冬のとある時期。
吹雪激しい時期。
呉、舞鶴、佐世保の大手鎮守府から冬季攻勢のために北上してきた各連合艦隊は、ここ函館鎮守府で補給を済ませた後順次出撃していった。
そして雪が酷くなくなってきた今、帰投してきた彼女たちの修復・修理・食事・その他に振り回されている。
雪はまだ時折降ってきていた。
大和や武蔵を始めとする主要演技者陣が作戦より帰投してから、ドラマの最終回の収録が始まった。
稀少な艦娘を出せるだけ出すという監督の意向のもと、数多の艦娘が津軽海峡や周辺機器海域で模擬戦闘を繰り広げてゆく。
敵旗艦役の戦艦棲姫の暴れっぷりは実に激しく、大和や武蔵を含む連合艦隊をたった一名で引き受け鬼神の如くに激闘してゆく姿は非常に印象的だった。
深海棲艦仕様の艦娘たちも役に没頭し、特に翔鶴及び加賀教官の演ずるヲ級と瑞鶴及び赤城との戦いは手に汗握る展開であった。
厨房。
人間では李さんを含む歴戦の料理人たち、艦娘では鳳翔間宮を筆頭とする腕っこきの料理の名手たちが日々奮闘する場所。
函館に属する駆逐艦は全員配膳や皿洗いや下ごしらえや調理で目まぐるしく動いており、料理上手を自認する艦娘は皆なにかしらおかず作りに邁進(まいしん)している。
私は昨晩漬けた浅漬けの様子を見て、これを切り分けて小鉢に入れ配膳するよう水雷戦隊に指示した。
野菜炒めをまだまだ作らねばならない。
それが終わったら、明日のおやつの時間向けにかんたん甘味の準備だ。
一旦厨房を出て、複数名の大淀が持ってきた書類に次々署名する。
一見同じように見える彼女たちだが細かい差異は多く、それぞれカチューシャや眼鏡などで違いを出しているようだ。
中でもうちの大淀には一番気迫を感じるし、最も安心感がある。
まるで、騎士の王が仕えてくれているみたいに。
通称『大淀艦隊』を率いているのは彼女だしな。
調理応援の艦娘は、明日には函館にやって来る。
それまで戦線の維持につとめなければ。
ニンゲンも、ニンゲン以外も旨いモノには目がない。
味方だろうが元敵だろうが宇宙人だろうが悪魔だろうが、そんなことは関係ない。
やはり、愛だな。
それを先日皆の前で言ったら、何故かおもいっきり笑われた。
ひ、酷い。
大本営及び他所の鎮守府の間宮や鳳翔や元艦娘などが来てくれたため、私は執務室に戻ることが出来るようになった。
やれやれ。
手伝いに来てくれた大淀だが、それぞれに錬度の違いがあり、それはとても興味深い。
慣れない他所の大淀を見ていたら、うちの大淀に注意された。
解せぬ。
艦娘は皆数字に強いし、秘書艦も含めて多数の艦娘がここ執務室に詰めている。
……処理しなければならない書類が多過ぎないか?
本日の秘書艦たる戦艦棲姫から渡された書類に目を通しながら、なんともうんざりした気持ちになった。
欧風異世界で、とっても可愛いスライムといかめしい魔狼と料理上手な男とがおいしい食事を堪能するアニメーション番組。
これが最近の夜の大きな楽しみだ。
一人でひっそり視聴するつもりが、何故か駆逐艦たちに包まれながら見る羽目に陥った。
男の調理場面に思わずうなる。
「司令官はああいう風に出来ますか?」
「無理。」
問いに即答する。
あれ、男にはかなり技術があるぞ。
私ではとてもあんな風に作れない。
料理酒を使っている場面にやや疑問はあるものの、包丁さばきは実に見事だ。
みんなでおいしそうと言いつつ見終えた。
今日も今日とて、書類仕事と厨房での調理の二刀流ナリ。
本日の昼食は要望多数に基づき、唐揚げ定食と相成った。
豚カツは調達の面で断念。
入荷したら、足柄に頑張ってもらおう。
明日には、最後まで戦線に踏みとどまっていた横須賀の艦隊が函館に入港する。
あっちに直帰するんじゃないんかいと思ったのだが、戦艦級艦娘たちを含む全艦娘の強い要望によってここ函館へ一旦やって来ることが決定したそうな。
けってーい! てか。
よーし、ならばここの旨いもんをたんと馳走してやろうではないか。
浅漬けはたんまり作ったし、牛乳寒天もたっぷり作った。
私の料理を食べたいと思う艦娘が多いことはまさに誉(ほま)れだけれど、そんなに嬉しいものかね?
執務室で書類作業をしていると艦娘たちの嘆願が直接来るし、それなりに需要があるのだろう。
たぶん。
さ、風呂に入って早く寝よう。
乱入されないように気をつけなくっちゃ。
今夜の添い寝は誰だったかな?
倒れないよう、おかしくならないよう、大本営からも厳命されている。
大げさ過ぎんかねえ。
夜。
雪がちらついている。
まだ寒さの底が残っているようだ。
それでも、鎮守府で雪かきする必要性がだいぶん減ってきた。
もうちょっとで雪も解けるだろう。
嗚呼。
深海棲艦との戦いが、こんな風に少しでも早く雪解けになるといいなあ。
雪はそんなに早く溶けないけれど。
さてと、今夜は『ブルース・ブラザーズ』を観ようかな。