はこちん!   作:輪音

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CCCⅩLⅢ:メフィラスと町中華

 

 

 

東京の銀座に巨大な花が出現し、『マンモスフラワー』と名付けられたそれは東京の人々を大いに困らせた。

宇宙の人メトロンとまた別の宇宙の人メフィラスとが協力してくれたお陰で、我々人類は官民宇宙の人合同の総力戦にて『マンモスフラワー』の駆除を成功させたのだった。

 

 

 

 

函館市内にある芽富伊良洲(めふぃらす)大社では、秋になると祭がある。

秋大祭だったか。

そこでは異形の神を祀(まつ)っていて、実に興味深い。

元々、芽富伊良洲神は神奈川県平崎市で祀られていた。

子供の頃に夢で神を見たらしい土方歳三がそこへ参詣(さんけい)に行き、それから彼は芽富伊良洲神を信仰するようになったという。

箱館では彼のみならず、他にも芽富伊良洲神を信仰する者が複数いたという。

箱館戦争で彼が死んでから、芽富伊良洲大社を建立(こんりゅう)しようとする動きと阻止しようとする動きとであれやこれやがあったとか。

ふーん。

 

 

 

 

今年の暑さ対策の一環として、こわい話を話して欲しいと部下たちに言われた。

いいのかなー。

まっ、いっか。

講堂には沢山の艦娘が集まった。

暑いんじゃないかな。

いいのかな。

かなかな。

 

「戦争前の話なんですけどね。ある時、現在呉で提督をしている先輩と山登りに行くことになりまして。私は山登りが好きじゃないもんですから、やだなーと思ったんですよ。だけど、なんやかんやで行くことになりました。山道具は先輩が用意するって言うから私は登山靴とか服とかを用意しましてね、中国山地のとある山へ登った訳です。」

 

しんと静まる講堂。

皆がこちらをじっと見ている。

 

「山登りをしていく内、どんどん霧が出てきましてね、うわー、やだなーと思って先輩に帰りましょう帰りましょうと何度も言うんですが聞いちゃくれない。おかしいなーと思いながら、こっちは山のことなんて殆ど知りませんから黙ってついてゆくしかない。先輩は喋らないままずんずん進んでゆく。私もわからないままついてゆく。で、そのうちもっとおかしなことに気づきましてね。」

 

 

結局、三つ話した。

反応はよかったから、責務は果たしたと言えるだろう。

 

 

 

 

メトロン地球人形態と私の外見は冴えない中年男性だが、メフィラス地球人形態は随分と男前である。

しかも、名刺まで渡された。

なんとも日本人の社会に詳しいようだ。

 

「この状況、まさに『呉越同舟』。私の好きな言葉です。」

 

胡散くさい笑顔と共にそう言い添えて。

なんだこのイケメン。

 

 

 

 

宇宙人たちと一緒に、函館市内の居酒屋で飲み会を開催する。

海鮮系でおいしい店がいいと皆から言われたので、そういう場所にした。

海に近いその店を貸し切りにして、わいわいと騒ぐのだ。

本当の姿を見られると騒ぎになるし。

ラジウム・ハイボールを呑みたいと言い出す者もいたが、全員一致で却下した。

お前はオットーか。

店主は肝の据わった人なので問題無い。

たまには、はちゃめちゃなのもいいさね。

 

今回初参加のメフィラスは、現代日本の呑み屋に於けるあれこれにえらく手慣れている。

慣れた仕草で旭川の特別純米酒を呑み、流れるように八戸産の特別純米酒を女給に頼む。

おまいは日本人か、と言いたくなるほどの自然さだった。

まあ、ここにいる宇宙の人たちは皆やけに手慣れてはいるのだけど。

あんたたち、現代の日本社会が好き過ぎやろ。

 

 

 

 

翌日は河岸(かし)を変えて、函館市内の町中華に繰り出す。

ポインターに乗って、住宅街の中にある中華料理店へ行った。

ここは定食を頼むと、何故か拉麺の丼鉢にたっぷり入った玉子スープが付いてくるのだ。

全員唐揚げ定食を頼み、それに五目焼きそばや餃子を追加注文する。

さて、喰うべし喰うべし。

揚げたての大きな唐揚げをわしわし食べてゆく。

メトロンもメフィラスも旨そうに食べている。

よかばいよかばい。

 

「『町中華』。私の好きな言葉です。」

 

メフィラスはむしゃむしゃ食べつつ、無垢な笑顔でそう言った。

 

 

 

 


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