はこちん!   作:輪音

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いいでしょう
計算通りです
紙の月にて行われる提督戦争
願いは貪欲に
逃れられない愛の熱
本気の力を見るのです
セカイたる羅針盤が
数多の思いを指し示す
そこにいるのは何者か
フロッテフロイライン ファルシュナハト
コスモス・イン・ザ・ロストカンムス
虚数駆逐艦内界
紙の月に想いを
わたしがいるのですから当然なのです




※環みちる氏の『A stain』はせつなくて素敵な曲だと思います。

※誤字脱字報告をいただきまして、いつもありがとうございます。

※今回は三六〇〇文字ほどあります。






CCCⅩLⅥ:虚数駆逐艦内界~紙の月に想いを

 

 

 

気がつくと、何故だか未来都市っぽいところにいる。

●塚治虫ぽいというか、●ノ森章太郎ぽいというか。

一体、いつの間にここへ連れてこられたのだろうか。

もしかして……夢?

夢にしては現実感が強い。

謎だ。

携帯端末は使えない。

装備は鎖分銅と棒手裏剣四本に耐刃チョッキと耐刃手袋か。

拳銃が無いのはちょっと痛い。

遠距離攻撃手段が棒手裏剣だけはちょっとなあ。

当てられないにしても牽制くらいにはなるのに。

その辺に小石でも転がっているかと思ったが、そんなものはどこにも見当たらない。

キレイな街だ。

駆逐艦たちほど使える訳でもないが、鎖分銅があれば大抵のことはなんとかなるか?

ん?

ふと右隣を見ると、武装した小柄な仮面の娘がいる。

セーラー服美少女戦……じゃなくて、どこか見覚えのある子だ。

確か、第六……。

と。

彼女が口を開いた。

 

「タケミカヅチです。司令官……いえ、マスター、よろしくお願いします。」

 

仮面を着けた駆逐艦ぽい娘が話しかけてきた。

マスター?

マスターとはなんだ?

提督の別称なのかな?

 

「マスターとはなんですか、電ちゃん?」

「電ちゃんではないのです! タケミカヅチはイナヅマの英霊です!」

「英霊?」

「そうなのです!」

 

なんなんだ、英霊とは。

ここはなにもかも謎だらけだな。

 

「ちなみにマスターは特異点です。」

「●ーガスの主人公みたいな?」

「ええと、それはよくわからないです。」

「ここはどこなの?」

「紙の月なのです。」

 

紙の月……なんだそれは?

空が白い線で碁盤の目のように区切られているのは、ここが紙の月だからか?

もうちんぷんかんぷんだ。

 

「紙の月?」

「ええ、安定したセカイにして、実数の存在と虚数の存在とが共存出来る素晴らしき場所なのです。」

「概念的な?」

「ここではこれが『現実』です。」

「はあ。」

「そしてここは現在、提督戦争が行われる場所。」

「はあ?」

 

…………よくわからないな。

とにかく、周囲を偵察してみよう。

 

 

そのおよそ一時間後、我々は複数の不定形な魔物に襲われた。

その姿、まさにクリーチャーだ。

名状しがたきモノが我々を襲う。

 

「はわわわ……びっくりしたのです。」

 

パンチやキックで敵対者に攻撃しつつ、駆逐艦娘らしき存在はそう言った。

かなり余裕があるなあ。

彼女は私に向かって言った。

 

「さあ、令呪を使って命じるのです。」

「令呪?」

「右手の甲にある模様が令呪なのです。それに対して強く念じればいいのです。」

 

ささやき、いのり、えいしょう、ねんじろ、ってことか?

違う?

 

ぼやぼやしている内に、戦闘は終わってしまった。

 

「なるべくなら、戦いたくはないですね。」

 

とどめをさされた不定形の魔物が次々に消滅してゆく。

戦いたくはない、か。

その割に、彼女は生き生きしていたように見えたけど。

まあ、突っ込まない方がいいだろう。

しかしこの駆逐艦、戦闘力が高いな。

じっと見ていたら、タケミカヅチと自称する娘が困惑した顔で告げてくる。

 

「司……マスター、その……タケミカヅチと誰かとを勘違いされていませんか?」

 

 

もしかして……ここは仮想現実的なセカイ……或いはなにかその虚構的な……虚構船団とは違うが……概念的に保たれるセカイなのか?

違うことばかり考えているとブレてしまう?

……まさかな。

 

 

 

 

どうやればここから脱出出来るのか?

それを探っているうち、いつの間にか現れた、褐色の巨人を伴った小さな白い娘がこちらに向かって叫ぶ。

 

「テイトク置いてけー!」

「司令官さんは渡さないのです!」

「なにおー、よーし、やっちゃえ、バーサーカー!」

「グアアッ!」

「えっ、なにこの巨人?」

「あのバーサーカーは、直接的物理攻撃において最強格の英霊なのです!」

「こんなのが敵対者だなんて、勝てんわー!」

「いたしかたありません。タケミカヅチの本気を見るのです! とおっ! スーパーイナヅマキーック!」

 

飛び上がった電が、鋭い蹴りを与える体勢で回転しながら英霊に突っ込んでいった。

まさに必殺技という感じだ。

派手な電撃及び爆発音と共に、屈強な存在のバーサーカーが倒れてゆく。

なんとまあ。

 

「倒した敵対者も、出来れば助けたかったのです。……まあ、無理なものは無理ですが。……あれ?」

 

むくりと起き上がるバーサーカー。

嘘やん。

あの強烈な一撃を喰らって普通に立ち上がれるだと?

 

「ははは、バーサーカーがその程度の攻撃で死ぬ訳無いでしょ。」

「即時蘇生系? 残機的に命が複数ある系?」

「さーてね。では、そちらの英霊は死ぬがいい! 殺れ、バーサーカー!」

「逃げるが勝ち!」

 

何故かいつの間にか手に持っていたスモークグレネードのピンを抜いて相手に叩きつけ、駆逐艦の手を引いてすたこらさっさと逃げ出した。

三十六計逃げるに如(し)かず!

 

「仕方がないのです。これは戦略的撤退なのです。」

「黙って逃げる!」

 

 

走っている内、前方に仮面を着けた娘が現れた。

隣の娘と同系統のセーラー服を着ている。

なんだか既視感ありありだ。

 

「じゃーん! アカツキ参上! 助けに来たわよ、司令官! イナヅマ!」

「アカツキちゃん、違うのです。アカツキちゃんはアカツキの英霊たるエオスなのです。それにタケミカヅチはイナヅマじゃありません。イナヅマの英霊なのです!」

「し、知っていたわよ、そのくらい! アカツキの英霊、エオス! 義により、あなたたちに助力しましょう。ちゃんと、一人前のレディとして扱ってよね。」

 

えーと。

なんとなく混沌が拡がってゆくような感じさえしてくる。

もうぐだぐだだ。

ん?

撒いた筈のバーサーカーが、白い娘と共に接近してきた。

ばりはやか!

 

「いくわよ! いいわね!」

「わかっているのですよ!」

 

駆逐艦娘の片方が飛び上がり、片方は地を駆ける。

そして放たれるは各々の必殺技。

 

「イナヅマキーック!」

「アカツキパーンチ!」

 

二名の合体攻撃がバーサーカーに炸裂する。

 

「ガギャギャギャア!」

 

よし、今のうちに逃げるぞ。

スタコラサッサ!

 

 

逃亡の途中、タケミカヅチに話しかけられる。

 

「提督戦争に勝ちたいけど敵対者の命は助けたいって、おかしなことですか?」

「そうだなあ……ま、根切りにすることが当たり前な考え方よりはずっといいと思いますよ。」

 

うーん、難しい話題だなあ。

提督戦争での勝利条件がよくわからないし、彼女たちは教えてもくれない。

もしかして、やはりこれは夢なのだろうか?

 

 

 

逃げて逃げて逃げて逃げて。

どこまで逃げればいいのか。

今は兎に角逃げてゆくのみ。

 

 

 

うわ、もう追いつかれたか。

バーサーカーが迫ってくる。

かなりピンチって感じだな。

ん?

突然体の奥から、なにかよくわからない力がわいてくるように思えてきた。

 

「なんとなく、今だと英霊召喚出来る気がします。」

「では、やってみるといいのです!」

「すぐにやってみてよ、マスター!」

「されば、連環のコトワリに応じてこたえよ! 天秤の守り手よ、ここに来たれ! 英霊召喚!」

 

青いドレスに胸甲やごっつい籠手とかをつけた金髪碧眼の娘が出現した。

どことなくなんとなく大淀に似ていなくもない、勇猛果敢な雰囲気の娘。

 

「エクスカリバー!」

 

カッと目を見開いた彼女はそう叫ぶと、バーサーカーに向かっていきなり剣を振り下ろした。

 

「イナヅマキーック!」

「アカツキパーンチ!」

 

二名の駆逐艦的英霊による攻撃も続いて繰り出される。

 

「ガアアアアアアッ!」

「まだ倒れない?」

「あとちょっとなのに!」

「では援軍を呼ぶのです!」

「援軍?」

 

タケミカヅチは、どこからともなく取り出した笛を吹く。

ピョロロロロー。

すると、上空から二名の小さな女の子たちが降ってきた。

 

「親方、女の子たちがっ!」

「あれが援軍なのですっ!」

 

 

「ヒビキの英霊エコーだよ。」

「カミナリの英霊トールよ。」

「「我らがいれば百人力!」」

 

もうお腹いっぱいなのであります。

ええいもう、流れに任せてしまえ!

 

「よし! みんな、今こそ合体攻撃だ!」

「「「「「イエス、マスター!」」」」」

「スーパーイナヅマキーック!」

「スペシャルアカツキパーンチ!」

「オーロラサンダーアタック!」

「トールハンマー!」

 

満を持して、剣の英霊がその秘技を振るう。

 

「滅せよ、バーサーカー! 今! 必殺の! エクスカリバー!」

「ウガガガガッ!」

「もうっ! おぼえていなさい! 取り敢えず、戦略的撤退よ!」

 

小さな白い娘は逃げてゆく。

そうして、戦いは終わった。

 

 

 

 

なんとなく、もうじき元のセカイに戻れそうな気がする。

そうしたら、彼女たちとも会えなくなってしまうのだろうな。

それもまた運命。

平和な雰囲気の街中にある広場で娘たちと共に休憩する。

 

「こういうなにもない時も、平和な感じがしてとっても好きなのです。」

「そうだねえ。元のセカイに帰ったら、ゲームで遊ぶとしますよ。」

「どんなゲームで遊ぶのです?」

「『たーぼのなつけいば』という傑作ゲームでね。ちょっと昔のものですが、よく出来ているんですよ。」

 

その時、携帯端末の着信音が周囲に流れ始めた。

王者基多拉(キングギドラ)の鳴き声のような。

或いは、名古屋市地下鉄鶴舞線の旧型車輌の発車ベルのような。

 

 

 


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