれから呉鎮守府に護送され、厳しい詮議が待ち受けているのだ。

なんだこれ?

テレビせとうちや山陽テレビや西日本放送やOHKでも似たような報道をしていた。

あまりの展開に首をかしげていたら、助清さんから連絡が来た。

これから島民集会を行うらしい。

私にも参加要請が行われた。

 

 

集会の場所は黒猫亭近くの公民館。

山盛りのサンドウィッチと野菜サラダとフィンガーソーセージや蕎麦饅頭を皆でわしわし食べながら話をする。

 

 

「よし! わかった!」

 

助清さんが言った。

えっ?

わかったのか!?

 

「犯人は呪術師たちだ。」

 

へっ?

 

「大戦末期に、メリケンのマッカーサーが呪い殺されただろう。あれと同じだ。呪いだから、証拠が残らない。一石二鳥だ。」

 

いやあ、それはないんじゃないかなあ。

だが、皆は何故かその推論に同調する。

 

「あの長谷山が主犯か?」

「あんなヘニャチンが主犯の訳ないだろ。従犯さ。」

「重犯? あいつそんなに悪い奴なの?」

「たぶんそれ、勘違いしていると思う。」

「では、主犯は、悪い奴は誰じゃあ思うんじゃ、助清。」

「日本を蹴落とそうとする奴、日本をよく思っていない奴じゃ。」

「おお、説得力が増しょうるわ。」

 

ええ?

その論調だと、誰でも犯人になりかねないような……。

 

午後になって、続報がきた。

長谷山某が情報提供者の可能性は高く、彼の情報に従って犯人グループが呪殺を行ったのではないかとトンデモ理論を述べている自称識者の意見が報道された。

実際、過激な発言が見られたり不遜な態度が見られたりする新興宗教の本拠に憲兵隊が急行したり、海外とのつながりが怪しげな感じの会社への東京地検特捜部の査察が突然行われたりした。

また、一部の報道機関のお偉いさんたちに事情聴取が行われたそうだ。

あくまでも任意らしいが。

この状況を利用して、叩けそうな連中はとことん叩くつもりに見える。

艦娘や深海棲艦だって、オカルト的な存在と言えなくもない存在だし。

オカルトが現実を浸食するなら、呪術であろうと可能ではなかろうか。

そんな感じで任意同行させたり、別件逮捕したりしているようである。

……これ、大丈夫なのかな?

広島檸檬のレモネードを飲みながら、私は首をひねった。

 

 

鎮守府へ戻り、艦娘たちと話をする。

彼女たちも微妙な表情をしていた。

真実はどこにあるのだろうか?

 

昼食は生卵かけご飯に漬物に味噌汁。

旨い。

 

昼食後、カフカの話を聞きたいと言われ、話した。

 

カフカはある日、公園で少女と出会った。

少女は、お気に入りの人形をなくしたと言って泣いていた。

カフカは人形が旅に出ていることを彼女に告げ、人形が旅先から送ってくる手紙を書いて毎日少女に渡した。

旅に出た人形は沢山の冒険の末、遠くの国で幸せな結婚をした。

そう締めくくられた手紙を読み、少女は二度と人形に会えないことを受け入れた。

 

 

その夜、函館鎮守府の提督から電話がきた。

同期である彼は、私のことを心配して掛けてくれたのだ。

 

「腹上死、って言葉があるよな。」

 

ひとしきり今までの経緯を適宜端折りながら話すと、同世代で童貞仲間の友人はそう言った。

 

「あるけど、それがどうかしたか?」

「いや、まあその、ひとつの推論なんだがな。」

「なんだよ、勿体ぶって。さっさと言えよ。」

「その、提督たち全員腹上死だったんじゃないかって思ったんだ。」

「そんな馬鹿な話は無いだろう。」

「あ、ああ、だからただの与汰話になるんだけど、全員抵抗した後がなくてポックリ亡くなっているんだったら、その可能性がなきにしもあらずかなと思った次第だ。」

「全員が? お前は、うちの艦娘たちがそんなに淫乱だと言いたいのか!?」

「怒るなよ。あくまで話を聞いた上での推論だ。艦娘たちとまだ、その、夜明けを見ていないのか?」

「当たり前だ! 平気で混浴するお前と一緒にするな!」

「落ち着けよ。四名とも全員と関わっているとは限らないだろ。」

「彼女たちを侮辱するなら許さんぞ!」

「まあ、聞きなよ。全員だったかもしれないし、全員ではないかもしれない。大本営の青葉を呼んでみてはどうかな? 或いは他所の同姿艦でもいい。あの重巡洋艦ならなにか掴んでいてもおかしくない。」

「……考えておく。」

「冷静になることが大事だ。感情論じゃ、なにも解決しないぞ。こちらから大本営の青葉に連絡しておくよ。」

「ああ、頼む。」

「悪かったな。」

「いや、こちらも怒鳴って悪かった。」

「死ぬなよ。」

「死なんさ。」

 

私は釈然としないながらも、函館からの電話を切る。

ふと、複数の足音が聞こえてきた。

どんどん近づいてくる。

何故だかゾクリとした。

そして。

扉を叩く小さな音が私の耳に響いてきた。

 

 

 


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