今回は二〇四六文字あります。
※いつも誤字報告をいただきまして、ありがとうございます。
マスターオータムクラウドが石炭ストーブよりも熱く語っている。
場所は函館、軍事基地。
我らの艦娘、集う場所。
「これが3Dプリンターと呼ばれる付加製造装置な立体印刷機です。」
「ほう、これが。」
「これさえあれば、提督の姿を忠実に模した樹脂製彫像も軍団単位で製造可能です。兄貴、戦いは数だよ!」
「その……私の姿を模した樹脂製彫像などに需要はあるんですか?」
「あります! めっちゃあります!」
戦争に関係ないことを語り合えるのは、ある意味平和なのかもしれない。
そう思うことにしよう。
外は吹雪。
雪がじゃんじゃん降っている。
後で雪かきしないとな。
窓の外。
ナニカが影絵のようにうごめいていた。
ヒトのような、そうでないような。
目をこすって見直すとなにもいなかった。
気のせいか。
雪はまだまだ止みそうにない。
提督の映画を作るので、函館鎮守府を撮影場所として提供するようにとの通達が大本営から届いた。
プロパガンダか。
ま、致し方あるまいて。
大淀が配役とか監督脚本家演出家の名前を見て、眉をひそめている。
彼女はぽつりと言った。
「何故、提督が主演ではないのでしょうか?」
「えっ、ほら、ここに提督が主演と書いてあるじゃないか。」
「違います。何故、貴方が主演ではないのかと言っているんです。」
「ははは、私のようなおっさんが主演じゃ観客を動員出来ないよ。」
「出来ます。百万の軍勢をもってこのセカイを駆逐出来るほどに。」
「ははは、魔王様じゃないんだからさ。」
そんでもって撮影当日。
主演という若いイケメン俳優がにこやかに艦娘たちへ挨拶したのだけど、部下たちの反応が鈍くて戸惑ったようだ。
最初、艦娘役は本人たちが行う予定だったけれども、台本を最後まで読んだ彼女たちは全員出演辞退してしまった。
大本営からはなんとかしろと言われたが、こうなった彼女たちはてこでも動かない。
特に駆逐艦たちの拒否反応が酷く、ツクリモノだからと言って説得しようとつとめたものの、挙げ句の果てに泣かれてしまって最終的に断念した。
結局、複数の幻想的崇拝偶像群から若手を起用して撮影に臨むこととしたみたいだ。
大本営からは無茶苦茶怒られたが、大淀を含む複数の艦娘が突……もとい、話し合いに出向いて事なきを得た。
ぼんやりと撮影風景を眺めていたら、駆逐艦役の可愛い女の子がとことこと私のそばまで歩いてきて言った。
「ふふーん、可愛いボクが来たからには、提督さんもメロメロですよ。」
「あなたのように可愛いお嬢さんが演じてくれるのでありがたいです。」
「そうでしょう、そうでしょう。ボクにぜんぶまっかせてくださーい。」
どことなくなんとなく大和の声真似が上手そうな子と会話していたら、うちの子たちによって引き離されてしまった。
後程、彼女とうちの子たちは仲よくおやつを食べていたのでよしとしよう。
【提督の料理ショー】を開催しようとの要望書が部下たちから提出された。
ふむ、ならば料理だ。
撮影するのは何故か大本営の広報艦娘たちだけど、特に問題は無いようだ。
加賀教官と大本営の瑞鶴が両隣にいて少しやりにくいけれど、まあ、よかろうて。
「ここは譲れません。」
「加賀先輩、やっちゃってください!」
「君たちはなにを言っているのかね。」
ちょっとふざけながらやるのがいいらしい。
よくわからないな。
二名には野菜を切ってもらったりしようか。
今回作るのは、クリニイ・スープ・ス・ダマシュニイ・ラプショイ。
訳すと、ラプシャの入った鶏肉のスープ。
ロシアでは風邪をひいた時によく食べるらしい。
まずはスープを作ろうか。
鶏のもも肉を冷水でよく洗い、鍋に入れて水を注ぐ。
強火にかけ浮いてきた灰汁(あく)を取り、蓋(ふた)をして弱火にしてから一〇分ほど茹でる。
薄切りにした玉ねぎ、薄い半月切りにした人参を鍋に投入。
本来はセロリやいんげん豆や月桂樹の葉も入れるらしいが、量的に入手出来なかったので省略。
で、鍋の中身が沸いたら蓋をして二〇分ほど煮る。
塩や黒胡椒を更に鍋へ投入し、じっくり煮る。
さて、その間にラプシャを作ろう。
ロシアの手打ちパスタであるラプシャは簡単に作れるのでスープに入れてよし、茹でてソースに絡めてもよしの一品。
最初にボウルへ準強力粉たる小麦粉と卵と塩を入れ、匙(さじ)で掻き混ぜ、その後手で軽くこねる。
ひとまとまりにしてまな板に載せ、しっかりとこねる。
表面がなめらかになったら、五分ほど生地を休ませる。
スープはどうかな?
ふむふむ。
すっきりした味わいだな。
これこれ君たち、何杯も味わってはいけないよ。
麺棒で生地を厚さ一ミリほどにのばし、包丁で幅二~三ミリほどに切り分ける。
ほぐして少しのばし、少し乾かす。
よし、あとはこの二つを合体だな。
きらめくヌードル・エモーション!
おいしくなーれ、おいしくなーれ!
なんちて。
……君たち、私をじっと見つめるのは止めなさい。
実際に食べてみると、あっさりしていて食べやすい。
幸い、艦娘たちは作ったスープをおいしそうに食べてくれた。
ありがたいことだ。
さてさて、張り切っていきまっしょい。