はこちん!   作:輪音

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いつかどこかの地方都市
辺りは真っ暗、闇夜の中
二名の宇宙人による会話
片方は地球を狙う侵略者
もう片方は……

「久しいな、メトロン。地球時間で何年経った?」
「八〇年だ。」
「たったの八〇年か。」
「我々にとってはね。」
「我が星の先遣隊は?」
「潰した。」




そして、死闘が始まった




※今話は二〇七〇文字あります。





CCCⅩⅩⅩⅦ:チルソナイトハチマルハチ

 

 

 

 

地球は狙われている

昔も

今も

これからも

 

 

 

 

『ソレ』にとって、他の星へ侵略することは当たり前である。

地球上の植物とて、様々な手口でその存在を増やそうとするではないか。

『ソレ』は時期が来たら、他の星へと向かうのが普通のこと。

当たり前で普通のことをするのだから、それは『ソレ』にとっての日常。

今日も『ソレ』の母星から鉱石が打ち出される。

遥かな大宇宙の彼方に向かって。

果てなき先へと本能で向かって。

 

 

 

 

 

春まだ少し遠き季節。

北の国はまだ雪の中。

残雪ある中、未明の鎮守府前に出たら鉛色のデカい鉱石が鎮座していた。

なんぞこれ?

大型の鉄槌でぶっ叩いてみようか。

うちの戦艦たちにやってもらうのもいいかな?

皆喜んでヤってくれることだろう。

気がついたら、おっさん形態のメトロンが傍(かたわ)らに立っている。

そして彼は言った。

 

「ふむ。これはワイアール星産の鉱石であるところの、チルソナイトハチマルハチだな。隕石に似せて落とすとは小賢しい。」

「チルソナイトハチマルハチ?」

「ああ。これはね、ワイアール星人が惑星侵略の際に用いる鉱石なんだよ。大丈夫だ。既にメトロンの科学力で無力化してあるから。君たちにはなんの被害も無いことを保証しよう。」

 

私同様におっさん姿のメトロン星人がフフフと微笑む。

今朝未明に函館鎮守府前に落下した宇宙鉱石は、こうしてあっさり無害化された。

 

「チルソナイトハチマルハチは非常に高い温度で熔解された珪酸アルミニウムの一種で、硝子状結晶体なんだ。」

「ほう。」

「とても軽いんだが、超硬質だからグラインダー程度じゃ歯が立たない。艦娘用の工作機械ならば、なんとかなる感じかな。」

「よし、さっそく壊そう。戦艦たちに鉄槌でガンガン叩いてもらったら丁度いいだろう。」

「まあまあ、待ちたまえ。そんなに結論を急ぐんじゃない。これは私が責任をもって預かろう。……なんだね、その視線は。」

「いや、ちょっと……。」

「大丈夫だよ。私が君たちに危害の及ぶモノを、そのままにしておく筈などないじゃないか。」

「本当に?」

「信用が無いなあ。悲しいよ。」

「本当にそう思っている?」

「今日はえらく絡むね。大丈夫さ。無力化した上で、安全な場所に保管するから。」

「そこまで言うなら、任せる。」

「君と私の仲だ。任せたまえ。」

 

メトロンはニヤリと笑う。

 

「この程度の攻勢で地球を陥落出来ると考えてもらっては困るね。」

「君の方こそ、昔いろいろやっていただろう。」

「あれは私と同じ星の別人がやらかしたことさ。若気の至りだろうね。」

「ところで、メトロン星人の寿命ってどれくらいなんだ?」

「それは宇宙の神秘さ。」

 

誤魔化しやがった。

まったく、もう。

 

 

 

 

函館鎮守府の中にあるメトロンの部屋。

ちゃぶ台でひじをつきながら、宇宙人はしばし空想にふける。

そういえば、『彼』は美人に弱かった。

私も美人に化ければ、もっと楽な世渡りが出来たのだろうか?

異端は徹底的に排除。

厭な時代だ。

昔はよかったな。

『彼』との対話に思いを馳せる宇宙人。

艦娘や魔族と過ごす今の生活も悪くないと考えつつ、届けられた宇宙人用回覧板に目を通すのだった。

 

 

 

 

夜になり、食事に行こうかと食堂へ向かうメトロン。

おっさん形態な宇宙人の前にふらりと現れしは吹雪。

最強級駆逐艦。

凍てつく微笑みでメトロンを見つめ、彼女は言った。

 

「こんばんは、今夜は月がきれいですね。」

「え、ええと、こんばんは、今夜は……。」

 

曇りだ。

空には星ひとつ瞬(またた)いていない。

惑(まど)うメトロン。

 

「鉄の心と鋼の規律。それが艦娘流。」

 

語り始めるは少女の姿をしたモノ。

 

「その中心にいるのが、私の司令官。」

「はあ。」

「私の司令官を裏切りませんよね。ね、そうですよね?」

 

視線は彼女だけじゃない。

何名もこちらを見ている。

宇宙人はそう知って、数の多さにゾッとした。

 

「え、ええ……大丈夫です、ええ、大丈夫です。それは間違いないですから。ただ。」

「ただ?」

「レアって言葉が好きなんですよ。」

「ふふふ、欲張りさんなんですね。」

「ま、ま、まあ、そんな感じです。」

 

深く濃い闇を漂わせつつ、下から見上げるように吹雪はメトロンを見つめた。

複数の気配がうごめくのを感じ、それは歴戦の彼すらも緊張する程だ。

危害を加える気は毛頭無いようだが、慢心は禁物だろう。

駆逐艦を名乗る少女は、はかなく微笑む。

 

「なるべく信じるように心がけますね。」

「なるべく、ですか。」

「はい、司令官の敵はすべて素早く排除しないといけませんから。」

「ははは、大丈夫ですよ。私は根っからの安心安全平和主義です。」

「本当に?」

「はい。」

「司令官と一緒にお風呂に入り、司令官と一緒におねんねして、司令官にアーンしてあげて、司令官と…………ふふふ、後は言わなくてもわかりますよね? 私は司令官と仲よくしたいだけなんです。」

「は、はあ。」

「司令官を堪能する時はですね、誰にも邪魔されず、豊かで救われなきゃダメなんです。静かで心がぽかぽかして満たされ……。」

「はあ。」

「頸(くび)を斬られていないからって、安心しちゃいけませんよ。」

 

吹雪は、雪に舞う蝶のように嗤(わら)った。

 

 

 

 

 

 







斯くして事件は終わった
だが
大宇宙からの侵略がこれで終わったとは限らない
あの鉛色の金属製物体が
いつあなたの家の庭に墜ちてくるかもわからない
明朝普通に目が覚めたら
先ずはすぐに庭をご覧になることをおすすめする





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