はこちん!   作:輪音

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今話は三〇〇三文字になります。

※いつも誤字脱字報告をいただきまして、ありがとうございます。






CCCⅩLⅠ:黒糖寒天と急行筑紫

 

 

 

 

北の国は広い。

それはもう、冗談抜きで広い。

例えば二泊三日で函館小樽札幌富良野に行きたいだなんて聞いたらなにに挑戦しているんですかという感じだし、函館にいるのにすすきのにいるからこっちまでおいでよと言われてもちょっと止めてけれだし、道民で道内にあんまり詳しくない人がちょこちょこいることもわかって欲しい。

 

北大構内も広い。

冬になるとホワイトアウト状態の構内で遭難しかける事態が時々発生するし、札幌駅近くなのだけどもその敷地は非常に広大で東京ドーム三八個分もある。

また、札大は高台にある関係上、普通の降雪日でも猛吹雪になりやすい。

それらに比べると道南はまだましなので、他の道内の鎮守府よりは楽…………なのか?

氷点下三八度になるなんてことは無いし、ホワイトアウトになる可能性も低い。

千島列島にある松輪屯所(とんしょ)は五月でもストーブがいるというし、真夏でも寒い日があるそうな。

マトゥア島(松輪島のロシア語読み)の基地に駐屯するロシア海軍の兵士ですらも、えらく寒いとぼやくことがあるという。

真冬の北大に行く時は気をつけよう。

菱沼さんの話は他人事じゃないのだ。

 

 

 

 

 

雪のちらつく午後。

夕方前のひととき。

厨房にて私は料理作りにいそしんでいた。

本日の夕食に於いて私が担当するのは二品。

ひとつはきんぴらごぼう。

もうひとつは黒糖寒天。

李さんは鶏ガラをことこと煮込んでいる。

彼の手から生み出される料理は名品揃い。

とてもあの領域には届かないが、出来ることをやっていこう。

 

お隣の青森県産牛蒡(ごぼう)が入手出来た上、地元産の人参も数がある。

ならば、きんぴらごぼうだ。

ささがきだ、ささがきだ。

漢字だと笹掻きか。

大量に笹掻きされたごぼうを作り出した。

おっと、人参も斬り刻んでやるぜ!

なんちて。

ごぼうは油との相性がよく、加熱することで旨みが引き出される。

人参と共に炒め、味醂(みりん)と醤油で味付けたら出来上がり。

よし、一品出来た。

日本一の生産量を誇る青森県の牛蒡を堪能するといい。

どんどんきんぴらごぼうを作ってゆく。

 

 

 

きんぴらごぼう作りが終わると、今度は黒糖寒天作りだ。

水で戻しておいた寒天は、信州伊那(いな)の品。

呉の先輩によると、伊那の寒天は最高だそうな。

それと、肥後天草は佐伊津(さいず)の黒糖を使って甘味作りだ。

寒天を鍋に入れ加熱して溶かし、別口で溶かしておいた黒糖と混ぜ合わせる。

程よく混ざったら器に流し入れ、しばれる外に置いておく。

外は氷点下なので、さほど時間もかからずに固まるだろう。

李さんに食べてもらったら「好吃(ハオチー)、好吃。」と言ってくれたので、とっても嬉しい。

 

夕食は全員、完食してくれた。

それはとっても嬉しいなって。

黒糖寒天は特に好評を博し、幾つもの連合艦隊が厨房に突撃してきたほどだ。

あら、びっくり。

ところで、君たちは何故全員シリコーンの匙(さじ)を装備しているのかね?

 

 

我が函館鎮守府の面々のみならず、艦娘たちの食べることへの情熱は非常に熱量が高い。

そのことを改めて実感した。

ああそうそう、私の指にはなにも付着していないよ、と言っておこう。

 

 

 

 

 

 

首都機能をなんとか維持しているらしい東京都が、『新第二山手線構想』を打ち出した。

第二山手線……昔、そういった構想があったことは聞き及んでいるけれど、今さらそれを打ち出してなんとかなるのだろうか?

バビロンプロジェクトも失敗したのに。

あちらは船舶の往来やら漁業やら海洋汚染やら管理する自治体の区分問題やらで頓挫したらしいが、こちらは上手くいくのかね?

なんでも『新』を付けりゃいいってもんでもないだろうに。

 

奈良アニメーションに勤めている先輩が、これ関係の映像作品に関わっていると言っていた。

CGですかと聞いたら、手描きでやるという。

相変わらず、浪漫街道を突っ走っているなあ。

 

近年は『脱首都圏』を志向する企業が増えており、首都圏から地方へと転出するそれは去年で一九九〇年以降最多となっている。

例えば、宮城県や大都会岡山や兵庫県や広島県などへもその移転する動きは広がっており、我らの北の国が最大の受け入れ先というのは、『試される大地』とも称されるこの地方自治体としてはありがたいことなのだろう。

おそらく。

 

二〇〇万都市を未だに達成出来ていない東京都としては、大風呂敷を広げることも必要なのかもしれない。

 

 

 

 

急行筑紫が復活した。

併せて食堂車や車内販売も復活させるという。

現在も本数を増やしにくい新幹線の補完的存在にする思惑があるみたいだ。

それに合わせて、様々な催しをするとか。

配給券の不要な社会に向けて、いろいろ動いているのだろう。

長距離的切符の利用限定も一時的に解除されるのだから、歓迎するべきことだ。

道内の駅舎にダルマストーブを設置しようとの動きもあるそうな。

青森県は意外と乗り気との話も聞く。

状況次第では、乗降場での弁当の立ち売りを行う駅舎も出てくる予定もあるらしい。

 

『戦後』を見据えた動きは今後、より一層活発化してゆくことだろう。

政府は物価抑制策を次々打ち出しているけれども、どこまで効果があることやら。

ただし、人の動きも昨年よりはずっと活発化しているみたいに思える。

そうした中で、横須賀舞鶴呉佐世保と大手鎮守府へ次々出張させられるのは正直嬉しくない。

どうして私のような、なんちゃって提督があちこち行かねばならないのだ。

まあ、上がやれと言ったらやらねばならないのは民間もそうでないところも同じだから致し方ないのだけども。

 

先ずは横須賀だ。

ここへは行き方はまあ、シンプルだ。

海上自衛隊の船に相乗りさせてもらえることになったので、それで横浜港まで行く。

艦娘の護衛が付くので、問題ないだろう。

これぞ一挙両得……違うか?

 

夜更けの横浜から大垣までは、『大垣急行』の別名を持つ『ムーンライトながら』に乗る。

シウマイ弁当を買って乗り込むか。

早朝の大垣からは米原まで快速に乗り、米原から舞鶴へ向かう。

北陸本線に乗って敦賀(つるが)まで行き、そこからは小浜線に乗り換えて東舞鶴駅へ。

 

舞鶴鎮守府での仕事が終われば、次は呉。

東舞鶴から福知山まで舞鶴線で行き、福知山からは福知山線に乗って尼崎(あまがさき)へ。

尼崎からは山陽本線で元町へ向かう。

元町では老舗の中華料理店で焼きビーフンやら雲呑(わんたん)などをいただき、腕利きの菓子職人が縦横無尽にその技を披露する神戸屈指の洋菓子店で喫茶と洒落込もう。

元町からは隣の神戸駅まで行き、そこから新快速で姫路まで行く。

姫路から岡山へ行く途中で友人宅に寄って宿泊し、翌朝岡山に到着したら三原行きの汽車で終点まで。

三原からは呉線に乗って呉鎮守府へ。

 

呉線はのんびりするのに丁度いい路線なのだろうけれど、急ぎの時はちょっと厳しい。

鎮守府専用列車もあるらしいし、先輩もそれを出すから乗ればいいとは言ってくれたが、普通の汽車で行くとしよう。

広島へは呉線で行けばいい。

 

広島駅からはいよいよ急行筑紫に乗る。

広島発一五時四八分の急行筑紫に乗って博多発二二時四〇分、鳥栖発二三時一五分と続き、鳥栖駅で乗り換えて更に肥前山口で佐世保線に乗って佐世保鎮守府へ。

筑紫では食堂車を楽しもう。

 

鐵道好きでないとちょっとキツいかな。

まあ、なんとかなるだろう。

仕事が終わったら、長崎に寄りたいな。

時間があれば島原にも行きたい。

 

江戸まで戻ってきたら、浅草の洋食店へ行くべし行くべし。

さて、なにを食べようかな。

 

 

 

 

 


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