はこちん!   作:輪音

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皆さん、ごきげんよう
今日から函館鎮守府はリリス鎮守府に生まれ変わりますのよ
日々の戦いの中では憩いが必要ですわ
お茶の時間を大切にして過ごしたいですわね
私たちロサ・キネンシス隊が海で荒ぶる深海棲艦を打ち倒してみせましょう
あら、貴女可愛いわね
私のスールにおなりなさいな
おいしいお茶とお菓子も付いてくるわよ
素敵な夜の為に頑張りましょうね
庭に薔薇を植えましょう
素晴らしい薔薇園を作るのよ

Not even justice,I hope to get to truth.
真実の薔薇は見えるかしら






ⅩL:岡山三川艦

 

 

 

 

空は妖しい曇り空。

風もなんだか強い。

その日、函館鎮守府は騒然とした雰囲気に包まれた。

三名の艦娘が着任したからである。

当分増やさないって話だったのに!

なんだ、岡山艦って?

未実装のオリジナル艦娘が着任するなんて聞いていないぞ!

大本営はなにを考えている?

お陰で何故自分は転属出来ないのかという問い合わせが国内国外から殺到して、事務方はてんてこ舞いである。

田中さん、すまない。

 

 

濃い緑色と淡いクリーム色で構成された古典的な感じのセーラー服は、岡山県が全国一位の学生服生産県であることと艦娘たちの清楚さを知らしめる感じがした。

スカートは膝丈、脇も空いてはいない。

おじさん、こういうのがいいんだよな。

胸元の紅い薔薇の刺繍がお洒落なのか?

露出過多ともいえる艦娘たちの服装を普段見慣れた目には安心出来て新鮮に映……いたた、小指を握らないでくれよ曙に霞。

 

「新規の子たちにいちいちデレデレしてんじゃないわよ、この即席提督!」

「私たちをおざなりにしたらわかっているわよね、インスタント司令官?」

 

落ち着きなさいな、君たち。

荒ぶっている場合じゃない。

 

 

彼女たちの背景に薔薇が咲いているような幻覚を見た。

ベルサイユとか聖ミカエル学園とかなんかそんな感じ。

 

「ごきげんよう。岡山三川(さんせん)艦のひとり、高梁(たかはし)型軽巡洋艦一番艦の高梁だ。よろしく頼む。」

 

艤装に鉤爪付きアームを装備した、長い黒髪の眼鏡っ子艦娘。委員長ぽい。

なんだか水樹奈々みたいな声だ。

 

「ごきげんよう。同じく、岡山三川艦のひとり、高梁型軽巡洋艦二番艦の旭ですわ。よろしくお願いしますね。」

 

おかっぱ頭の犬耳眼鏡娘。あれは電探か?

うふふ、という笑い方が似合いそうだな。

なんだか下屋則子みたいな声だ。

 

「ご、ごきげんよう。あの、岡山三川艦のひとり、高梁型軽巡洋艦三番艦の吉井です。よろしくお願いいたします。」

 

三名中最も偵察機を多く装備した、おさげの眼鏡っ子艦娘。気が弱そうに見える。

なんだか浅川悠みたいな声だ。

 

全員眼鏡と刀とマントを装備し、偵察機を発艦出来るカタパルト付き。

眼鏡三姉妹。

或いは刀三姉妹。

近接戦闘も考慮に入れているのか。

試製艦娘、というかなんというか。

 

岡山県といえば西日本最大級の商業施設を駅前に持つ精霊使役都市の大都会岡山市が有名だが、倉敷市には全国最強級西洋式美術館の大原美術館もあるな。

金田一耕助が数々の難事件で活躍した土地であるし、吉備真備(まきび)が鬼を使役した土地でもある。幕末の山田方谷(ほうこく)が仕えた、備中松山藩最後の藩主板倉勝静(かつきよ)は函館戦争の際にこの地まで来ている。

だから、縁がないということはない。

岡山のオハヨーの焼プリンが、普通に函館のスーパーで売られているしな。

古代吉備王国が高い技術力を持っていたことは備前刀や備前焼を見ればわかるし、世界一の旨さを誇る白桃やマスカット・オブ・アレキサンドリアでも名を馳せる土地だ。

今も新作が作られ続けているアニメーション作品、『天地無用也』の舞台としても有名だ。

カッパドキアめいた禁断の地でもあるらしく、朝廷から追われた豪族や政治犯などが数多く暮らしていたそうだ。その証拠に、全国第三位の規模の古墳が存在している。

相当な力を有していたらしい。

その古墳に自由に上がれるのも驚きだな。

もし近畿地方にあったら立入禁止だろう。

 

スサノオがヤマタノオロチを退治した話だが、スサノオが大和朝廷軍でヤマタノオロチが吉備王国と出雲王国の連合軍の暗喩であり、両者の戦いは実際にあった戦争を題材にしているという説もある。

草薙剣は両王国の技術力の象徴らしい。

そして火はそれを操る力の象徴だとか。

岡山県高梁市に今も伝わる伝統芸能の備中神楽は、当時の無念を忘れないようにする為の存在だと極々一部で言われているそうだ。

 

 

高梁がみんなに向かって言った。

まるで舞台女優のように堂々と。

 

「岡山県の玉野市にある三井造船では多くの自衛艦が建造・修理されていて、市内の宇野港へ入港するんだ。それと、海上の自衛官は曜日の感覚を喪失しないように金曜日にはカレーを食べている。今夜は私が、『たまの自衛艦カレー』を振る舞おうじゃないか。先ずは、土産の吉備団子に神楽最中に金光饅頭にむらすずめに大手まんぢゅうでも召し上がれ。ちなみに大手まんぢゅうは小説家の江國香織さんの好物でもある。」

 

歓声が上がる。

掴みが上手い。

胃袋の掴みが。

うちの子たちはこうして舌が肥えてゆくのだろう。

 

「提督、高梁紅茶でもどうだ? 一緒に飲もうじゃないか。」

「あ、ああ、そうですね。」

 

気さくに話しかけてくる笑顔の高梁。

誘い方が自然で、つい頷いてしまう。

 

「姉様、茶器を用意しましたわ。」

「あの、焼菓子も用意しました。」

 

手際がいい。

まるで、某高速戦艦四姉妹みたいじゃないか。

 

「お茶の時間は、提督と同じくらい大切だからな。」

「ええ、提督もお茶の時間も大切にしたいですね。」

「あのう、姉様の紅茶を飲んでくださいますよね?」

 

なにこの連携力?

 

「提督は私たちの愛する桃太郎だからな。大切にするのは当たり前だ。」

「桃太郎だったら、大切にされるのは当然ですね。」

「この焼菓子は姉様が思いを込めて焼き上げたんです。」

「恥ずかしいじゃないか、吉井。それは事実だけどね。」

「さりげなく認める姉様も素敵ですよ。」

「提督、姉様の思いを食べてください。」

 

なんだかあっという間に外堀を埋められたような気がするけれども、気の所為(せい)だよな。

なんだかABC包囲網が完成し……。

 

「あらあら、おいしそうじゃない。」

 

ひょい、と戦艦棲姫がどこからともなく現れてスコーンを口にした。

 

「ふーん、市販のものよりは凝っているわね。」

 

そのまま私の隣に座って、私向けに用意された紅茶を飲む。

 

「セイロンやアッサムより水色(すいしょく)が淡くて香りもそこそこだけど、さほど悪くないわ。」

 

そして、ニヤリと笑った。

 

「提督は渡さないわよ。」

 

途端。

半円状に囲まれる戦艦棲姫と私。

 

「MTヨーヨー!」

 

高梁が両手に握ったマスキングテープを我々に放った。

くるくる、と巻かれる。

あれ、縛られちゃった。

 

「カモ井のマスキングテープはひと味違うからな。すぐにはほどけないぞ。」

「あらあら、やるわね。」

「さ、提督。」

 

あーれー。

吉井が私をひょいと抱き抱える。

それを両脇から支援する姉たち。

三位一体の力を見せつけてくる。

 

「作戦ロサ・フローレンスよ。」

「わかっていましてよ、姉様。」

「追手が迫っています、姉様!」

「薔薇の力はこんなものでなくてよ。」

「気高く咲いて美しく散る。それが私たちの定め。」

「負けませんわ。提督の為に!」

「「提督の為に!」」

 

そう思っているなら、これを解いてくれ!

 

その後、何故か演習大会になって服がぼろぼろになり、私は大破状態みたいになってしまった。

たぶん誤解だと思うのだが、みんなの目がギラギラしていたように見えてなんだかこわかった。

 

やれやれだぜ。

 

 

 

 





【オマケ】

函館によく来る明石や夕張やうちの博士たちの努力と趣味により、立体映像で楽しめる艦隊戦のシミュレーションゲームが出来た。
遊びと戦略戦術の鍛錬とを一緒に行う試みらしい。

ベータ版らしいが、私に試して欲しいと言われた。
で、やってみることにした。
講堂の中は熱気ムンムンだ。
シュターデンな私がガイエスブルク要塞で防衛側を担当し、ミラクル・大淀艦隊一万隻とアッシュビー・長門艦隊一万隻とビッテンフェルト・ネヴァダ艦隊一万隻の三艦隊からの攻勢を一定期間防ぐ戦いが始まった。
ちなみに防衛側艦隊一万隻はメルカッツ・妙高先生が率いている。

なんだか多数の艦娘がわいわい騒ぐ中で開戦。
あれ?
なんでこんなにいるんだ?
君たち、密着するのはやめなさい。
お乳を当てるんじゃありません。
おじさんをからかうんじゃない。

トール・ハンマーと同等の威力があると言われるガイエス・ハーケンを初見殺しとしてぶっ放し、先ずはビッテンフェルトのシュワルツランツェンレイターに痛撃を与える。
君は不用意に近づきすぎたのだよ。
そこへ、メルカッツ艦隊が精密な艦砲射撃を加えた。
自軍を助ける為にアッシュビー艦隊が近づき、援護射撃する。
要塞の浮遊砲台を起動して、メルカッツ艦隊の後退を助けた。
直属のワルキューレ隊も使って撹乱する。
整然と後退するメルカッツ艦隊。
迂回し、攻撃を試みようとするシュワルツランツェンレイター。
勇敢だねえ。
だがしかし。
おっと、そこは事前に指向性ゼッフル粒子をばらまいた場所だ。
空間機雷も程よく散りばめておいた虎口なのだよ、ネヴァダ君。
運がなかったね、ビッテンフェルト。
空間機雷を爆破する。
誘爆するは黒い艦隊。
パニクるシュワルツランツェンレイター。
ミラクル艦隊が猛撃をメルカッツ艦隊に与え、それをアッシュビー艦隊が追随する。
二艦隊を相手どって、被害を最小限に抑えるメルカッツ艦隊。
急いでシュワルツランツェンレイターを潰滅させよう。
要塞直属のワルキューレ隊を使ってガイエス・ハーケンの間合いにおびき寄せ発射、およそ半数を打ち倒した。
メルカッツ艦隊が三分の一程を失ったので後退させる。
猛然と要塞へ砲撃してくるアッシュビー艦隊。
だが、惜しい。
要塞の流動金属に損害は与えられない。
ゴメンね。
射程ぎりぎりで放ったガイエス・ハーケンがたまたまアッシュビー艦隊の旗艦を撃ち抜き、艦隊は一時制御不能の状況に陥る。
そこへ猛攻するメルカッツ艦隊と、それを阻んで艦隊再編成しようとするミラクル艦隊。
再編成で手間取るシュワルツランツェンレイターを再度ワルキューレ隊で翻弄し、光子魚雷を移動予定空域へ多数打ち込んだ。
目論見が当たり、旗艦を失う黒い艦隊。
第二次攻撃隊、第三次攻撃隊の波状攻撃でシュワルツランツェンレイターは艦隊としての力を失った。
その間にメルカッツ艦隊は約半数となり、
旧アッシュビー艦隊を吸収しつつあるミラクル艦隊は再編成で微妙な戦力をなんとか動かしているが戦力的にはほぼ同等。
それを誘い込んで、光子魚雷を叩き込む。
旗艦は撃沈出来なかったもののその四分の一を失い、ミラクル艦隊も攻撃力を段々と失ってゆく。

やがて時間切れ。
何故か逆ギレして涙目になったネヴァダに追いかけ回され、汗をどばどばかいた。






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